表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第三章 卒業編
42/315

爆発の理由

 爆発の少し前。

 この時、格納庫にはアルとトリアがいた。

 エリマ達主要な整備メンバーが軒並み所用で整備を行えない状態である為、手の空いてしまった二人が率先して作業を手伝おうと名乗り出た訳だ。

 それに彼女たちなりにもやっておきたい事があった。

 シルキー?の操作である。

 シュデムが生み出したシルキーは様々な作業を遠隔操作で行えるという優れモノである。

 現状それを完璧に使いこなせているのは制作者であるシュデムのみ。格納庫で整備を担当するどの生徒もそれを使いこなせている人間はいない。

 シュデムが数十機単位で使うのに対し、他の生徒は多くて三機。一機をちゃんと制御できるならまだいいほうで、大抵はその一機すらまともに動かすことができない。

 シュデム自身も自覚しているだろうがシルキーの操作は難しい。その難易度だけで言うならばヘクスイェーガーのほうがよっぽど簡単だとさえ、アルとトリアは感じていた。

 とはいいつつ、二人ともシルキー?一機の操作はなんとかできている。

「これを数十機も同時に動かせるシュデム先輩はすごいですね」

「変態技術者……」

「でもおかげで随分と楽になったんだぜ?」

「高所作業をこれで済ませば落下事故の心配もないしね」

 そうヘクスイェーガーの整備を担当する生徒たちはシルキーを評価する。

 なるほど。確かに10メートル以上はあるヘクスイェーガーの整備は当然ながら高所作業になる。

 四肢を折りたたんだ格納状態ですら結構な高さになり、その高さでも転落すれば大怪我は間違いない。最悪は落下死の可能性もあるだろう。

 シルキーはその可能性を消してくれる。

 多少不便でも、命あってのなんとやら。そう言うわけでシルキー?の操作を覚えようとする生徒は多い。

 ちなみにこの流れが決定的になったのは二ヶ月前に出現したアマティスタの件からである。

 輸送機の離陸の際にシートで身体を固定しつつもシルキーを使用してヘスティオンの修理をしているシュデムの姿を見た生徒がその利便性に気付いたらしく、学園に戻ってからすぐにシルキーは使われ出した。

 おかげでシュデムは帰還後もまともに寝る暇もなくシルキー?を量産するハメになり、件のトリア特製栄養ドリンク――のような何かを飲み、後輩の面倒も見ながら不眠不休で今もシルキー?を量産している。

 そのうち過労死するんじゃないかと心配にはなるが、エリマやアルツも気を配っているので最悪の事態だけは回避できるだろう。

「ところでトリアさん」

「何」

「あれからアディンさんと会話しました?」

「……」

 その途端、トリアの操作していたシルキーがバランスを崩し凄まじい勢いで床へ落下。大破してしまった。シュデムの仕事がまた一つ増えた。

「……何、が?」

 しばしの沈黙を経て、錆びて関節が固くなったブリキ人形のような動きでアルのほうを向くトリアが口にした言葉がそれである。

「何が、じゃないですよ。ここ二ヶ月以上。まともに会話してないですよね。というか、意図的に避けてますよね」

「いや、その……なんていうか」

「訓練中の連携はとれているのに、普段の会話は全くないなんて異常ですよ。異常」

「そうかもしれないけど、その……うん。なんていうか合わす顔がないっていうか」

「抱きついたからですか?」

 そうたずねると、トリアの顔が一気に赤くなった。

 それはもう、湯気でもでるのではないかというくらいに。

「いやあ、まあ。あれはアディンさんが悪いと思いますけどね。まさか自分ごと撃たせるなんて」

「いや、そうじゃなくて……」

 そのせいで一時生死不明になり、撃ったトリアはどれほど気を揉んだか。

 思い出すだけでも震えそうになるほど、あの時の記憶はトリアにしっかりと刻まれている。

 そしてそのあとの事もしっかりと覚えている。そして、それを思い返すだけで恥ずかしくて顔が赤くなってしまう。

 何であんな事をしたのだろうか。冷静になって考えてみれば、抱きつく必要性は全くなかった。皆無であると断言できる。

 むしろ何事もなかったかのように笑うアディンの頬に全身全霊の力を込めたグーパンチをお見舞いするほうが適切な行動だったのではないか、とすら思えてくる。実際、そうするのがトリアとしては自分自身が納得できる収め方になっただろう。

 だが実際には違う。抱きついてしまった。

 心配していたのは間違いない。安堵したのは覚えている。

 だからといって何故、という疑問がトリアの頭の中をずっと駆けまわっている。

 その問いに対する明確な答えは二ヶ月経った今も出ていない。

「吊り橋効果、って知ってますか?」

「不安や恐怖を抱いた時に一緒にいた異性を恋愛対象として錯覚する心理効果?」

「それに似たようなものだと思いますよ?」

「ちがっ……」

 あえて意識してこなかった言葉を自ら口にしてしまった事に気付き、ますます顔が熱くなる。

 誘導尋問だ。と、目で訴えてみるがアルはにこにこと笑っているだけで全く堪えていない。むしろからかって楽しんでいるようにも見える。いや、楽しんでいるんだろう。

「〜〜〜〜!!」

 からかわれている事に気付いたとき、顔を真っ赤にしてぽかぽかとアルに殴りかかった。

 頬を膨らませてぽかぽかと叩く姿はまるで子供だ。そんなトリアの取り乱し方が面白いのか、アルは声にだして笑い出してしまった。

「すいません、珍しい顔をしてるものでついからかいたくなってしまって」

「意地悪」

「でも、班を預かる者として言わせてもらえるのなら、班員同士のコミュニケーションが全くない状態が続いている、というのは見過ごせないんですよ?」

「……善処する」

 深呼吸して落ち着きを取り戻したトリアは、自分の操作していたシルキーを拾い上げる。

 手にとって見て改めて状況を確認して見ると、確かに大破はしているが重要な部品はほぼ無傷。これならばすこし修理するだけでまたちゃんと動くだろう。

「アルさん、トリアさん。プレスガンの調整でちょっと意見を窺いたいんですけど」

「あ、はい。今行きます」

 プレスガンの整備をしていた鍛冶科の生徒に呼ばれ、アルがそちらへ向かおうとした時。視界の端に珍しい人影を見つけた。

 普段から格納庫に入り浸っている人間というのは限られている。だからそれ以外の人間がいれば、よく目立つ。

 だからこそそれに気付いた。

「アル……?」

 立ち止まるアルに違和感を覚えたトリアもアルの視線の先にいる人物に気付いた。

「サギール……?」

「今の時間、どの班も実機演習なんて予定してないですよね」

「うん。そもそも今日は訓練用のヘスティオンの修理が間に合ってないから、実機訓練はしないってなってたはずだし」

「だったらなんで……」

 サギールはそのままおぼつかない足取りで格納庫の中を歩いていく。

 何か様子が変だ。

 そうアル達が気付いた時、既にどうしようもないほどに事態は進んでいた。

 サギールは一点を見つめて歩みを進め、一歩一歩その速度を上げていく。

 その先にあるのは――アルトエミスの五号機だ。

「まさかッ!」

「誰かサギールさんを止めてください! 彼はッ……」

 既に遅い。

 サギールはアルトエミスのハッチを開き、それに乗り込むと機体を起動させる。

 即座に搭乗者の要求に応え、アルトエミスは立ち上がる。

 確かめるように周囲を見渡すと、キャストブレードを手にとりそれを振り回し始めた。

「逃げろ! 逃げろォ!」

「一体何が起きて……うわっ、危なっ」

 格納庫を闊歩するアルトエミス。キャストブレードを掲げ、その先端にマナを収束させていく。

「まさか……」

「ここで魔法を!?」

 咄嗟にトリアが机を蹴り倒し、二人はその後に回り込んで姿勢を低くする。

 その直後に一瞬の閃光と共に轟音が響き渡り、格納庫内が高熱に包まれる。

 倒した机もその熱で焼け始め、流石に危機感を覚えたアルが≪ウォーターウォール≫を机との間に発生させる。

 その直後、机が燃え落ちて≪ウォーターウォール≫に高熱が直撃し、水蒸気で視界が奪われる。

「くっ……」

 熱には水だ、と咄嗟の判断で選んだ魔法であるが、元々魔法耐性の強い防御魔法ではない。みるみる展開したものが消滅していく。

 何よりヘクスイェーガーによって増幅された魔法に生身の人間が使う魔法で対抗しようというのが無茶である。

「≪ウォーターウォール≫」

 だが二人ならば耐えきれる。トリアも≪ウォーターウォール≫を展開し、アルが再展開するまでの時間を稼ぐ。

 アルの展開した≪ウォーターウォール≫が消失し、続いてトリアの展開したものが高熱と衝突し、瞬時に気体へと変換されていく。

 トリアが苦悶の表情を浮かべ始めたあたりで、再びアルが≪ウォーターウォール≫を発動させる。

 これを繰り返し、高熱が去るまでひたすら耐え続ける。

「……?」

 やがて水蒸気が消え、視界がはっきりとしはじめる。どうやら熱の元となった魔法は消えたようだ。

 水の壁を崩し、立ち上がって格納庫の様子を確認しようと周囲を見渡す。

 それは一言で言うと酷い有様だった。

 修理中だったヘスティオンは爆発の衝撃で軒並み転倒。

 爆心地に近かった機体は装甲が融解していたり、フレームのメンテナンスをしていた機体に至ってはフレームが破壊されて四肢がもげている機体もある。

 幸い、アルトエミスの二号機から四号機は転倒こそしているが遠目で見る分には大した被害がない。とはいえ、至近距離での爆発に巻き込まれたのだ。どこかしら損傷していると見ていいだろう。

 続いて生徒たちの安否だが、これに関しては怪我人こそ居るものの即座に命の危機に繋がるような怪我をしている人間はいない。

 プレスガンの調整を行うために魔法科の生徒がいたのも幸いしたのか、彼等が展開した防御魔法によって難を逃れていたのだろう。

 それでも爆発によって吹っ飛ばされ、叩きつけられて気を失った生徒もいるようで、担架に乗せられ保健室へと運ばれていくのも見えた。

 その様子を見るに、どうやらアル達が魔法を解除する少し前には爆発は収まっていたらしい。

 機体や人員の被害についてはそれだけといえばそれだけだ。それよりも施設の被害が酷い。

 整備用のハンガーは破損。クレーンなどはチェーンが千切れているならまだいいほうで、倒れたヘスティオンに引っ張られて根元からぽっきりと折れている。

 天井は爆心地の真上と思われる場所に大穴があいており、二人は最悪の事態が起きたのだと察する。アルトエミスが盗まれたのだ、と。

「アル。私は職員室に行ってこの事を」

「お願いします! 私は使える機体がないか探してみます!」

 トリアは≪フィジカルブースト≫を使用し、全速力で駆け出す。

 残されたアルは少しだけ思考する。

 サギールの乗ったアルトエミスは、天井に出来た大穴から爆発に乗じて飛び出したに違いない。

 そうでないにしても今からならばまだ追いつける。

 何としても動かせる機体を探し、追わなければならない。

 現状、アルトエミスの持つ価値はただのヘクスイェーガーと比較にならないほど大きい。何せ魔女と単体でやり合える性能を持っている機体だ。その技術はどの国も喉から手が出るほど欲しいものだ。

 そしてアルトエミスの存在はまだ国外には発表されていない。国内に対しても曖昧にそういう実験機があるとだけしか知らされていない。

 だがしかし。たとえ曖昧にぼかしていたとしても、クエルチア騎士学園の中にいる人間にはその存在は否応なく知れ渡っている。

 その機体がどのような活躍をしたか。そしてどの機体がその機体なのか。学園にいる人間ならば誰もが知っている。

 では、ここからは最悪のシナリオの話である。

 もしもサギール・カタンが、国内に入り込んだ他国の諜報員と接触しておりその情報を流していたとしたら。

 もしも他国からの依頼を受けたサギールが、アルトエミスを売り渡すことを画策していたとしたら。

 あるいは、その両方だとしたら。

 革新的な技術の流出。そしてその機体はたった一機で魔女と渡り合える新型。その力をもしも、悪意のある人間の手に渡してしまったら。

 最悪の場合の想定はいくらしてもしたりない。

 考えれば考えるほど悪い方向の発想は湧いてくる。

(そうじゃないッ!)

 アルは自分の両頬を叩く。思考を一端リセットさせる。

 問題はそこじゃない。もっとシンプルに考えるべきだ。

 機体が盗まれた。だから取り戻す。それだけの事だ。それより悪い事は、それ以後の話。今考えるべき事ではない。

 今やるべきは、動かせる機体を探すこと。

 だが、肝心の機体が見当たらない。

 どのアルトエミスを使えるならばこれ以上ないが、倒れ方がまずい。ハッチがふさがるような倒れ方をしており、とても乗り込める状態ではない。

 ではヘスティオンならどうだ。訓練機として使用されているだけあって、数はある。それに格納庫の端のほうにある機体は爆発の被害を受けていない。

 だが、そこまで走って行くだけの時間が惜しい。

「どうすれば……」

「アル、何があった!」

「アディンさん!」

 騒ぎを聞きつけたのか、アディンとヴィールが駆けこんできた。

 その瞬間。アルはある機体のことを思い出した。

 手入れ以外ではほとんど触れられず、格納庫の端に追いやられた古い機体が一機。

 ある意味では、学生である彼等が使える最強の戦力。

「すぐにアストライアに乗ってください! アルトエミスが盗まれました!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ