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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第一章 学園編
15/315

ブレーキは壊れはじめた

 すべてが終わった。

 時間にしてどれだけの時間、魔女シアニートと戦っていたのだろうか。

 絡みあった無数の使い魔に襲われ、そして一瞬でヘクスイェーガーの装甲を融解させるほどの高熱を放つ蒼炎の魔女との遭遇。

 一瞬の気の緩みが死を招く極限状態に放り込まれた彼等は、その地獄のような時間を生き抜いた。

 過程はどうあれ、彼等は魔女を倒したのだ。

 たった五機のヘクスイェーガーで。

 勿論、数的には一体の魔女を倒すのには十分な数だ。ただしそれは熟練の騎士が五人集まってでの話。

 この場にいた熟練の騎士と呼べるのはガドル一人。他の四人はクエルチア騎士学園の中等部。ただの学生だ。

 そんな状況だ。生き残れたのは奇跡といってもいいかもしれない。

 その奇跡にはいくつもの偶然が重なった。

 一つはこの場にいた学生が、他の学生と比べて非常に優秀な戦闘センスを持っていたという事。その中にアディン・アハットがいた事。

 そして何よりも大きいのがアストライアが召喚されたことだ。

 アディンと彼が呼び出したアストライアは獅子奮迅と言って差し支えのない活躍をした。

 たった一機で魔女と戦い、結果それを圧倒した。

「は、ははは……」

 思わずガドルは笑い出してしまった。

 こんなことは記憶にない。記録にない。

 ただの学生が、たった一機のヘクスイェーガーが魔女を圧倒したなど、普通ならばあり得ない。

 あり得ないことが起きたのだ。起きてしまったのだ。笑うしかない。

 だが一人だけ、これを可能にした人間をガドルは知っていた。

 たった一人。無茶苦茶をやらかす人間が、ウィスタリア王国にはいたのだ。

「まるでウーノ・ミデンだな」

 ウィスタリア王国最大の問題児にして、王国史上最強の騎士だった女性。

 ガドル自身、彼女の活躍を実際に見たことはない。そもそもガドルが騎士になった時期とウーノ・ミデンの活躍した時期にはズレがある。接点がなくとも当然だ。

 だがそんなガドルであっても彼女の活躍については何度も残された戦闘記録を読んで知っている。

 尤も、問題児としての行動もしっかりと記載されているので、戦闘センスについては尊敬に値するが騎士としては反面教師にすべきだと思っているのだが。

「ウーノ・ミデン? アディンさんが、ですか」

「そうとしか表現できん。でなければ自分は夢でも見ているか何かだ」

「なあ、おっさん。ウーノ・ミデンって誰だ?」

「……ヴィール、授業でも習った。近代史に名前がしっかり出てくる」

 ガドルは中等部の近代史に使われている教科書を見た事がある。

 それに書かれたウーノ・ミデンについての記述は、基本的には賛美するもの。純粋に功績をたたえるものだ。

 一方で彼女の問題行動――例えば命令違反だとか、上官を殴っただとか、魔女の攻撃から友軍機を守るためにその友軍機を撃っただとか、そういった事は一切書かれていなかった。

 国としては英雄的な活躍をした人物が問題行動の多い人物だった、というのは隠したいらしい。それでも正規の騎士になって過去の戦闘記録を閲覧できるようになれば、否応なく知る事になるのだが。

「ん、まあ。俺授業真面目に受けてないしー」

「威張るな。馬鹿者」

 本当に威張るところではない。

「あ」

「どうした、トリア嬢」

「プレスガン完全に壊しちゃったけど、どうしよう」

「あー……まあ、使ってみた感覚だけでも伝えればいいんじゃないかな」

 多分、エリマをはじめた鍛冶科生徒一同は貴重な試作品を損失した事で絶叫するだろうが。

 さらに言うとアディン機は行動不能の大破。アル機も手首が損失している。ついでに頭部をアディン機に吹っ飛ばされたサギール機も。

 なおかつ、魔女と対峙した全ヘクスイェーガーの装甲は表面が融解。一部は関節にも影響が出ている。

 ここまでの状況だ。整備担当が涙を流して頭を抱える姿が目に浮かぶ。

「っと、それよりアディンだ。あれだけの魔法をぶっ放したんだ。機体をまともに動かせるだけのマナが残ってるとは思えないぞ」

 事実戦闘を終えたアストライアは剣を振り抜いた姿勢のまま空中で静止している。

 浮いているということは機能を停止した訳ではなく、機体の機能は正常に稼動しているという事に他ならない。

 だが、なぜかアストライアは動こうとしない。

「……あれ、拙いんじゃない」

「トリア嬢?」

「アストライアのエーテルコンバーターが常に規格外のマナを供給し続けるのなら、一切行動せずマナが溜まり続けるこの状況。とても危険な気がする」

「!?」

「それ気がするじゃなくてかなり拙いですよ!!」

 三機のヘスティオンが動かないアストライアに接近する。

 なおも動きのないアストライア。ヴィール機が正面にまわり、操縦席のハッチを開ける。

「ヴィールさん、危ないですよ」

「外部からの解放スイッチは機体の指じゃ操作できないから仕方ないだろ」

 自機の手の平を足場にしてアストライアの胸部に飛び乗るとハッチの解放スイッチを探し、それを起動させる。

 アストライアの胸部が開き、操縦席が外気に触れる。

「おい、アディン。無事か!?」

「……」

「おい、マジかよ!」

 焦点の合わない目で前を見つめたままアディンは動かない。それどころか返事すらしない。

 気絶していた。

 拙い、とマナ残量のメーターに目をやるとどんどんチャージされていっている。

 このままアディンが目を覚まさなければ、アストライアは膨大なマナを許容できずにマナバーストを起こす。

 その際の爆発規模は、ヘスティオンが同様の現象を起こした時の比にならない事は用意に想像できた。

「やべえ。やべえぞこれは! おい、アディン。起きろ。おい!!」

 返事がない。

 こうなったら、とヴィールはアディンの頬を平手打ちする。

 一発。二発。それでも起きない。

「くそっ。駄目だ。どうやったら起きるんだこれ」

 もう一発平手打ちをお見舞いしようとした時、その手をアディンが止めた。

「なんだよ、起きてるじゃねえか」

「なんか意識飛んでた。っと、コンバーターの出力下げないと」

「もう大丈夫だな」

「ああ。すまん、手間をかけた」

 ヴィールはアディンがエーテルコンバーターの出力を下げるのを確認し、自身の機体へと戻る。

「アディン。大丈夫なの」

「ああ。問題ない。丁度いいバランスになってる。動くのも問題ない」

 ヴィール機が離れると、アストライアは剣を鞘に戻して全身の感覚を確かめるかのように軽く肩や脚を動かす。

 手を握ったり開いたりとしたあと、頷く。

「第十二班。全員無事だな」

「はい。第十二班は全員無事です。ですが機体は……」

「大破が一機。部位欠損が一機。ほか、全機装甲融解および試作型プレスガンの損失」

「その程度の被害なら上出来――いや、それ以上だな。よくぞやった。熟練騎士でもなかなかここまでの戦果は出せない」

 ガドルは素直に彼等を称賛する。

 特に複数機のエーテルコンバーターを直結させての高火力魔法を発動させるという発想はガドルにはなかった。

 若さゆえの柔軟さか、彼等四人のもつ発想力によるものか。どちらにしろ今後、対使い魔および対魔女における有用な攻撃手段になりうるだろうとガドルは考える。

 まあ、それをやるにはヘスティオンやラキシスではそういった運用を想定していない為機体の負荷が大きすぎて行動不能になる可能性すらあるが。事実、それを行った第十二班の機体は負荷によって出力低下を起こしていた。

 となれば、そういった戦術をも想定した新型機の開発というのも必要になってくる。

 が、それを考えるのはガドルの仕事ではない。

「とにかく帰還しよう。撃ち漏らしはないはずだが、他の生徒たちが心配だ」

「了解」

 と、その時エーテルセンサーが無数の反応を捉える。

 ただしそれは味方の信号を発している。規模にして大隊。

 ≪ホークアイ≫で確認して見ると、追加の外装やシールドなどを装備した決戦仕様とも言える重装備のラキシスおよびヘスティオンの混成部隊がこちらに向かってきていた。

「援軍か」

 思わずガドルは吹き出す。

 どうやってこの場所で異変があった事を知ったのかはわからないが、全てが終わった後にそれだけの戦力が来ても全てが遅い。

 何よりも、こうしてやってきた援軍が、たった五機で魔女と大量の使い魔を撃破したのだと知ったらどのような反応をするのかを想像するだけで愉快な気分になる。

「こちら第一騎士団所属、ガドル・ストール。応答を願う」

 ガドルはこの状況をどう説明しようかと苦笑する。

 本来この場にいるはずがないアストライア。学生が魔女を倒したという事実。はたしてこれらを正直に伝えたところで信じてもらえるだろうか。

 多分信じてもらえない。

 これは骨が折れそうだ、と嘆息するばかりだ。



 アディン達が魔女との戦闘を終えた翌日。鍛冶科の生徒達が格納庫で見たものは、ただの演習とは思えないほどに破損した五機の機体と、ここにいるはずのないヘクスイェーガーだった。

 そんな沈黙を破ったのは、とある少女の絶叫だった。

「……ああ? うん、え。あ、ちょ、ま……あああああああああああああ!?!?!?!?!?」

 鍛冶科の生徒たちから姐さんと慕われているエリマ・ヴェイフだった。

 エリマは目の前の光景を素直には受け入れられず頭を抱えながら叫ぶ。絶叫する。

 それもそうだろう。一応回収してきたアディン機は外見上の損傷もさることながら、内部フレームはガタガタ。エーテルコンバーターとエーテルリバウンダーを破損。この二つに関しては修理は可能だが新品に交換した方が早いレベル。

 アル機も欠損させた手首だけならまだ部位ごとの交換でよかったのだが、高熱で焼き切られた為内部機器まで損傷しており肘から下を丸ごと交換しなければならない状態。

 サギールの乗っていたヘスティオンは首が取れた際に内部の配線も傷つけたらしく、それらのつなぎ直しもしなければならない。

 そして第十二班の乗っていた機体全てに共通するのが、全身の装甲が高熱で融解しており全て交換が必要。

 揚句、トリア機が持っていたはずの試作型プレスガンは損失。

 これだけでも頭を抱えたいが、極めつけがアストライアだ。

 本来国の管理する格納庫で保管されているはずの機体が目の前にある。

 これから始まる修理作業のことだけで叫びたいほどなのに、あるべきではない機体が目の前にあるのだ。そりゃあ叫びたいではなく、叫びもする。

「姐さん、しっかりして!」

「気持ちは解りますが、落ち着いてください!」

「お前等ァ! さっさと整備始めんぞ!! まずは無傷の機体のチェックからだ。ぶっ壊れてる奴は後回しでいい。とにかく頭数そろえるぞ」

 もはややけくそであった。

 エリマの飛ばす指示に従い、鍛冶科の生徒たちが整備を始める。

 一端叫んだことで気持ちが切り替わったのか、エリマはどうしてこのような損傷状況の機体が格納庫にあるのかを、用意されたレポートの束に目を通しはじめる。

 真っ先に目に入った言葉に思わず二度見する。

 使い魔との遭遇戦。および魔女との交戦。

(それであれだけの損傷? 大なり小なり壊れてたけれど実機が全部戻ってきた事も考えれば奇跡に近いか)

 この際、やけを起こしたサギール機が使い魔の大群へと突撃し、それを阻止すべくアディン機がサギール機を攻撃した為その頭部は破壊された、と書かれていた。

 確かに、ヘクスイェーガーは疑似的に神経を接続する関係上頭部の損失はそのまま操縦者が頭部を損失したのと同等の痛みを与える。つまり、死ぬのと同等の感覚を操縦者に伝えてしまう。

 これによって脳が死んだと認識し、実際に死亡するという事態を避けるべく頭部の欠損は即座に全システムがダウンして操縦者を保護するようになっている。

 痛覚だけを遮断すればいいようなものだが、全機能を止める事によってあえて機体を落下させてその後の追撃から機体を守るという役目もある。

 意識を失ってその場で棒立ちになるよりは落下したほうが生存率が高い、ということらしい。

 エリマからすれば全システムダウンするのは致命的な機能だと思うが、それを指摘する人間がいないのも事実。学生の立場であるエリマがどうこう言えることでもないのだが。

 尤も指摘するもなにも頭部を欠損するという状況になればほぼ確実に操縦席も巻き込まれているのでその機能が役立った事などないに等しい。

「というか、だ。どうしてヘクスイェーガーの頭を飛ばせば機能が停止すると知ってたんだ」

 それについては学園で教えることはない。何せ実際に役だったという実例がないのだから教える必要性もないということでカリキュラムに含まれていない。

 エリマは整備していてたまたまその機能について知ったのだが、学生であるうちはその機能に知ることなど普通はない。

 だとすれば、アディン・アハットという少年は最初からそこがヘクスイェーガーの急所であると言う事を知っていたということになる。

 誰かから聞いたのだろう。だが、それを知っている人間となればヘクスイェーガーに関わっていた人間に限られる。

「あいつ、出自含めて何者なんだ」

「姐さん、アストライアはどうします?」

「どうするったってなあ」

 鍛冶科の生徒としては、物凄く触りたい。

 ウィスタリア王国において現存するすべてのヘクスイェーガーの直系の祖となる機体。これに興味がないといえば嘘になる。というか物凄く触りたい。いじくり回したい。

 だがこの機体は学園の所有物ではない。国の所有物だ。

 これを下手に触るとどんな事を言われるかわかったものではない。

 構造の違いなどを比較したい。内部構造の違いなども比較したい。だが、そうすることができない。

「とりあえず、現状維持。報告だけしておいて装甲の洗浄だけしておいて」

 物凄く惜しいが、仕方ないと諦め、エリマもヘスティオンのメンテナンスに向かうのだった。



 第一騎士団から指導役として出向した騎士一名と学生四名によってビルケ島周辺に出現した魔女とその使い魔は全て駆逐された。

 その知らせはすぐさま王国中に広まった。

 当然ながら疑念を持つ人間のほうが圧倒的に多く、話の内容を信じた人間ですら活躍の大半は出向してきた騎士のものであると信じて疑っていない。

 当然だろう。学生が魔女と戦って勝つなどあり得ない。それが常識というものだ。

 だがしかし。真実は小説より奇なり。

 真実を知る男、ガドル・ストールは自分の目の前で起きた事そのままを国王レヴァンダへ報告した。

「……」

 流石にレヴァンダもそう簡単には信じることができないのか、眉間を押さえた。

 謁見の間にいる大臣たちもざわついている。

「陛下。自分は……」

「いや。いい。解っている。お前は嘘など言っていないのだろう。だが、あまりにも常識外れで、理解が追い付いていないだけだ」

 アストライアを召喚したアディンが、魔女シアニートとの一騎打ちの末これを撃破。

 学生のやることではない。できることではない。

 だが、出来てしまった。

「流石はウーノ・ミデン自らが鍛えた自慢の息子、か」

「は? 今、なんと?」

「うん? なんだ。知らなかったのか。アディン・アハットはウーノ・ミデンの息子だぞ。だがまさか、送った大隊規模の戦力が到着する前に決着をつけるとはな。ははは。面白い奴だ」

 隣にいる補佐官や大臣達は目を閉じ、何かを諦めた表情をしていた。

 もはや常識などこの場には存在しない。

 常識に囚われていては、この先身が持たない。そう悟ったような顔であった。

 同時に、ガドルも悟った。

 ウーノ・ミデンの息子。それがアディン・アハットという少年を監視する理由なのだ、と。

 事実彼の行動の多くは結果として厄介事に発展している。具体的には学園の施設や備品の破壊という形で。

「親も親なら子も子、か」

 ガドルは思わずそんな事を呟いてしまう。

「しかし陛下。アディン・アハットの監視については納得できたのですが、他の三名については何故なのですか」

「トリア・サラーサの目は普通の目ではない。エーテルの流れを見る事の出来る目は、それだけで魔法戦のあり方を左右するものだ。それを悪用される訳にはいかぬのでな」

「ではヴィール・アルバアとアル・イスナインは」

「ヴィール・アルバアの場合は将来性を見越しての青田買いだ。優秀な人材には唾を付けておくに限る。だがちょっとした変化すら聞き逃さないその耳は実に興味深い。アル・イスナインに関してはお前も察しているだろう」

 ヴィールの耳について思い当たる節があった。

 まず格納庫で異音があったからとヘスティオンの装甲の破損を見抜いた事。そして戦闘中にガドルのラキシスが使用していたキャストブレードが折れる寸前にも異音に気付いていた事。

 確かに耳がいいという次元の話ではない。良すぎる。

 アル・イスナインに関しては、アディン・トリア・ヴィールの三人とまともに足並みを合わせられる唯一の人物であるという点が理由のひとつだろう。

 もう一つの理由としてあり得るのが、彼女が行ったスクロールの術式簡略化。そういった分野での才能を外部に流出しないようにとの監視だ。

「とにかく。あの四人は将来有望だ。プレスガンだったか。それを考案したのもその中の一人だっただろう」

「はい。たしかトリア・サラーサの考案したものであったかと」

「彼等のもつ発想は我々にはないものだ。ぜひとも大事にしていきたいものだ。今後も彼等の監視を頼むぞ。ガドル・ストールよ」

「はっ……え? 今後も、ですか?」

 恐る恐るガドルが聞き返すと、レヴァンダはにやりと笑った。

「ああ。今後彼等は新兵器の開発と運用を行う新規の特殊部隊として正式に騎士として採用する。その世話役としてお前を派遣する事にした。尤も、拠点の建設が間に合っておらんがな」

「は、え、ちょ。は?」

 前代未聞な事を言い出した国王に、ガドルは混乱する。思わず回りを見渡して助けを求めたが、大臣たちも同じようにパニック状態にあった。では補佐官は、というと明後日の方を向いていた。完全に現実逃避だ。

「以上だ。ああ、そうだ。明日ここへアディン・アハットら騎士科第十二班を呼んでおいてくれるか」

「は、はい……」

 もはや自分の許容できるような事ではない。

 そう思ったガドルはとりあえず考える事を放棄し、謁見の間を後にした。

ソシャゲのイベントのやりすぎて更新が遅くなった事を深くお詫びいたします。

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