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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第二章 開発編
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魔女の影

 トリアの報告を受け、エリマ達は慌しく離陸の準備を始める。

 現在この場にいる戦力はヘスティオンが二機のみ。

 ブラックボックスを戦力に数えていないのは、この機体にはまだ使える武装が一切存在しないからだ。

 一方で二機のヘスティオンのほうはキャストブレードを標準装備しており、万が一が起きても十分に戦闘することが可能だ。

 問題は、その万が一が起きた場合。いくらなんでも数が足りない。

 使い魔であればまだなんとかなるかもしれないが、魔女が現れたらたった二機だけでは魔女を抑え込むだけで精一杯で、使い魔のほうまでかまっていられなくなる。

「おい変態。離陸準備急げよ!」

「わかってるのである。観測機材類の撤収状況はどうなってるであるか! データの回収さえ出来れば機材はどうでもいいからさっさとするのである!」

「姐さん、ブラックボックスはどうすんすか!」

「まだアディンは乗ってんだろ。だったら輸送艇の上にでもしがみつかせろ!」

 同行した生徒全員が輸送艇に乗り込んだのを確認し、輸送艇は離陸を開始する。

 輸送艇のそばにヘスティオンがつき、輸送機の上部にブラックボックスが着艦する。

 ブラックボックスはゆっくりとした動作で膝をつき、両肩の付け根あたりに付けられた牽引用ワイヤーを射出。ワイヤーを巻き付け機体を船体に固定する。

「よし、急いで撤収だ。トリア、動きはあるか!」

「悪い報告ともっと悪い報告がある」

 大体、こう言う時は良い報告が一つはあるものであるが、トリアは声を震わせながら≪ホークアイ≫を使って強化したその目で見た物を伝える。

「悪い報告は、相手がこちらの動きに気付いた事」

「……もっと悪い報告は?」

「それが使い魔じゃないってこと」

「よし、わかった。限界までコンバーターの変換効率上げろ。リバウンダーもフル稼働だ!」

「アルツ・エナム!」

「今やってる! 防御術式多重展開開始。撤退開始だ!」

 輸送艇が本土のほうへ頭を向け加速を始める。

 ヴィール機がぴったりと横に張り付き、トリア機もブラックボックス同様に輸送艇に着艦する。

「アル、プレスガンはある?」

「試作型を使うんですか? でも上部ハッチはともかく下部ハッチすら開かないんです!」

「あっ……」

 しまった、とアディンは口を押さえた。

 上部ハッチも下部ハッチも開くはずがない。上は今ブラックボックスとトリア機が乗っている。故に上のハッチが開くわけがない。

 では下部ハッチは、というとさっきアディンが機体を固定する為に使ったワイヤーががっつり巻きついていて開かない。

「お前かぁっ!!」

「仕方ないだろ。この機体のパワーでしがみついたら輸送艇ぶっ壊しそうでマニュピレーター使いたくなかったんだから!!」

「その気持ちは解るけど、下部ハッチまで塞ぐなよ!」

「喧嘩するな年下共! トリアは観測に集中してくれ。お前の眼が頼りだ。ほら、アルツとクソサイテンティストは計器類から目を離すな! 操舵手。防御術式があるとは言っても魔女の攻撃が始まったら長くは持たない。直撃だけは回避しろ!」

 エリマが指示を出し、それぞれがそれぞれのポジションで求められる行動を適切に行う。

 普段言い争いが絶えずそりの合わないシュデムでさえ、その指示に黙って従っている。

 輸送艇内部に格納されている武器は予備のキャストブレードが二振り。新型プレスガンが三種類一つずつ。

 そのどれもが有用な武器であり、それらがあるだけで戦いやすさが随分と変わってくる。

 だが使えなくては意味がない。

「アディン、早くワイヤーをほどけ!」

「くそっ! ボルト起動。ワイヤーユニットパージ」

 炸裂ボルトによって基部部分からワイヤーユニットがブラックボックス本体から切り離される。

 それと同時にブラックボックスは輸送艇から離れ、切り離された牽引用ワイヤーユニットの基部を掴んで輸送艇の周りを一周して絡まったワイヤーをほどく。

「ワイヤーを外した。ハッチを開けてくれ」

 輸送艇の上部ハッチが開き、ハンガーごと固定されていた三種のプレスガンがせりあがる。

「各自、得意なレンジのプレスガンを取って迎撃準備。ブラックボックスも武装する」

 ブラックボックスは予備のキャストブレードを二つとも手にとり、腰に装備。プレスガンは銃身が短く連射性能を向上させたタイプのものを選択した。

 続いてトリア機は銃身を延長し射程を強化したタイプのものを装備。ヴィール機は残った連射性に特化したタイプのものを装備する。

「おいアディン。まさかとは思うがその機体で戦うつもりじゃないだろうな」

「大丈夫ですよ、エリマ先輩。そうするのは最後の最後。準備も整っていない状態で魔女と戦うほど馬鹿じゃないですって」

 とはいいつつも、現状の戦力二機だけでは手が足りないのは目に見えている。きっとブラックボックスも戦わざるを得ないだろう。

「魔獣接近。使い魔も展開した」

 トリアの報告を聞いた三機のヘクスイェーガーが一斉に後方を向いてプレスガンを構える。

 が、ブラックボックスとヴィール機のプレスガンの射程では当然届かない。が、トリアの装備したものは違う。

「狙い撃つ」

 そう呟くと同時にトリア機が引き金を引いた。

 威力と射程を向上させる為、以前より強力な空気圧によって放たれる音速をも超える弾丸。ましてや≪ホークアイ≫などを使用していなければ視認できない距離への攻撃だ。当然魔女や使い魔も、感知はできていても正確な位置までは把握できていないだろう。

 よって、トリアのこの攻撃は相手にとってはまず回避不可能な一撃――のはずだった。

「えっ」

「どうした、トリア」

「避けられた? というか、拙い。さっきのでこっちの位置がバレた!」

 迂闊すぎた。そう後悔するも既に遅い。弾道から正確な場所を割り出され、一気に魔女の軍勢が加速する。

 特に先頭にいる魔女の速度は使い魔を置き去りにし、急接近する。

 あっという間に≪ホークアイ≫を使用しなくても目視できる距離に近づいて来た魔女に対し、ブラックボックスとヴィール機がプレスガンで牽制をしかける。

「なんだこれっ!? 一回引き金を引いただけなのに弾が何発も」

「ヴィールさんのはプレスマシンガンといって、連射性に特化したものです。引き金を引きっぱなしにすればその間も弾が出続けますが、その分弾の消費も早いので注意してください!」

「了解だ。イスナイン嬢。以後気を付ける」

 一方でアディンの使ったプレスガンは引き金一回につき一発。だが引き金を引いたままにするとヴィール機のもの同様に弾を撃ち続けるようになっている。なるほど、連射性の向上とはこういう事か、と納得しつつ再び引き金に指をかける。

 だが、魔女は一切速度を落とすことなく接近し続ける。

「!?」

 ヴィールが異変に気付き、声をあげようとしたがそれよりも先に突風が吹き抜けた。

「なんだ!?」

 誰も、それに対応できなかった。真っ先に勘付いたヴィールですら、それが魔女の通り過ぎた後に起きた突風であるという事を理解するのに幾許かの時間を有した。

 あまりの突風によりトリア機とヴィール機が輸送艇から引きはがされ、ブラックボックスは咄嗟に輸送機にしがみつき、その際の衝撃と魔女の起こした突風によって輸送艇が大きく揺れる。

「バカっ。いきなり掴むな!!」

「すいません、咄嗟のことだったので」

「報告!」

「魔女らしき物体Xが通り過ぎたのであるな。これは拙いのである。このままでは完全に挟み撃ちにされてみんなそろってハンバーグの材料になるのである。あ、吾輩はナツメグちょっと多めで。中毒にならないぎりぎりラインが好みである」

 ナツメグで中毒が起きるという事を今この場で知った人間は多かったが、今はそれどころではない。

 状況は誰の目に見ても悪化していた。

 この場にいただれしもが予想だにしていなかった展開を見せ、想定していた最悪の状況よりもより悪い状況に発展してしまっている。

 後方の使い魔だけならばどうにかなるかもしれない。アディンの能力はまんべんなく高いし、トリアは射撃技能が高く弾がある限り敵を近づけないだろう。ヴィールはというと、彼は二人には劣るところがあるものの、同世代の者と比べれば十分に高いと呼べる技術の持ち主だ。そんな彼等ならば、使い魔程度ならば退けてしまえるかもしれない。

 だが問題は輸送艇の前に回り込んだ魔女。

 輸送艇の進行方向から突っ込んでくるこれを避けるのは困難を極める。

 何より相手の速度はこちらの最大戦速を遥かに上回る速度で飛行するのだ。仮にもう一度避けて最大戦速で逃げようとしても、かならず追いつかれる。

 では以前遭遇した時同様に応戦してはどうか。それも駄目だ。

 あの時はアストライアという戦力を投入できたからこそどうにかなった。何よりも乗り換えるまでの間制止させておく為の場所がない。

 上部ハッチを開いた輸送艇の上に召喚すれば制止させることは可能であるが、召喚の際の衝撃で船体が大きく揺れどんな影響が出るか判らない。

 最悪バランスを崩してそのまま失速する可能性すらある。よって現状ではアストライアによる一発逆転も望めない。

「トリア!」

「解ってる」

 進行方向から接近する魔女に対し、トリア機がプレスガンを構えるとほぼ同時に引き金を引いて攻撃する。

 狙いをつけなければまともに当たるものではないが、トリアの放ったそれは真っ直ぐ魔女めがけて飛んでいく。

『――――――』

 が、それを難なく回避して魔女は笑い声を響かせる。

 瞬間、トリアの背筋に冷たいものが走った。

「笑った……? いや、嗤ったのか」

 魔女は確かに嗤った。

 それは余裕の表れのように思え、実際にそうだった。

 ほぼ直角に方向転換を繰り返しつつ高速で接近する魔女。

「≪エアシールド≫!!」

 ブラックボックスが輸送艇の前に飛び出し、≪エアシールド≫を展開。真正面からそれにぶつかった魔女を受け止める。

 瞬間、アディンの全身に痛みが走った。

 ≪エアシールド≫によって直撃はしていないものの、その≪エアシールド≫ごと押し込まれ機体に多大な負荷がかかり始め、それが痛みとなってアディンに伝わってきていたのだ。

 軋むような痛みの中、食い破られないようマナ供給量を上げて≪エアシールド≫を強化していく。

「アディン! 無茶するな!」

「いいから、撃て!!」

「ッ!」

 アディンに促されて二機のヘスティオンがキャストブレードを抜き魔女にその切っ先を向ける。

「≪ファイヤミサイル≫!」

「≪ライトニングスマッシャー≫」

 二人の放った魔法がブラックボックスの横を抜けて魔女へと飛来する。

 そして着弾。爆発が起き、それに押し出されてブラックボックスが後退する。

「やったか……?」

「そういうセリフを言う時は大抵やってないのであるな。十中八九ではなくぱーぺきに仕留めそこなってるのである」

 シュデムの言う通り、魔女は健在だ。

 二つの魔法によって初めて動きを止めた魔女の姿は――異様だった。

 まるで巨大な繭のような姿。それがゆっくりと開いていくが、やはりその姿は異様としか言いようがない。

 繭のように見えたのは頭から生えている小さな翼と腕そのものといえる巨大な翼で全身を覆っていたからであった。

 それ以外は人間のように見える一方で、下半身は癒着しているのか先細りになりまるで突撃槍のようだ。

 確かに人の形からすれば異様。かといって醜悪かというとそうではなく、一種の神々しさや神聖さすら感じる風貌。

「……美しい」

 思わずそんな声が漏れるほどに。

『――――――――!!』

 が、魔女の声を聞いた瞬間にそんな感想など吹っ飛んでしまう。

 その叫びは憤怒であり憎悪であり殺意であった。

 明らかに魔法攻撃された事で興奮していた。

 これはまずい、と誰しもが思った。が、魔女は予想に反してその場から飛び去った。

 使い魔達も魔女に従うようにこの場から離脱を始める。

 その不可解な行動に首をかしげながらも、アディン等はそのままクエルチア騎士学園への帰路についた。

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