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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第一章 学園編
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なし崩しの初陣2

 青い炎を撒き散らすそれは、有機的なフォルムを持つ女性型の何か。

 この空で出会ってはならない存在。人類不倶戴天の敵。

「魔女……」

「青い炎を纏う魔女。ならばシアニート、か」

 ガドルは目の前に現れた魔女の外見的な特徴と、その身に纏った炎から相手を特定する。

 シアニート。それが今アディン達の眼前にいる魔女に付けられた名前だ。

「おっさん。あいつのこと何か知ってるか!」

「炎を操る魔女だということくらいしか解らん。魔女と戦った人間の証言は大抵アテにならんからな」

「どういう事ですか」

「簡単な話さ。生きて帰っても喋る事ができないくらいのトラウマになってる人間が多いのさ」

 その理由は、言うまでもない。

 魔女の力は圧倒的。それでいて使い魔による物量でも押してくる。

 最初は数の優位に立っていたとしても、やがて集中力が途切れて出来た隙を突かれて撃墜される。そうして気付けば数の優位は失われ、圧倒的な物量に押しつぶされる。

 仮に生き残ったとしても、そんな絶望的な状況からの生還だ。その時の恐怖を忘れられずそのまま戦えなくなる者すらいるのは当然だろう。

 そんな状態の人間から魔女についての情報を聞くというのも、酷な話だ。

 だが結果としてそれは魔女に対する危険性を伝える一方で、正確な情報を伝えられないという問題を生んでいた。

「ガドル氏。あなたはこの状況どう見る」

「アディン・アハット?」

「俺はこの魔女を倒さないといけないと思ってる」

 真剣な声で、そう告げた。

 冗談を言うような空気でもないし、言うほど余裕のある状況でもない。

 アディンは本気で目の前にいる魔女を倒すべきだと提案しているのだ。

「私も同意見。このまま逃がしてくれるとは思えない」

 トリアも魔女――シアニートを見つめてプレスガンを構える。

 その動作に合わせてヴィール機もキャストブレードをシアニートに向ける。

「あちらさん、やる気十分だしな。イスナイン嬢。こっちのリカバリーは終わってるが、そっちはどうだ」

「問題ないです」

「だったら作戦考えてくれ。おっさんもだ!」

「わかりました」

「お、おい。お前たち! 何を勝手に……」

 ガドルの判断は変わらない。

 交戦せずにこのまま逃げる。それが最良のはずだ。

 勿論誰かが殿になって魔女シアニートの足止めをしなければ後方に待機させた生徒達と遭遇し大惨事を起こす可能性があるのだが、その殿はガドルが務めればいいとガドル本人は考えていた。

 その間に第十二班には下がってもらい、そのまま学園に帰還。この事を報告して討伐隊を派遣してもらえればいい。

 自分は倒せなくとも、確実に倒せるだけの戦力を備えた討伐隊が倒せばそれでいい。

 なのに、何故目の前のこの少年少女は戦うつもりでいるのだろう。

「お前たちはまだ学生だ。戦うのが本分ではないだろう。それに、命を賭けるのは騎士である自分の仕事だ! アル・イスナイン。お前だってそう思っているだろう!」

「はい。正直戦いたくなんてありません」

「だったら!」

「でも、戦わないと生き残れないならば戦います」

「なっ」

 ほかの三人に比べて常識的で落ち着いていると思っていたアルからの言葉にうろたえる。

「ガドルさん。助力をお願いします。私達だけでは無理です」

「アル・イスナイン……」

 協力ではなく、助力。共に闘うのではなく、あくまでもサポートが欲しい。アルはそう言った。

 完全に見誤っていた。

 何をしたかはガドルの知るところではないがアディンのように国が監視を付けているような人間でもなく、トリアやヴィールのように起こした行動がトラブルにつながるようなタイプでもない。

 どこにでもいる普通の、しいて言うならば少しばかり流され易いような印象すら抱いていた少女も、やると決めたら絶対に曲げない強い意志を持っていた。

 そしてそんな強い意志を持った少女は、他の三人同様ここで魔女を自分たちの力だけで倒す事を選択した。

 本来ストッパーとなりうるアルがこうなってはもう、誰も第十二班を止める人間はいない。

「……わかった。やれることをやる。だが、全員生きて帰る。それだけは絶対だ」

「了解です。各機、戦闘開始!! ヴィールさんは近接戦を仕掛けてください。トリアさんは相手の注意を引きつけて。アディンさんは」

 出発した時からフレームが傷んでいたアディン機は無茶をすることができない。

 そもそも痛みを感じる以上、人間というのは無意識に加減をしてしまう。

 万全の動きができるとは言えない状態のアディンに何をさせるべきか、アルは考える。

「問題ない。いくらでもやりようはある。撹乱くらいならなんとかできるさ」

「わかりました。では撹乱をお願いします」

「了解した」

 各機行動開始。

 トリア機が弾の切れたプレスガンのマガジンを取り換え、銃口をシアニートに向けると同時に発砲する。

 それが合図となったのか、シアニートは口元を釣り上げて飛んできた弾丸に手を伸ばしてその弾丸を受けた。

 だがダメージはない。それもそのはず。放たれた弾丸はシアニートの手の平の表面で制止し、威力を完全に殺がれていたのだから。

「なんだありゃ!」

 突撃を仕掛けようとしていたヴィールが目の前の光景に思わず叫ぶ。

「魔女は使い魔と特性が逆だ! プレスガンの弾丸程度の質量なら無効化してくるぞ」

「マジかよ!! ったく、今後学園では実機訓練前に魔女と使い魔について教えておくようにしてほしいね!」

「自分も同意見だ! だがキャストブレードを用いた接近戦ならば魔女にダメージを与えられる」

「なら、やっぱ突撃しかないよな!!」

 キャストブレードを構え、ヴィール機が一気に加速する。

 それを迎え撃とうとシアニートは自身の眼前に青い火球を発生させると、腕を振ってそれらを一斉に放った。

「ヴィール! 当たるなよ。それ一つが即死レベルの一撃だ」

「んなこた、おっさんに言われるまでもなく解ってらぁ!!」

 放たれた青い火球を避けつつなおも接近。が、シアニートは伸ばした手の指をくいっと曲げる。

 まるで挑発するような動作。だが圧倒的に優位な能力を持っている魔女がわざわざそんな事をするだろうか、と考えた時にヴィールは即座にその場で転進した。

「トリア嬢! 火球を撃ち落とせ!!」

「!」

 火球の軌道がおかしい。ヴィールの直感がそう叫び、トリアも火球の動きを見て異常性に気付く。

 即座にプレスガンで火球を攻撃しようとしたが、それを止めた。

「≪アクアスフィア≫」

 魔女が放つ青い炎。その温度はプレスガンの弾丸程度ならばいとも簡単に溶かしてしまうということは容易に想像できる。

 攻撃を当てたところで消滅するようなものであるとも思えない。

 ならば魔法でそれを撃ち落とすしかない。

 照準を合わせるのはプレスガンで行う。これを使った方がより正確に狙いをつけることができる。

 ≪アクアスフィア≫で生み出した水の球体を、放たれた青い火球にぶつける。

 高熱によってぶつけられた水が一瞬にして蒸発する。しかしたった一発当てただけでは火球を消すには至らず、さらに≪アクアスフィア≫を放ち、一つの火球に対して五発以上の水球を撃ちこんでやっと消滅させることに成功した。

 だが、それだけ撃ち込むには相応の時間がかかる。

 全ての火球を打ち消す事は出来ず、三発の火球がトリア機を通り過ぎる。

 明らかにトリア機を避けたような動き。この瞬間、ヴィールの予感は確信に変わる。

「イスナイン嬢、狙いはお前だ!!」

 戻ってきたヴィールがトリアの撃ち漏らしに≪アクアスフィア≫を放つ。

 火球よりも数多く出現させた水球は、さまざまな軌道を描いて火球を追う。

 それでも火球は放たれた水球の軌道を読み切ったかのような動きを見せ、ヴィールの攻撃をすべて回避。そのままアル機に迫る。

 弱そうな奴から狙う。常套手段だ。

「させるかっ! ≪ウォーターウォール≫」

 動いたのはガドルだった。

 アル機をかばうように前に陣取り、広範囲に水の壁を出現させる。

 シアニートの放った火球は水の壁に阻まれすべて消失した。が、展開した水の壁もたった三発の火球によって消滅していた。

「ぐっ、なんて威力だ」

 それ単発ではこうなることはなかっただろうが、三発同時に命中した結果薄く広く展開していた≪ウォーターウォール≫を維持できなかった。

 たったそれだけのことだが、問題は別にあった。

 ≪ウォーターウォール≫は火球によって一瞬にして蒸発。それによって発生した霧がガドルとアルの視界を奪っていた。

「二人とも、横に避けろ!」

 アディンの声に従い、アルとガドルは左右に分かれる用に動く。

 瞬間、先ほどまで二人がいた場所を右手を突きだしたシアニートが通過。

 もし二人が動いていなかったら今頃串刺しだ。

「アディンさん!」

「解ってる。≪ハードボディ≫、≪エアロスラスター≫!」

 エーテルリバウンダーを使うと機体に負荷がかかる。だからこそ推進力を機体の機能ではなく魔法である≪エアロスラスター≫に依存することで解決しようとした。が、フレームそのものが傷んでいる以上≪エアロスラスター≫の効力ですら機体にダメージを与えかねない。

 そこで先に≪ハードボディ≫を使用し、機体そのもののを強化して負荷への耐性を高める。

 これならば多少ガタのきた機体フレームであろうとも多少の負荷には耐えられるというわけだ。

「もう少し早くこの方法を思いついていれば、先の使い魔戦も楽に行えたかもしれないな」

 咄嗟の思いつきだったが案外使える。先ほどまでの全身の痛みが嘘のように引いている。

 痛みがないということは、現状この機体の状態は万全ということになる。

 それも≪ハードボディ≫の効果が切れればまた痛みがくるのだろうが、それでも全く戦えないよりは遥かにマシだ。

 アディン機は、得物を貫き損じたシアニートの背後から≪エアロスラスター≫を噴射させて急接近。その背中にキャストブレードによる一撃を与えた。

 だがその手応えに違和感を感じ、ふと母が魔女を斬った時の事を思い出した。

(あの時、たしか障壁のようなものが……まさか!)

 そのまさかである。

 キャストブレードは確かに振り抜かれ、これがヘクスイェーガーや使い魔であったならば確実に致命傷になったであろう一撃を与えたはずだ。

 だがシアニートの背には薄い障壁が張られ、斬撃のダメージを大幅に軽減していた。

 そしてその一撃によってシアニートは標的をアディンに定めた。

『――――――』

 にやり、と口元を釣り上げるシアニート。

 指を揃え右腕を薙ぐ。

 ≪エアロスラスター≫の角度を即座に変更し、一気に後退。タイミングが少し遅れ装甲が削られる。

 胸のあたりに痛みを感じる。高速で振られたシアニートの指先は鋭い刃となり、ヘスティオンの装甲に傷を付けた。

 位置的に見て、退避がもう少し遅ければ操縦席を丸ごと抉られていたところだ。

 全ての動作が文字通りの必殺。

 纏う炎も、その肉体ですらも凶器。

「これが、魔女か」

 アディンは思わず笑ってしまう。

 あまりにも圧倒的な能力差。笑ってしまう。笑わなくては、やってられない。

「ヴィール、こいつ滅茶苦茶硬い。やっぱ魔法じゃなきゃ無理だ!」

「解った! トリア嬢援護頼む。アディンは来てくれ」

「アルもトリアと一緒に援護してくれ。ガドル氏はアルの護衛を」

 アディン機とヴィール機がシアニートに向かっていく。

 先にアディン機が近接戦を仕掛ける――と見せかけ、その後ろにいるヴィール機が≪フレアジャベリン≫の発射態勢を整える。

 シアニートはアディン機の動きに注視し、自身の炎を吹き付ける。

「んのっ」

 吹きつけられた青い炎を≪エアロスラスター≫の噴き出す突風で押し返し、同時にそれを目くらましに利用する。

 アディンの意図に気付いたヴィールはそのままアディン機を追い越し、炎を避ける用に大きく回り込む。

 シアニートがヴィール機の存在に気が付いたのは、既にヴィールが≪フレアジャベリン≫を放つ寸前だった。

「ぶちかませ!」

 キャストブレードを突き出し、その切っ先から炎の槍が放たれる。

 驚愕したような表情を見せるシアニートは、その炎を口から吐き出した炎で焼きつくしてヴィールの攻撃を防ぐ。

 同時に≪フレアジャベリン≫が自身の効果により爆発を起こし、シアニートが吐き出した炎を消し飛ばす。

「炎が消えた……」

 アルはその瞬間を見逃さなかった。

 そしてすぐにある事を思いだした。

 火災などの際の消化方法の一つとして、爆発物を使うものがある。

 爆風消化といい、爆発物の爆風によって一気に消化するという方法だ。

「トリアさん! 火球を飛ばしてきたら≪フレアジャベリン≫で吹き飛ばしてください!」

「だが水属性でないと」

「いいから。≪フレアジャベリン≫なら対応できます!」

 シアニートは目の前を飛び回るアディン機とヴィール機を払いのけようと腕を振り回し、炎を周囲に撒き散らす。

 やがて自身の周囲に無数の火球を発生させ、それを周囲にばらまくように放つ。

「やってみるか」

 アルに言われた通りにトリアが≪フレアジャベリン≫を数発ほど火球めがけて放つ。

 発射されたばかりで密集していた火球に次々と炎の槍が突き刺さり、爆発を起こしシアニートの放った火球を連鎖的に消失させて行った。

「うおっ!? 何すんだトリア嬢!」

「爆発? ああ≪フレアジャベリン≫か」

 突然の爆発に驚くヴィールと、それを冷静に分析する余裕のあるアディン。

 シアニートも何が起きたのかわからないといった感じで、自身の周囲を見渡す。

 当然だろう。自分の放った火球すべてがほぼ同じタイミングで消滅したのだ。

 恐らくはこのシアニートにとっては初めての経験だ。狼狽するのは無理もない。

 が、すぐに口元を釣り上げて笑いだす。

『――――――!』

 不気味だった。

 まだ何か隠している。そんな気すらしてくる。

「トリアさん、周囲を見渡してください。何かあるかもしれません」

 アルはシアニートの様子を見て直感した。

 まだ何か隠している、と。

 その予感はまさに正しく、トリアがそれを感じ取った時には既に事は起きた後だった。

「島の影から何かくる!」

 エーテルセンサーがその異変を捉えるよりも早く、トリアがそれを察知する。

 トリア機の指さす方向にある小島の中から無数の使い魔が飛び出してくる。

 まるで孵化するかのように。あるいは蛹から一斉に羽化したかのように。

「物量でも押してきたか。≪メタルバレット≫!」

 ガドルが即座に出現した使い魔めがけて≪メタルバレット≫を放つ。

 それに続いてトリアもプレスガンで使い魔を狙い撃つ。

 が、今回の使い魔は先ほどの使い魔とは違い一直線に向かってくるのではなく、回避行動をとった上に口を大きく開くと、そこから何かを発射した。

 ガドルは咄嗟にキャストブレードで放たれた何かを斬り払ったが、その一撃は重たく、手が痺れるほどの衝撃であった。

 だが続けて放たれるそれを捌くのに魔法で防御する暇すらなく、キャストブレードで次々と払いのける。

「やめろおっさん! 音が変だ」

「何?」

 ヴィールがそういった直後にキャストブレードで受けた使い魔の攻撃。その攻撃を払った直後にキャストブレードが折れた。

 一瞬何が起きたのかと思考が止まりかけたが、咄嗟に折れた刃を掴んでそれを使い魔めがけて投げつけ、一体始末する。

「≪アクアスフィア≫!」

 ガドルの後にいて損傷もなかったアルは≪アクアスフィア≫で水球を出現させ、それを高速で撃ちだす。

 この魔法の本来の使い方といってもいい、回避困難かつ高い貫通力を持った水の弾丸が迫る使い魔に殺到する。

 もはや弾幕といって差し支えない規模の≪アクアスフィア≫を展開し、水球を発生させると即座にそれらを撃ちだしていく。

 だがそれでも、次々と湧き出る使い魔の数からすればまだ手が足りない。

 なおかつ魔法耐性を持つ使い魔に魔法攻撃で対処しているのだから、倒せるか否かはその時の当たり具合によるところが大きく、≪アクアスフィア≫を命中させた相手全てを撃破出来ている訳でもない。

 撃ち漏らした分はトリアとガドルが撃墜しているものの、それも今後数が増えてくれば難しくなる。

 数の暴力。まさにそれを味わっている状況。

 だがアルは絶望などしていなかった。

 この瞬間も思考を巡らせ、打開策を考えている。

(使い魔の群れを一掃出来るほどの魔法は……駄目。みんな余裕がない。じゃあ私が? それも無理。今撃つのをやめたらそれこそ押し込まれる)

 アディンが≪エアロスラスター≫による一撃離脱を繰り返しシアニートの注意を引き、その隙をヴィールが狙うもすんでのところでシアニートに気付かれて炎に阻まれてを繰り返している。

 トリアとガドルはアルが放った弾幕を抜けてきた使い魔の迎撃に手いっぱい。

 この状況をどうひっくり返すか。その手段を考えるには切っ掛けが、あるいは時間が不足していた。

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