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Ep26

「な……に……」

意識した途端に痛みがさらに増し、その場に倒れ込む俺。

ま、まさか相手を見ないで後ろ向きに剣を突き刺してくるなんて……。

いや、いつもの俺ならそのくらい予測してたはずだ。

なのに、そんなこともさっきの俺には想像できなかったのか……


だが、今更後悔してももう遅い。

柚香は振り向くと、剣を俺に刺したままやっと口を開く。

「この剣を抜けばあなたは出血で死ぬわ。……ふふふ、楽しみ……」

そう言って剣を引き抜こうとした柚香の手が急に止まる。

既に死を覚悟していた俺は、朦朧とした意識の中で柚香の方を見る。


「か、影人くん。ごめんなさい。私は光司くんに続いてあなたまでも殺してしまう……」

本来の柚香の人格が、瀕死の俺を見たからなのか、一時的に体の支配権を取り戻していた。

だが、暴走後の人格の干渉も強いらしく、その声はその言葉の中身以上に苦しそうであった。俺は、自分の痛みだけでなく、柚香が苦しんでいるという事実に耐えられなくなり、ついに意識を失う。


そんな中、最後に。

また暴走状態に入ろうとする直前、柚香が発した言葉が聞こえたような気がした。

「わたし、影人くんに……」

泣きながら言った一言。

「助けてほしかったです」


刹那。

黒い霧のようなものが勢いよく現れ、俺の身体から溢れ出ていく。

再び暴走状態に戻っていた柚香は何が起きているのか分からないと言ったように、しばらくその場に立ち止まっていたが、俺が立ち上がると、俺の身体に刺さっていた剣を、思いっきり引き抜いた。


だが。

俺の腹部に空いた傷口からは、最初、若干の血が垂れ落ちたものの、それ以降は出血なんて起きない。

そして、引き抜いた剣でもう一回、今度は俺を頭の先からまっすぐ振り下ろそうとした柚香の身体が、剣を振り上げたところでぴたりと固まる。

だが、今回は別に本来の柚香の自我がその体を取り戻したわけではない。

暴走状態のまま、その動きが停止したのだ。


俺は動かない柚香にゆっくりと近づき、黒いオーラを纏った手で理事長に渡されていた装置を柚香の頭部に付ける。

そのまま柚香に装置を当て続ける。

するとその装置はゆっくりと赤みを帯びて光っていき、柚香の身体から放たれる赤いオーラも徐々に消えていった。


ドサッとその場に倒れる柚香。

俺は柚香の身体を受け止め、薄く目を開けた柚香に声をかける。

「大丈夫か……柚香」

「か、影人くん…………?」

震える声で柚香が返事をする。

が、俺も柚香も疲れているので、とりあえずその場に座って、落ち着いてから話し始めた。


「そういえば影人くん。わたし、あの時のこと若干覚えているんですけど、わたしの身体、動きが止まったような気がしたんですけど、あれは何ですか? それに、その黒いのは?」

そう言って、俺が自分の回りに纏う黒い霧の方を見る柚香。

「あぁ、これはな……。『影子(えいし)固定』っていう俺の能力なんだ。この黒いのは発動できるっていう目印みたいなものかな」

「能力? ついに影人さんも能力を?」

「まぁ、そうみたいだな。使い方は確かに思い出すって感じだったよ」

「その『影子固定』っていうのは文字通り影を動かなくするっていう?」

「そんなもんだな。影をその場に固定することで、対象となった物体は一切の身動きが取れなくなる。それが俺の能力。この傷の血を止めたのも、流れる血液の影を固定。そして固定された血で、斬られた血管の端から端までを繋げて疑似的に血液の通り道を作ったんだ」

「すごいじゃないですか。そんな能力があれば影人さんは最強ですよ?」

「あぁ、そうかもしれないんだが、残念ながらな。これ、いつでも使えるってわけじゃないっぽいんだ」

「どういうことですか?」

「俺もよく分かんないんだけど、きっとさっきは発動条件を満たしたんだろうな」

「その能力が発動したのってわたしが助けてって言った後ですよね? それなら誰かを助けるときにだけ使える能力だとか?」

「ははっ。そうかもな。でも……いつも使えないってのは不便だよなぁ……」

「そうかもしれないですけど。私は好きですよ? 誰かを助けるためだけの力……」

そう言って俯く柚香。

だが、俺は彼女にかける言葉をすぐには見つけられなかった。

幼い頃から人を傷つけるための力をその身に宿してしまった彼女の苦しみを消し去る言葉なんて俺には……。


だから、俺は話題を変えることしかできない。


「それはそうと、早く救援が来ないものかな……。俺の能力、もうすぐ切れそうだ……。そしたら俺、ガチで死んじまうぜ……」

なんて少し笑いながら言う。

いや、結構ヤバいんだけど。



「いやぁ、お見事っス」

「……は……?」

部屋には、いつの間にか月光がいた。

「な……お前、消えたはずだろ……どうして……」

いや、どうしても何もそりゃあそうか……。

よく考えれば、コイツがわざわざ柚香を手放すわけもない。

月光がいる場所の奥をよく見ると奥にドアがある。

成る程、この施設への入り口は他にもあったわけか。


……だが、だったら……。

「おい、テメェ、なんで一旦離脱した? 戻ってくるぐらいなら最初から出なけりゃいいのによ」

「ん……そりゃあ決まってるじゃないスか……kidsを擁している貴方が能力を発動できないわけがないと思ってスね」

「んな……だったらお前、そんなあるかも分からない自分の興味本位で自分の仲間を危険に晒したのかよ……」

「はぁ……君は馬鹿っスか?」

「は!?」

「研究者に興味本位とか言うの頭悪いっスよ、それに……それは理事長サンを見れば分かるでしょ、彼はこの研究が危険だと知っていながら研究を続けてるっス」

「そりゃ、柚香を助ける為だろ……」

「へぇ、よく確証も無く人を信じるっスね。理事長サンが柚香サンを利用しようとしてるとか考えないっスか?」


揺さぶってきているのか……。


利用……いや、確かに月光の言う通りそうなのかもしれない。

だがそんなのは俺には分からない。

だって、結局理事長や柚香、水無月や兄貴が何を思って戦っていたのかなんて、俺は聞いただけで、見たわけじゃない……。


だが……。

「別に……お前よりは信用できるってだけだ……。それより、覚悟はできてんだろうな……?」

「影人くん……」

今まで黙っていた柚香が喋る。

「気を付けて……わざわざ戻ってきたんだから策があるはず……。影人くんも、もう体力が……」

「分かってる、でも、やんなきゃいけない」

そこまで言うと、月光は手に銃を手にした。


「銃……!」

落ち着け……能力を使えば止められる、能力を……!


あれ……能力が……発動しない?


……どうしてだkids! おい!

――ゴメン、これ以上は駄目だ

……どうして……。

――それは君の方が分かってるだろ! 今能力をそっちに割いたら君の止血ができない!

……んな事言ってる場合か!

――そうだね。でも、今の君は身体能力にブーストがかかっているし、避けるぐらいはできるでしょ

……俺の話じゃねぇ、あっちには水無月も倒れてるんだぞ!

――これ以上君が戦うのは不可能だ! 今は逃げるべきだよ! 彼女が言った通り援軍を待って!

……そんなの待てるかよ! これ以上被害が拡大……。

――君は七瀬さんの言ったことを忘れたの?

……自分の身を、だっけか? は……そうだな! そんな約束忘れたよ! 力を……貸しやがれ!

――ったく君は……って!? おい!

……な!?


俺とkidsは背後からの敵の接近に気付く。

「お前……山上……まだ」

そう、山上は最後の力と言うべきか、俺に武器も持たず、攻撃を仕掛けてきた。

銃も壊され、意識も失っていたのに……それでも……!


「クソが……っ!」

俺はそれを顔面に肘打ちを入れ、今度こそ、山上を倒す……。

が……。


――くそっ、これじゃあ、月光の思う壺だ。

……分かってる。けどっ、こうするしかっ……!


そう、山上の最後の反撃により、俺は月光に対して、思い切り背中を見せている。


「クソおおっ!」


放たれる銃声。

だが、それは俺へ向けた物では無かった。

「ゆ、柚香……っ」

何……なんで、柚香が? 

月光は柚香が欲しいんじゃ……。


――あ……おい! 今すぐその場を離れて!

……な、何で! 柚香を助けなきゃ、お前の能力なら止血……。

――違う! よく見て! あの銃弾はただの銃だとか麻酔銃だとかそんなんじゃない!

……え?

――あれは、おそらく君が持ってる強制アウェイク・コア装置みたいな物、といってもアウェアク・コアと違って、リミットが無い。つまり、強制的に暴走状態にっ!



再び、柚香から一閃が放たれる。

それを何とかして避けるが、状況は更に悪くなっている。

ヤバいヤバいヤバいヤバい……。

このままじゃ柚香が……水無月が……いや、下手したら皆…………ッ!


……駄目だ、まだ諦めたらっ……落ち着け、今一番すべき事……今の状況、相手の手持ち、俺の手持ち、俺が今できる最善の一手は……!


「うおおおおおおっ!」

ポッケに入れといたスタンガンを月光に向け投げつける。

今はまず、月光を止めないと、下手すれば水無月まで暴走させられる可能性がある。


なら今はアイツを止めないと……!


「なっ……ぐぅっ!」

スタンガンは見事命中し、その場で月光は倒れる。

「よし……!」

とりあえず月光は倒れた。


「さすがですね。……でも、こんなのはどうですか?」

柚香はいつの間にか水無月を引き寄せ、その刀を首に突き付けていた。

「……水無月っ! …………なぁ、柚香ッ」

「どうしました?」

「お前、いや、そうだな……今の柚香とちゃんと話したくてな……お前、普段の柚香と別人格なんだろ? なんでだ……暴走状態だなんて、呼んでるが、今のお前を見てても暴走……というより、月光に従ってるようにしか見えねぇ」

「そうですよ?」

あっさりと柚香は答える。

「主人格は、月光の監視だとか能力の制御を目的にこの組織にいたんだろうけど……私は違う、月光がいくらでもオモチャを用意してくれたから」

オモチャ……そのオモチャがさっきの部屋の研究員だとか……兄貴や俺なのだろうか?


――会話するだけ無駄だよ。確かに彼女は最初の事件では本当に暴走していただけかもしれないし、ただの狂人に過ぎなかった。でも、今の彼女は違う。どっちかとっていうと知能犯にも近い。意識無く殺すんじゃなく、意識をもって、自分が殺したいから殺す

……なんで……?

――予想でしかないけどさ……、彼女は最初の事件でたくさんの人を殺したそうだけど、その時の殺人を、肯定する為の……罪悪感を消す為の人格、そういうものじゃないかな

……でも、だったら会話はできるし、する意味はあるだろ

――いやぁ、どうだか……。彼女は殺さなきゃ殺すことを肯定できない。ほらパチンコしてる間は借金のこととか忘れるだろ? あれと似た感じだ

……似た感じかどうかは知らないけど、俺パチンコしたこと無いのに、なんで、そんなことが分かるんだよ……

――ハハっ。でも、分かっただろ。今は話しても意味が無いし、もう体力も限界だ、ここで戦って勝てる相手じゃない。



そうかもしれない……確かに、でも……でも……!


……一回で良い、止血なんて良いから、お前の全身全霊をくれよ。


俺は柚香へと向かって走っていく。

「へぇ! 水無月さんは気にせずに来ますか!」

そう言って、柚香は水無月を刺そうとするが……。


――無茶するよな、ホント……しょうがないな……いいか? 集中しろ、思い描け、止めるビジョンを、勝つビジョンを……!

……ビジョン……そうか……分かった!


思い描け、思い描け、あの刀を止める者を……!


行くぞ!


【影子固定――不動傀儡騎士(ふどうかいらいきし)――】


――最後の一回、これが全身全霊だよ……ったく。


空虚から和風とも洋風とも取れない騎士が現れ、柚香の刀を止める。

「なっ……!」

水無月が言っていた……。

能力はイマジネーションに大きく関わる……。

空間に物体を思い描きそれを固定し、具現化する。

今回は騎士を空間に思い描きそれを固定した。

勝つビジョンが騎士ってのがちょっと高校生の安易な考えっぽいがそこはご愛嬌で。


……最後の一回……充分だ!


俺は、柚香を捉える。

「くっ、離せ!」

「……柚香、まだだ……柚香は過去の事件から逃げたいのかもしれない……でも、逃げる必要なんてない……まだやり直せる……!」

「は……? 何言って……って、え!?」

俺はアウェイク・コアを外し、柚香の手に付ける。


――ハアアアアアア!? 何やってんの!? 柚香と違って僕はそれ無いと能力が発動できないんだよ!?

……黙ってろ! 今、暴走を止めるにはコレしか無いだろ! どうせ、この騎士もすぐ消えただろうしな……。


騎士が消えていく。

「柚香! アウェイク・コアを発動しろ!」

柚香は刀を取る。

「何をやってるんですか? わざわざ能力を消すなんて……自ら死にに?」

「違う……死にに来たんじゃない! これから! 胸を張って生きていく為に来たんだ! 柚香!」

……いや、冷静に考えて何やってるんだ俺。

いくらアウェイク・コアを使わないと治せないからって、能力解除するなんて、死にに行くような物だ……。

それじゃあ柚香が俺を切り落とすだけ……。

まだ、能力が持つことに賭けて、援軍を待つべきだったかもしれない……。


でも、それじゃ駄目なんだ。

もしそれで治せた所で、それは助けたとは言えない。

この柚香を、暴走状態の柚香も助けないと、本当に助けたとは言えない。


だから、こっちの柚香が納得して、自ら能力を仕舞ってくれないと、駄目なんだ。


「馬鹿……ですか!」

柚香は剣を降りおろす。


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