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Ep24

ならば俺のすべきことはただ一つ。



……おいKIDS! 聞こえるか?


そう。

俺の中のあいつに頼るしかない。

数秒の沈黙の後、あの雑音と共に脳内で声が響く。


――何だい? 君から話しかけてくるなんて珍しいじゃないか?

……お前も今の状況分かってんだろ? このままだとお前も消えちまうぞ?

――ふふふ。まさかこの状況で僕を脅すなんてねー。で? 僕に何をしろって?

……お前、アウェイク・コア使えるんだよな?

――まぁねー。でも理事長も言ってただろ? 僕達が能力を使うには条件があるって。

……何なんだ? その条件って?

――それはね、


――君と僕の人格を一つに融合しちゃうことだよ。


……どういうことだ? 一つに融合?

――そう。何が起きるかは分からないんだけどね。アウェイク・コアはかなり精密な機器なんだ。だから使用者の中に脳波の読み取りを阻害するものがあった場合、上手く起動しないんだよ。

……阻害するもの?

――僕のことだよ。君に埋め込まれてた装置、僕という人格を作り出した装置には柚香ちゃんと同じ力が微量に含まれていた。そしてそれに影響された君の脳は新しい人格、つまり僕となってしまった。

……まさか。

――本当のことだよ。だから、僕はさっきアウェイク・コアを使えるって言ったけどあれは嘘だ。僕たちにあの能力は使えない。

……なっ!? じゃあどうすんだよ?

――だから融合するんだよ。ボクの中の赤い力ごとね。

……なにを言って……?

――君もあの赤い力が生体内に融合していくのを見ただろう? 僕にもまだその力が残っているんだ。正確に言えば、月光の赤い塊はアウェイク・コアとはまた異質なものなんだけど。なんにせよ、君の人格と僕の人格と、そして赤い力までも融合して僕たちの脳を再構成する。決めるのは君だよ。この体の主導権は残念ながら君にあるからね。もしかしたら融合しても君の自我が残るかもしれないし、逆に僕のが残るかもしれない。二人とも消えて新しい誰かになるのかもしれない。でも柚香ちゃんを助け出すにはこれしかないんじゃないかな?

……お前はそれでいいのか?

――さぁ、ね。言ったじゃないか決めるのは君だ。僕の意思は関係ない。


そこで雑音は止まり、加速されていた俺の脳が本来の時間軸へと戻ってくる。

目の前にはトンファーを構える城島。

もう柚香がこの部屋から連れ去られて十分は立つ。

もしかしたらもうこの研究所から逃げ出されてしまったかもしれない。

だけど、俺はまだ柚香がこの研究所に残っていると直感的に分かった。

そして、俺がしなければいけない決断の答えももう分かっていた。

「行くぞKIDS! いや、もう一人の俺!」

そして、一度も使っていないアウェイク・コアのついた左手を、右手を使って持ち上げる。


「アウェイク・コア! 融合開始!」

刹那、赤い光が俺の身体を取り巻くように包んでいく。

その赤い光に吸い込まれるようにして俺の魂も体から抜け出て浮遊し始める。

なんだか変な感覚だ。

自分の身体を自分で見てるなんて……。

すると、隣に気配を感じ、振り返ると、そこにはどこか幼げの残る少年の姿が。


「お前がKIDSか」

「初めまして……、でも前も言ったけどKIDSってのは機械の名前だからね?」

「別にいいじゃんかよ」

そして俺の魂はKIDSと共に、俺達の身体の回りを回っていく。

その速度は次第に上昇していき、気を抜くと自分自身が消滅してしまいそうなほどにまで速くなっていった。

すると、俺の左手についていたアウェイク・コアから赤い光が放たれ、そのまま俺の頭の中に入ってくるのが見えた。


「アウェイク・コアの取り込みは終わったってわけか。後は人格だな……」

隣を見ると、KIDSも消えまいと、必死に赤い濁流の中で耐えていた。

俺も限界が近くなっていたが、どうにもこのもう一人の自分の存在を放っておけなかった。

俺はKIDSの方へ手を伸ばし叫ぶ。

「この手を掴め! また二人であの入れ物の中に帰るぞ! まぁ、もちろん俺が優位であの体を使わせてもらうがな」

すると、KIDSはニヤリと笑って俺の手を掴み返す。

「まぁ、君だけじゃあの赤い力を制御できないだろうしね。いいよ、手伝ってあげるよ」

やがて、俺達を包み込む赤い光は身体の頭上にとどまると、ゆっくりとその中に入って行った。



目を開ける。

見えるのは自分の右手。

その右手は左手を高く持ち上げている。

だが、さっきまで怪我をしていたはずの左手には感覚が戻っていた。

そして顔を上げると、眼前にいるのは驚いた表情を見せる城島の姿。

「……成功…………したのか……?」


――どうやらそうみたいだね。


雑音なしでクリアに響いてくる声。


……KIDS! お前も無事だったか!

――まぁね。おかげさまで。それにしても会話しやすくなって良かったねぇー。僕の中の赤い力の波と君のつけてたアウェイク・コアの波の干渉がなくなったからかな?

……さぁな。で? 今も脳内加速してるのか?

――もちろん。今までよりも使いやすくなってるよ。うん。たぶんこれなら能力の方も使えるはずだよ。左手のアウェイク・コアの制御下にあるのは変わらないけどね。どんな能力が出るのか楽しみだなぁー。


そこで、KIDSとの会話が途切れる。

「おい、てめぇ! 今のはなんだ?」

城島が戸惑った声で叫ぶ。

「何だろうな? まぁ、これからのお楽しみってことで」


じゃあ……。

「第三ラウンド、スタートだな!」


「あれ、そういや……」

「ん? どうした」

剛毅は手当を受けながら、七瀬と話す。

「いや、空は……どこに居るのかなって」

「あれ? いない?」

周りには剛毅と七瀬さんとその部下達……。

「まさか……やられて……」

そう言って剛毅は立ち上がろうとするが……。

「痛ってえええ!」

「アホ! まだ立ち上がらないの」

「さっき地に膝つくなって言ったの誰っすか……」

「……それとこれとは話が別でしょ! でも……空君ね……連絡は取れないの?」

「ああ、取れます」

そう言って剛毅はポケットから携帯を取り出すが……。

「ああああ 充電が切れてる!」

「アホ……まあ、でも殺されてはいないと信じて戦いが終わったら助けに行かないとね」

「んな、でも……いますぐ助けに行かねーと!」

「だから他人の事は二の次って言っただろ! 分からねーのか!」

「……分かってます……けど、アイツは俺にとって大切な仲間なんです、俺……学校でも不良だなんだって怖がられてるけど、アイツはそんな事関係なく俺と付き合ってくれたし……俺が行かないと……」

そう言って剛毅は立ち上がり、影人が向かった先へ行く。

「ちょっ、待っ……」


剛毅が行くと七瀬は溜息をつく。

「はあ……これだから若いってのは……」

「七瀬さんも若いですよ」

そう部下がからかう。

「ったく……どいつもこいつも……まあいい、私達も行くよ!……と言っても千家とかは見張らなきゃいけないし、小町腰は残ってろ」

そうして七瀬とその部下、秋田、日花里も影人の元へと向かっていった。


「あぁああああ! なんでだよぉおおおお!?」

迫り来るトンファーの攻撃から必死に逃げる。


――あれ、おかしいな、なんでだろう?

……なんでだろうじゃねえよぉおおお、能力発動しねーじゃねえか!


そう、カッコよく第三ラウンドと言ったが、何故か能力が発動できない。


――本当に発動できないの?

……ああ! やり方が分からないとかじゃねーよな、柚香は思い出す感じって言ってたけどそんな感じでもないッ。

――いや、一応成功はしているんだけどね。やっぱり能力の発動条件を満たしていないのかな?

……それ理事長も言ってたけど俺の問題なの? やっぱ。

――だろうね。なんでだろ。

……なんでしか言ってねーなホント……。


だが使えないと決まった以上しょうがない、使えないなら使えないで勝つ。


「ふん!」

襲い来る城島の攻撃。

だが、その攻撃は今までのものを超える攻撃だった。

「んなっ!」

そう、そのトンファーによる攻撃は文字通り、三つになって繰り出された。

「うわああああ」

その攻撃を間一髪避けるが……。


……なんだ今の! まじでトンファーが三つに……!

――幻覚とか速さの類じゃないね。本当に三つある。ヤバイよ、能力を使いこなせるようになったらもっと増えるかも。


「くっそ!」

だがこうしてる間にも柚香はどうなっているかも分からない。

「言ってられっかよ……んな事!」


またしても襲い来る攻撃。

俺はそれをしゃがんで避ける。

「ふざけんなよっ!」

城島はしゃがんだ俺に右足で蹴りを入れようとする。

「ふざけてんのはそっちだろーがっ!」

俺は手を地に着き、手と右足を重心として、左足を回転させる。

左足は城島の右足を抉り、城島は体を後ろに倒す。

「何っ!」

「悪いな、もらったぜ!」

俺は立ち上がり、倒れた城島の顎に蹴りを入れる。

「がああああっ!」

「はぁ……はぁ……」

「く……そ……まだ戦わ……ねー……と」

そう言って城島は立ち上がろうとする。

だが、俺はそれを腹に足蹴りを入れて、止める。

「ぐはっ……」

「もうやめとけ……お前の負けだ、おとなしくここでお寝んねしてろ」

「はっ……そうかい……しゃーねーな……ここでお前も道連れにしてやるよ」

そうして城島はポケットから手榴弾を取り出す。

「…………なにっ!?」

おいおい! 銃はねーのにそんな物騒なモンはあんのかよ……っ。

「はっ、あばよ!」



「ふーん……これが本物の手榴弾か、こーやって直接触って見るのは初めてやなー」

「んなっ!」

いつの間に、黒覇先輩が部屋の壁に腰掛けていた。手に手榴弾を持って。

「いつの間に奪った!?」

「いやいや……君引き抜くのが遅いわ……自爆するなら覚悟持ってさっさとやらんとな」

「先輩……そっちの戦いは終わってたんすか……」

「ん、まあな……」

「か……光司君!」

そう言って雪乃と水無月も部屋へと入ってくる。

「光司君! 柚香ちゃんは……? ってうわああっ」

雪乃は床に転がる死体を見て驚く。

「……それは柚香が」

「……それって、十年前の暴走事件と同じ……?」

「……俺は直接見てないけど……。柚香とはさっき会えたんだけどな、月光の部下みたいな奴に連れ去られた…………」


そう言って部屋を出る。


「あれ? 他の皆はっ……て!」

そんな事を言っていると剛毅がランニングで来た。

「おい影……光司!」

いやだから……みんな光司って呼べって言ってんのに間違えそうになりすぎだろ……いやてかむしろ影人呼び定着すんのが無駄に早いな……。


「大丈夫か光司って……ゴッフ!」

剛毅が口から血を出す。

「お前が大丈夫かよ!」

「ああ……これくらい日常茶飯事だ……」

いや、口から血を出すってよく漫画ではあるけど結構ヤバいからね?

内臓ヤバいからね?

そんなファッション感覚で出す物じゃないからね?


そして七瀬さん達も後ろから付いてきた。

「七瀬さん!」

「お、光司君、無事だったか……で、柚香ちゃんは?」

「いや……まだ……てかそれより空は?」

「ああ……アイツだけいないんだよ……」

「何っ! それって!」

「空君なら無事よ」

そう言って水無月が携帯を取り出す。

そこには俺たちに一斉送信で連絡が来ていた。

そこに書かれていた内容は……。


「んなっ……アイツ、マジかよ?」

「ええ……本当か信じ難いけど……もしそうならかなりこっちが有利になったわね」

「よし……じゃあ行くぜ……」


そう言って先に進む。

そうすると、また下に階段があった。

「はあっ……たく……どこまであんのかやら」

「どこまでとか関係ねーよ……柚香を助けるだけだ!」



――――。


千家さんが敵のスパイだったなんて。

しかも月光とかいう人に渡されたあの赤い塊。

さっきから狂ったように吠えている千家さんはもう人じゃないみたいだ。

彼はアウェイク・コアを持っていないはずだから、今までもあの赤い塊の力を使っていたと思うんだけど、今は暴走してる。

まるで古海さんみたいに。

もしかしてあの月光っていう人、古海さんの暴走した力を元に能力の研究をしてるんじゃ……。

もしそうだとすると今の千家さんは自我が無くてただ暴れているだけ。

暴走状態が収まってしまう前に解決策を練らないと……。


彼がついにその能力を発動させる。

視界が一転し、思わずたちくらむ。

うぅ、すごくめまいがする。

度の合わない眼鏡をかけた時のように視界がぼやけるのだ。

でもこれ、さっきまでと違う。


もしかして完璧に幻術にかかってない? 

だとしたらなんで僕にはかからなかったんだろう……ッ! 

となるとこの幻術は視界に作用するものじゃないのかもッ! 

もしこれが皆のアウェイク・コアや神経中の電気信号に作用するものなのだとしたら! 

僕は唯一、アウェイク・コアは持ってるけどその力を使えない中途半端なとこにいる。

通常アウェイク・コアは脳の作用を制御できるもの。

幻術に対しては一つの壁となっているはず。

だから本当は個々人に合わせた幻術の調整が必要になる。

でもいまの千家さんは暴走した力を無理矢理ねじこんでいるだけ。

皆には普通に効いてるようだけど、僕は通常の電気信号とアウェイク・コアからの信号の中途半端に混じった状態。

だから、細かい調整をしていないせいでまだ視界が残っているんだ! 


でもだからといって視界は悪い。

「僕にできるかは分からない。でも、でも行かなきゃ……ッ!」

僕はこの部屋をでて早く古海さんのところに行かないと。

この赤い塊の力は人の神経に作用するもの。

じゃあどうやってその塊から数メートルも離れた神経に作用を及ぼしているのか。

違うんだッ! 

この赤い物質の本質は塊じゃない! 

粒子なんだ! 

空気中にその欠片が舞い散ってて、それを僕たちは知らず知らずのうちに体内に取り込んでたんだ! 

それともう一つ、この力が粒子だったら、この赤い物質は元から一つしかないのかもしれないッ! 

全部古海さんを元にした、古海さんの中にある力の一部でしか……ッ!

なら、古海さんを止めることができたら、千家さんに宿った力も霧散するかもしれない。


「うぅっ、あともう少しだ……」

止まらぬ目眩。

普通に立って歩けないため匍匐前進で進んでいく。

千家さんの暴走が終わる前にここから脱出するんだ! 

空は微かに捉えられる輪郭だけを頼りに進んでいく。

聴覚も嗅覚も封じられている。

でもその代わりに視界だけはまだ残ってるんだ。

 

千家の暴走が終わったのは、空が部屋をでた少し後だった。

空が出たのは影人が出たドアとは別のドアだったらしい。

白い壁のトンネル状の通路を進んでいく。

まだ完全に目眩が治まらない空は壁伝いに歩く。

その通路の先には一つの鉄製扉があった。

ハンドル式のその扉は空の全力で回しても五センチしか開かない。

重い、息が荒れる。

でも大きな音がならなかったことに安堵しながら空は中を覗く。


「……ッ! 古海さん!」

部屋の中には柚香がいた。

どうやら一人のようだ。


「む、向井くんですか?」

「あぁ、よかった、暴走状態じゃないんですね!」

「……はい。さっき治まりましたから………………人を殺して」

柚香の最後のつぶやきは扉越しの空には伝わらなかった。

空は嬉しそうに笑ったのも束の間、すぐに状況を説明する。


「……そうですか」

空の話を聞いた柚香は唇に指を当てて下を向く。

「だから、古海さん、他の赤い物質の暴走を抑えてください!」

柚香は寂しそうな顔を空に向ける。

「それは……できません。私自身暴走をコントロールできないですから。他人の暴走をなんて……」

柚香は苦笑いする。


そしてごめんなさい、と。


「あ、そ、そのこちらこそごめんなさい。別に古海さんを責めてるわけとかじゃなくて。僕もみんなも古海さんのこと信じてますから。本気で助けようって、ここまで来たんです! だから一緒に! 一緒に帰りましょう!」

「分かってます。嬉しいです」

柚香は一つ息をする。

「………………ここの研究室にはまだ何人かの私の力を元にした赤い物質を使える人がいます。そして、その力を全部使えさせないようにすることができる方法が一つだけあります」

「え!? で、でも、治めることはできないんですよね……? ってまさか…………ッ!」

「私なんかが皆を、影人くんを信じてもいいのでしょうか?」

「そんなの……いいに決まってるじゃないですか!」

空は皆にこのことを伝える。


『古海さんに会えた。早く来て』と。

 

そして柚香は…………。

スペリオル内に蔓延していた赤い物質全ての力をまとめて解放した。

スペリオルが振動する。

柚香の体に、徐々に赤い粒子が入っていく。


「……んっ」

体中に走る痛み。

自律神経が奪われていく。

だが、悲鳴はあげない。

 

柚香は暴走した自分を、仲間に託した。


「ちゃんと止めてくださいよ? 光司くんの二の舞は嫌ですから…………」

 

柚香の自我が消失する。


今週一気に投稿しちゃいます。

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