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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第一章 学園編
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もうどうにも止まれない

 人間、生きていればいつかは自分のキャパシティを越えるような事態に直面する事がある。

 それを三人の若者は痛感していた。

 これまでアディン・アハットという少年と付き合ってきた中で、とんでもない事件に発展することはあった。

 その最たるものが先日の魔女との遭遇戦だろう。

 流石にあれ以上のことはそうそうない。そうアル達三人は思っていた。

 だが、しかし。この状況は完全に彼等三人の理解を越える状況であった。

「良く来てくれた。アディン・アハット、アル・イスナイン、トリア・サラーサ、ヴィール・アルバア」

「は、はいっ」

 王城に招かれ、なおかつ謁見の間ではなく個室で国王レヴァンダと面会しているのだ。

 この状況、緊張しない訳がない。

 どうしてこうなった。

 心当たりがありすぎる三人はどれが原因かと頭をフル回転させる。

 一方この状況においてもアディンだけは落ち着いていた。

 国王がただの学生である四人を個室に招待する。そんな話を聞いたことがない。

「そう硬くなるな……といっても無理だな。立場が逆なら私もそうなる」

 レヴァンダは笑みを浮かべながら人数分のティーセットを用意し、自らポットに熱湯を注いでいる。

「さて、と。緊張してしまっているようだから私のほうから話題を切り出そう」

 蒸らしの時間を計るための砂時計をひっくり返して、四人とテーブルをはさんで向かい合うような位置に座る。

「まずは二日前。ビルケ島周辺に出現した魔女との交戦。ご苦労。そして大義であった」

「いえ、ただ私達は必死で。運が良かったとしか」

「運も実力のうちだ。謙遜するな、アル・イスナイン。だが嘆かわしい事に、諸君らの決死の覚悟も疑っている者が多い。当然この城の中にもな」

「仕方のないことかと。私達はあくまでも学生。通常は正規の騎士が中隊ないし大隊規模で討伐する魔女を小隊規模の戦力で撃破したのですし」

 トリアはできるだけ冷静な口調でそう言って見せたが、緊張のあまり手が震えていた。

「そうだな。仕方のないことだ。だがな、私は諸君らの活躍を信じている。何よりガドル・ストールは嘘を言うような男ではないと信じているからな」

「おっさ……いえ、なんでも」

 流石に国王の前でガドルの事を『おっさん』とは呼べなかったのか、ヴィールはあわてて口を閉じた。

「第一騎士団は実力があり信用のおける人間ばかりを配置したのでな。ガドル・ストールもその一人だ」

「そんなに信用されていたのか、おっさん」

「当然。第一騎士団は有事の際は陛下の護衛を担当する騎士団だから。ちなみに第二騎士団は拠点防衛特化、第三騎士団は魔女討伐特化の騎士団」

「本当、トリア嬢はなんでも知ってるよな」

「ヴィールが知らなすぎなだけ。騎士団の番号によって役割が違うのは常識」

 とはいうが、アルも知らなかったようで目が泳いでいる。

 その様子を眺めたレヴァンダは苦笑しながら話を続ける。

「まあ諸君らの活躍に疑問をもつ人間が多い事を、私は許せんのだ。これまでの成果がない、学生には不可能だと決めつけている世論が気に入らん」

「仮にも貴方は国王でしょう。世論を否定するような発言はどうかと思いますが」

 これまで沈黙していたアディンが初めて口を開いた。言葉こそ出来るだけ丁寧にしようとしているが、ばっちり刺のある言い方であった。

 当然、他の三人は目を剥く。

 国王に対してあまりにも不遜不敬。だがそんなアディンの態度を気にした様子もなく、レヴァンダは困ったように笑う。

「全くだ。だがな。私は政治が解らぬ。学ぶ間もなく王になった、未熟者だ。私に対する世論の反応など気にするまでもなく碌なものではあるまいよ」

「そういうものですかね」

「そういうものだ。そして回りくどくなったが、本題だ」

 ごくり、と三人が息を飲む。

「アディン・アハット。アル・イスナイン。トリア・サラーサ。ヴィール・アルバア。今ここにいる四人を中心とした特殊部隊を発足。活動目的は新兵器の開発および運用。それに伴い諸君ら四人を正規の騎士として即時採用を考えている」

「ちょ、ちょっと待ってください陛下! それは流石に私達には荷が重いというか」

「前代未聞。流石に批判が多いのでは?」

「それは百も承知。だが、勅令であると言えば表向きは反論する人間はいなくなる」

「無茶苦茶やりますね、陛下」

「はっはっは。これくらい図太くないと、降って湧いた国王の立場など勤まらんよ。それで、どうする」

 どうする、と聞かれても返答に困る話である。

 騎士科に所属している彼等の目標は騎士になること。それは間違いない。

 だがしかし、実際に騎士という職業に就けるかというとそれはまた別の話になる。

 あくまでも学園の卒業は騎士になるために最低限必要な条件に過ぎず、実際に騎士となって活動するにはどこかの騎士団に所属する必要がある。

 だが騎士団にもその騎士団の特色というものがあり、それに合致しなければ騎士として採用されることはない。

 大抵はどこかの騎士団に所属できるとはいえ、どの騎士団にも所属できず傭兵として活動する者も毎年一定数は出ているほどだ。

 故に。即時騎士として採用というのは喉から手が出るほどの好条件。しかも自分たちを中心とした部隊ならば、性に合わないということもまずない。

 断る理由など、ない。むしろ今ここで二つ返事で了承してしまえばそれだけで将来は安泰だ。

「ヤだ。面倒臭い」

 だが、最初に口を開いたアディンは他の三人の想像にしない言葉を口にした。

 不敬不遜ここに極まる。

 国王が提示した超がつくほどの好条件案件を蹴ったのだ。

「そもそも、俺たちはまだ学生です。それに新設部隊と言う話ですけど、事実上新設の騎士団と同じ扱いなんでしょう。だとしたら拠点となる施設が必要なはずですが、恐らくその目途もついていない。違いますか」

「その通りだ。拠点については建造中だが、最低限の運用ができるようになるまであと一年以上はかかるな」

(一年? 拠点を作るのにそれほどかかるものか? それに最低限の運用という言葉。引っ掛かるな)

 インフラの整備や設備の搬入などを合わせても、ただの拠点にそこまでかかるものなのだろうかとアディンは疑問を抱いた。

 もちろん拠点の建設地点の地盤の状況などにも影響されるのだろうが、それにしても少々かかりすぎである。

「しかし、そうか。断るか。ハハハ。面白いな、お前たち親子は」

「? 陛下、かあさ……母に会ったことがあるんですか?」

「ああ。お前がアストライアで魔女と戦っている最中、私はお前の母ウーノ・アハットと会っていた。その時にある頼みごとしたがな、さっきのお前と一言一句同じ言葉を返されたよ」

「おいアディン!? お前親子そろってとんでもないな!」

「褒めるなよヴィール」

 褒めてない。絶対に、だ。

「ではアディン・アハット。どのような条件ならばお前は納得する?」

「? いえ、不満なんてないですよ」

 などと言って見せるアディン。先ほどの言葉とは全く逆の事を言っている。

 というか、さっき不満を言ったばかりである。

「俺たちは学生です。それも中等部。そんな俺たちが急に騎士になって、しかも自分たちが中心になって騎士団を作ったとなればそりゃあ余計なやっかみを生みます」

 思わずアル達三人はサギールの事を思い浮かべた。

「学生を特別扱いすることで陛下の信用も落ちるかもしれません。そうでなくとも、何らかの不利益を生じる可能性もある」

「ふむ。それは否定できないな」

「何より、俺たちはまだ経験が足りない。場数が足りない。周囲を黙らせるだけの戦果がない。だから、現状では陛下のお話をお受けすることはできません」

「実力不足と世間体。それさえ解消されれば問題ないのだな?」

「勿論です。なので、俺たち四人が高等部を卒業ないしそれまでに騎士団を率いるに値する戦果を得た時まで保留ということでお願いできませんか」

「く、ハハハ! 面白い。いいだろう。そもそも拠点が出来るまでも時間がある。それまでは保留だ」

 愉快そうに笑うレヴァンダ。

 ひとしきり笑うと砂時計の砂が落ち切ったのを確認し、レヴァンダは各自のカップへ紅茶を注ぐ。

「まあ飲め。味は保証するぞ」

「では、頂きます」

 アディンとアルはストレート。アルは角砂糖を三つ入れカップを口へ運ぶ。

 ヴィールは一口ストレートで飲んだ後苦そうな顔をして、角砂糖二つとミルクを入れた。どうやらヴィールは甘いほうが好みらしい。

「しかし、このような場所に呼び出してすまないな。本題は終わったのだが、ここからはあくまでも余談だ。話半分に聞いてくれ」

「はい?」

「私は国王としては未熟だ。故に決定打になる何かというものが欲しい。私はそれをお前たちに期待している」

「そんな、買被りですよ。私達はそこまで……」

「スクロールの術式を改良。生産性を高めた才女アル・イスナイン。新兵器であるプレスガンを考案したトリア・サラーサ。期待するには十分だと思うが?」

 言われてみれば、とはっとした。

 趣味でやっていた事が一大事件になったのは、アルにとってはどうでもいい事だったのか言われるまで完全に忘れていたようだ。

 一方トリアは照れ臭そうに視線をそらしながら髪をいじっていた。

「それにアディン・アハットの並みはずれた戦闘センス。それに合わせられるヴィール・アルバア。将来有望な人材を今ここで抱え込みたい。そう思うのは不自然な事か」

 自身のカップに口を付け、レヴァンダは四人のほうを見つめる。

「期待しているのだよ。君たちには。ただこれを大臣や補佐官の前で言うとなあ……」

 はあ、とため息をつく。どうしてレヴァンダがため息をついたのか、アル達はわからなかったが、アディンだけは何となく理由を察していた。

「最終的には懐刀に、というのは流石に気が早いか。とにかく。部隊結成の暁には可能な限り支援しよう。その見返りといってはなんだが……」

「陛下の要望には応える。それでいいのでしょう」

「ああ。話が早くて助かるぞ、アディン・アハット」

「出来れば、俺についてる監視。そろそろ外してもらえませんかね」

「ああ。それは無理……というより無駄だな。今お前についているのは大臣たちが身銭を切って雇った監視だ。潰せない事もないがいたちごっこになる」

「ふむ……まあ、それで納得してくれるんならそれでいいですが」

 紅茶を飲み終えたアディンはカップを受け皿に置いて立ち上がった。これで話は終わり。そういうつもりだったのだろう。

 だが、中腰くらいになったあたりで何かを思い出したのか、もう一度座り直す。

「どうした、アディン」

「いや。俺も陛下に聞きたい事があったのを思い出した」

「何だ。言ってみろ」

「アストライア、貰っていいですよね?」

 その言葉を聞いた瞬間、アルとヴィールが紅茶を吹き出した。

 トリアは幸い飲み終えた後であった為問題なかったが、レヴァンダはというと突然の事に思考が止まったのか、カップが傾き中身を全部テーブルの上にぶちまけていた。

 当のアディンはいたって真剣。本気でそんなとんでもない事を言い出していた。

「いやね。あれを整備するにしても、アストライアは国の管轄にある機体ですから鍛冶科が下手に触れなくてほったらかしになってるそうなんです。まあ、派手に壊した俺の機体のせいでもあるんですが」

「ああ。アディンのはコンバーターもリバウンダーもぶっ壊れてたっけか」

「それがどうしてアストライアをくれなどと言う事につながる?」

「そりゃあ。個人の所有物になれば個人の許可だけで修理や改良も出来ますし、何より緊急時とは言え国の管轄にある機体を勝手に持ち出した俺への罪状免除になるかな、と」

「ふむ……確かにな」

 とはいえレヴァンダとしてはアストライアが持ち出された状況も鑑みて、持ち出しと使用に関しては不問としているのだが、やはりそれでも納得しない人間がいるのも事実だ。

 何よりこの国の大臣達はアディンを必要以上に警戒している人間ばかり。とにかく問題行動があれば即座にそれを理由に潰してしまおうとする人間も決して少なくはない。

「あと、陛下のいう新設部隊に必要な人材を確保する為のエサにもなるかと」

 この時、アディンは笑みを浮かべて見せたのだが、その笑みは見た目とは裏腹に悪魔のようなものを感じさせたとアル達は後に語っている。

「アストライアがエサか。フフフ、良いだろう。面白い。では、たった今からアストライア一号機はお前の所有物だ」

(この人面白いかどうかで物事決めたんじゃないのか)

(しっ。聞こえますよ)

 とにかく、これで言質はとった。

 ものすごくいい笑顔をみせるアディンと、それに向かい合い同じくいい笑顔を見せる。

「しかし、国王相手に要求してきた人間など初めてだな」

「そう言いながら陛下、楽しそうですよね」

「そうだな。楽しいさ。常日頃から顔色をうかがって媚び諂う連中の相手をしているとな」

「お気持ち、お察ししますよ」

 今度こそとアディンは立ち上がり、一礼してから部屋を出た。

 それに続いて他の三人も同じようにレヴァンダに一礼して次々と退室していく。

「面白い。面白いな。彼等は。固定概念に縛られない新しい発想。彼等にはそれがある。そうは思わないか、ウーノ・アハット」

「……あの子、気付いてましたね」

 部屋の隅に隠れていたウーノは自身の息子と国王のやり取りの一部始終を聞いての感想を述べた。

 アディンは気付いていた。この部屋にウーノがいるということを。

 それ故に少々強気な発言をした。そういう風に見えた。

「あれでも一応礼節は弁えている子ですからね。私がいる事に気付いてなきゃ、あそこまで強気の態度はとらないでしょう」

「そうか? 私はあれが素であると思うがな」

「まあ、否定はできませんね」

「しかし、本当に親子だな。一言一句同じ拒否の言葉を聞くとは思わなかった」

 思いだし、レヴァンダは愉快そうに笑う。

「ええ。そりゃあ、私の息子ですから」


 ウィスタリア城を後にした四人の帰路は足取りが重たいものだった。

 主にアディンが国王相手にとった態度が原因であるが。

「お前、どういうつもりだよ」

「どうって?」

「ヘクスイェーガーを個人所有とか前代未聞だろ」

「今更前代未聞が一件増えたってどうってことないだろ」

 アディンの編入に始まり、スクロールの改良、新兵器の開発、学生による魔女撃破と前代未聞が立て続けに起きている以上、確かに今更といった感はある。

 が、前代未聞というひとくくりではなく、一つ一つの案件として見れば十分異常。

 今から学園に戻ってアストライアの整備を鍛冶科の生徒に頼んだ時、どんな反応をするか気になるところだ。

「それに、今後は楽しくなると思わないか。俺たち四人が中心となった特殊部隊。夢のある話じゃないか」

「確かにそれはそうだが……いや、まあ。そうだな」

 何か言い返そうとしたヴィールだが何かを諦めたようにアディンの言葉を肯定した。

「陛下直々に期待を寄せられている。これは十分に誇らしい事」

「ですね。その期待に応えられるように頑張らないと」

「まずはそうだな。高等部に入ってそこで戦果をあげる事。話はそこからだ」

 これからのクエルチア騎士学園はもっと騒がしくなる。

 この四人が起こす騒動は、学園全体を巻き込んで、揚句は国すら巻き込む事になる。

 が、今はまだその時ではない。

 けれどもきっとそれは、そう遠くない明日(みらい)の話だ。

最近書ける時間が減っててつらい

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