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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第一章 学園編
12/315

なし崩しの初陣3

 大量の使い魔が出現した事によって、形成は魔女側の有利に一気に傾いてしまった。

 魔女シアニートは現在アディンとヴィールのヘスティオンがなんとか抑えている。が、これもアディンの機体にかけられた強化魔法≪ハードボディ≫の効果時間が終われば一気に崩れる。

 使い魔はアルの展開した≪アクアスフィア≫の弾幕によって大部分の接近を防げて入るものの、エーテルコンバーターが供給するマナよりも消費するマナのほうが多くこのままではいずれ撃てなくなる。

 そうなると撃ち漏らしを撃墜していたトリアとガドルの負担は大きくなり、抑え切れなくなるのは目に見えている。

 時間との戦い。アディン機の≪ハードボディ≫の効果時間切れが起きても、アル機のマナ切れが起きても食い破られる。どちらかが食い破られても全滅に繋がりかねない。

 そんな状況で、アルは思考を巡らせていた。

 どうすればこの状況を打破できるか。どうすれば生き残れるのか。

 勝てるのか、ではなく生き残れるのか。それがアルにとって一番重要視することである。

 今この期に及んで、戦いを始める前に逃げていればなどという考えが頭をよぎったがそれをすぐにかき消す。

 たとえ逃げていたとしても、魔女は追いかけてきただろう。炎柱があがったあの時。魔女はあの一撃ですべてを終わらせるつもりでいたはずだ。

 最初からこちらを殺すつもりだった。ならば逃げても追いかけてきてアル達を焼き殺しただろう。

(考える時間が足りないッ! 早くしないとどちらかが食い破られる)

 焦りが思考を乱す。

 乱れた思考では当然、この状況を打開する作戦など思い浮かぶわけもない。それがまた新たな焦りを呼ぶ。

 アルがそんな負のスパイラルに囚われていた時、アディンとヴィールはどうにかして魔女に一太刀浴びせようと奮戦していた。

「しつこいッ!」

 アディン機のキャストブレードが炎を纏い、それをシアニートめがけて振りおろそうとする。

 当然それをシアニートは手を伸ばし受け止めようとするが、アディンはそれを待っていたかのように≪エアロスラスター≫を噴射させ距離を取る。

「今だ! ≪フレアジャベリン≫発射ァ!」

 アディン機が後退しつつキャストブレードを振りおろして纏った炎を放つ。

 放たれた炎は≪フレアジャベリン≫となり、それは真っ直ぐシアニートに向かう。

 予想外の行動にシアニートは反応が遅れ、その直撃を受けた――ように見えた。

 ≪フレアジャベリン≫の爆発が着弾した事を知らせる。だが着弾した場所からは青い炎が伸び、攻撃そのものがその炎によって防がれた事を惨酷にも告げてきていた。

「ちっ」

「アディン、前に出過ぎだ!」

『――――――!』

 シアニートが自らの腹に両手を突っ込み、それを開く。

 瞬間。開かれた腹から無数の黒い何かが飛び出してくる。

「なっ!?」

「使い魔か!」

 魔女の腹から出現した無数の使い魔。

 それを避けるようにアディンとヴィールは下がる。

 が、それがよくなかった。

 シアニートは笑う。

 口元を大きく釣り上げて、愉快だと言わんばかりに。

「アディン!」

 ヴィール機が手を伸ばす。それに応えアディン機がその手を掴む。

 それと同時にヴィール機が出せる最大速度で一気に後退する。

 二機が手を組んだのとほぼ同時。そのタイミングでシアニートは炎を自ら放った使い魔に放つ。

 その瞬間、使い魔は次々と燃え上がり、アディン達に迫った。

 一歩遅ければその炎の直撃を受けて焼きつくされていただろう。

「悪い。助かった」

「いや、安心するのはまだだぜ」

 炎の勢いは収まらない。

 というよりも、空中に炎が残ったままになっている。

「使い魔が何か撒いた? いや、それ以外であんなことは起きないな」

 青く燃える炎。残滓程度なのだろうが、それに触れても大ダメージは避けられない。

「でかいので一気に潰すか?」

「冗談。外した時にヤバい」

 高威力魔法は総じて使い勝手が悪い。発動させるための術式構築の難易度もそうだが発動後の隙の大きさや消費するマナの量の多さがネックになる。

 もし先の使い魔の集合体に放ったような大威力の魔法を放ってしまうと、マナ不足から満足な動きができずにそのまま撃墜なんてことも十分にあり得る。

 それなりの経験を積めばそういった加減も出来てくるのだろうがアディン達第十二班はこれが初陣。しかもまともな覚悟などなく飛び込んだ戦場だ。慎重に慎重を重ねてもまだ足りない。

 一方で、アル達のほうにも変化がおきつつあった。

「アル・イスナイン。そろそろ拙いんじゃないか?」

「確かに。アル、そろそろマナ残量が」

「くっ……」

 機体のマナ残量を確認する。確かに供給が追い付いていない以上、少しずつではあるがその量は減って行く。

 現時点でアルの機体はこれ以上減らすと高度を維持できないところのぎりぎりまでマナを消耗していた。

 これ以上は、撃ち続けられない。

「すいません、ここまでです」

 ≪アクアスフィア≫が止む。

 今まで展開されていた弾幕が止まった事により、攻めあぐねいていた使い魔が一気に押し寄せる。

 プレスガンや≪メタルバレット≫だけでは対処しきれない数に、三機は後退しながら散開していく。

 この状況で孤立するのは悪手である。それは百も承知だが散開しないまま密集し、敵を集中させたほうがよっぽど危険だ。

 トリア機は自分のほうに迫る使い魔を避けながら、プレスガンを使ってマナ残量が少なく迎撃もできないアル機のフォローをする。

「くっ。キャストブレードさえあれば」

 ガドルは自身がキャストブレードを折ってしまったが故に近接戦闘が出来ない事に苛立ち歯噛みする。

 代りにラキシスの腕に内蔵された牽引用ワイヤーを射出し、それを振り回して鞭のように使って使い魔を叩き落として行く。だが、本来は武器としての使用を想定されていない以上威力はお察しだ。

「ガドルさん。これを」

「!」

 トリア機が腰に携えたキャストブレードを抜くと、それをガドル機に迫る使い魔めがけて投げつけた。

 投げつけられたキャストブレードは使い魔に突き刺さり、それを霧散させる。

 刺さっていた使い魔が消失したが為に投げられたキャストブレードはそのまま落下していく。

 すかさずそのキャストブレードを牽引用ワイヤーで捕まえると手元に引き寄せ、そのままそれを振り抜いて背後に迫った使い魔を切り裂く。

「トリア・サラーサ。いいのか?」

「こっちはプレスガンと魔法でなんとかする」

 そう言ってのけたトリアは、実際プレスガンだけで自身とアル機に迫る使い魔を捌いている。

 だがすべてを捌き切れているかというとそういう訳でもなく、使い魔が放ってくる弾丸までは凌ぎ切れずに何度か被弾している。

 それでも致命的な場所には当たらないようにうまく調整しているのは流石といえるだろう。

 とはいえプレスガンの弾丸には限りがある。その状態もいつまでも続かない。

「トリアさん、残弾は?」

「もう余裕はない。けど、≪メタルバレット≫!」

 数の少なくなったプレスガンの弾の代りに≪メタルバレット≫を放ち始める。

 プレスガンを使い狙いを定め、的確に処理していく。

「アディン・アハットとヴィールはどうなった」

 キャストブレードの柄にワイヤーを絡ませ、それを振り回すことで広範囲の使い魔を斬り裂きながら、シアニートと戦闘中の二機のほうに目をやる。

 なんとか戦えている二機だが、次々とシアニートが腹から生み出す使い魔の存在に手こずっているようだった。

「アル! もう火属性魔法は使うな! 魔女から出た使い魔、何か燃えやすいものを溜めこんでやがる。倒しても残滓が引火してそこらじゅう炎だらけだ!」

「あと電気を生み出す奴もな。あれでも引火する。おかげで近づけやしない」

 アディンとヴィールが言うように、シアニートの周囲は青い炎がガスのように広がって燃えていた。

 流石にシアニート本体が出す炎ほどの勢いはないが、それでも近づくのは危険だ。

「あっ」

 そこでアルが何かを思いついた。

「あの、皆さん。ちょっといいですか」

「何か思いついた?」

「はい。トリアさん、ガドルさん。そのまま使い魔を魔女のほうへ持っていきましょう」

「はあっ!?」

 ガドルはその提案の意図が理解できず声をあげる。

 トリアも声こそあげないが、通信機から伝わる息遣いから動揺したのがわかる。

「おい、イスナイン嬢。正気か?」

「至って正気です。アディンさん!」

「ああ。解った」

 今の流れで何がわかったというのだろうか、とその場にいる誰もが思った。

「ヴィールさんは魔女から出た使い魔を片っ端から落としてください。では、行きますよ」

 そういうとアル機が一気に加速し、シアニートのほうへと飛んでいく。

 仕方ない、と早々に諦めたトリアもアルに続く。

「ええい。ままよ!」

 ガドルも覚悟を決め、二人に続く。

 当然三人を追いかけていた使い魔もそれを追いかける。

 三つに分かれていた使い魔の群れが一つになり、巨大なうねりとなって三人に襲いかかる。

「言いたくはないが、無謀が過ぎるのではないかな」

「でもこれが確実なんです。あの炎のほうへ突っ込みます」

「……いや、もう何も言うまい」

 眼前ではシアニートが使い魔を生み出し、生み出したそばからアディンとヴィールが≪メタルバレット≫で撃墜していく。

 撃墜した際に飛び散った使い魔の残滓は未だ空中で燃える炎で引火し、新たな火種を生み出す。

 振れただけでも熔かされかねない超高温の炎目指し、三機のヘクスイェーガーが飛ぶ。

 背後からは使い魔が弾丸を放ってくるが、それを回避しながらなおも接近する。

「合図したら各機散開でお願いします」

「了解。だいたい何をするかわかった」

 速度そのまま。魔女へと向かって一直線に飛ぶそれらを、シアニートが見逃す訳がない。

 アル達のほうにシアニートが手を伸ばし、炎を放とうとする。

「させるかあああッ!」

 ヴィール機の放った≪メタルバレット≫が炎の壁の合間を抜けその手を弾き、シアニートの注意がヴィール機のほうに移る。

 その一瞬の隙に三機はシアニートの周囲に漂う炎の壁の眼前まで迫る。

「散開!」

 アルの合図とともに、三機が一斉にエーテルリバウンダーを最大稼動させ制動と共に横へと一気に飛び退いた。

 瞬間、アル達三人の全身には凄まじい痛みが走る。

 なるほど、これがアディンの感じていた痛みか、と実感したアル達はそのまま大きく弧を描きヴィールと合流する。

 一方でアル達を追っていた使い魔は止まることができず、自ら青い炎の壁へ突っ込み燃え尽きていく。

 後続の使い魔はその光景を見て制動をかけようと速度を落として行く。

 が、その後ろにアディン機が現れる。

「纏めて燃え尽きろ」

 使い魔のほうに噴射するように設定した≪エアロスラスター≫を全開にし、自分が下がらないように使うのを控えていたエーテルリバウンダーでバランスをとり、動きが鈍った使い魔をすべて炎の壁に叩きつけた。

 次々と燃え落ちていく大量の使い魔。

 さらに≪エアロスラスター≫の突風が空気中に漂っていた使い魔の残滓を吹き飛ばし、炎の壁すら消し去った。

「今だ、仕掛けろ!!」

「≪フレアジャベリン≫!」

「≪サンダーショット≫」

「≪メタルバレット≫!」

 マナ残量が十分でないアル機以外の魔法総攻撃。

 シアニートはそれらの直撃を受け、叫びを上げる。

 絶叫。耳にキンと響く不快な金属音のような何か。

「不愉快だ。黙ってろ」

 アディンがキャストブレードを両手で構え、シアニートの頭の上から振り下ろそうとする。

 が、その時に異常が起きた。

 正しくは本来あるべき状態に戻った。

「ぐっ、時間切れかよ」

 アディンを襲う全身の痛み。骨という骨が折れたのかと思うほどの激痛。

 ≪ハードボディ≫の効果が切れ、効果時間内にしてきた無茶の代償が前以上の痛みとなってアディンを襲う。

 その時できた隙を、シアニートは見逃さず腕を振ってアディン機を弾き飛ばした。

 アディンのヘスティオンの左腕が折れて宙を舞い、撥ね飛ばされた機体は小島の大地に叩きつけられる。

 ただその光景を茫然と見つめる四人。

『――――――、――――――!!」

 シアニートが吼えた。全身のいたるところに傷を負った魔女は怒りのままに吼え、自身の周囲に青い炎を撒き散らした。



 最後に感じたのは左腕をへし折られた強烈な痛み。

 いや、そのあと背中から硬い何かにぶつかった痛みがあったか。

 ぶつかった時に首も鞭打ちのような状態になった。

 その際の痛みときたら、死を覚悟したほどのものだった。

「あ?」

 朦朧とした意識。それでいて思考は驚くほどにクリアだった。

 アディンは自身の機体の状態を確認しようとするが、マナによる疑似的な神経接続が切れている。

 エーテルコンバーターも停止してしまっており、起動させようとマナを送って再起動を試みる。が、全く動かない。

 アディンの機体は魔女シアニートに殴打され吹っ飛ばされた。その際に左腕は折れたか千切れたか。

 背中を打った際にエーテルコンバーターが故障。したがってエーテルリバウンダーも使用不能。

 流石に完全に機能停止してしまった以上、ハッチも開かないだろう。

「くそっ」

 ハッチを蹴って脱出を試みる。が、エアリウム製のハッチは生身の人間が蹴破るには硬過ぎる。

 何ど蹴ってもビクともせず、むしろ脚の方が痛くなってくるほどだ。

「≪ハードボディ≫、≪フィジカルブースト≫」

 自身の能力を強化し、全身の力を使ってハッチを蹴る。

 ガン、と派手な音をたててハッチが開いた――というよりは吹っ飛んだ。

 痛む首をさすりながら操縦席から這い出す。

 機体の損傷状態は酷いものだった。

 左腕は肘から先が千切れていた。元々無茶な動きをさせてフレームにガタが来ていた以上、強烈な衝撃を受ければ折れるというのは想像できた。

 シアニートの腕は左腕を破壊した勢いのまま振り抜かれたのか、胴体が凹み、その周囲の装甲は弾けて内部機器が剥き出しになっていた。

 見るも無残、とまではいかないがそれでもヘスティオンの機能を停止するには十分だったようだ。

 直接的な原因はシアニートに貰った一撃よりも、そのあと小島に叩きつけられた事によるダメージのほうが大きいのだろうが。

 周囲の状況を確認する。

 落ちた場所は小島の森林部。叩きつけられたとはいえ、多くの木々がクッションになったのも事実。

 これが直接岸壁などに叩きつけられていたら故障ではなく大量のマナを残したままエーテルコンバーターが大破。そのままマナバーストによる大爆発のような事になっていたかもしれない。

 これが小島の岸壁ではなくちゃんとした陸地であったことも運が良かったと言える。それは間違いない。

 だがどうする。

 肝心の機体は再起動すらしない。

 森林部にいる以上は隠れる場所が多い。魔女に見つかる可能性も低いだろう。

 だがそれだけだ。

 何も状況が好転しない。これをどうするか。

 せめて使える機体でもあれば話は別だ。

「無理やりにでもこいつを動かすか?」

 エーテルコンバーターの修理さえできれば動くかもしれない。

 だがアディンはそのような知識を持ち合わせていない。

 ふと空を見上げれば、魔法を叩きこまれて傷ついたシアニートが咆哮をあげながら炎を撒き散らす。

 手負いの獣ほど凶暴になるというやつだろうか。

 もはや見境などなく周囲に撒き散らされる炎にアル達は近づくことも出来ず、魔法による攻撃もその炎によって相殺または無効化されている。

 暴走状態になったことで使い魔を使役しなくなった分相手しやすくなったとも言えるかもしれない。

 だが負傷させる前に比べて火力が上がっている。気のせいではなく、炎に接近しただけでヘスティオンの装甲表面が溶けかけている。

「何か手はないのか」

 通信装置はヘスティオンの中にあるが、全機能が停止した以上それも動かない。

 今のアディンには何もない。

 ただここで、指をくわえて見ているしかない。

「……冗談じゃない」

 思考を巡らせる。

 どうしようもない状況なのは変わらない。

 ただそれは今のアディンに魔女と戦う力がないからだ。戦う力があるならば話は変わる。

 問題はその戦う力――すなわちヘクスイェーガーがないということ。

 なければ、呼び出せばいい(・・・・・・・)

 覚悟は決まった。ならば、あとは言葉を紡ぐのみ。

「来たれ天秤の担い手!」

 あの日、母が紡いだ言葉をなぞる。

「汝、正しき怒りと破壊の権化」

 母が紡いだ言葉の意味を、その意思をなぞる。

「天秤の裁きを以て、邪悪を討ち払え」

 戦うという決意と、死なせたくないという切なる願いを込めて、蒼天に向けてその名を叫ぶ。

「アストライアアアアアアアアア!!」

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