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魔王撲殺  作者: 小林晴幸
St'バレンティヌス杯 男の格付け決定戦
15/20

ポイント制のバレンタイン

 時は現代、ところは異世界。

 魔族の支配地域『黒闇大陸』に聳え立つ、魔王城は魔王の執務室にて。

「よっし、それじゃあ今年も企画会議から行こう」

 そう言って、撲殺鬼の二つ名で恐れられる少女は、はち切れんばかりの笑顔を浮かべた。

 全力で楽しんでいる。そんな感想が思わず浮かんでしまうイイ笑顔である。 

 明らかに、何かを企んでいる顔だった。

 そしてそれがどんな企みなのか、この場に知らない者はいない。


 昨年の事である。

 この世界の暦で新年明けてすぐの頃合いに、絵麻さんは魔王城を開催地として一つの企画(イベント)を打ち立てた。

 それが――『St'バレンティヌス杯 男の格付け決定戦』(略してバレンタイン)の始まりであった。

「私もこの手のイベントは大好きなの。だって(元)女子高生だもん☆彡」

 ……とは、企画を出した当人の言だ。確かに彼女は元の世界にいた頃は女子高生であったし、卒業を前に異世界へと渡ってしまったので行方不明で失踪扱いになっていようと籍はまだ元々通っていた高校に残されている可能性もある。そういう意味では卒業していないので今でも『女子高生』であると言えるだろう。

 だがしかし、彼女が企画提案したイベントは『女子高生』というふわふわキラキラした肩書とはあまり関係のない行事であった。

 絵麻さんは魔王城に勤める魔族の皆さんにバレンタインというイベントについてこう説明した。


 ――曰く、

「バレンタインっていうのは男の格付けチェックの日!! 女性が各々今までの振る舞いを鑑みて『イイね!』と思った男に、この日の為に特別に誂えた『チョコレート』っていうお菓子を渡す日だ!」

 解釈が既に恋愛とかけ離れている気がするのは何故だろうか。

 しかし内容的には(あなが)ち間違いでもないような気がしてくるから不思議である。

 少なくとも、日本のバレンタインにそういう側面があることは否めない。

「女の子からどれだけの数チョコを貰ったか!? その数で男の箔が決まるといっても過言じゃない!」

「絵麻さん? 絵麻さん!? そこまで言い切ってしまうのか、そなたは!」

 メガホン片手に、イベント告知の為に設けられた説明会の場で、イベントの実行責任者である絵麻さんは、はっきりとそう断言した。

 イベントの主旨が完全に恋愛とは関係なくなってしまった瞬間である。

 男の面子と沽券にかけて……野郎どもの矜持にかけて。

 男共が無心にチョコを求める行事が爆誕した。

 自尊心と闘争心の高い魔族の男性陣のこと、そこまで煽られまくっては本気でチョコを求めずにいられない。本来のイベントの意味を欠片も知ることなく、彼らはバレンタインという修羅の日に飛び込むことを心に決めた。

 みなさん、これは恋愛イベントなんですよ~?

 今更そうは言えない、きりきりと張り詰めた空気が漂う。

 純然たる戦闘能力だけで勝敗の決まらないイベントは魔族には珍しく、だからこそ余計に男たちの闘争心が掻き立てられた。バレンタインに掻き立てていいものかは不明だが、掻き立てられた。

 最早これは、(オス)のプライドを賭けた闘いだ。

 他の奴には絶対に負けぬと、不退転の決意で男たちは絵麻さんのイベント説明に耳を傾けた。

「えー……本来は義理チョコだの友チョコだのあるんだけど、採点基準が付けづらいんでこの場でのバレンタインはポイント制で開催する!」

「ポイント制!? 本当にバレンタインなのか、それは……」

 合いの手を入れる様に、魔王の驚愕に満ちた呟きが落ちる。

 しかしメガホンで喋る絵麻さんとは違い、脇で呟いているだけの瀧本さんの言葉は誰の耳にも入らなかった。しっかり叫びでもしなければ、湧き立つ野郎どもの野次に紛れて消えてしまうのだ。

「女性が一人につき配れるチョコの数はあらかじめ指定します。ちなみに集計は男共に聞いても見栄でくだらない意地を張る展開が予想されるので、女性陣にチョコ配った相手を記入用紙に書いてもらう方法で集計するから」

 日本のバレンタインを知っている瀧本さんを盛大に戸惑わせながら、絵麻さんの説明は続いた。

 今回は男の格付けをより正確に測る為、どうやら細かくルールを決めてきたようだ。

 チョコには複数種類があり……種類によって、ポイントが違うという。

 大きな表に書き表されたチョコとポイントの図を、絵麻さんは丁寧に説明した。


 ・義理チョコ(1p) 1人につき10人にまで配布可能

 ・感謝チョコ(3p) 1人につき5人にまで配布可能

 ・友チョコ  (5p) 1人につき3人にまで配布可能


「そして本命チョコ――本気でリスペクトする、他の誰にも代えがたい相手に贈るオンリーワンのチョコよ。そのポイントは………………50p!」

 他のチョコを大きく離すポイントの大きさに、会場中がどよっとざわめいた。

 本来の本命チョコってそういうものじゃないんだが……思っていても、もう瀧本さんに口を挟める空気はない。

「だけど本命チョコはオンリーワンのチョコだから! 受け取る側も、1人からしか受け取ってはいけないこととする!」

 絵麻さんのその宣言に、イベントの説明を受けていた魔族男性側から一斉にブーイングが!

 女性陣の方は本気、オンリーワンなどの言葉から何か恋愛色めいたものを勘も鋭く察したのか、絵麻さんの宣言に好意的な反応を示していたが……高得点チョコは一個しかもらえないというルールに男性陣は不満たらたらだ。

 しかしその不満もすぐに封殺された。


  どんっ


 絵麻さんが、講壇の床に思いっきり金属バットを振り下したから。

「私の提案に、何かご不満が?」

「「「「「いえ、なにも……」」」」」

 天下無双の凶悪即死効果を有した魔王殺し……孝君の金属バット。

 数々の戦場を共にし、その問答無用の力を骨身にしみてよく知る戦士たちは、顔を引き攣らせて黙り込んだ。

 


 こうして一部のルールを恐怖で順守させながら、異世界初のバレンタインは開催された。

 不特定多数の者をびくびくと怯えさせながらも目新しいイベントとして概ね好意的にバレンタインは受け入れられ……そして男共の価値が露骨に女性の辛口視点で審査されて、栄光と敗北の明暗をくっきり表面化させた。

 一部の者は己の所業を省みて深く反省し、一部の者は物理的な抗議運動に出て……イベント実行委員会のモノにぼこぼこにされ。

 そして一部の圧倒的支持を集めた栄光の勝者は、女性陣から寄せられた温かな応援に涙した。

 

 大きな盛り上がりを見せた、バレンタイン。

 魔王城で開催された一年目のそれは、成功と言って過言ではなかった。


 最終的には女性も男性もそれぞれ喜んで楽しんでいた。

 そうして、イベント終了後に熱いメッセージが寄せられたのである。

 ――楽しかったから来年も開催してほしい、と。


 そのご要望にお応えして、絵麻さんは今年もやってやろうと張り切っていた。


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