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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第二章 開発編
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それは静かに

 魔女は撃破された。それがあの現場にいた学生たちに伝えられたのは、彼等が学園に戻ってから三日ほど経ってからの事だった。

 件の魔女アマティスタは、スクロール弾を受けた後戦場から逃走。その後シプレースに向かうが、待ちかまえていた各拠点から集結した十以上の小隊の一斉射を受けて撃破された、との事。

 それはいい。だが、どうして各拠点の小隊がシプレースに集結したか、という話である。

 当初はシプレースへ到達させないために各地の拠点から部隊が集められていたはずだが、それがどうしてシプレースに集結していたのか。

「ま、その理由がおねーさんな訳だニャ」

 とクエルチア騎士学園の格納庫でムビリが胸を張る。その後ろにはエルアの姿もある。

 何故ここにいるのか、という疑問よりも、多くの人間にとってはファーストコンタクトである。そりゃあ、コイツ誰だ、といった空気になるのも仕方ない。

「えっと、この人はムビリさん」

「私の姉です。あと、その後にいるのは上の姉のエルアです」

「どうもニャー」

「……」

 ニコニコと笑って手を振って愛想を振りまくムビリと対象的に、一言も喋らずエルアは一礼しただけだった。

 二人の温度差に妙な空気になるが、それを無視してアルが話を進める。

「えっと。要はアディンさんが飛び出した時に、ムビリ姉さんに連絡を付けて」

「そしておねーさんからお父様。お父様から近隣の拠点の司令官、そしてさらに遠方の拠点の司令官へ、という感じで話をつけてシプレースに戦力を集めたのニャ。まあ、流石に既に出てた部隊には話が行ってなかったり、指示系統に混乱が起きたみたいだけどニャ」

 それは大問題ではないだろうか、と誰も言いださなかった。きっと話が長引く。ややこしくなるから止めておこう。そういう雰囲気があった。

 眼に見えて怪しい藪をわざわざ突いて蛇を出す必要はない。

「でもまさか騎士団を動かせるとは思ってませんでした。てっきり避難するものかと」

 まあ、その藪をわざわざつつきに行くバカ(アディン)がいたわけだが。

「まあウチはシプレースでは強い権力を持ってるのニャ。それ即ち、強獣の封じ込めにはウチの力が必要不可欠と言う事。じゃあその家が機嫌を損ねたら、どんな事になるか……言うまでもないニャ」

 要は、国を相手に脅した、と言うことらしい。

 知りたくなかった。そして聞かなかった事にしたい。

「いやあ、それにしてもすごいところだニャ。ここは。見た事がないヘクスイェーガーがこんなに居るなんてニャー」

「そりゃまあウチで造った機体だからなあ」

「それは興味深いニャ。で、どれに強獣の素材が使われてるのかニャー?」

「……なんでこの人そんな事まで知ってんだ?」

「そりゃそうニャ。おねーさんがアディンくんから連絡を貰って」

「……私が狩った」

 静かな自己主張。エルアは腰に携えたカタナを前に出し、これで斬ったのだ、とアピールする。

 流石に信じられない、とアルのほうに視線を向ける一同。だがアルは不思議そうに首をかしげる。

 何がそんなにおかしいんですか。とでも言いたげに。

 念のため、アディンのほうも向く。アディンは頷いてエルアの言葉を肯定した。

 まさかあの巨大な強獣をいかにもインドア派な雰囲気を漂わせる女性が討伐したという事は到底受け止められないが、二人の反応を見る限り嘘を言っているようではない。

「まあここに来たのはそれが目当てじゃないんだけどニャ」

「……ん」

「ああ。例の物ですよね。あれですよ。まあ試作機すら未完成ですけど」

 そういって指差したのは強獣の金属繊維を組み込んだ強化外骨格。結局、改修する間もなくアマティスタが再出現し、今日に至っては戦闘で大破したアルトエミスから戦闘記録を抜きだす作業で手いっぱいだ。

 アルトエミスそのものに関しては修理不可能。ただし、アルトエミスやスクロール弾などについて纏めた簡易的な報告書を提出したところ、大破した機体は国の工廠で回収して技術解析したいとの申し出があり、戦闘記録の抜き出しが終われば搬出する手続きになっている。

 もしかするとアルトエミスをベースとした量産機が開発される、なんて事もあるかもしれない。

 更にはスクロール弾も研究の余地があるとして、研究データの提出も求められているが、研究も何もなくアルとアルツの思いつきだけで出来たものである。

 開発期間にしてもアルが使用するスクロールを一日で。アルツがそれを弾丸に加工するのに数日と、一週間もかからずして出来たのだからそんなものをありのまま報告書に纏めて提出していいものか。

 そしてムビリ達の目当てである強化外骨格。これについては開発を進めてはいるが、現状は手がまわていない。

「まあコンセプトはこんな感じです」

「乗り込んで人が操縦する、って感じかニャ。ふーむ。でも動力はどうするニャ?」

「そこなんですよねー。というわけで現在開発中です」

「わかったニャ。でも……」

「……ちょっと大き過ぎる」

「ふむ……言われてみれば」

 シプレース大森林は言うまでもなく文字通り木々が生い茂る森林地帯である。

 しかもその密度は結構なもので、ヘクスイェーガーは勿論まともに行動できない。ではこの強化外骨格は、と言うとこれもまた少々大き過ぎる。

 細かい動きを重視するならばもっと小型なほうがいい。それはわかる。だが、アディンの持つ知識だけではこれ以上の小型化は難しい。

 この先の小型化はエリマとシュデムに任せるしかない。

「この外骨格。これはこれで進めましょう。それとは別プランを用意しないと」

「ちょっとまてアディン。あたし達に何をさせるつもりだ」

「何って、シプレースの人達が使う新装備の開発ですよ。ま、これは国王陛下からの依頼ではなくイスナイン家からの依頼ですけど」

「これより小型化って……結構な無茶言うなあ」

 そういうエリマであるが、腕が鳴ると言わんばかりのいい顔をしていた。

 既にやるやらないではなく、できるか挑戦するかになっているあたり、エリマも結構アディンに感化されている。

「さて、おねーさん達がここに来た大きな目的は終わった訳だけど、実は国王陛下に呼ばれてるのニャ」

「……ここに来たのは、陛下にここを訊ねるよう言われたから」

「まあ、陛下なりに今回の一件の流れ、いろいろと思う事があるらしいニャ。ぶっちゃけお叱りを受ける感じで。あと、報告書があるなら与ってくるようにとも言われてるニャ」

 報告書、と聞いてエリマやシュデムが慌しくなる。

 用意はしてあったようだが、いろいろとやっているうちに書類の山に埋もれさせたらしく、あれでもないこれでもないと書類の山を崩しはじめる。

 どうやら纏めてはあるがそれを提出するのをサボっていたらしい。

「アルツ先輩。もしかしてエリマ先輩とシュデム先輩って……」

「ああ。提出物はさっさと終わらせるがいつも提出期限ギリギリだ。この前も通常学科の教諭に怒られてたな。二人とも」

「あっ、あった!」

「おい、凡人眼鏡! それは吾輩の書いた報告書である! 貴様のはまだ書類の山の中であるぞ!」

「んなこたな……っ!? マジで変態の文字だこれ!」

「なんか賑やかで楽しそうだニャ」

 部外者が見ればそうなのだろうか。

「……アディンくん」

「あ、はい。なんですかエルアさん」

 エルアがアディンに近づき、その両頬に触れる。

 きょとんとするアディンと、ざわつく周囲。

 そんな状態で、じっと眼を見つめたままエルアはアディンに顔を近づける。

「あ、あの。エルア、さん?」

「……それ、つらくない?」

 その言葉を聞いたアディンは、自分がその時どんな表情をしているかわからなくなった。

 少なくとも笑ってはいないだろう。ちゃんとした表情はつくれているのだろうか。それすら危うい。

「え、えっと……」

「……ん」

 エルアはアディンの反応を見て何かを理解したのか、何事もなかったかのようにすっと離れる。

 そのまま何事もなかったかのように格納庫を出て行ってしまった。

「なんだったんだ、あの人。なあアディン」

「え、あ。ああ。そう、だな」

「やけに歯切れが悪いな。どうしたんだよ」

「何でもない。何でもないんだ……」



 この数日間。少女は自分の行動を顧みて顔から火が出る思いだった。

 授業には出る。だが、その内容が入ってこない。

 格納庫にも顔を出し、プレスガンの改良についての会議にも出席した。だがその内容を覚えていない。それどころか発言すらしなかった。

 初めての感覚。初めての感情。

 いろいろと頭の中がぐちゃぐちゃで気持ちが悪い。

 だがその気持ちの悪さが心地いいとすら感じる。

 自分の感情を整理できない。

 なんだというのだろうか、と自問自答を繰り返す。

 少し視点を変え、どうしてこうなったのかを考えてみる。

 一週間前はこのような状態ではなかった。それは間違いない。

 もっと近く。だが昨日や一昨日ではない。もう少し前。

 そして気付くのだ。あの時からだ、と。

 妙に意識してしまっている。彼を。

 彼の事を考えると、鼓動が激しくなる。顔が熱くなる。

 漫画や小説などで見たあの症状と一致する。だがそれはない。そう頭の中に浮かんだ言葉を必死に否定する。

 これがそんな感情であるものか。きっと勘違いだ。

 感情が大きく揺れ動いた事による一種の気の迷いだ。

「……うぅ」

 自分の中でも整理のできない不思議な感情。初めての感情を、トリア・サラーサはベッドの上を転がりならがら枕を叩いて発散するのだった。

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