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魔王撲殺  作者: 小林晴幸
St'バレンティヌス杯 男の格付け決定戦
19/20

終了後のバレンタイン



 騒々しく皆の気分を高揚させたバレンタインも終わり、日付はいつしか15日。

 バレンタインの翌日、全てのイベントは終わりを迎えていた。

 昨日まるいちにちをチョコレートの為に費やした男達と、バレンタイン実行委員会の面子が各々祭りの余韻を引きずりながらも後片付けに従事する。

 そんな、ただなか。

 魔王城の中でも魔王専用の区画……城内で最も厚く警護されている、魔王の私的空間。数々の私的利用を前提とした部屋の中に、魔王が使う部屋としては比較的こじんまりとした空間があった。

 私的な会食を行う、専用の朝食室だ。

 その部屋を使うのは魔王と、魔王が指摘に招いて魔王城に宿泊した客人に限られる。今はそこに瀧本さんや絵麻さんの他に、異質なバレンタインに疲れ果てた孝君の姿があった。死神や宰相、孝君にとっては久しぶりに再会した従兄の恵伝さんも同席しているが、護衛や使用人の数は最低限に減らされている。部外者の数を削ることで、朝食室は仲間内での集まりめいている。それを証明するように、場には気心の知れた者同士の淡々とした空気があった。

「姐御ー。いま実行委員会が最終集計結果持ってきたぜ。問題がなければ正午の鐘を合図にランキング発表するってさ」

「どれどれ?」

 徹夜で集計してくれたのは、有能にして絵麻さんに忠実な実行委員会の幹部たち。

 彼ら彼女らが身を削って書き上げたリストが、いち早く魔王城の上層部メンバーの過半数が集うこの場で広げられた。

 そのリストのいちばん上で、燦然と輝く名は……


 1位 はじめ君


「どうしてこうなったの!?」

 これには流石の絵麻さんも驚きを隠せない様子で、目を擦りながら何度もリストの名前を確認する。

 だが残念なことに、この魔王城で『藁人形(あのはじめくん)』の他にはじめ君は存在しなかった。

「はじめ……? 日本人めいた名前に見えるけど、もしや?」

「孝君、勝手な期待をさせといて悪いけど、『はじめ君』っていうのは私のポケットに入っている藁人形(※自律型)のことなんだよ」

「恐怖! 勝手に動き出す呪いの藁人形!? って、え……? そんなのが魔王城一のモテ男に認定されちゃったのか!?」

「認定されちゃったんだろうね……まさに狂気の沙汰ってやつ?」

「何をどうしたら呪いの藁人形がモテモテに……」

「っていうか魔王城の野郎共、藁人形に負けたのか」

「不甲斐無いな。吾が部下共の男ぶりはその程度なのか」

 審査対象外で初めから勝負に混じっていない瀧本さんは、温い目をしているが。

 審査の対象範囲にきっちり連座しているメルクリウス君やビス、恵伝さんの立つ瀬が行方不明状態だ。それぞれがそれぞれの反応で意気消沈している。まさか藁人形に敗北を喫するとは……!

「俺としてはトップ5に絵麻ねえちゃんの名前が食い込んでることの方が気になんだけど。身内として」

「え? あ、ほんとだー。なんでみんな、私に持ってくるのかなぁ。私、女の子なのに」

「え?」

「……え? ビス? その反応はどういう意味かなー?」

 今年は2年目の開催ということもあり、去年のイベントを経験して勝手を掴んだ者達もいた。

 だがそれを抑えて上位に食い込んでいる者の内、2名が本来の評価対象者から外れているようなきがするのだが……そこは魔族なりの理由付けで、容認されていた。

 この世は弱肉強食、強さこそ正義。

 はじめ君が今年大人気だった理由は簡単だ。つい先日行われた四天王決定戦で見せつけた、他を寄せ付けぬ圧倒的な強さ……あれが、女性陣に大いに受けたのだ。あと普段と戦闘時のギャップに感じるものがあった人も……皆無とはいえな……い? ような気がしなくもない。

 絵麻さんが女性陣に人気なのも、その根底には金属バット由来の問答無用の戦闘力が下地として効果を発揮しているのも事実だ。

 やはり魔族の女性には、強い殿方が大きく評価されるらしい。

 ……強さも備えているが、それとは別に、今年はちょっぴり姑息な手段でチョコレートの数を稼いだ男もこの場にはいたが。誰とはいわない、メリクリウス君だ。少年姿を常とする、合法ショタのメリクリウス君。彼は……限定的な若さを有する殿方を愛する女性たちに人気だった。前年のバレンタインでチョコレートをくれたお姉さま方の多くはメリクリウス君の実務能力や資質、人格を置いておいて外見的な要素に強く惹かれた方々ばかりであったらしい。それを踏まえて今年は半日は少年姿、もう半日は青年姿で好意的な女性の幅を膨らませることに成功していた。成果は男の格付け決定戦で4位という輝かしい功績に現れている。

 御年、数百歳。齢を重ねても大人気ない部分は残っているらしい。


 それぞれが思い思いに楽しんだり、騒いだり。

 イベントの余韻は翌日にまで尾を引いた。

 誰も彼もが前日の記憶をたどり、その話題で持ちきりだ。

 そんな中で、1人だけイベントへの参加を制限されいていた魔王はしょげていた。

「皆、楽しそうで結構なことだ……所詮、吾は対象外」

「瀧本さん、すねないでよ」

 いじける姿は妙に幼く見えて、これには絵麻さんも苦笑してしまう。

 絵麻さんは可哀想な魔王に、ちゃんと救済を用意している良い子の実行委員長であった。

「瀧本さん、孝君、あとついでに普段のお礼でメリクリウス君」

 3人の男を自分の側まで招き寄せ、絵麻さんは3つの箱を取り出した。

「これは、昨日のイベントとは別ね。だって今日はもう15日だもの。……格付けとか、ポイントとか、そういうのとは別ってことで、純粋に受け取ってほしいな」

 照れたように、恥ずかしそうに。

 見た目には違いの判らない3つの箱が男達に示される。


 手渡しでは、ない。

 とんとんとん、とテーブルの上に絵麻さんは等間隔で箱を安置した。


「さあ、勇気のある人から早い者勝ちでどうぞ。どれでも好きなのを取って良いよ☆」

「絵麻さん、とってもイイ笑顔だな……?」

「ねえちゃん怖い」

「不穏なものを感じるのは気のせい……ではなさそうですね」

 並ぶ箱を、慈愛の微笑みで示す絵麻さん。

 

 箱の中身は、それぞれ違うチョコレート。

 1つは絵麻さんが単独で作った――はじめ君の形状をしたチョコレート(実物大)。

 1つは絵麻さんがはじめ君に手伝ってもらいながら、一緒に作ったチョコレート。

 そして最後の1つは、はじめ君が単独で作ったチョコレート。

 

 誰がどれに当たったのかは……言わぬが花というものだろうか。

 





 がりっ

「うぐ……っな、中から五寸釘が――!?」

「あ、それはじめ君が作ったやつだわ」


 がりっ

「ぐぅっこ、こっちの中にも五寸釘が……っ」

「――違う! そのチョコ動いてるぞ!?」

「な……っ!!?」

「あ。ごめーん、どこで紛れ込んだんだろ……お菓子作りの最中に事故ってチョコにはじめ君が落っこちたんだよね。それチョコレートじゃなくってチョココーティングされたはじめ君だわ。本物のチョコレートはこっち」

「な、なんてことを――! 事故にしたって酷すぎる!」


 もぐもぐ

「このチョコは……少なくとも五寸釘は入ってない、と。……造形がなんとなく呪われそうなデザインなのに目を瞑れば、普通のチョコレート……?」

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