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申し訳ありませんが、チャラ男は範疇外なのです!!

作者: ひとみ あやね

この作品は、莉衣とカイキの二人の視点でかかれています。念のため。

〔SIDE.真崎莉衣〕


「りーな。おはよ~」

「ちっ。……おはようございます」

朝からヘラヘラと軽薄な笑みを向けてくるのは、クラスメイトの光宮ひかりみやカイキ。名前からしてチャラそうだが、実際チャラい。自他共に認めるチャラ男である。

しつこいようだが、大事なことなのでもう一度言う。光宮カイキは『チャラ男』だ!!

「ねえ、今舌打ちしたでしょ? 酷いなぁ~」

「しましたよ。大して親しくもない私に挨拶なんてしないでくださいよ、それに私の名前は『莉衣』です。何故『な』をつける? 何故真ん中を間延びさせる?」

「俺は気に入っているんだけどなぁ。昔近所に住んでいた猫が『りいな』だったんだ。そのに似て懐いてくれないけど、可愛いなぁって」

「人を猫扱いしないでください。それに、そろそろ離れてくれません? 近いです」

ピッタリと寄り添う光宮がいい加減鬱陶しい。それに、女の子達の視線が痛い。

光宮は、学校中の人気者。私にはどこがいいのかわからないが。

茶色く染めた髪の前髪は目にかかるほど長く、ヘアピンで止めている。そんな事だったら、切ればいいのに。

甘いマスクに、甘い声。背も高く、特にスポーツをしていないのに、体は細身ながらしっかり筋肉がついている……らしい(女子の恋話コイバナ情報)。

そして! そして!!

私が一番嫌いなのは、左耳だけに付けた連ピアス! 見る度にイラッと来る。


……まあ、見た目だけならかっこいいと私も思う。

しかし、チャラ男だけあって、コロコロと彼女が替わる。私の知る限り、最短記録は二週間。この点はすごく不快だ。今までの彼女達が不憫でならない。


まぁ、以上のデータから私は光宮コイツが大っ嫌いである。

……なのに。何故こうなった。


今、私が光宮の標的ターゲットにされている。

ことの発端は、1ヶ月ほど前。何気なく奴がやっていなかった宿題を教えてあげた、それだけが原因でつきまとわれ始めた

「ねぇ、りーな。放課後、駅前のドーナツ屋にいこうよ」

「嫌です。神前こうざきさんとでもいってくださいよ、お似合いですから」

神前聖架さんはクラスのマドンナ。清楚なお嬢様って感じで、どうやら本気で光宮を狙っているらしい。

私達の通う早来はやき高校が誇る、三年連続ミス・早来の受賞者でもある。


「私のこと、呼んだ?」


突如現れた神前さんに、スペースを空ける。

「いいじゃない。三人で行こうよ、ドーナツ屋」

「御冗談を。私は行きません。お二人で楽しんで来てください」

あ、ニンマリ笑った。こうなることを見越していたんだろう。

「だって。二人で行きましょう」

「う、うん。あ、セイカちゃん教室まで一緒に行こうか」

「本当!? 嬉しい」

……彼女が『清楚なお嬢様』っていう認識は、改めよう。

まぁいい。うまくいった。

光宮はチャラ男であるが故に、女の子に甘えられると断れない。つまり、私にくっついてくる時に他の女の子が近づいてくれば、私は解放される。


神前さん万々歳!


足早に、教室へ向かった。背後にいちゃつく声を聞きながら。



「まーちゃーん。今日もご機嫌悪いねぇ~」

「……ああ。おはよ、夏海」

またまた厄介な人物の登場。でも、ま、こっちは友達だけど。

私の唯一の友達である。いや、他にもいるけれど、放課後だべったりしているのは夏海だけだ。

「光宮といい、変な徒名やめてくれない?」

まーちゃんの『まー』は私の名字である、『真崎』からとったらしい。

「えー、じゃあ『稲妻の武道姫』の方がいい?」

やめろ、そっちの方が嫌だ!! 

「なんで~? かっこいいよぅ」

嫌に決まっているでしょうが! そんなの空手部の男子が勝手につけただけだし!

「いいじゃない~、まーちゃんって大きくはないけど、早さを生かした攻撃が強いんでしょ? 空手部の紅一点らしい徒名だよ~」

確かに、私は158センチしかないし、スピードがあるのは認める。

「……だから、今あんたを砂塵に返すのも簡単だけどね」

睨み付けると、慌てて手を振る夏海。

「お、怒らないでよ。ね、穏やかにいこう平和にっ、ぎゃぁあ!」

持てる限りの眼力を使って睨み付けると、大袈裟に悲鳴をあげる夏海。

「違うよっ、今の悲鳴はこれから大惨事が起こるからだよっ!」

は? なんか嫌な予感がするんだけど。


「俺もいいと思うよ、りーな。『稲妻の武道姫』って徒名」


恐る恐る首を後ろに向けると、案の定光宮の姿。と、神前さん……。

最悪、なんでこのタイミング!?

「これから『りーな』じゃなくて、『稲妻の武道姫』って呼ぼうか? あ、でもちょっと長いな……」

『稲妻の武道姫』『稲妻の武道姫』と連発するものだから、遂に私はキレた。


「テメーは黙ってろやぁあああ!!」


腕ひしぎ十字固めをきめる。たまらず悲鳴をあげる光宮。

「ギッ、ギブ! 折れる、腕が折れる!!」

そこで、やっと我に返る。

「あっ、ごめんなさい……。つい……。って、もしかして私のこと嫌いになってくれました!?」

期待に目を輝かせたのも束の間、

「残ねーん、強い君も好きだよ」

ちっ。今日二度目の舌打ち、炸裂。まだ朝なのに。

「カイキ君、この子といると危険だよ。離れよう?」

嫉妬デスカ。そうです、私は空手部でも一目置かれる程凶暴(?)です。離れて二度と近づかないでください。

「夏海。行くよ。どうせ、宿題してないでしょ。教えてあげる」

くるりと踵を返す私の背後から、「ツンデレ? 可愛い~」と声が聞こえてきた。

本当に塵にしたい。自分が殺気立ったのを感じた。



「……こっち見てるんじゃねぇよ」

授業中。斜め後ろから、確実に視線が私に向けられている。

そう、光宮の席から、である。

禿頭の数学教師が名簿を取りに職員室に帰っている隙に、睨みつけた。

「今日も嫌われてるな、カイキ」

「うるさいよ、健翔けんと

茶化すのは、光宮の隣席の貝原健翔君。同じ空手部で、私の幼馴染みでもある。

「健翔、私は光宮を好きにはならないよ。むしろ、健翔みたいな強い男がいい」

因みに、これで健翔が変に誤解することはない。気心が知れすぎているからか。

あ、この会話は他の女子には聞こえていない。クラス全員が騒いでいたので。念のため。

「えっ!? 健翔、りーなは渡さないよ!」

「少なくとも、莉衣にはその気は無いぞ。そして昔から、軽薄なのは嫌いな奴だ」

「俺は軽薄なんかじゃないよ! それに、『莉衣には』ってことは健翔にはその気が──」


「なーに騒いでんだ!!」


ぎゃぁ、数学教師が戻ってきた。

「高校三年生だからいい、大いに青春を謳歌しろ! だが、授業中はやめろ」

禿ているが、この先生は意外に生徒に理解がある。でもなんか、台詞が大昔の青春ドラマみたい……。

「……莉衣。部活が終わったら、待っていてくれ」

健翔に後ろから囁かれ、軽く頷いた。



そして、部活後。……厄介な状況になっている。

健翔は顧問に呼ばれ、遅くなり。ただただ待ち続けていると、自称光宮カイキファンクラブ会員の三人組に目を付けられた。

といっても、それを知ったのは、

「ねぇ、あなたってD組の真崎莉衣よね? ちょっとお話、いいかしら」

「……? いいです、けど」

とのやり取りがあり、会話が始まってからだ。

そもそも私は、興味のないヒトの名前と顔を覚えていない。クラスメイトぐらいなら、ギリギリ覚えているが。

だから、分からなかったのだ。


「あなたみたいなのが、カイキ様の隣りにいてもいいなんて思っているの?」

「そうよ、話し掛けているのもただの同情なのに! 真崎さんなんて、地味で平凡なだけが取り柄でしょ!?」


こんな人たちだなんて。

だから、私。あんな奴に気はないんだってば!!

「……私、素っ気なく接してますよ?」

「よくそんな事言えたものね!」

金切り声が、空気を切り裂いた。 

「今朝だって、カイキ様の腕に絡みついていたクセに!!」

か、絡みつくぅ!? そんな事するわけ……あ、もしかして。


腕ひしぎ、十字固め、のこと?


あああ、あれは違う違う!!

確かにそう見えたかもしれないけど! 見てたんなら、私の叫び声も聞こえたでしょうが!!

「しかも、カイキ様のことを『光宮』だなんて! 無礼にも程があるわ!」 

クラスメイトをなんと呼ぼうが、勝手でしょうが!!


……ああ、もう、面倒臭くなってきた。

男子だったら回し蹴りをお見舞いして、それで終わり。でも、女子にはやりにくく……。

「あの。もう、帰ってください」

途端に口を閉ざす、女子達。勝手に納得してくれたなのだと思いこみ、言い募る。

「私は光宮が嫌い。あなた達は好き。それでいいじゃないですか?」

その場を歩き去ろうとすると、後ろから、ガツンッッ!! 衝撃が襲いかかった。 

「あなたが、悪いのよ。カイキ様のことを、嫌いだなんて言うから……!」

倒れ込んで女子達に目を遣ると、一人の女の子がモップを握り締めて息を荒くしていた。

あれで殴られたのだ。まさかそこまでするつもりはなかったのだろう、他の二人は目を丸め、固まっていた。


よろよろと立ち上がり、女の子を睨む。

「あなた……こんな事をしても、光宮は喜びません、よ……」

固い意志を浮かべていた瞳が、動揺に揺れる。


「こんな事をしても、光宮は不快になるだけ!!!」


それだけ叫ぶと、バランスを倒して倒れる。脳がグラグラとゆれているようで、意識を保のもキツい。


「俺の代弁をしてくれて、嬉しいな。……大丈夫!? りーな」


誰かが後ろから抱き留めてくれて、首を少し動かす。

抱き留めてくれたのは、光宮だった。抵抗なんて、している余裕はない。不本意ながら、大人しく身を任せる。

「何故ここに!? カイキ様……!」

「健翔に頼まれたんだ。今日は待ち合わせは無理だから、迎えにいってくれって。……少し前から、全部見てた」

私は瞼を閉じていたけれど、きっと彼女達は顔面蒼白になっているんだろう。

ギュッと、腕に力が入る。

「俺の好きな人、こんな事にして。血まで流させて。……先生には黙っておいてあげる。だから、二度と話しかけないで、彼女にも近づかないで」

ああ、後頭部がヌルヌルしているのは、血なのか。

光宮の声を聞いたのを最後に、意識が消える。







「気付いた? りーな」

見えるのは、白い天井。上半身を起こせば、これまた白いベッドに寝ていたようだ。

光宮はベッド脇の丸椅子に座っていた。

「保健室。俺が運んできた」

「頭から血が出ていたから、止血して包帯を巻いておいたわ。一応、放課後に病院に寄りなさい」

保健室の先生が、親切にしてくれたようだ。デスクで書類作業をしている先生に礼を言おうと、顔を向ける。 

〈お姫様抱っこだったわよ。羨ましいわぁ、真崎さん〉


唇の動きだけで伝えられ、顔が真っ赤になる。

「さて。私、職員室に用があるの。留守番、宜しくね」

……気を使ってくれたのだろうか。私的には、使わないで欲しい。

先生の姿が消えると、徐にベッド回りのカーテンを閉める光宮。

「あの、……光宮?」

声は震えていたけれど、ちゃんと伝えなきゃいけない。




「ごめんなさい、光宮さん!」




「──は?」

「は? って……。だって、私のせいで……」

そっちかよ……と呟く光宮。何がそっち?

「私のせいで、光宮はきっと引かれちゃう……。光宮のアイアンディティが失われちゃいますよっ!!」

「この際、アイアンディティ……というか、『来る者拒まず、去る者追わず』はもう捨てる」

え? 捨てるの? いや、チャラ男は嫌いなので捨てて欲しいのですが。


「俺、もう、りーなだけが好きなんだ」


すきって、なに? ああ、隙? そうだね、空手やってる癖に後ろの気配に気付かないくらいだからね。

……え?

「莉衣」

初めて本名を呼ばれ、ビクリと体が震える。そして、震えたのはそのせいだけじゃない。


近い! いくら何でも、近すぎる!!


ベッドに腰掛けた光宮が私の手に掌を重ね、顔をずいと近づける。





「俺と、付き合ってくれない?」




ハイ? あの、何で?

「莉衣……。俺のこと、嫌い?」

今までなら、「嫌い」と即答だった筈なのに。なんでだろう。

「嫌い、じゃないです。チャラ男じゃ無くなれば」

「だったら、今までの彼女。全員忘れるよ!」

付き合うとは言ってねぇぇええ!!!!!!

ていうか、忘れるの大変なんじゃね!? 今まで何人いたんだよ!!

「ほ、保留で……お願いします」

真剣そうに見えても、このチャラ男の『好き』にどれだけの信憑性があるか、分かったもんじゃない。

「保留かぁ……。うん、君と付き合える用に頑張るよ!」

は、はぁ……。

キラキライケメンスマイルを向けられ、たじたじとなる私。

……なんか、波乱の予感。










〔SIDE.光宮カイキ〕


放課後、病院に行くりーなについて行っている。無理やりついて来たにほぼ等しいが。

「りーな、手。繋いでいい?」

「ダメです。繋ぐわけないでしょうが」

「つれないなー」

イラついたように俺を見上げる仕草さえ可愛いと思えるんだから、相当病んでいるというか。

無意識だろうが、俺に『来る者拒まず、去る者追わず』というチャラ男体質を改善させたのは、りーなだ。

「ていうかサラッと流しちゃいましたけど、あの女の子たち、どうなりました?」

「二度と、許すことはないよ」

笑顔で軽く言ったつもりだったのに、りーなは「ひ、光宮、怖いです」と一歩退く。

雰囲気だろうか、そんなことが出来るのはりーなや健翔だけだと思っていた。

「あれ? 神前さんは?」

「断っちゃった。重要な用事があるって言って」

「重要って……。何も無いでしょう?」

思わず、華奢な肩を抱き寄せる。ビクリと震えた身体が何か仕掛けてきそうで、怖い。

「超重要なこと、あったじゃん! あ、頭突きとか無しだよ。怪我が酷くなるよ」

「……分かりました、頭突きも内股狩りもしません。ですから、離してください」

「やーだ、離さないよ」

「……離せつってんだろ」

ヤバいな……。俺相手には敬語のりーなが言葉を荒くすると、どんな行動をするか……。今顔が歪むのは嫌だ。

「じゃあ、2つ選択肢をあげる! 俺の彼女になるか、敬語をやめるか、どっちがいい? どちらか選んだら、離してあげるね」

「一つしかないでしょ。敬語をやめま……止める」

恨めしげに睨むりーなを離す。顔をしかめながら、どうしようもなく赤くなっているのが可愛い。

「ほら、病院着いたよ?」

「待合室で、待っていて」



結局、診察は四十分もかからず終わった。一週間程で包帯はとれるらしい。



「今日もりーな、可愛かったなー」

ベッドに寝転んで、そんなことを呟く。

寝る前に、彼女の事を考える。毎晩毎晩。もはや習慣だ。


俺が今狙っているのは、決して懐かない猫みたいな子だ。

昔から、俺の見た目だけで寄ってくる女たちに告られる→特に断る理由もないから付き合う→「何か違う」「私のことなんて、何とも思っていないのよね?」でフられる、をエンドレスで繰り返していた。

自分から告白したのに自分からフる、そんな女子たちの心情が理解できなくて、同じことを何度も何度も……。

それで、気付いた。


本当に人を「好き」だと思ったことなんて、無いんじゃないのかと。

いや、多分実際そうだ。でも、だからこそりーなに惹かれた。

キッカケは1ヶ月ほど前。数学の宿題をし忘れていた俺は、テンパって健翔に教えてもらった。

ただ、不幸だったのは健翔が大のつく数学嫌いだった事だ。人が良い為、必死に教えてくれるのだが。

「間に合わないよー、数学教師宿題に関すると怖いよー!」

「ギャーギャー五月蝿い!」

一喝されて身がすくむ。見れば、斜め前のりーなが睨んでいた。

「こちとら読書してんだよ、静かにしやがれ」

「莉衣、はしたないぞ。そう言えば、お前数学得意だよな? 教えてくれ!」

「何で? 健翔はともかく、光宮に教える義理はない」

最初はつれなかったりーなだが、二人して頼み込むと渋々教えてくれた。

「ほら、ここを代入するの。ね、解けた」

意外に面倒見が良いのか、分かりやすく教えてくれたりーなに微笑む。今までの女の子たちのように、彼女も顔を赤らめると思っていた。

──けど。りーなは素っ気なく「私、読書に戻るから」と言い残して前を向いてしまった。

それで、最初は面白いな、としか思っていなかった。

でも、彼女を観察するようになると。

和菓子が好きなこと。面倒見が良いこと。運動神経が良くて、強いこと。愛想は無いけど、クラスメイトの夏海ちゃんや健翔と喋るとき見せる笑顔は綺麗なこと……。

まぁ、好きになってしまったワケだ。初めての感情だった。


「ふふ……りーな、照れてた……!」

つい口元が緩んで、ベッドの上をゴロゴロする。思い浮かべるのは、夕焼けに照らされた帰り道。

……うん、そろそろ寝よう。これ以上妄想してると、眠れなくなる。

最後に、健翔に聞き出したりーなのメアドにメールを送り、瞼を瞑る。



「りーなっ! おはよーっ!」

「……朝っぱらから、テンション高いね。それよりも、昨日のメールはなんだ」

わざわざ画面を見せなくていいよ、覚えてるから。

『りーな、今度の休みに遊園地行かない? あ、デートって言った方がいいかな? 返事、待ってるよ~♪』


「待ってるよ~じゃねぇよ。あと、絶対行かないから」

「えー、今なら期間限定のお化け屋敷をやってるよ~?」

正直、あまり効果は期待していなかったのだけど。

「え!? 本当!? 行く、行かせて!」

意外な反応が返ってきた。お化け屋敷好き?

「楽しみ~。あ、その話受けた」

……大丈夫かな、俺じゃなくてお化け屋敷を見ていない?




「りーな」

待ちに待った休日が来た。

「あ、光宮……。おはよう。ごめん、私朝が弱いから……あんまり構ってあげられないよ?」

「俺は犬じゃないよ。それより、私服も可愛いね~」

「……お世辞、要らない」

ヘラッと笑う。いや、実際可愛い。

水色と白ストライプのシャツワンピに、白いガーディアン。決して派手ではなくむしろ地味だけと゛、似合っている。


電車に乗り、目的地に向かう。

りーなはひたすらに、窓の外を眺めていた。たまに船をこいで、はっと目を覚ましている。

うん、分かる分かる。電車の揺れって気持ちいいよね~。

そんな呑気なことを考えていると、肩に重みが掛かってきた。驚いて目をやると、りーなが俺の肩に頭を預けて、寝落ちしていた。ポニーテールの長い髪が背中にかかる。

「……随分、信用してくれちゃって」

寝顔に悪戯したくなるが、自制心をフル活用して耐える。ナニコレ可愛いキスぐらいしたい。

……ま、幸せな時間はすぐ終わるわけで。

十分もかからず、駅に着いてしまう。泣く泣く、りーなを起こした。

「りーな、起きて。着いたよ」

「んー、もう? って、えええぇぇえ!?」

叫び声を漏らすりーなの口を、慌てて塞ぐ。目を白黒させていたりーなだが、そのうち状況を理解したらしく「……ごめん」と呟いた。

「ほら、早く。降りよう? 他のお客さん、みてるよ」

「う、うん……」

そそくさと電車を降りれば、遊園地はもう目の前だ。


「ご、ごめんね。肩貸して貰って」

「ううん。可愛いかった~」

視線を逸らすりーな。そんな彼女の手首を掴んで、入園口に引っ張っていく。

さぁ、楽しい遊園地に出発!



「ななな何ですか、ここ……」

「え? 何ですかって、お化け屋敷」

ビビりすぎじゃない? りーな、行きたがってたじゃん。

確かに、洋風の屋敷はおどろおどろしい雰囲気で怖い。時々、悲鳴が聞こえてくるし。お化け屋敷って言うより、幽霊屋敷だ。

「どうする? やめる?」

「は、入る……」

最初こそビビりながらもいつも通りの態度だったりーなだが、幽霊役の人達が脅かしにくると、……俺にとって嬉しい事態が起きた。

「いやぁっ!! 来ないでっ!」

俺の腕にしがみつくようにしていた。おいていかれたらかなわない、という思いからだろうか。何にせよ、幸せだ。

「ど、どうしたの? ホラー、好きじゃないの?」

「怖い話は好きだけど、実際に体験するのは嫌!! きゃぁぁああ!」

今度はスピーカーから流れてきた、クスクスという笑い声に悲鳴をあげていた。どこかにセンサーがあったのだろうか。

いやあ、いつも凛としているりーなに、こんな一面があったとは。右腕に柔らかい暖かさを感じて、思わず頬が緩んでしまう。

結局、お化け屋敷がどんな内容だったか、覚えていない。





「はい、スポーツドリンク。飲んで」

無言でスポーツドリンクを飲むりーな。ビビりすぎてバテてしまい、木陰のベンチに寝転がっている。

「ああ、恥ずかしい。みっともないとこ見せちゃった……。あの行動も恥ずかしい……」

「ん? 俺は大歓迎だよ?」

「……あんたって、意外と優しいよね」

なんだろ、今ならいける気がする。りーなの態度が柔らかくなってきている。


「……もう一度、言ってもいい? ──俺の、彼女になって」

「は!?」

ガバリ、身を起こすりーな。

「あれ、本気だったの!? 私、てっきり軽く言ったものだと……」

「本気、だよ?」

顔を真っ赤にしたりーなに、顔を近づける。

「YES? NO? どっち?」

「~~~~!!! イ、……YES!」

!!!!

「え!? 何で!? いいの!?」

「……う。そっちが言ったんじゃない。それに私、今まであなたの上辺だけしか見ていなかったんだって、気付いたの」

チャラくて軽薄で、考えなしだと思っていたけれど、優しいところもあるし助けてくれたし……とりーなは語る。

「うん、前半部分結構酷い。まぁ、ウチは両親が不仲で、唯一の支えが姉だったから。寂しくて女の子の告白は断らなくて、こんなことになった」

りーなは目を見開いて聞いていた。誉められた事じゃ無いし、健翔にさえ話していない秘密だ。

「……そっ、か。もっと早く言ってくれれば、相談に乗ったのに……」

他人事だというのに、りーなは瞳を潤ましている。ああ、優しい子だな。

「これからは、私も光宮を支えるよ。彼女だから、ね?」

「……ありがとう。キスしてもいい?」

駄目だと笑ったりーなを、人目をはばからず抱き寄せる。柔らかくて、暖かくて気持ちよかった。

「これからは、莉衣って呼んで?」

「うん、勿論だよ。莉衣、俺のこともカイキって言って?」

カイキ、と呟いた莉衣を囲む腕に益々力を入れる。



ああ、やっぱり。情け深くて可愛くて、凛として強い莉衣が俺は大好きだ。




「大好きだよ、莉衣」















〈直後談〉


カイキが遊園地から帰った直後となります。


☆★☆

「カイキ、あんたまた彼女できた?」

呆れたように問うて来たのは、光宮ユキノ。大学三年の俺の姉である。

「あー、わかる? 大丈夫だよ、姉貴。今度の子は俺から告白した」

「は!? あんたから告白した? ちょっと、どんな子よ? 会わせなさいよ!」

シャツの襟をつかんで、揺さぶらないでくれ。痛い。かなり。

「……姉貴と会わせたら、怖いことになる」

「武闘派? 武闘派なの!? 会わせなさい! 語り合いたい!!」

ユキノも独学ではあるが、かなり強い。ガキの頃、何度姉のゲンコで痣をつくったか……。

「あら、莉衣ちゃんって言うのね。よし、メール送信完了」

「おい!? なに勝手に他人のケータイいじってんだ!」

怖えぇぇぇ!!!

「何を!? 何を語り合うんだ!?」

女の秘密だと笑うユキノ。ああ、近いうちに莉衣の尻に敷かれることになりそうだ。

まぁ、それでも構わない。俺は、莉衣が大好きだから。


「ふふっ……。カイキの弱点、教えまくってやるわ……」


……ごめん、やっぱり胃が痛い。

☆★☆



お粗末様でした!



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