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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第二章 開発編
17/315

パラダイムシフト前夜

更新が非常に遅くなって申し訳ありません。

今後もゆっくりではありますが、続けていきたいと思っています。

どうかお付き合いください。

「い・や・だ!」

 エリマ・ヴェイフは目の前にいる下級生、アディン・アハットにそう言い放つ。

「何もそう頭ごなしに拒絶しなくても」

「いいや。嫌だ。お前絡みでロクな話を聞いたことがない」

「いや、ですからね。ちょっと新しい装備を作ってほしいって言ってるだけじゃないですか」

 ちょっと、で言うことではない。

 アディンはばっちり設計図らしきものを用意してきており、それを広げてエリマに見せている。

 が、エリマはというとアディンに関わると碌なことにならないと言う事をよく聞いており、実際彼が持ち込んだヘクスイェーガー・アストライアについては取扱に困っている。

「まず予算。どうするんだ」

「ああ、それは国王陛下が何とかしてくれます」

「は? え、なんて?」

「まあ、とりあえずこれ見てくださいよ」

「いや、え。とりあえずで置いておいていい話じゃないんだが。……まあ、いいや」

 物凄く気になる言葉があったが、アディンに訊ねても答えが返ってくるとは思えず、仕方なくアディンが広げた図面に目をやる。

「で、何だこれは」

「ヘクスイェーガー用の新装備の設計図……というかアイデアスケッチですね」

 ヘスティオンの全身図。その全身の至る個所に何かの噴射口のようなものが追加されていた。

 その総数は十二。主に肩や脚、胸などに割り振られていた。

「なんだこれは」

「エーテルリバウンダーの噴射口ですよ」

「はあ? んなもん背中のだけで充分だろ」

「推進力としては確かにそれだけあればいいんですが、戦闘時においてはもっと細かな動きが出来る方がいいんじゃないかと思うんですよ。実際、魔女と戦ってる時そう思ったもので」

「いや、細かい動きが出来るに越したことはない。それはわかるが、本当に必要なものなのかという話だぞ」

 エリマの言うことは尤もである。

 ヘクスイェーガーの操縦法が疑似的神経接続によるもので思考をダイレクトに伝えて稼動するとはいえ、それには機体の制御術式によって可能になっているものである。

 つまり、この制御術式にない動きは再現できないと言う事だ。

 新しい機能を追加するというのは、単純に新機能の開発に手間がかかると言うだけの話ではない。その新機能を稼動させる為に制御術式を構築しなくてはならないということでもある。

 それでいて、その機能が実際に必要とされている水準よりも高すぎたり、満たなかったりするとそれは途端に無駄な機能になる。

 かつ仮に搭載に成功し、正常に動作するとしても操作の複雑化を招くのは必至だ。

「とはいえ、これがあれば随分と姿勢制御はしやすくなりますし、出力次第では回避やフェイントにも使えるんですけどね」

「それ、本当か?」

 エリマが食い付いた。

 こうなればこっちのものだ。

「勿論。まあ、やってみないとわかりませんけど、やること自体は角度を固定した≪エアロスラスター≫を噴射するようなものですし、技術的に可能かどうかの検討だけでも」

「うーむ。やってみるかあ」

 その言葉が出た瞬間、アディンの目が輝く。

「実はそれ以外もいろいろ用意したんですよ!! 見てくださいよこれ!」

「ちょ、どんだけ用意したんだお前!」

「いやあ、用意したものの大半はアルとトリアのものなんですがね。とくにアルは、その……折られるかと思いました」

 アディンはアルが設計図を持ってきた時のことを思いだして顔を青くしながら両腕をさする。

 興奮して完全にリミッターが外れたアルの怪力。忘れている訳ではないが、普段が大人しいだけに気を抜いた時に食らう事になる為、若干アディンのトラウマになっていたりする。

 実際、今この場に持ってきた設計図やアイデアスケッチなどを渡された時なども肩をがっしり掴まれて揺さぶられている。

 脳震盪で意識が飛びかけたあたりでトリアとヴィールが止めてくれたが、アディンとしてはもう少し早く止めてほしかったと思うのだった。

「お前等……なんていうか、その。お前やヴィールばかりが暴走するのかと思ってたけど、アルも大概なのか」

「自分の怪力を把握していてなお制御してないというか、できないというか……ええ。興奮すると特に」

「なんていうか、災難だな。んで、実際問題どうする。学園の機体を勝手に改造する訳にはいかないしなあ」

 学園に格納されている機体は基本的に全部学園の備品という扱いで保管されている。

 騎士科が乗る機体も、個人用の調整がされる事はあれど使用していた生徒が卒業すればそのまま次の生徒のために調整されて引き続き使用される。

 そんな機体を新技術の実験に使っていいものかというと、恐らく学園側からは許可が下りない。

 ただし。それは五体満足の機体。あるいはパーツの交換だけですぐにでも動かすことのできる機体に限ってのことだ。

「あるじゃないですか。フレームから何から何から何まで壊れて修理を待ってる機体が」

「そんな機体あるわけ……あっ。そうか。乗ってたのお前だもんな」

「まあ、最悪アストライアを改造するつもりでしたけど」

「あたし、それは流石に駄目だと思う」

 クエルチア騎士学園の格納庫に直立するヘクスイェーガー・アストライア。

 その所有者が今エリマの目の前にいる少年であるということが国王直々に発表されてから早一ヶ月。

 アディン・アハットと言う少年に関することで、エリマは驚く事をやめていた。

 エリマは広げられた設計図に目をやり、いくつかを手に取る。

「しっかし。これが実際に動くとなると……面白そうだな」

 にやり、と不敵に笑うエリマ。

 こうして学園にも話を通す事なく、修理という名目の大改造及び新技術開発がスタートした。してしまったのだ。

 無論、開発のための材料費や必要な工具の追加購入。さらには起動実験の失敗による爆発や実験場代りにしていた演習場の破壊などであっという間に学園側にバレたのは言うまでもない。



 レヴァンダは王城の書庫から持ち出したいくつかの小説を執務室のテーブルに積み重ね、執務を放棄して読み物に耽っていた。

 尤も執務といっても殆どは新しい政策の許諾や、国内各地区の代表から寄せられた嘆願書に目を通す程度のことであり、そう急がない。

 急ぎのものもあるはずだが、それに関しては補佐官が優先度の高いものをまとめてくれていたのでそれらは既に片付けてある。

「ふむ……」

 書庫にある本はあらかた目を通したと思っていたのだが、小説などは全く触れていなかった。

 だが、一度読みだすとこれが面白い。

 当然と言えば当然だろう。面白くなければ本として出回る事はないし、そもそもレヴァンダが読んでいるのは最終巻の十三巻目であり、続刊が出ると言うことはそれなりの評価は得た作品であるということだろう。

 内容としてはどこにでもあるような冒険譚。若者が神の啓示を受けて町を旅立ち、数々の冒険を繰り返しながら仲間を増やし、巨悪を倒してハッピーエンド。

 珍しくもない冒険物語ではあるが、レヴァンダは好印象を持った。素直に言えば面白いと感じた。

 読み終えて本を閉じ、本の山に重ねる。

 積み重ねた本はすべて先ほど読んでいた本と同じタイトルのものだ。

 徹夜で読み切ってしまった。全十三巻の大作を。

 おかげで瞼が重たい。

 目頭を揉み、読書の友にと用意していた紅茶を口に運ぶ。

 読書に熱中し過ぎていた為か、すっかり紅茶が冷めてしまっていた。

「失礼します」

「どうした、お前にしては珍しく慌てているようだが」

 ノックもせずに入ってきた補佐官は、表情こそ落ち着いているように見えるが呼吸が荒く、急いできたのが見て取れた。

 いつものように大量の書類を抱えたままテーブルに近づいてきた補佐官は、その書類をレヴァンダの眼の前に叩きつけた。

「お、おい。どうした」

 普段の補佐官からは考えられない行動に驚いたが、書類の一番上にあったものに目をやるとどうでもよくなった。

「クエルチア騎士学園の被害報告書……だと……?」

 その文字を見ただけで少しだけ――いや、かなり不安になった。

「それだけではありません。アストライアをただの学生の所有物にしたと陛下が宣言なされてから、抗議文が多数送りつけられて下の現場は混乱状態。王都の都市機能にも影響が出ています」

「思ったより反応が大きいな。まあ当然か。民草にとって、私の行動は暗愚な王の気まぐれのように映るのだろうからな」

「でしたら!」

「だが。決定は覆らん。それに、だ。ただの学生ではないぞ」

 学園からの報告書が上がってきたということは、と期待して書類の山を漁る。

 そこに、レヴァンダの期待したものは確かにあった。

 見つけた瞬間。レヴァンダは悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべる。

「そのただの学生からのプレゼントだ」

「これは……」

 ヘクスイェーガーの新機能開発についての報告書。報告者の名前はエリマ・ヴェイフとなっている。

 そう書かれた紙の束は、レヴァンダにとっては宝石の原石にも等しかった。

 が、それに目を通した後レヴァンダは頭痛がした。加えて胃がキリキリ痛みだした。

「……何だこれは」

「お言葉ですが陛下。それを聞きたいのはこっちです」

 開かれたページに書かれているのは機体各所に小型のエーテルリバウンダーの噴出口を設置して、旋回性能や敏捷性の向上を図るという新機能について。

 その内容についてはこうだ。

 実験を行ったが、エーテルリバウンダーの肝心要となるアンチエーテルの供給が上手くいかず試験は失敗。

 その結果、アンチエーテルが暴発してテストに使用されていたヘスティオンの両腕関節が破損。実験に使用していたヘクスイェーガー用演習場から学園の中央広場まで吹っ飛び、地面に突き刺さってしまった。

 なので実験用機材と材料費に中央広場の修繕費。あとヘスティオンの予備パーツの補充をお願いしたい。具体的にいうと五機分くらい。

「これ書いたの絶対アディン・アハットだな」

 少なくとも普通の国民では書かないような厚かましい要求だ。

 完全に報告書の形をした、限りなく無心に近い嘆願書である。

「まず五機分のパーツって何だ。ヘスティオン一機いくらすると思ってるんだあいつは。それで機材と材料費の請求額はふざけてるのか」

「家一軒建てれますね」

「ヘスティオン五機の分もも入れると豪邸が建つぞ」

 そういいつつもレヴァンダはその書類に最後まで目を通し、嘆息しながら判子を用意する。

 支援の可決。それをみた補佐官は目を見開く。

「え、陛下? 今の流れは完全に否決する流れだと思ったのですが」

「ふむ。確かにそうかもしれないが、研究とは金のかかるものだ。援助するのは当然だろう。それに、今彼等が行っている研究と実験は今後必要になってくるものだと私は踏んでいるよ」

「はあ」

「そう。今後だよ。今後。今この戦いを越えたその先に、絶対に必要になるものだからね」

 レヴァンダは冷めきった紅茶を飲み干して、先ほど読み終えた小説とは別の本を手にとった。

 タイトルは『ウィスタリア王国に自生する植物』。ようは図鑑である。

 年季が入っている本で、写真やプリント技術など存在しなかった時期に作られたものであるのか、掲載されている植物はすべて手書きのイラストだ。注釈なども手書きであり、クセが強くところどころ判別が難しい文字もある。

「陛下。そろそろ公務のほうをお願いしたいのですが」

「そんなに溜まってるのか」

「先ほども申しましたが、抗議文で現場が混乱している分陛下にもある程度の事は対応していただかなければならないので」

「むぅ。これも自分でまいた種か。……よし。もう一杯紅茶を飲んでからでいいか?」

「ええ。それで作業がはかどるならば」

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