魔王即位 ―ここが私の帰る場所―
不測の事態は予定調和
たった一つの目的を使命と胸に刻み、何より達成することを誓って彼女は旅立った。
ドラゴンに乗って、彼女だけの特別な武器を携えて。
旅の最中、彼女の前には苦難と強敵、胸に痛み……そして幾人もの友との出会いが訪れた。
目的が違っても、進む方向が同じなら共にあれる。
出会いを繰り返し、敵の屍を乗り越えていく旅に彼女は……彼女の持つ力は、強く大きく育っていった。
そうして最後には、旅を経て育てた力で彼女は最大の難事を覆す。
目的を阻み、人々を苦しめた最大の敵。魔王。
力を尽くして、仲間と協力して……それを、倒した時。
彼女の胸に、訪れたモノは。
虚無。
力では薙ぎ払えない、心の中の壁。
彼女自身にもどうしようもなかった虚ろな心を、突き崩したのは……旅の始まりから彼女を支え続けた、一人の魔王だった。
そして、今日は。
だから、今日は。
すべてが新しく、生まれ変わる日。
その日、魔族の住まう『黒闇大陸』では新たな歴史が始まろうとしていた。
魔族の歴史は魔王の歴史。
新しい歴史とは、新たな魔王の時代に他ならない。
そう、今日は新しい魔王の始まりを告げる、戴冠式が開かれる。
そんな騒がしくもめでたい日に、黒闇大陸には珍しい客が足を踏み入れた。
現在の人の世にて、『賢者』と呼ばれる男である。
「あ、おとうさーん!」
「エミリー! 元気にしてたか?」
男を呼ばうのは幼い少女。
まだ稚い魔王の客人……『賢者』の娘であり、当代の『聖女』である筈の娘。
聖女……の筈だ。何故か魔王の城に客人として滞在しているが。
小さな足をぱたぱたと動かし、少女は父親に飛びついた。
やはり幼い身……親元を遠く離れ、心細かったのかもしれない。
ぎゅっと力を入れて抱きついてくる娘を、賢者は軽々と抱え上げた。
「何か変わりはないか? 大変なことはなかったか」
「ううん、私には何も……魔王のお城は大変だったけど」
「……何があったんだ?」
魔王城で起きた変事を、賢者は知らない。
大事な娘を預けられていながら騒動に巻き込んだなどと知られては面倒になる。その思いで、関係者が賢者に対して情報を秘匿したのだから知らなくて当然だ。
不思議そうに首を傾げる父親に、聖女は誤魔化すように微笑んだ。
「あ、そうだ! あのね、お父さん」
「ん? どうした」
「私ね、紹介したい人がいるの!」
ピシッ
愛娘からは聞きたくない言葉のトップ10に入る言葉が、なんだか聞こえたような気がして賢者は固まった。その言葉は、なんだか嫌なシチュエーションを連想させる。硬直した肩が若干震えているような気がするが、純真無垢な聖女は気付かない。そういう機微を察せられるほど、彼女は育っていなかった。まだエミリーは十歳にもならないのだ。仕方がない。
「は、はは……紹介したいひと、か。エミリー? なんだか知らない間に……この大陸に来て、早速お友達が出来たんだなぁ」
何とか表面上を取り繕い、娘はまだ幼いのだから自分が考え過ぎなのだと、胸を宥める。賢者は、きっと紹介したい人という言葉に深い意味はないだろうと自分に言い聞かせた。
しかし、必死に取り繕っていた仮面は次の瞬間、霧散した。
「お初にお目にかかります、お父上殿――」
愛娘の手招きに応じて、角の向こうから身を現した者……その、姿が。
どこからどう見ても成人済みの、端正で背徳的な美青年であったが故に。
「お、おっおおおおお、お前、うちの娘とどういう関係だ!?」
例え普通にただのお友達だとしても、十歳未満の女児と二人っきりでの組み合わせとなると、何故か途端に犯罪臭が漂い出しそうな年齢層にしか見えなくって賢者は取り乱した。
まさかちょっと目を離した隙に、エミリーが変態の餌食に!? いや! いやいやいや! 大丈夫、まだ大丈夫だ! きっと自分の勘違い、考え違いに違いない! まだそんな決まった訳じゃ――
動揺する父親を前に、変態疑惑をかけられている真っ只中の成人男性は真顔で、真面目なところしかない声で重々しく言った。
「結婚を前提にお付き合いさせていただきたいと思っております」
瞬間。
言語能力とおさらばした謎の奇声を発し、賢者が変態(確定?)青年に殴りかかったのは無理もないことだった。多分。
賢者――孝君は、憤死するかと思ったと後に語った。
ちなみに後日、魔王の大岡裁きで孝君には無罪判定が下ったという。
遠く神々の住まう神聖大陸で、森の木々に紛れて一柱。
ご機嫌な顔で槌を振るうのは、少女の姿の下級女神。
頬笑みすら浮かべて、藁人形に釘を打つ。
「あー…………えぇと、失礼?」
異様な姿に、躊躇を覚えて足を止めていた青年がいる。
それでも意を決して一歩を踏み出すと、女神は青年の存在に気付いて振り返った。
「……どなた?」
「あぁ、うん、俺も自分で不審!って思うけどな? その物騒な呪いグッズは一先ず手から下そうか。俺、アンタに伝言預かって来たんだよ」
「伝言……ですか?」
「そそ。黒闇大陸に帰り着いたお二人から伝言でーす」
「黒闇大陸! ああ、そうですか……貴方は、お二人の。絵麻さんと瀧本さんのお使いの方ですか?」
「あたり。俺は死神のビスキュイ。一応確認だけど、あんたが『カナちゃん』に相違ないよな」
「はい!」
元気に、嬉しそうに女神が笑う。
笑いながら、さりげなく手に構えていた藁人形と五寸釘をそっと地面に下ろした。
足元に転がる藁人形に、不安そうな一瞥をくれながら。
死神は女神に合わせたように、明るく微笑んだ。
「そっか。あんたが絵麻の姐御に渡した藁人形な、すっごい役に立ったって――お礼を伝えてほしいって、言付かって来たんだ」
この世界の中心で天地を繋ぐ、悠久の時を見守ってきた大樹。
世界樹と呼ばれる木は、枝葉や根を通じて天の神域や冥府の獄と繋がっている。
死神達は世界樹を辿って現世と冥府を行き来しており、神聖大陸は帰り道でもあった。
それを知るやついでとばかり、飛脚代りに伝言を頼むのだから……死神が姐御と呼ぶ女は強かだ。死神が彼女の頼みを無視することなど考えもしないのだから。……いいや、強かというより死神に信頼を向けているのかもしれない。どちらにしても、死神が都合よくつかわれていることに違いはなかったが。
そして死神は、頼みを無碍にして後で露見したら怖いな、という素直な感情から飛脚の任にも甘んじた。
「姐御のお陰でブラックリスト案件の回収見込みが怪しかった魂、三つも回収できたし?」
これを持って帰ったら功績だ。もしかしたら昇給もあるかもしれない。
ビスはほくほく顔で冥府に戻る。
何があったのか――ビスキュイの上げた報告を読んだ冥府の上層部が、絵麻さんの特異性に注目を向けたこと。審議の結果、上層部満場一致で絵麻さんの傍に観察の意味も兼ねて死神の特別派遣が決定し、その派遣死神に報告を上げたビスキュイ指名で命令が下ること。
そのことを彼が知るのは、久々の故郷でのんびりしようと思った矢先……冥府に帰りついた翌々日のことだった。
魔王城に新たな王が即位する。
神という存在を信仰しない黒闇大陸の王に王冠を授けるのは、他ならぬ王自身。
自らの白い手で台座の上から王冠を持ち上げ、皆の見守る前で己が頭に自分で与える。
威風堂々。誰にも恥じず、また驕らずに。自然にあるがままで覇気を背負って高見から全てを見下ろす。
黒い髪の上こそが定められた場所なのだと誇る様に王冠が煌めいた。
黄金や銀といった貴金属を重んじる人間とは違い、魔王の頭上を飾るのはシンプル過ぎる程に装飾性の乏しい王冠。
だが大きな一つの玉石から削り出された王冠は、それ一つでも被る者の素材によって高められて充分に華美な物となっていた。
明るい髪色をしていた先代の王の頭上を飾ったのは、黒曜石の王冠だった。しかし黒髪の王に黒曜石はあまり映えない。
「瑠璃色の地球って言葉があるからな」
新しい王自身の希望により、新たな王冠は鮮やかな青に金の散る石――瑠璃から削り出された。職人の手によって精緻な彫刻が施され、透かし彫りの合間から追うの黒髪が覗く。出来栄えは、王に相応しく完璧だった。
今や王は、王自身がまるで光り輝くようだ。まだ若い為か、威厳に欠ける部分はあるが……それもこれから時が補っていくことだろう。
見栄えの良い王の姿は、天窓から差し込む光に照らされ、戴冠式に列席した者達を充分以上に感動させてなお余るほどに神々しかった。
見守る者誰もが納得の魔王ぶりだ。
しかし、ここは魔の都。
騒動と、混乱と、不測の事態は付きものである。
そして新しいは王が起とうという時に、その首を狙う不届き者の存在も。
「力こそ全て」。その掟を忠実に守る者達は、標的の隙が出来る瞬間も好むが……何より自身の存在を誇示できる機会を好む。誰の目にも明らかに、己の勝利を宣言できる瞬間を。
だからこそ、これはある意味では予想のついた展開だった。
戴冠式に列席した者達の、向こう。会場を閉ざす扉が、爆炎と共に大きな音を立てて吹っ飛んだ。相次ぐ悲鳴と怒号の中で、もうもうと白い煙が立ち上る。見れば、扉の周囲の壁諸共に大きな穴が生じていた。
明らかな何者かによる襲撃。魔王の戴冠式に即位していた者達は口々に悲鳴や怒号を響かせながら、内心で「やっぱりあると思った」と呟きを落とす。吹き飛ばされた扉から、王の佇む高みへと至る一直線の道筋を、口では叫びを上げながらも一筋の動揺もなく冷静にさかさかと避けていく。両の壁際へと退避する行動は迅速。道が開けていく様は、まるでモーセの前に道を開けていく海の如し。
本来の扉よりも一回り、否、二回りも大きく拡張されてしまった穴から、力強い足音を響かせて襲撃者が現れる。多数の兵を率いた大柄な男は、獅子を思わせる風格の持ち主だ。分厚く屈強な肉体に、額には五本の角。まるでけだものの如き鬣は血に塗られ、斑に赤く染まった下から本来の赤茶けた色を覗かせる。
獰猛な笑みは、好戦的という言葉を絵に描いたようだ。戦いの予感と強者を前にした喜びに、男は全身で震えていた。いいや、勇み立っていた。
まるで体内で炉を燃やしているかのように、体の中が熱い。男の口からは熱気が零れ、灼熱と蒸気が吐き出す息に交じった。
ギラギラと燃える目は、真っ直ぐに前を、前を……一直線に、新しい魔王を捉えて視線で刻まんばかり。弱肉強食の掟、羅刹のような戦いへの本能。乱入してきた誰とも知れぬ男は、しゃがれた声で宣戦布告を告げた。
「貴様が、貴様の如き貧弱な見目の男が魔王とは笑わせる! その座位に相応しきはこの俺、カルパッチョ様だ!! そのそっ首諸共、玉座と王冠もr………………へぶっ」
訂正:告げようとした。
告げようとしたけど、最後までは告げられなかった。
何故なら。
頭上……この広い室内の高い高い天井から。
カルパッチョと名乗った男の頭上めがけて落ちてきた……いや、飛び降りてきた者があったからだ。
その者は、身軽に、しかし確固たる存在感で。
男の広い額ごと、顔面を踏みつけた。踏みつけたまま、顔面に取り付いて全身で拘束してきた。
枯葉色の身体が、かさかさと音を立てる。
八頭身に育ったボディは手足も長く、まるで蜘蛛の様な動きでカルパッチョの動きと視界を完全に封じ込んだ。
「良くやった、藁人形……いいや、はじめ君!!」
若々しい、幼さすら残る少女の声が響いた。場違いな音に、居合わせた参列者達はきょろりと視界を巡らせた。音源は……探るまでもなく、すぐに思い至る。
全員の、視界を封じられたカルパッチョ以外の視線が広間の奥……玉座へ向けて、一斉に向けられた。八頭身の藁人形は、応じる様に右手だけをぴょこっと上げて振って、すぐにカルパッチョの拘束へと戻る。
その、藁人形はじめ君の大胆に向けられた背中に向かって。
広間の中を一直線に、一陣の風が駆け抜けた。
それは真っ直ぐ……玉座の方から、カルパッチョに向けて。
金属質な銀色の光沢が、人々の目に残滓を残す。
そして再び、若々しい女声が広間の中に力強く響いた。
「そーぉれっ ぼぐっとぉ!!」
「ぐぼぁ!?」
ぼぐっと一発。
銀光は衝撃となってカルパッチョの体を貫いた。
白い手に握られた金棒……金属バットはその表面に分厚い氷を纏い、無数の青白い刺を生やして殺傷力を上げている。
容赦のない会心の一撃が、藁人形越しにカルパッチョの顔面へとヒットした。藁人形の体を貫いて届いた氷の刺が突き刺さり、傷をつける。
攻撃のヒットした直後、軽い足音を立てて一人の女性が床へと降り立った。
まだ成熟しきっていない若い肉体を、黒い軍服の様な衣装に包んだ女性。まだ少女といっても良いような、天真爛漫な幼さの残る顔立ち。
どこからどうみても二十歳前にしか見えない彼女は……
「瀧本さんに手出ししようなんて百三十年はやーい!! 瀧本さんと闘いたければこの私、瀧本さんの私設護衛隊隊長の内藤絵麻さんの一撃を耐え抜いてからにしてもらいましょーか!」
新魔王、瀧本清春。彼の治世に宰相として名を刻むことになっているメルクリウスは、瀧本さんの斜め後方に控えながら思った。彼女のその要求には――無理がある、と。
貴女の一撃を喰らって生き延びることが前提ですか、ハードル高いですね……と。
やがて魔王を守る鉄壁の障壁として黒闇大陸に名を馳せる、一人の少女。
一撃必殺を旨とする最強の守護者であり、切り込み隊長。魔王の保持する最高戦力とまで呼ばれることになる……内藤絵麻。
彼女が異世界からの来訪者であることは、あまり知られていない。
――あの時、帰る場所を見失って途方に暮れていた私に、瀧本さんが言ってくれた。
魔王なんて面倒そうだし、統治者なんてガラじゃないし。
何より私が即位しても、こんな人間の小娘相手じゃ舐め切った猛者が殺到して騒動になって、即位どころじゃなくなるでしょうって話を前にしていたし。
だから魔王にならないかって誘いに、辞退申し上げた私。
首を横に振る私に、瀧本さんが何を感じたのかは知らない。
だけど瀧本さんは、真剣な顔で、本気の顔で私に言ってくれたんだ。
「貴女が「ただいま」と言えば、吾は「おかえり」と言おう。だから、絵麻さん。
貴女が失った場所の代わりに、というのは烏滸がましいかも知れないが……この城が貴女の新しい居場所、ということでは駄目だろうか」
その言葉が、嬉しかったから。
きっと代わりにはならないだろうけど、新しい居場所をくれるって。
私は魔王城にいて、魔王城を家にして良いんだって……瀧本さんが一緒にいてくれるって。その言葉が、凄く嬉しかったから。私のことを思いやってくれたことが、嬉しかったから。
だから私は、今でも魔王城にいる。
そんな私のことを最近、兵士さん達が『影の首領』と呼んでいるらしいんだけど……それ、瀧本さんと私、両方への不敬じゃなかろうか。
魔王の護衛部隊隊長権限で校sy……城の裏に呼び出して締めるべきかどうかが、目下のところ私の悩みらしい悩みなんだけど。でも、こんな些細なことで私の容量少ない頭の悩みスペースを占領できることは、もしかしたら幸せなことなのかもしれない。
後日。
私が魔王城残留を決意する決め手となった瀧本さんとのやりとりを聞いたメルクリウス君が、何故か両手で顔を覆ってしまった。
「それ……もしかしたら陛下からの求婚だったんじゃ…………いやでも、私の思い過ぎ……? もし万が一そんなことになったら、絵麻さんが、魔王妃になる可能性が……? うわ……」
何にそんなに思い悩んでいるのかは知らないけれど、メルクリウス君は宰相さんだし。私にはわからない難しい悩みが沢山あるんだろう。気苦労が絶えないようで、大変そうだ。
今度、そんなメルクリウス君に滋養強壮に良く効くという新鮮で活きの良いマンドラゴラを差し入れしようと思った。
……はい、という訳でこれで本作は完結に至ります!
最初のよくわからんネタから、まさかここまで至るとは……ネタはあったとはいえ、書ききれてほっとしました。最初の宣言通りの話数で終えられて安堵しております。
内容は薄っぺらですけどね! むしろなんだこれwwwって感じの話ですが、皆様に少しでも楽しんでいただけたのでしたら幸いです。
小林的に、これはコメディだったのだろうか……?とジャンルの設定間違えた感じが今更押し寄せていますけどね!
↓以下、補足
メルクリウス&エミリー
なんと驚き、エミリーはメルクリウスの亡妻の生まれ変わりだった。
エミリー本人に前世の記憶はないが、メルクリウスは一目でわかったという。
(ちなみに絵麻さんにシバかれて仮死状態のメルクリウス君を蘇生したのはエミリーちゃん)
確認も兼ねてエミリーに「もう少年の姿でいる必要はない」という言質を取ってみたところ、亡妻と交わした誓約が解けたので確実だという。
暫くはエミリーの成長に合わせて少年姿でいる気だが、将来的にはエミリーに自分のことを好きになってもらって温かい家庭(2回目)を築けたら……とか思っている。年齢差どんだけだよ。
その為、孝君にエミリーが成人するまで近付くことは許さんと敵認定されてしまった。
エミリー自身は幼くて恋とかまだよくわからないから、取敢えず父の許さない人と結婚する気はないらしい。(政略結婚前提での教育の賜物)
孝君
絵麻さんに貰った藁人形(×9)を駆使して王国の上層部をすっきり綺麗にお掃除しちゃったらしい。どうやら夜逃げではなく、自分に住みやすい環境作りに方針を固めたようだ。
勇者? 奴は王様になったようだ。何がどうなったのか継承権的には兄弟間で玉座に一番遠かった筈なのに自分が国王になるという思わぬ結末にガタブルしている勇者殿下を宥めすかしながら背後で牛耳っているらしい。
嫁との関係は良好だが、目を離した隙に現れた愛娘に近寄る特大の害虫に頭を悩ませている。
死神ビスキュイ
期待通り昇給するにはしたが、絵麻さんが御存命の限り勤務地が魔王城という異例の事態に陥ってしまう。交代要員が少ないため、中々里帰りもままならない。
たまに冥府と行き来する際には必ず絵麻さんからカナちゃんへの言伝なり荷物なりを預かるようになり、自然な流れとしてカナちゃんと仲良くなる。
……仲良くなったついでに二人で呪術グッズの開発やら研究やら妖しい方向で交流を深めていくようになり、「こいつに何かしたらあの呪物の実験体にされるかもしれない」と周囲に恐れられるようになる。
カナちゃん
今日も今日とて藁人形に釘を打つ。そんな毎日にふっと現れた日々の楽しみは日本という魂の故郷を共有する仲間との手紙でのやりとり。
そして手紙を届けてくれる死神さん。来訪を楽しみにしている内に、死神さん自体を心待ちにするようになっていたのだが……仄かな思いが育つよりも先に共同呪術研究を始めていたせいで、ビスではなく研究の場を心待ちにしているのだとうっかり勘違い。
彼女が自分の気持ちに気付く日は遠そうだ。
藁人形
今までの功績を鑑みて、ついに名前が与えられた。それは「はじめ君」。
ついでに瀧本さんがちょちょいと魔力を付与した結果、藁人形というか別のナニかに変貌を遂げる。
普段は前と変わらぬ藁人形のように見えるのだが、有事の際には人間サイズ(八頭身)に巨大化して今まで以上のフリーダムを発揮する!
もう藁人形なのか、かかしなのか。とりあえず服を着せたらそのまますぐ畑に派遣できそうな見た目はかかしそのものである。
絵麻さんの言葉にはよく従う。その内、魔王四天王の筆頭になる予定。