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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第二章 開発編
38/315

高速の防衛線4

 信じる。仲間を。至極当然で、簡単で、何よりも難しい事。

 幾度となく絶望を叫びかけた。そのたびに踏みとどまった。信じて、信じ貫いた。

 その結果、反撃の機会を得た。

 ほんの一握りの可能性。だがそれは、今のアディンにとっては待ち望んだ機会であり、これ以上ない転機だ。

『アディン、少しだけ私の指示通りに動いて』

 モフモフを通じてトリアの声が聞こえる。

『右、上、前』

 トリアの言う通りに機体を動かす。これが何を意味するのかはわからなかったが、トリアにとっては何か意味があるのだろう。

『大体判った。魔女の大体の位置はこちらから指示できる』

「本当か?」

『私の眼。忘れた訳じゃないでしょう』

「……そうだな。信じるよ」

 短い会話だった。

 だがそれだけでいい。それ以上は必要がない。

 けれど、これだけは言っておきたかった。言うべきだと思ったのだ。

「トリア」

『何?』

「命、預けるぞ」

 それだけ告げて機体を加速させていく。

 まだ魔女の姿は見えない。見失ったままだ。だが、それをトリアが的確にナビゲートしてくれる。

『三時方向。上四十五度』

 トリアの指示通りの方角を見ると、そこに確かに魔女の姿がある。

『見失ったら言って』

 仲間がいると言うのはこれほどに心強いものなのか。

 先ほどまでと気持ちが違う。

「必ず、捕まえる!!」

 ≪エアロスラスター≫を複数同時展開し、加速。アマティスタの速度を越えてその背に迫る。

 相手は動きまわっていれば見つけられることはないと高をくくっていたのか、突如として動きの変わったアルトエミスの姿を確認すると、一瞬ではあるが隙が見えた。

 そのタイミングで右の拳をその背に叩きこむ。

『――――!?』

 背中を強打され、アマティスタが一気に失速して落下を始める。

 間髪いれず回り込み、高度を落とすアマティスタの腹を蹴りあげる。

 その一撃の当たった場所には刺さりっぱなしになっていたキャストブレードが突き刺さっており、蹴りあげられたことで更にそれがアマティスタの身体を貫通し、刃が背中へと飛び出た。

 痛みに魔女が吼える。だが怯んだのは一瞬で、頭の翼を突き出して反撃してくる。

 回避は間に合わない。決められなかった時の隙が大きい蹴りを選択したのは拙かったかもしれないと思った時には、翼による殴打を胸に受けていた。

 操縦席の真上を叩かれる形になったが、幸いその部分は前にもまして装甲が強化されている。痛みこそあれ、中に影響があるようなダメージではなかった。

 何より避けようとしていたのが良かったのか、叩かれた衝撃は最小限に抑えられている。ダメージは殆どないといっていい。

 かすった程度。だが場所が場所だけに油断はできない。

「ハッチ開かないとかないよな……!」

 ≪ファイヤミサイル≫を放つ。複数の火炎弾がアマティスタへ殺到するが、それを翼で空気を叩きつけるようにしてそれらすべてを叩きつぶす。

 そして光輪を出現させ、アルトエミスめがけて光線を放つ。

 咄嗟に身をひるがえしてその直撃を回避する。

 そのまま右方向へと加速。再びアマティスタへと接近。その翼めがけて≪フレアジャベリン≫を放つ。

 いくらスピードに優れる魔女であると言っても、至近距離で放たれた爆槍を避けられるほどの加速は出せない。かつ瞬時に加速ができたとしてもその巨大な翼では完全な回避など不可能である。

 直撃。それと同時に炎が爆ぜる。

「駄目か」

 せめて翼くらい破壊できないかと思ったが≪フレアジャベリン≫の直撃でも翼が破壊できないとなると少々厄介である。

 胴体においてはダメージが通ったが、翼はそうもいかなかった。だがそれはこの魔女にとって翼はそれほどまでに防御力を高める必要性がある重要な部位であると言う事だ。

 重要な部位であるのならば破壊してしまった方がいいのは解っている。≪フレアジャベリン≫を上回る高威力の魔法を使えば破壊することは出来るかもしれない。だがそれを使用するリスクのほうが大きい。

 何せこちらは武器がない。魔法だって大技を狙うとその分隙が生じるし、まず避けられる。

 何度もその結論に至っている。幾度もの考察をした結果導き出した答え。

 何より最初から大技など叩きこむ余裕がアディンにはない。

 加速した思考で機体を操り、分割した思考で機体を駆っても、そのほぼすべてを機体の制御と≪エアロスラスター≫の制御に割り振っている以上あまり高難易度の魔法は使えない。

 アマティスタは再び使い魔を呼び出しアディンの視界を奪う。

「くそっ」

『魔女本体は五時方向。下方向三十二度』

 トリアのナビゲートに従い、その方向へと≪フレアジャベリン≫を放つ。

『――――――!!』

 直撃を受けたことがそうさせたのか、あるいは二度も有利な状態に持ちこんで居ながら逆転されたのが癪に障ったのか、アマティスタが苛立ちを見せるかのようにアルトエミスを睨みながら吼える。

 翼を振り回してアルトエミスを近づけまいとしつつ、光輪から光線を放って牽制してくる。

 その光線すら一撃必殺の威力を持つので回避しない訳にはいかない。

 防御モードの時なら耐えられるが、それではこちらの足が止まってしまって意味がない。

 積極的に攻める。注意をこちらに釘付けにする。

 ちょこまかと動きまわり、相手を挑発する。

「これじゃハエかなんかだな」

『叩かれないようにね』

「解ってる」

 軽口をたたける程度には余裕がある。そう実感すると、より気持ちが楽になる。

 もちろん気は抜けないが、肩の力を適度に抜くことができるのはプラスだ。

 避けて、避けて、避け続ける。

 その度に光線が小島を砕くが、気にしていられない。

 攻撃を誘発しつつ、的確に隙を見つけて攻撃を叩きこむ。

 効果の湯無は問わない。

 必要なのは手数。

 連射の可能な簡単な魔法で。接近しているならば手足を使っての打撃で。

 なんだっていい。目的は相手の注意をそらし、攻撃を誘発させて消耗させる事。

 根気比べだ。

 アディンの集中が切れて撃墜されるのが先か、アマティスタが消耗して足を止めるのが先か。

 互いに加速し、一定の距離を保ちながら何度も魔法と光線を撃ちあう。

 距離が開いているいるとはいえ、それは魔女が放つ光線にとっては至近距離と言って差し支えないような距離だ。

 何度も光線が装甲をかすめ、その度に肌を焼かれる痛みが走る。

 それで怯んでいられない。怯んで速度を落とせば、そのまま押し切られる。

『≪ファイヤミサイル≫!!』

 既に放った魔法の速度を上回る速度での攻防においてそれはもはや意味のないものである。

 だが、攻防を続ける内に≪ファイヤミサイル≫はアマティスタにとっては予期せぬトラップとして起動する。

 攻撃を繰り返してアマティスタを追い込んでいく。

 狙い通りの軌跡を描き、アマティスタは逃げ回ってまんまとその罠へと飛び込んだ。

『――――――――!?!?!?』

 来るはずのない方向からの衝撃。後から放ったのではなく、最初から放たれていた≪マジックミサイル≫が次々とアマティスタの身体に命中し、その姿を爆煙で覆う。

「ワイヤーユニット、パージ!」

 胸部のワイヤーユニットを基部から切り離し、そのワイヤー部分を掴んでアマティスタめがけて投げつける。

 ワイヤーの射出部がなくともワイヤーの部分を掴んでいれば、基部の重さでワイヤーは伸びていく。

 煙の中に突っ込んだそれがアマティスタの首に基部が絡んでしっかりと締め上げる。

『――――!!』

 苦しむような声を上げる。

 だがそれで止めない。手を止めない。

 ワイヤーを持ったまま高速でアマティスタ―の周りと飛び回り、ワイヤーをこれでもかと絡みつけていく。

 がんじがらめにワイヤーで固定し、身動き一つ取れない状態にし、その背を両脚で踏んで力を入れてワイヤーを引っ張り上げる。

 普通ならばこれだけでは押し切られる。だが、ただでは終わらせない。

 全身の噴出口から放出するアンチエーテルの量を増やし、抗う魔女の力を抑え込む。

 足りない分は≪エアスラスター≫の推力で補い、魔女の動きを完全に止める。

「撃てッ、トリア!」




 主戦場から離れた場所で待機するトリアは超高速の戦闘をやっとの思いで目で追っていた。

 プレスナイパーライフルとリンクさせた頭部を動かして、その光景を必死に追うが首が痛くなってきた。

 トリア自身の首が痛んでいる訳ではない。ヘスティオンの首関節が悲鳴をあげはじめているのだ。

(なんてスピード。遠くで見てても追うのがやっと)

 こんな相手に攻撃を当てなければならないのか、と思うと緊張してくる。

 使う弾は一発きりで、攻撃を外せないのならばなおさらだ。

「スクロール弾、とか言ってたっけ。本当にこれでどうにかなるものなの」

 プレスナイパーライフルに込められた弾丸。それはアルが考案し、アルツが制作に関わった特殊な弾丸。

 それも出来たてほやほやのテストすらしていないもの。

 計算上では高威力の弾丸ということであるが、正直それで魔女が倒せるのかと言われるとトリアは疑問に感じている。

 スクロールと付く以上は、あのスクロールのことなのだろう、という推測はあれど、それがどのようにして弾丸に使われているかなどさっぱりである。

 何よりトリアの知るスクロールにはそこまで高火力の魔法が使えるものはなかったはずだ。

 そんなもので本当に魔女を倒せるのか。

 だがこの状況でそれに頼る以外でどうすればいいのか、と自分に問いかけてみても明確な答えは出てこない。

 出るはずもない。

 魔女と戦うのはこれが二体目だ。何より自分が所属しているのは国営の騎士団ではなく、あくまでも学園であり、トリア自身は学生だ。

 学園に備えてある装備では魔女に対抗するには不十分であるのは当然と言える。

 だが、たまたまトリア達の時は違った。

 魔女と対峙しても押し負けない操縦技術を持った天才(アディン)がいる。

 誰も挑戦しなかった事に挑戦して実現させてしまう天才(アル)がいる。

 工廠だって成しえなかった新型機を完成させた天才達がいる。

 彼等全てを天才と一言で言いきってしまうのは乱暴であるが、そう思わなければ自分を凡才であると考えているトリアはやってられない。

 彼女以上にその点ではコンプレックスを抱いているヴィールに、今のトリアの考えを伝えると、問答無用で殴られるか膝を抱えて泣かれるだろう。

 その天才たちが、自信を持って送り出した新兵器であるスクロール弾。その性能を疑問視こそすれど、それを使う事に対しては異論はない。

 信じている。万全の解決策とならなくとも、事態を好転させる可能性を秘めているのだと信じられる。

 信じよう。改めてそう決めると荒くなり始めた呼吸を落ち着かせる為に深呼吸する。

 呼吸は整えつつ、視線は常に動きまわる二つの影を追い続ける。

 豆粒のようなそれを逃さぬように集中する。

 もし見失えば次は見つけられるかどうか。

 首が痛む。それがどうした。

「……」

 自分の呼吸がうるさい。心音も五月蠅い。

 瞬きすらせず、二つの影がぶつかり合う空を見つめる。

 やがて動きがあった。

 ――来る。

 引き金に掛けた指に力が入る。だがそれを引いてはいけない。まだそのタイミングではない。

 合図を待つ。待たなければ意味がない。

 はやる気持ちを理性で抑えつける。まだ早い、撃つなと言い聞かせる。

『撃てッ、トリア!』

 合図と共に引き金を引く。照準はずれていない。間違いなくこのままならば直撃する。

 それを確信した途端に力が抜ける。最も集中力を要し、緊張を伴う使う作業を終えたからだろうか、一気に疲れが身体にのしかかる。

 あとは魔女がプレスナイパーライフルの射程内にいるかどうかであるが、その心配は稀有だったようだ。

 巨大な爆発が確認できた。

 それがスクロール弾によるものだと、放った張本人であるトリアにはすぐ理解できた。

 だが同時に、その爆発が自分の友人をも巻き込んでいる事にトリアは気付いてしまった。

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