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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第二章 開発編
33/315

悪童故に無茶をする

 普通、誰がそんな事をすると思いつくだろうか。

 普通は、そう普通ならそんな無駄なことはしない。

 わざわざ輸送機に積んだ機体を動かして外に出すのか、と。

「おい、馬鹿ども! ただでさえ時間がないのに何してンだ!」

「そうである。早く出ないと間に合わなかったとしても被害を少なくする事ができないのである! よって、戻すのである。ハリー、ハリー!」

 エリマ達が叫んでいるが、既に動いているヘクスイェーガーを止める事などできるはずがない。

 輸送機のハンガーのロックを外して外に出た二機のヘスティオンとアルトエミス。それを操る三人が何をやろうとしていたのか。

 何の説明もなく、急に機体を動かされたのだから現場は軽いパニック状態である。

「せめて何をしようとしてるかだけでも言え!」

「アルトエミスの防御モードを最大稼動させて、二機のヘスティオンで射出。最大速度に達したタイミングで高速モードに切り替えて一気に飛びます」

「はあっ!? テストもしてないようなモンでそりゃ無茶ってもんじゃ……」

 アディンからの返答に、輸送機の周りに居た生徒たちがざわつきだす。

 自分たちが作った手前、それは無理だ、とは思いたくないが不安がある。

 テストはしていない。だがベースとなった機体はちゃんと動いた。していないのは、新機能のテストだけ。

 動かす分には問題ないし、何より魔女の突撃を受け止める事のできたブラックボックス、その改良型であるアルトエミスを持っていかない理由もない。

 だが、アディン達がやろうとしていることを許容する理由にはならない。

「ああ、もう。凡人眼鏡、引っ込むのである。これは一か八かの大博打であり、勝てれば圧倒的に有利になるのである」

「あ? なんだって」

 シュデムが思いもしない事を言いだした。

 当然、エリマはそれに噛みつく。

「考えてみるのである。ここからシプレースに行くまで、輸送機の速度では襲撃に到底間に合わない。で、あるが仮にアルトエミスが間に合えばそれだけで足止めにはなるのである。その間に輸送機にブースターを取りつければ……」

「アディンだけに負担を押しつけるってのか? 冗談じゃない!

「だがっ! 可能性が一番高いのがこの手段である! それにアディン・アハットなら万が一の時はアストライアを呼べる。予測される被害と交戦する人間の生存率の面から見てもアイツが先行するのが現時点における最も可能性の高い方法である!」

「くっ……この」

「行け、アディン・アハット。トリア・サラーサ、ヴィール・アルバア! さっさと行ってぶっ飛ばしてくるのである!」

 それぞれの機体が頷いて応える。

 周囲を撒きこまないよう、ゆっくりと三機のヘクスイェーガーが浮かび上がりそれぞれの配置につく。

 二機のヘスティオンが肩を組み、そのエーテルコンバーターを同期させる。

 それぞれが空いた手を突き出しその前にアルトエミスが背を向けて、制止する。

「防御モード、出力全開」

 視認できるほどの濃度のマナがアルトエミスの全身から噴き出し、それが機体を包みこむ。

 それを確認したトリアが魔法の発動準備に入り、ヴィールがその出力を調整する。

「≪ライトニングスマッシャー≫」

 トリアが発動の宣言をするとともにまばゆい閃光が周囲の視界を一瞬で白に染め上げる。

 閃光が収まり、視界がはっきりとしてくると既にそこにアルトエミスの姿はなく、力を失い落下しはじめるヘスティオンの姿があった。

「そ、総員退避ィィィィ!!」

 ヘスティオンの落下する前に、周囲にいる生徒達が蜘蛛の子を散らすように逃げだす。

 完全にマナの使い過ぎで一時的に浮力を失ったヘスティオンは姿勢制御すらままならず、ふらつきながら高度を下げて行く。が、地上すれすれで浮力を取り戻してなんとか激突は回避する。

 とはいえ急な制動であり、二機のヘスティオンの装甲がぶつかりあい二機の操縦席を激しく揺らす。

「ってぇ……」

「姿勢制御回復。着地させる」

 トリア機がヴィール機を抱えて体勢を整えると、二機はゆっくりと着地して接地脚を展開させた。

 やや無理のある着地だったのか二機ともバランスを崩し、ふらついて後に脚をつく。が、これがいけない。

「馬鹿! ヘスティオンの脚は……」

 歩行するようにはできていない。脚をついた程度ではどうにもならないが、それでも負担がかかった脚は悲鳴をあげて軋む。

 接地脚が折れ、自重でつま先が地面へ突き刺さり沈み、リカバリーする間もなく二機が絡みあうようにして倒れた。

 この転倒によっての人的被害はないが、これによって余計な作業が増えたのは言うまでもない。

「くそっ。アル、悪いけど二機のヘスティオンを積み直してくれ。トリアとヴィールはさっさと降りてきて作業手伝え。おい」

「解ってるのである。発破かけた手前、きっちり仕事はするのである」

「何人いる」

「シルキーの順次投入に五人。細かい調整に十人、といったところであるか。残りの負荷は吾輩が請け負うのである」

「ったく。お前も無茶するな」

「凡人眼鏡ばかりに任せておいては、この大・天・才の名が泣くであるからな。そちらはブースターの取り付け作業を始めてほしいのである」

「解った。さっさと取りかかるぞ。ったく、無茶しやがって……」

 悪態をつきつつ、エリマは輸送機へのブースター取り付け作業に取り掛かる。

 シュデムは、というと二機のヘスティオンの整備を担当する人間を書き集め修理プランを話し合いながら輸送機のほうへと歩いていく。

 既に状況がそう動いてしまった以上、その状況にあわせて行動するしかない。そういう諦めと達観が若干ながら作業員の動きを悪くしていた。

 が、エリマが怒鳴るとすぐにいつも通りの動きに戻ってテキパキと作業を進めていく。

「とりあえずトリア嬢、降りてくれると助かる」

「そうしたいけど、腕が絡まって……」

「何してるんですか、二人とも」

 アルのヘスティオンがヴィール機の上に乗ったトリア機をやや強引に引きはがす。

 その際装甲ががりがりと音をたてたのを見た整備担当の生徒が悲鳴を上げた。

 ちょっと悪い事をしたかもしれないと思いながらも、トリア機がヴィール機から離れてヴィール機もゆっくりと高度をあげ、輸送機のほうへと機体を移動させていく。

「アディンさん、大丈夫でしょうか……」

「心配すんなって。あいつはそう簡単に死なないからさ」

「それは同意。それよりも今は、このハッチを開けないようにしないといけないと思う」

 固定位置まで来るとトリア機とヴィール機の周りを整備担当の生徒達が取り囲んで睨んでいた。

 今出たら間違いなく袋叩きにされる。そう確信させるほど殺気立っていた。

「ははは。仲間のための無茶なんだからお手柔らかに……」

「整備する人間の事を考えろ!!」

「出撃前に壊すな!!」

 全くもってその通りである。




 一方で、アルトエミスは強力な魔法で吹き飛ばされ、姿勢制御を完全に失っていた。

 くるくると機体が回転し、視界が揺れる。

 腕を振って反作用を利用しての姿勢制御も試みるが、揺れる視界がまともな思考能力すら削って行く。

「くそっ……!」

 悪態をつきつつも、姿勢を整える事に注力する。

 防御モードは正常に作動した。実際、機体そのものにダメージはない。ない、が。別の問題がある。

「こんなタイミングでシステムエラーかよ!!」

 通常モードへの移行が行われない。

 本来の予定では最高速に達した瞬間に高速モードへと移行するはずであったが、その際に防御モードから高速モードへは直接移行せず通常モードを介してからのモード移行を行い最低限の安全を確保するつもりであった。

 だが、肝心の通常モードへの移行が行われない。

 恐らくではあるが、高出力の魔法を至近距離で受けた影響だろう。

 ――今は、どうでもいい。

 一刻も早くシステムを復旧させなければまずい。。

 トップスピードを迎える前に、せめて体勢だけでも。

「そうだ、計器!」

 現在の機体の状態を示す計器を見つけ、即座に現在の状態を把握する。

 といってもぐるぐると回っていて参考にはならないが、それでも噴射のタイミングくらいは計れる。

 右へ左へと揺れる計器が安定するように全身のリバウンダーの出力を調整して水平を保ち始めたことで、アディンも冷静さを取り戻してくる。

 次は前後の確認だ。

 前後は身体の受ける力の方向でわかる。機体の進行方向と機体の前後は同じ方向を向いている。

 最後に上下。だが機体に表示される速度メーターがやや減速し始めているのを見て上下の修正は諦めた。、

「ええい、ままよ」

 結局アディンは自分が今どんな姿勢で飛行しているのかあ悪しないまま、やや無理やりに高速モードを起動させる。

 瞬間機体が加速し、アディンの身体はシートに抑え付けられる。

 ぐっと食い縛って自身を押し潰そうとする力に抗う。

 備え付けられた速度計は既に振りきれている。

 少しでも気を緩めればそれだけで意識が持っていかれかねない。

 操縦席を守るための防御術式が起動しているはずだが、それでも苦しい。

 三半規管が悲鳴を上げているのを感じる。胃の内容物が逆流しそうになる。

「これは……きついな」

 想定外の結果だ。防御術式の効力は確かにあるのだろうが、それでも身体にかかる負荷はブラックボックスの時の比ではない。

 機体が損傷した時の感覚とは違う。明らかに自身の身体が悲鳴を上げる感覚。

 命の危機を感じるほどの加速の中、アディンはなおも加速を続ける。

 思考は止めれない。速度を落とさず障害物を避けて飛ぶために。

 意識は飛ばせない。細かな操作が欠かせないが故に。

 速度は落とせない。一刻も早く敵の喉元を食い破る為に。

「モフモフ、動けるか! 動けるなら、ムビリさんに魔女が接近中だって伝えてくれ。詳細は――」

 そこまで喋っている余裕はない。

 それを察したのか、アディンの肩に乗ったままのモフモフは短く震えて応え、メッセージの送信が終わった事を知らせるように伸びた。

 ぐっと全身に力を入れ、真っ直ぐ前を向いて加速。

 一瞬で通り過ぎる景色の中に、自分の上下が確認できるものはないかと少しだけ注意をそらす。

 だがそれだけで機体が大きく動く。どうしても視線の向く方に機体が寄ってしまう。しかも速度が出ている為か、少しの移動が大きなブレになっている気がする。

 王都からシプレースまで、ヘスティオンの最高速度ならば六時間程度だろうが、この機体ならばどれだけそれを縮められるのだろうか。

 身体が命の危険を叫ぶほどの速度を出しておいて、間に合わないなんてことはないだろう。

 ただし、間に合ったところでアディン自身の意識が持つだろうか。

 身体にかかる負荷がどれだけの間続くのだろうか、と考えるとそれだけで気を失いそうになった。

 マイナスな思考は毒だ。

 孤独で短くも長い戦いが始まっていた。

 弱気になっては駄目だ。思考を止めても駄目だ。気を抜くのも駄目だ。

 駄目だ。駄目だ。駄目だ。駄目だ。駄目だ。

「くそっ……!」

 一度始まったマイナス思考は止まらない。

 ここは誰にも介入できない。誰の助けも得られない。

 心臓が五月蠅くなる。息は乱れてただでさえ苦しい呼吸がさらに苦しくなる。

 もし操縦を誤って島に激突したら。そんな嫌な想像すらしてしまう。

 そんな時だ。モフモフが突然震えだした。

 いや、正確には震えていた。震えだしたのに気付いていなかった。

「……何、が?」

『アディンさん、聞こえますか』

 モフモフから聞こえてきたのは、アルの声だった。

『聞こえてますね。聞こえてると信じて話します! 必ず追いつきます。だから、それまで死なないでください。絶対に!』

 解ってる。そんな事は。頼まれなくたって生きてやる。

 生きて、生き抜いて、母を――伝説を越えるその時までは、絶対に死ねない。

『お願いです。絶対に、生きて……』

「当たり前、だぁッ!!」

 気合が入った。死ぬかもしれないと考えながらも、不敵に笑って速度をあげる。

 その姿は流星が如き、一筋の光となって空を駆け抜けた。

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