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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第一章 学園編
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学園へようこそ1

 ウィスタリア王国王都ウィスティリア。王国建国の祖にして初代国王ウィスティリア・ウィスタリアの名を冠するこの大都市にある王の居城ウィスタリア城の会議室では、この国の政治を司る大臣達が頭を抱えていた。

「どうしますか、これ」

「どうするもこうするもなかろう」

 緊急の議題として挙がったのは、とある少年のクエルチア騎士学園中等部騎士科への編入についてである。

 編入自体珍しい事ではない。他の国からの留学生を編入させる事は多々ある事だ。

 だが今回の場合はかなり特殊な事例であり、この特例をはいそうですかと飲み込む訳にはいかない理由があった。

「この資料が正しいとするならば、彼は今まで一度も学校というものに通った事がないと言うではないですか」

「だがしかし、彼女のお墨付きだぞ。信用には値する」

「身内贔屓ではないか?」

「そもそも眉唾にも程がある。一度も学習らしき学習をせず、齢十三にして高等部相当の学力を持つなどと」

 たった一人の少年の扱いについてわざわざ会議を行う必要があるのか、と言われると間違いなくない。普通ならば。

 つまり、今議題に上がっている少年は『普通ではない』。

 王国始まって以来最強の騎士にして最大の問題児である女騎士の息子であり、その女騎士直々の推薦。

 十年ほど前にかつての愛機であるヘクスイェーガー・アストライアを、緊急事態であったとはいえ召喚術式を使用して王都の格納庫から持ち出した前科もち。

 しかもアストライアを返却する際も、ウィスタリア城にアストライアで直接乗り付けるという暴挙に出た問題児。

 現役時代も何かと伝説の多い人物であり、命令違反は当たり前。売られた喧嘩は高値で買い取り、徹底的に叩きつぶす。触らぬ神になんとやらを地で行く女性だった。

 とにかく、そんな苛烈な人間の息子であり、直々の推薦状つきの人間をどう扱うか。それは非常に重要な問題であった。

 何せ下手な対応ととれば、それが敵対行為とみなされ王都周辺で大暴れされかねない。

「諸君」

 現国王レヴァンダ・ウィスタリアがこの会議で初めて口を開いた。

 先王が急死したために突如として王位を継承する事になったまだ若き王は、皺の寄った眉間に指を当てながらため息をつく。

「いくらウーノ・ミデンの息子だからと言って身構え過ぎだ。私も彼女の噂はよく聞いているが、そこまでの事はあるまい」

「いや、しかし。陛下は彼女の恐ろしさを知らぬから言えるのです」

「あ、やばい。俺思い出してきた……」

 何やら大臣の一人がかつての事を思い出したのか、口調すら素になってカタカタと震えている。

 落ち着こうとして自身の前に置かれたティーカップに手を延ばすも、震えすぎて中身がこぼれまくっている。

「確かに私はウーノとやらの所業については詳しくは知らぬがな。だからといってこの件に関しては既に解決法が決まっているだろうに」

「なんと!」

「さすが陛下! して、どのような」

「簡単な話だ。試験を受けさせればいい。初等部相当の学力がないと判断すればそれでよし。なければ素直に諦めてもらう。その程度の条件ならばあちらとて飲むだろうさ」

 言われてみれば、と大臣たちは顔を見合わせる。

 どうやら彼等はウーノ・ミデンという存在を恐れるあまり、至極単純な事すら考えられなくなっていたようだ。

 実際大臣の中にはウーノによって酷い目に遭いそれがトラウマになっている者もおり、そうでなくとも彼女の苛烈さを知る人間ばかり。そんな人間から接触してきたのだから、当然の騒ぎとも言える。

 尤もレヴァンダからすればどうでもいい話である。むしろ会議を開くほどでもないような事案をわざわざ取りあげるなど、こんなことが国民に知れたらと思うと頭と胃が痛い。

「はあ。平和ボケも過ぎるぞ……」

 ともあれ。やることが決まれば人間というのは素早く行動できる。

 この会議から数時間後には出題する問題の選定が終わり、試験を受けさせる日時と場所も決定。とんとん拍子に事が進んで行った。

 そしてこの試験。全問正解という結果でウーノ・ミデンの息子――アディン・アハットは無事クエルチア騎士学園中等部騎士科への編入が決定し、大臣たちは厄介事を抱え込んでしまったと頭を抱える事になる。



 少年は空を見ていた。故郷とは違い、遮るものばかりの狭い空。

 ずっと田舎のほうで暮らしていた少年にとってそれはそれで珍しい光景であった。

 雲は流れている。鳥は飛んでいる。空には何も変わらない。

 やや紫がかった銀髪の少年――アディン・アハットは十三歳になった。自らが暮らす村に現れた魔女と、自身の母ウーノ・アハットの駆るヘクスイェーガー・アストライアとの戦闘から十年間。彼は母の組んだプログラムに従い、日々母に教えを請い鍛え、学び、そしてついに騎士になる為の第一歩、クエルチア騎士学園の門をくぐろうとしていた。

 が、問題が一つ。肝心の門にまだたどり着いていなかった。

 ここ王都ウィスティリアはウィスタリア王国屈指の大都市であり、田舎ものがいきなりふらっとやってきていきなり目的地へたどり着けるほど解り易い地形をしていない。

 普通こういった大都市は道路が方格状に整備されておりある程度は移動しやすいはずなのだが、残念ながらウィスティリアはそうではない。

 元々ウィスティリアという都市はウィスタリア城の周囲のみの比較的小さな都市であり、その周囲はちゃんと区画整備がされている。だがその後の爆発的な人口増加と急速すぎる発展の結果、新しい建造物が出来上がる速度に道路の整備が追い付かなかったのだ。

 結果出来上がったのは慣れた人間でも迷う迷路じみた大都市が出来上がった。当然、始めてこの都市を訪れる人間がそう簡単に目的地にたどり着けるような街ではない。

 随所にタウンマップが置かれているのだが、それを見たって迷路の中で現在地が判る程度のもの。

「役に立たない地図だな」

 目の前にあるタウンマップを見ながら諦めにも似たため息をつく。

 とりあえず自分がいるのはイーストサイドという区分にあたるということはわかった。

 アディンが目指すべきクエルチア騎士学園もイーストサイドにあるのだが、タウンマップからすると正反対の位置にいる。

 どうしてこうなった。最終的にどういう方向へ進むべきかというのはタウンマップを見ればわかるが、どうやって行けばいいのかがさっぱり分からない。

 こういう時、どうすればいいのか。

「うーん」

 あまり気乗りはしないが、このまま歩きまわっても埒が明かない。そうなれば、やることは一つ。

「最短ルートで目的地まで一直線に移動するか」

 軽く準備体操をしてから実家から持ってきた重たい荷物を抱えなおし、何度かその場で軽めに跳ねる。

「脚部限定で≪フィジカルブースト≫オン。跳躍から三秒後に≪エアロスラスター≫オン」

 アディンの身体から淡い光が漏れる。魔法を使用した際に出るその光は、マナの光とも呼ばれる発光現象である。

 魔法が生み出されてから随分と経つが、この発光現象についてはよく分かっていないのだと、アディンは母から聞かされた。なので発光現象については深く考えないようにする。

 確実に魔法が発動し、脚に力が集中していくのを確認したアディンは脚に力を入れ垂直に跳び上がる。

 その高さおよそ6メートル。普通の人間の跳躍では不可能な高さまでアディンは跳んだ。これが強化系魔法≪フィジカルブースト≫の効果である。

 原理としては魔法にしては比較的科学的。微弱な電流を筋肉に伝えることで、通常時以上の力を発揮させるというものだ。

 勿論普段使っていないような筋肉まで使ってしまうため、使用後の反動として筋肉痛はまず避けられないという欠点はあるが、それでも咄嗟に膂力を上げたりするのには非常に便利だ。

 続けて、マナの光が漏れアディンの身体から突風が吹きだし、その身体を前へと押し出す。

 補助系魔法≪エアロスラスター≫によるものだ。突風により使用者の身体を押し出し、加速させる魔法。

 それによりアディンの身体は目的地方向へと、道路の作りを完全無視した最短ルートを一直線に加速していく。

 ≪フィジカルブースト≫によって高さを確保した上で、≪エアロスラスター≫による直線移動。これならば目的地まで文字通りの一直線でいける。

 まあ問題はどれだけ≪エアロスラスター≫の力が強くても、重力の影響からは逃れられない為どうやったってどんどん高度は下がって行く。

 飛行というよりは滑空に近い状態なのだから仕方ないとはいえ、6メートルもの高さから落ちればそれなりの怪我をする。

 なのでアディンは≪エアロスラスター≫を逆噴射させて勢いを殺し落下を始める。その後、噴射角度を真下に向けて少しずつ噴射の勢いを弱くして比較的衝撃が来ないような方法で着地した。

 着地と同時に自分の荷物を確認する。

 しっかり持っていたつもりだが、≪エアロスラスター≫で移動した際に吹っ飛ばしてしまった可能性もある以上確認は怠ってはいけない。

「落とした荷物はないな」

 よし、と再び≪フィジカルブースト≫と≪エアロスラスター≫で移動しようとした時、視線を感じて振りかえる。

 そこに居たのは少女だった。

 年齢はアディンと同じくらい。乱雑に切られた黒髪と赤い目。その赤い目が見開かれていた。

 多分、アディンが上から落ちてきたのを見ていたのだろう。驚いた顔をしている。

「あー」

 面倒な事になった。

 着地時する場所の周辺はちゃんと確認したつもりだったが、着地点の後にあたる場所は荷物に集中していたからか見落としていた。

 とりあえず何か言い訳でもしないといけない。そう思ってアディンの口から出た言葉は――

「どうも」

 だった。

(いや、どうもじゃねえよ)

 自分で言っておいて、なんて的外れな事を言っているんだろうと自分で自分にツッコむ。

「どうも」

 そして相手もそう返してきた。多分パニックの末にやっと出た言葉がそれだったんだろうな、とアディンは推測する。

「…………」

「…………」

「それじゃあ」

 その場を立ち去ろうとした時、強い力で肩を掴まれた。

 掴んでいるのは間違いなく黒髪の少女なのだろうが、その力のかかり方が尋常じゃない。痛みすら感じるレベル。

「ねえ、今の≪エアロスラスター≫でしょ? あんな使い方する人初めて見たんだけど! あの魔法って初動時に指定した角度から動かす時の制御が難しいから空中で使った時は別の魔法で落下の衝撃を和らげるのが一般的なのに貴方は≪エアロスラスター≫の噴射角度を変化させた上にその出力まで調整するなんて。何者なの。天才? 天才なの!?」

 少女は目を輝かせて訊ねてきた。

 一言喋るたびに興奮しているのか、肩にかかる力が増してくる。

「いや、あの。とりあえず離してくれ。痛い」

「あっ。ごめんなさい。私ったらつい」

 あわてて手をはなす少女。

 さっきまで掴まれていた肩がまだ痛い。どんな怪力だ、と少女のほうを睨む。

「私、人より力が強いみたいで。えっと。すいません」

「いや。こちらこそ急に上から降りてきてすまない。怪我はないか」

「はい。大丈夫です」

 そこでアディンは気付く。目の前の少女の纏う服がクエルチア騎士学園の制服であるということに。

「その制服……」

「あっ。私クエルチア騎士学園の生徒なんです。これでも騎士科なんですよ」

「それは好都合」

 思わず心の声が口から出てしまった。

「実は明日から俺もそこの騎士科に通う予定になってるんだが田舎から出てきたばかりで道が判らず、この通り学園とは正反対の場所に居る。すまないが、君さえよければ案内してくれないか」

「はい。いいですよ」

 少女は快く道案内を引き受けた。

「そう言えばまだ名乗ってなかったな。俺はアディン。アディン・アハットだ」

「私はアル・イスナインといいます。今後ともよろしくお願いします。アディンさん」

 互いに手を差し出し、軽く握手。

 そこでアルと名乗った少女はアディンの持つ荷物の量を見て反応に困った結果出た笑みを浮かべている。

 そりゃそうだろうな、とアディン自身も思う。総重量はアディンの体重以上。一番小さなショルダーバッグすら全力で振り回せば人くらい撲殺できてしまいそうなくらい重たい。

 まあようするに、パンパンに中身が詰め込まれているのだ。

「まあ、普通こんな大荷物で出歩いたりしないよな。解ってる」

「いえ、その。住まいが決まっているならば郵送してもらえばよかったのでは、と」

「寮の部屋が空いてたらしく、そこにしたんだがな。俺の実家は島でね。下手に郵送なんて頼むとボられる」

「そういうものなんですか」

 島とはすなわち、この惑星エアリアに数多存在する浮遊陸地の中でも大陸と呼べるほども大きくない浮遊島と呼ばれる場所のことだ。

 当然ながらウィスタリア王国の周辺にも人が生活している浮遊島がいくつも存在している。

 浮遊島から国の本土へは空路が必要になるのだが、アディンのいた島ではこの手間賃をやたらと吊りあげてくる業者が多かった。なので少しばかり重たかろうが自分でやったほうが安上がりになる。

 ちなみに手間賃の吊りあげは空路を使った時だけで、島内への郵送は王国の平均的な金額で行えていた。

 とはいえ、だ。流石に自分の体重を上回る量の荷物を持ち運ぶ事になるならば、少しくらい高くても郵送を利用しておけばよかったと今になってアディンは思いはじめていた。

 この荷物がなければエアロスラスターでの移動距離はもう少し伸びていたはずなのだ。

 だが逆に、この荷物があったからこそアルと出会えたとも言える。

 それがいい事なのかどうかはとりあえず今は置いておく事にし、アディンは歩きだす。

「あ、そっちじゃないです」

「っと」

 さっそく道を間違えかけた。

 大人しくアルの後についていこう。そう改めて思うアディンであった。


 しばらくアルの後をついて歩いたが、少しだけこのイーストサイドという場所についてアディンは気付いた事がある。

 後先考えずに作られたとしか思えない街並みではあるもののそれでいて無駄がない。

 勿論ちゃんと整備していればもっと無駄な構造はなくせるのだろう。けれど、そういうことではなく急いで作って積み上げながらも、それでいて余分な隙間は存在しない。

 まるで答えがいくつもある立体パズル。きっと声にすれば馬鹿にされる表現だろうと思い口に出すことはしなかったが、アディンはこの街並みにそんな印象を抱いた。

「どうですか。この街並み。変でしょ?」

「まあ、そうだな」

 変でしょ、と言われると肯定しかできない。実際変な街並みである訳だし。

 通路を挟んで向かい合った薬屋と酒場の二階が繋がり、その中間地点にはドーナッツ屋の看板が出ており、縄梯子がかけられている。入店はこちらからということだろう。

 飲食店で食事した後、縄梯子なんて使いたくないと思うのはアディンだけだろうか。

「イーストサイドのほうは街の発展速度が凄くて。ウェストサイドよりも大分乱雑な感じになってるんです」

「ウェストサイドは見たことがないから何とも。けどそうだな。しいて言うなら振動に弱そうだ」

 地震なんてものとは無縁な空の大地。耐震強度なんてものは当然ながら考慮されていない。

 さっきのドーナツ屋なんて、揺れ方次第ではあっという間に崩れてしまいそうだ。

 一応は地震という自然現象が存在しているということは、エアリアの住人も知識としては知っているが空で暮らしている以上それを実際に体験した人間はどれだけいるか。

「そろそろ学園が見えますよ」

「おお」

 イーストサイドのごちゃついた街並みを抜けるとひときわ広い場所に出る。

 ただの広場にしては必要以上に広い。そして先ほどの街並みと比べてやけに整っている。まるでここだけが別の街であるかのような印象すら受ける。

「これがクエルチア騎士学園の敷地との境界です」

「えっ」

 門とフェンスで区切られた場所。そこから先がクエルチア騎士学園の敷地なのだろうということはわかる。

 だがそこは学園というには広すぎる。

 村を出る前に母からは――

「学園はね。初等部から高等部までを同じ敷地内に置いているし、遠方から来た生徒の為の寮もある。かつ、いろんな学科がある関係上専門施設も当然多くなるから、敷地は途轍もなく広いよ」

 などとあらかじめ聞かされていたが、それでもアディンの想像を遥かに超えてきていた。

 もしかすると故郷の村よりも広いかもしれない。そんな感想すら抱くのだ。

 改めて手持ちのタウンマップを確認して見るが、学園の敷地だけでイーストサイドの約三分の一を占めている。

「俺はこんなに目立つモノにたどり着けないマヌケだったのか……」

「あー。でも最初はみんなそれやらかすからアディンが間抜けとかそういうのじゃないと思いますよ」

 確かに、学園は敷地こそ広いが、そこへたどり着く為の道に一直線のものがほとんどなく、すぐに曲がり角にぶつかるような道ばかり。

 そりゃ初めてくる人間に迷うなというほうが無理だ。

「一応、中等部まで案内しましょうか?」

「ああ。頼む。敷地内でも迷いそうだ……」

 門を通り敷地内に踏み込む。その瞬間、アディンは違和感を覚えた。

 なんというか、どこから見られているような感覚。

 その原因を探るように周囲を見渡すが、アディンから見える範囲に人が隠れてこちらを監視できるような場所はない。

 気のせいか、とも思ったが念のため視力を強化する魔法≪ホークアイ≫を使用する。

 自分が見渡せる範囲にある学園施設の窓や屋上などをくまなく観察すると、こちらを見ている人影を発見した。

 あちらも監視のために遠視が可能になる魔法でも使用しているのか、視線が合った瞬間に逃げ出した。

「どうかしましたか?」

「いや、なんでも」

 アルは気付いていなかったようだ。まあ視線を向けられていたのはアディンだけなので仕方ないといえば仕方ないが。

(しかし、監視か)

 何故自分が監視されているのだろうか、と疑問に思うアディンであったがその理由がまさか自分の母にあるとは考え至る訳もなかった。

 ≪ホークアイ≫を解除し、目を押さえる。身体の部位を強化する魔法はその部位にかかる負荷が大きい。今回のように目を強化すれば、当然その分目が疲れる。

「えっとですね。正面に見えるのが学園工廠と格納庫です。あそこは騎士科のある中等部と高等部どちらからも同じ距離になるようにされているんで、学園の中心部にあるんです」

「学園工廠? まさかクエルチア騎士学園では兵器を自力で生産する施設があるのか」

「そりゃまあ。この学園はありとあらゆる分野の技術と知識を学べる学園ですから。兵器の製造に関しては鍛冶科や機械工学科なんかの実習も兼ねているんです。魔女に対抗するには整備士の育成やヘクスイェーガーの製造技術の継承は必要な事ですから」

 随分と物騒な実習だな。アディンはそう感じた。実際どうも"臭う"。

 さっきの監視といい、兵器を製造できる能力といい。まるでこの学園そのものが軍事機密のような扱いをされているような気がする。

 まあ監視に関してはアディン自身にも原因があるのだが、それはアディン本人の知るところではない。

「それとですね。ここから東の方には――」

 金属加工場や魔法研究棟。魚の養殖場や農園まで様々な施設が学園の敷地にはあるらしく、紹介しきれないらしくアルは学園の見取り図をアディンに見せながら説明してくれていた。

 流石に王都の東半分であるイーストサイドの三分の一を占めるだけの巨大な学園だけのことはある。

 あれやこれやと説明を受けるが、これだけの施設だ。アディンの在学中にどれだけの施設に足を運べるだろうか。

 少なくとも農業施設群にある養豚場にはいかなさそうだ。

「あ」

 突然アルが説明をやめて空を見上げた。

 アディンも釣られてアルの視線を追う。

「ヘクスイェーガー!」

 十数機のヘクスイェーガーがゆっくりと降下してくる。

「あの機体数……」

「ヘスティオン。ウィスタリア王国が主力にしていた、ヘクスイェーガー・アストライアの簡易量産型。そうか。訓練用に卸されてたのか」

「また、数が減ってる」

 アルの表情は暗く、声もどこか落ち込んでいるように聞こえる。

 彼女の言った言葉から察するに、出ていった時はこれよりももっと数がいたのだろう。

 何があったかは知らない。だが、何らかの理由で学園を出た数よりも戻ってきた数が少ないということは――その理由は二つに一つ。

 事故などで破棄せざるを得なくなったか、戦闘で破壊されたか。

「乗っていた人間が無事だといいな」

「……はい」

 気休めにしかならないとは思った。だがそれでも、目の前の少女に何か声をかけなければと思うと自然と言葉が出てきた。

「さあ。行きましょう。早く手続きを終わらせてしまいましょう」

「ああ。そうだな」

「でも、その荷物を先にどうにかしたほうがいいかもですね」

「…………」

 確かにアルが指摘する通り、大荷物を持ったまま編入手続きをするのはどうかとアディン自身も思う。

「先に寮へ案内してくれるか」

「そうしましょう」

 この後、無事に学生寮に到着する事が出来たのだが、その外観が城と見まがうほどに豪華過ぎてアディンは唖然とする事になる。

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