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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第二章 開発編
36/315

高速の防衛線2

 覚悟を決めた後、アディンの行動は早かった。

「……まずは使い魔の数を減らす」

 高速モードの状態で島の影から飛び出し、≪ファイヤミサイル≫を多重展開。発射しつつ加速して急速離脱。

 その一連の動きを、相手を中央にした円を描く軌道で繰り返す。

 四方八方から繰り出される弾幕に、使い魔は勿論アマティスタの足止めにすら成功する。

 だがこのままでは埒が明かない。

 弾数と連射速度を重視している為に≪ファイヤミサイル≫一発ごとの威力が通常時に使用するものよりも低下している。

 その威力は使い魔にとっては目障りなだけのものであり、魔女の身にとっては豆鉄砲程度のダメージしか与えられていない。

 今は≪ファイヤミサイル≫が派手に爆発する為、それで怯ませることが出来ているだけに過ぎない。

 メインの思考を切り替える。

 同じ工程を繰り返す≪ファイヤミサイル≫の術式をサブの思考で行い、メインの思考は別の術式を組み立てていく。

「≪インフェルノフレア≫!」

 超高熱の火球を敵陣のど真ん中めがけて放つ。

 上位魔法である≪インフェルノフレア≫。それによって生み出された火球は周囲の空気すら焼きながら敵陣の中央へと進む。

 そして中央に達した瞬間、それが爆ぜた。

 爆ぜた超高熱の炎が中心部から次々と使い魔を呑みこみ、魔女すらその炎の中に消えた。

 火属性単体の魔法では最大規模の攻撃範囲と最強と言っても過言ではないほどの威力を持つその魔法を受けては、流石の魔女も――とはいかない。

 灼熱の渦の中から、黒い液体を纏った翼が飛び出した。

 使い魔の元となる液体を身に纏い、アマティスタはその灼熱に耐えきったのだ。

『――――――――――』

 アマティスタの頭の上に光の輪が出現する。

 それは、アディンの見た事のない行動であった。

「何を……ッ!?」

 光輪から光線が放たる。それはぎりぎりでアルトエミスを外したが、すぐにこちらに向かってきた。

 当たると間違いなく墜とされる。そう確信して機体を動かす。

 なんとか逃げ切ろうと加速するが、光線はぴったりと追尾してくる。

 高さを変えても、遠近を調整しても、速度を上げてもしつこくアルトエミスを追いかける。

 更に加速。加速。加速。

 身体への負荷に歯を食いしばって耐えながらも、ついに光線から逃げ切る事に成功する。

 が、今度は進行方向から光線が迫る。

 前後からの光線。このまま加速し続けると間違いなく前方から迫る光線に巻き込まれる。

 ならば、と覚悟を決めて急上昇して光線を回避。二つの光線は交差し、相殺しあって消滅した。

 相殺する瞬間、視界を白一色で埋め尽くすほどの閃光が迸る。

 これはアディンにとっては不利益な状況だ。

「防御モード、出力全開ッ!」

 幸い高速モードからの防御モードへの移行は正常に行えた。

 瞬時に展開された高出力の防御術式が機体全身を覆うとほぼ同じタイミングで、強烈な衝撃が機体を揺らす。

「ぐっ……!?」

 衝撃が続く。身体に激しい痛みはないため防御術式は正常稼働している。だが、それにしてはいつまでたっても視界が回復しない。

 その理由にたどり着くのに一瞬ではあるが、思考する時間を要した。

 光線の直撃を受け続けている。そうアディンは結論付けた。きっとそれは正しい。

 問題は、機体に伝わる衝撃が徐々に強くなってきている事と、その衝撃によってどんどん機体が押されている事だ。

 こうしている間はダメージを受けることはないだろう。だが、マナの供給量というものにも限界がある。

 いくらエーテルコンバーターを二つ搭載しているとはいえ、消費量が供給量を上回れば当然いつかはマナが尽きる。

 そうなった時が、アディンの最期だ。

 アマティスタの突撃に耐える為に防御時に全マナを防御術式に回すというのが完全に裏目に出た。

 だが、姿勢制御くらいはできるはずだ、と手足を動かしてみる。

 ――動く!

 これならばいける。確信して、両脚を背中のほうから一気に前に振り抜く。

 すると勢いよく機体が後に倒れ込み、シートに頭が叩きつけられる。

 それと同時に機体を襲っていた衝撃は消え、視界も回復。やはり視界を覆っていたのはアマティスタの放った光線だった。

 攻撃がそれたことで僅かながらの余裕が出来た。即座に高速モードへ切り替え、再び魔女へと挑みかかる。

 鋼の身体を滾らせろ。手に持つ刃金に魂を込めろ。

 魔女を狩る為に、力を尽くせ。

 時折湧いてくる恐怖心に闘争心で蓋をする。怯えをも魔女への敵意で塗りつぶす。

 速度と機体の質量そのものを武器に、その身を加速させる。

 その負荷で内蔵が押しつぶされそうになる。それでも、それでもなお突き進む事を止めない。

「であああああああッ!!」

 アマティスタまで急接近。真正面からではなく背後に回り込んで、キャストブレードを叩き付ける。

『――!!』

 それに反応し、アマティスタはルトエミスのほうを振り向く。

 だがその時には既に剣は振り下ろされていた。

 確かに入った。間違いなくクリーンヒットだ。

『――――――!!』

 斬撃の痛みに魔女が吼える。

 倒すには至らない浅い一撃。当然斬り落とす事もできないほいど軽い一撃。だがしっかりとその顔に斬り傷を刻み込むには十分な一撃。

 これが人間の覚悟だ。そう剣が告げる、宣戦布告にして挑発。

「傷をつけた俺が憎いか。だったら、俺を殺してみろよ!!」

 言葉が通じる相手だとは思えない。それでも、そう叫ぶ。

 これは自身への決意表明だ。逃げるな、戦え、と自身を振い立たせる為の叫びだ。

 振り抜いた腕の勢いのまま、後ろ回し蹴りをアマティスタの顔に叩きこみ、押し込むことで後へ跳ぶ。

 一定の距離を取ると再びアマティスタの背後を取るように軌道を描く。

 が、アマティスタは身体を倒しはじめる。それがこの魔女の高速飛行形態である。

 最初はゆっくりと。進行方向に足先を向けてアマティスタが進み始める。

「させるか!」

 加速される前に一撃を。キャストブレードの切っ先をアマティスタに向けて≪フレアジャベリン≫を放つ。

 だが、その爆槍は魔女の身体を貫くことはなかった。

 アマティスタの頭部に光輪が浮かび、そこから轟音と共に閃光が放たれたその刹那、アマティスタは一気に加速する。

 まるでブースターだ。

 あっという間にトップスピードに達し、目の前から遠ざかるアマティスタ。

 ならば、とアルトエミスも速度を上げてる。

 速度が上がって行く度に、身体が軋む。神経の疑似接続によって伝わる機体のフレームの軋みではない。生身の肉体が悲鳴を上げている。

 内臓を押し潰されるような不快感に、呼吸すら困難にする圧迫感に、歯を食いしばって全身に力を入れて堪えながら速度を上げていく。

 こちらも短時間でトップスピードに達し、逃げるアマティスタの後を追いかける。

 アルトエミスが最大速度に達すると、機体速度が大多数の攻撃魔法魔法の弾速を上回ってくる。こうなると後からの攻撃は無意味だ。

 何より、こちらの速度と同等あるいはそれ以上の速度を出す現在のアマティスタに後から魔法を当てようというのが無茶な話――いや不可能だ。

 ならばどうするか。単純な話だ。

 アマティスタの前に回り込んで、真正面から魔法をぶつける。それが有効打になる。

 だが、追いつけない。

 ある程度追いつくことはできる。だがそれまでで、速度が少し足りない。

 現在の速度は互いにほぼ同速。故に距離が全く縮まらない。

 ならば撃ち落としてでも、と考えたが理性が不可能を連呼する。

 代替案を模索する。思考する。

 いくつもの思考を同時に走らせる。

 機体を動かせ。周囲を警戒しろ。攻撃手段を思考しろ。状況の把握を急げ。

 集中していく。少しでも姿勢制御のミスがあればそれだけで空気抵抗の係数が変わって大きな失速に繋がる。そうなると二度と追いつけない。

 どうにかして現状以上の加速をしなくては。

 思考を巡らせろ。もっと、もっと思考を加速させてこの状況の打開策を見つけ出せ。

 自分自身に発破をかけて答えを急かす。

 ――警告。対象の進路を推測。シプレースへ進行を続中。現状の速度では約三十分後に到着。

 いくつかに分割した思考のうちの一つがそう警告(つげ)る。

 悪態をつきたくなった。だが、今口を開くとそれだけで今堪えている全てが崩れてしまいそうでうで一切開くことができない。

 三十分。制限時間はそれだけ。もし現地に到着してしまえば、大規模な被害は免れない。

 こんな切羽詰まった状況なのに、嫌な事を思い出す。

(これが、ムビリさんの言ってた事なのか……?)

 強獣同士の戦闘があった後、シプレースには魔女が現れる。

 あの日ムビリから聞かされた話が、現実になろうとしている。

 それだけは絶対に回避しなければならない。

 ――提案。後方で爆発を起こす事で加速は可能である。実行を。

 ――異議。魔法による爆発によって機体の姿勢制御に支障が発生する可能性あり。

 ――同意。単純に加速出来る可能性と同確率で失速する可能性大。代替案を求む。

 解決策を考える為に割り振った思考達が、次々に叫ぶ。

 どうにかして加速して食らいつかなくては。

 ――提案。魔法≪エアロスラスター≫の多重展開による加速。機体への負荷はなし。姿勢制御への影響は少。

 ――異議。身体への影響が考慮されていない。これ以上の加速は身体への負荷が高い。生命維持に問題あり。

 ――否定。現状を打開する為には必要である。

 ――決議。この案件への審議を終了。

(我ながら冗談がきつい。今の状態じゃ、下手をすれば死ぬぞ)

 幸い操縦席を保護する術式のおかげでブラックアウトやレッドアウトのように視界を失うような事態にはなっていない。

 だがそれでも死を間近に感じるほどの負荷が身体を襲っているのは事実であり、食いしばった歯は激痛をもって危険を訴える。

 ――それがどうした!!

 心が叫ぶ。今やらなければ、いつやるのだ、と。

 即断即決。やると決めたら迷わない。

 アディンは先ほどまで考察に使っていた分割思考をすべて使って≪エアロスラスター≫の術式を同時進行で複数個組み上げていく。

 そしてそれが組み上がると同時に一斉に展開、発動させる。

 瞬間。身体をシートへと抑え付ける力が更に強くなる。当然、内蔵を潰されるような感覚も。

 だが機体は加速する。加速できた。

 アマティスタとの距離が近づく。

「追い……ついたッ!」

 魔女と並ぶ。その瞬間にワイヤーを放ち、アマティスタの身体に絡ませるとワイヤーの根元をしっかりと握って魔女の進行方向と逆方向に全力で加速をかける。

 やっと吐き出せた息。やっと吸い込める息。

 アディンは今この瞬間まで自分が息を止めていた事に気付かなかった。

 いきなり新鮮な空気を吸い込んだせいか、一気に呼吸が荒くなる。

 うるさいくらいの鼓動が、熱く沸騰した血液を全身に廻らせる。

 呼応するかのように、機体の出力も上がって行く。

 純粋なパワーだけで魔女の力を抑え込み、その動きすら抑制して見せる。

 前に進もうとする力と、逆方向へと引っ張る力。その二つの力が拮抗し、超高速の鬼ごっこはワイヤーを使った綱引きへと変貌する。

 だが、少しずつアルトエミスのほうへと引っ張られていく。

 当然だ。前を往くアマティスタに、後ろから同速で追いかけていたアルトエミスが追いついた。すなわち、今の状態だとアルトエミスの最高速度はアマティスタの最高速度を上回っていると言うことだ。

 かつアマティスタの身体に絡みついたワイヤーがその速度を殺している。

 勢いを殺されたアマティスタは、今のアルトエミスに僅かではあるが力で劣っていた。

 今の内に呼吸を整える。この状況は長くは続かない。

 この状態が続けば、きっとワイヤーユニットが基部から壊れる。いや、それよりも先にワイヤーが千切れる。

「≪サンダーシュート≫!」

 少しでもこの状況を長引かせる為、即座に発射できる魔法で攻撃を仕掛ける。

 威力はあまり高くはない。だが、怯ませるのには十分だ。

 怯んだ際に全身を使って勢いよく引っ張る。

「まだ俺と遊んでもらうぞ。俺が死ぬまで、絶対にそっちには行かせない……!」

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