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蒼天のヘクス・イェーガー  作者: 銀色オウムガイ
第一章 学園編
10/315

なし崩しの初陣1

 アディンの機体は全身のフレームが悲鳴をあげていた。

 無理もない。最初に動かした時点で、機体に搭載されているエーテルリバウンダーで出せる限界のスピードを出しっぱなしにしてフレームが軋んでいたのにも関わらず、同じ事を今度もやったのだ。

 機体からのダメージフィードバックによって、全身の骨が軋むような痛みを感じる。

 勿論、実際にアディンの身体が負傷している訳ではないが、機体のフレームはそれ相応に傷んでいると言う事に他ならない。

「そこの三人。こいつを頼む」

「あ、ああ」

 答えたのを確認し、アディンはサギールの乗ったヘスティオンを投げる。

 慌てて三機のヘスティオンがそれを受け止めに向かうが、タイミングがあわずに両腕を釣り上げられるような格好で連れられて行った。

 何とも不格好。どんな姿で自分が運ばれたかをサギールが聞けば、あのプライドの塊みたいな性格からしてまた喚き散らすこと間違いなしだ。

 また要らない恨みを買ってしまったかもしれない、と思いながらもあのままサギールの特攻を見逃すというのも寝覚めが悪い。

 ここに来る前に言った通り、機体を壊してサギールの暴走を止めた。それはいい。問題はアディンの身体――正確には身体に痛みとして伝わった機体ダメージのほうだ。

「ったく。これ動いてるのが奇跡じゃないのか」

 全身が悲鳴を上げる、とはまさにこの事ではないかと思うほどの痛みが常にアディンを襲う。

 そう。もはやこれは襲われているといっても過言ではない。

 機体の損傷や傷みが痛覚としてほぼそのままフィードバックされるというのも考えものだ、とアディンは文字通り痛感していた。

「トリア、意識はあるか」

「なんとか。プレスガンのおかげで狙いが付けやすかった」

 狙いを付けるためだけにプレスガンを使うのは正しい使い方なんだろうか。しかもその使い方をしたのが生みの親なのだからなんとも言えない。

「アル、ヴィールは」

「クラクラするけど、なんとかだ」

「まさか使い魔を魔法攻撃で倒そうとするとこれだけの出力が必要だなんて思いませんでした」

 トリア機の両側にアルとヴィールの機体がいたのには意味があった。

 使い魔の魔法耐性についてクエルチア騎士学園の生徒が学ぶのは実際に戦場に出る機会が増える高等部からになる。よって当然、この時点でアル等三人はその特性について知っているはずがない。

 だが、アディンだけはそれを知っていた。この時ばかりは母の教育に感謝した。

 サギールを救出に向かう直前、アディンはほかの三人に使い魔の魔法耐性について説明。倒すための高火力の魔法を用意してもらっていた。

 ただ、この高火力魔法を発動させるには一機だけでは不可能だった。

 理由としては目視した使い魔が大き過ぎた事。これが密集していない単独の使い魔であったのならば、一機分の攻撃魔法で十分に倒せた。

 次にヘスティオンの出力限界。こればかりはどうしようもなく、目視した敵の大きさを倒すには出力が足りていなかった。

 だが、足りないのならば足せばいい。

 そこでトリア機にアル機とヴィール機のエーテルコンバーターを直結。ヘスティオン二機を増設ジェネレーター、トリア機を発射装置とした高出力魔法の発射装置を即席で生み出したのだ。

 結果は大成功。全体を倒すには至らなかったものの、十分に効果はあった。

 その代償として三機のエーテルコンバーターは不調をきたし、リカバリー中。その影響が操縦者達には眩暈として現れていた。

「お前たち、どうして来た」

「あのバカを連れ戻しに来たんだが……ガドル氏。これはどうしたほうがいい」

「今すぐお前たちは戻れ、と言いたいがな」

 先ほどの攻撃で吹っ飛ばされた使い魔は、絡みあって生み出していた巨体の大半を失いながらも体勢を立て直しアディン達のほうへと迫る。

 痛手を与えただけに興奮しているように見える。

「逃げ切れないでしょ、あれ」

 ヴィールが苦笑しながら蠢く使い魔のほうを見つめる。

 アディン機はフレームが悲鳴を上げていて速度が出せない状態。ほかの三機も無茶をしたせいでエーテルコンバーターが不調。出力を上げることができない。

 彼等がこの場から離れるには何をするにしても機体の状態が悪い。

 ガドルもガドルでたった一機で目の前にいる巨大な使い魔を片付けられるとは思えなかった。

 仮に逃げるにしても、あの絡みあった使い魔が分離して襲ってきたら対処しきれない。

 アディン達を逃がしたとしても、自分が抑えられないのならばその後ろにいる他の生徒たちにも危険が及ぶ。

 ならば、選ぶ選択は一つ。

「第十二班。あれを蹴散らせるか」

「やるしか、ないんですよね」

 アルの声が震えている。ヴィールも笑みこそ浮かべてはいるが、緊張しているのが声から読み取れる。

 この二人の反応は真っ当な感性をもった人間のそれだ。

 この状況で落ち着いているアディンやトリアは異常だと言える。

「丁度いい。これのテストだ」

 トリアはプレスガンを構え、その照準を使い魔の大群へ向ける。

「本当は小島でも撃って威力や細かい不具合の報告をしてもらえればそれでよかったんだがな」

 まさか実際に使い魔に対して使うとは思っていなかった。

 プレスガンの銃口から弾丸が放たれた。その際、殆ど音が出なかった。

 火薬ではなく空気圧を使った武器であるが故の利点だ。流石に全くの無音というわけにはいかないが、それでも火薬を使って爆発音を響かせるよりはマシである。

 放たれた弾丸は真っ直ぐと標的に向かい飛び出した。が、目標まで届くことはなく失速。そのまま落ちて行った。

「……え?」

 拍子抜けした。まさか届かないとは思いもしなかったものだから、ヴィールは思わずそんな声を出してしまった。出てしまった。

「有効射程は100メートル程度、か」

「いやいや、トリア嬢。冷静に言ってる場合か? 貴重な遠距離攻撃手段なんだぞその武器!」

「試作品なんだ。こんなこともある」

「アディン! おまえも冷静過ぎだ!!」

「いいからお前等≪メタルバレット≫でもなんでもぶっ放せ!!」

 ガドルが吼える。緊張感の欠片もないやり取りをされては流石に我慢できなかった。

 彼自身は≪メタルバレット≫を連射し、着実に使い魔の数を減らしていく。

 だが、アディン達はというと一切攻撃しようとしない。

 攻撃の要となりうるプレスガンは有効射程100メートル程度で、未だ使い魔との距離には届かない。

 では先ほどのように複数機のエーテルコンバーターを直結させて高出力の魔法を叩きこめばどうか。それも無理だ。

 エーテルコンバーターが無事なのはアディンの機体のみではあるが、肝心のアディン機はフレームがボロボロで強烈な負荷に耐えられるかどうかは微妙。その他三機は仕様外の動作をしたせいで不調。少なくともすぐには無茶をすることができない。

 そんな状態の中、もう一度三機分連結または四機分連結したらどうなるか。

 よくてアディン機以外はエーテルコンバーターの機能停止からのエネルギー供給停止。そしてエーテルリバウンダーすら動かせなくなって墜落という可能性がある。

 最悪の場合それにアディン機の空中分解が加わる。

 では威力を抑え、確実に倒せる≪メタルバレット≫などの攻撃手段で対処するのはどうだ。

 これならば有効だ。が、問題はエーテルコンバーターのリカバリーが完了していない三機のヘスティオン。これらは魔法を使えるほどに機体にマナを送れていない。

 アディンの機体もこれ以上の負荷に耐えられるかどうかが怪しく、あまり魔法は使用したくない状態。

 つまるところ、攻撃したくても攻撃する手段がないのだ。

「何か仕掛けてくる!」

 トリアが叫ぶのにやや遅れて、今の今まで大人しく攻撃を受け続けていた使い魔がついに動き出した。

 絡みあった身体をほどき、分離した個体が超高速の弾丸となってアディン達に襲いかかる。

 各機は散開し、その攻撃を回避する。

 単調な突撃。そう見えた。

「――ッ!? みんな、そこから離れて!」

「何?」

 トリアが何かを感じた。彼女の能力を知る第十二班の面々はトリアの指示通りにその場から移動する。

 直後、避けた使い魔が自爆した。爆発した、というよりは破裂。だが飛び散った使い魔の破片は散弾となりヘクスイェーガーの装甲を抉らんとする。

「な、避けた使い魔が……」

「自爆した?」

 第十二班の機体は皆距離を置いた為、ほぼノーダメージ。とはいえ散弾である以上、多少の被弾はしていた。

 ただ一人、トリアの言葉の意味を理解することのできなかったガドルだけがその直撃を受け、大きなダメージを負う。

「ぐっ……なんて奴だ。自ら弾ける事でダメージを与えてくるなど」

 ラキシスの全身に弾けた使い魔の破片が突き刺さっている。その破片も使い魔が絶命したのに従い消滅し始め、最終的にラキシスの装甲には穿たれた無数の穴だけが残った。

「まさか、こいつらにやられたのか……いや、違うな」

 ガドルは小島の岸壁に張り付けられた無残なヘスティオンに目をやる。

 その破損状況と自身のラキシスの損傷を見くらべてみると、明らかに違う。

「おっさん。考え事は後だ!」

「トリアさん。使い魔が突撃してきたら撃ち落とせますか?」

「やってみる」

 トリア機がプレスガンを構え次の攻撃に備える。

 彼女ならば可能かもしれない。

 なぜなら、彼女の目は常人では見えないエーテルの流れが見えているのだから。

「――来た」

 そう呟くと、今度はプレスガンを細かく動かし照準を合わせて引き金を引く。

 放ったのは五発。先ほどは距離が遠過ぎて当たらなかったプレスガンの弾丸も、あちらから跳び込んでくるのならば話は別。

 何より、使い魔は思考など全くせず一直線に目標であるアディン等の機体を狙って飛来する。

 来るタイミングが判っていて、尚且つ自ら狙いやすところに飛び込んでくる的。これ以上に狙いやすい的はない。

 放たれた弾丸は吸い込まれるように、飛来した使い魔を直撃。その身体を霧散させる。

「ナイスだトリア嬢!」

「でも駄目です。このまま接近されたら確実に押し負けます」

 プレスガンでいくら飛びかかってくる使い魔を撃ちおとそうとも、結局は群の本体が残っている以上大した打撃にならない。

 やるならば≪ライトニングプレッシャー≫のように高威力を纏めて吹き飛ばされるだけの大火力が必要だ。

「なんなんだ彼女は……」

 プレスガンの考案者。ガドルはそう聞いていた。聞いてはいたが、だからといってここまで正確に当てられるものなのだろうか、と驚愕する。

 トリアの能力までは流石に聞かされていない。故に、ガドルにとってトリアは、未だ配備もままならない新兵器を使いこなす学生、という風に見えているのだ。

「ヴィールさん、リカバリー終わってますよね」

「うん? ああ、そういえば不快感はなくなったな」

「アディンさんは?」

「相変わらずいろいろと痛いが、なんとか行ける」

 トリアがとりあえずの安全を確保してくれたおかげもあって、アルは冷静になる事が出来ていた。

 そんな彼女は、現状とれる最大火力の攻撃を考え、そして結論を出した。

「では、トリアさんはそのまま相手の放った使い魔の迎撃を続行してください。私とヴィールさんは再びエーテルコンバーターを直結。もう一度高火力魔法を相手にぶつけます」

「ん? ちょっとまてイスナイン嬢。アディンはどうする」

「私達が動けなくなった時に回収する人間が必要です。アディンさんの機体のコンディションから見ても、戦闘行動は難しそうですからサポートに回ってもらいます」

「了解だ。異論はない」

「最大火力を捨てるのは惜しいけど、仕方ない」

 などとトリアは言うが、たった一機分のエーテルコンバーターが生み出すマナを使った魔法が二機分のエーテルコンバーターが生み出す膨大なマナを使った一撃に勝る事などあり得ない。

 確かにアルかヴィールの代りにアディンがいればより高威力の魔法を使えるかもしれないが、アディンの機体は自身の無茶な動かし方のせいでボロボロになっているのにこれ以上無茶はさせられない。

 アルは決して火力を捨てた訳ではない。火力は自分の機体とヴィールの機体、計二機のヘスティオンのみで十分であると判断した故の指示だった。

「それで、イスナイン嬢。どちらが魔法を撃つ?」

「より威力の高い魔法を撃てるのはヴィールさんです。お願いします」

「了解だ。それじゃあやるぜ」

 アル機がヴィール機の後に回り、両手を肩に乗せる。

 これにより装甲同士の接触部からマナを通じてのバイパスを形成。互いのエーテルコバーターを接続する。

 完全にヘスティオンの仕様外の行為であり、恐らくは誰もこんな使い方をした人間はいないだろう。

「ヴィール。まだ撃つなよ。もっと引き付けてからだ」

「そっちのほうが確実に仕留められるってか?」

「ああ。流石にさっきの≪ライトニングスマッシャー≫ほど威力は出ないだろう。トリア、相手に変わった動きは?」

「ない。ただプレスガンの残弾のほうが気になる」

 マナさえあればいくらでも撃ち放題な魔法と違い、プレスガンは実体弾を使用する。それ故に弾切れという可能性がある。

 最初から戦闘するつもりできているならば予備のマガジンを多く持ってきているのだが、あくまでも動作テストのつもりで来ているので予備のマガジンは一つだけ。

 さっきからずっと向かってくる使い魔を撃ち落とし続けている為、あらかじめ装填されていた分はもうすぐ使い切ってしまう。

「できるだけ早くお願い」

「んじゃあ、射程が長くて威力のある奴をぶちかますぞ」

 深呼吸し、自分を落ち着かせてからヴィールはキャストブレードを使い魔に向けて構える。

「食らえ。≪レイザーサイクロン≫!」

 ヴィール機が構えたキャストブレードの先端から渦巻く突風が放たれ、それが迫る使い魔のほうへと向かう。

 しかしこの突風はただの突風ではない。

 風そのものにも物理的な破壊力を持つだけでなく火と土の元素を混ぜ合わせて生成された金属の刃が紛れており、突風に巻き込まれた者を切り刻む必殺の一撃だ。

 ただでさえ強力な一撃でる≪レイザーサイクロン≫であるが、二機分のエーテルコバーターが生み出すマナを使って放たれたそれはさらに強力なものとなって使い魔の大群を粉微塵になるほどに切り刻んでいく。

「なんなんだ、この四人は」

 さっきから驚きっぱなしのガドルであるが、恐らくガドル以外の誰であってもこの状況を処理するのは不可能ではなかろうか。

 自分がなにもしなくても、次々と敵を葬ってくれるのだ。しかもそれが正規の訓練を修了した騎士ではなく、まだこれから多くの事を覚えなくてはならない中等部の学生なのだから。

 突風が過ぎ去った後には何も残らず、使い魔の痕跡すら見当たらない。

「うわっ、また眩暈が……」

「しかもさっきよりキツいです」

 三機で負荷を分割していたものを、一機分減らせばその分機体の受ける負荷は大きくなるのだ。先ほどよりも調子が悪くなるのは当たり前だろう。

「よくやったな。自分としては何も出来なくてふがいない限りだが。とにかく、ここから離れるぞ。学園に戻ってこの周辺に部隊を派遣してもらうよう進言しなくては」

「……まだ」

「何?」

 使い魔が消え、目の前の危機が去った。今こそ撤退する絶好のタイミングのはずだ。

 だが、トリアは『まだ』と言った。その言葉の意味を、ガドルは理解しかねた。

 その理由をすぐに知ることになる。

 エーテルセンサーの感度を最大にしたままだったラキシスの操縦席にアラームが響き渡る。

「トリア、方向は!?」

「ほぼ真下。全員散開して!」

 トリアの声にアディン達第十二班の面々だけでなく、ガドルも従う。

 各機がその場を離れた直後、さきほどまで彼等のいた場所を青い炎が貫く。

 眼下に広がる雲に大穴を開け、青く燃え盛る炎の柱。

「おいおいおい、なんだよあれは!」

「あの炎……まさか!」

 青い炎を見てガドルは戦慄する。

 それと同時に確信した。これが岸壁に張り付けられたヘスティオンを穿った攻撃の正体であると。

「各機、撤退を優先!」

 ガドルが叫ぶ。だが第十二班の面々はというとその命令に従うことはなかった。

「悪ぃな、おっさん。それは無理な話だ」

「だが、この攻撃は……」

 使い魔の攻撃ではない。そんなことはアディン達も理解している。

 各機のエーテルセンサーもアラームを鳴らし、危険を知らせる。

「……来る」

 雲に空いた穴から、巨大な人影が現れる。

 そして、全身から青い炎を撒き散らしながらそれは凶悪な笑みを浮かべる。

『――――――!!』

 笑い声が空に響く。

 それはアディン達にとっては絶望に等しいものであり、これから起こる命を賭けた戦いの始まりを告げるものでもあった。

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