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Ep20

「で、どうするよ?」

そろそろ日も陰るかという頃。

「そうだな……。もちろんただ乗り込むっていう訳にもいかないし……」

「そりゃそうだろ。向こうにはあの柚香を引き込めるほどの力があるんだ。まともに戦っても勝てるわけがない。それに影人、お前能力使えないんだろ?」

場所は俺の、一人で使うにはやや広めの部屋。

そこに二人の少年――剛毅と俺――の声が響く。


「だけど、向こうの戦力も分からないし、内部の構造だってすべて見てきたわけじゃないからな……」

「おう。かなりキツイってことは分かってる。だからお前は一人で行こうとしたんだろ?」

「まぁ……な」

「そんで、お前の方はもう大丈夫なのか?」

「当たり前だ。さっきも言っただろ? 柚香を助け出すんだ」

「……せめて心配かけて悪いなくらい言えよな」

軽く笑ってそう言う剛毅。

思わず俺もつられて笑ってしまう。

「あのさ、お茶淹れたんだけどどうかな?」

と、つい男子だけだと思ってた部屋に一人の女子――雪乃――が入ってくる。

人数分のお茶を配り終わると雪乃は俺の隣に腰を下ろした。


「なにか良い作戦は思いついた?」

「……いや、ダメだな」

「そっか……。でも柚香ちゃん、早く助けてあげないとだよね……」

「そうだな。けど、もう少し待ってくれ。まだ突入プランが立たないんだ……」

「うん。わたしは待ってるよ? 大丈夫。落ち着いて考えればきっと思いつくよ。今の影人くんならできるよ?」

急に上目遣いでそんなことを言い出す雪乃。

俺はその仕草に少しドキッとしてしまう。


「でも、時間がないのは確かよ? 遅くなればなるほどユズカが傷つく可能性は増えるわ。向こうの集団にとってユズカはただの実験台なんだから。今度彼女が何もされないなんて言いきれない……」

ここで突然口を開いたのは、今までずっと俺の部屋の壁に、無言で寄りかかって立っていた少女――水無月だった。

「分かってる。でも、何にせよ策がない限りは攻め込めないしな……」

すると、水無月は何やら眉間にしわを寄せたような顔をする。

「さっきから思っていたんだけど。あんたはあたし達をなめているのかしら? 策がないから勝てないですって? このあたしが、そしてあなたの仲間たちが協力するって言ってるのよ? それなのに勝てない理由があるかしら?」

凛とした表情で、でも少し情熱的な声音で俺にそう言い放った水無月を見て、この部屋にいた他の皆も納得したように頷く。

横を見ると、さっきまで作戦会議をしていた剛毅でさえ頷いていた。


「確かにな。もとより覚悟決めて、影人に付いていくって言ったんだ。今更、リスクなんて気にしてられっかよ。……それに、正面突破……何か熱いじゃねぇか」

ニヤリと笑う剛毅。

どうやら、雪乃も同じような考えに至ったらしく、彼女はもう一回俺の方を向くと深く頷いた。


「あ、あのっ!」

その時、ずっと部屋の隅で会話を聞いていた空がやっと声を出す。

「足手まといかもしれないですけど……。ぼ、僕も付いて行っていいですか?」

心配そうな顔で一同を見る空。

だが、こんなの皆に確認する必要もない。

「よし、これでメンバー全員の意思はちゃんと聞いたぞ。それじゃ、皆! 乗り込むのは明日。集合場所はこの部屋で。詳しい時間は後で伝えるから、全員覚悟決めてくるように!」

「おうよ!」

「はいっ!」

「えぇ」

「うん!」

「じゃあ、今日の作戦会議はこれで終わりだ。みんな気をつけて帰れよ」


それと……本当にありがとう。

口には出さなかったが、皆の後姿を見て、俺は小さく、心の中でそう呟いたのであった。



朝が来る。

それは何気の無い朝。

だが、俺には決戦の日だ。

もしかしたら朝日を見るのも最後になるかな……なんてシャレにならないジョークは置いといて……。


「とりあえず、学校に向かうか!」

ご飯をかき込み、支度をして出掛ける。


「あ、光司君!」

「お、光司じゃねーか、休みだったけど大丈夫だったのか?」

クラスに入るなり、皆の視線が集まる。

「大丈夫だよ、心配かけさせて申し訳ない」

そう言って自分の席に座る。

「ちゃんと学校来たのね、不登校優等生さん?」

……後ろから嫌味が聞こえてくる。

「水無月……ったく……」

痛い所を疲れるな……てか不登校って言っても一、二日じゃん……。


「ねぇ……」

さらに小声で水無月は喋り続ける。

「……なんだよ」

俺もそれに合わせて小声で返す。

「いや、とりあえず、今日は土曜だから四時限だしその後話す?」

「ああー……まあそうしようかな、後で皆にも伝えとくわ、俺の家でいいよな?」

「ええ、分かったわ」


と、そんなこんなで一日が進んでいく。

だが、俺には行かなければいけない所があった。

三時間目の日本史が終わり次は数学。


「なぁ水無月、ちょっと行かなきゃ所あるから、先生に保健室行ったって言っといてくれ」

「行く所って?」

「いや、理事長室にな……話は通しておこうと思って」

十分休みが終わりに近づき、皆が教室に戻っていく中、俺だけは理事長室へ向かっていく。


「失礼します」

理事長室に入る。

そこにはいつも通り理事長が座っていた。

「どうした? 何か用が?」

「ええ……俺、今日柚香を助けに行きます」

理事長室に無言が流れる。

「だから……今日はそれを伝えに来ました、それでは」

そう言って部屋を出ようとする。

だが……。

「まて……柚香を助けに行くということは、スペリオル……そう、丸々一つの組織を相手するということだ……君に命をかける勇気があるのか?」

勇気……だが、今更そんな事を聞かれても、もう俺はブレるわけにはいかない。

「あります……だいたい、柚香の周りに俺を置いておいたのは、俺に期待していたからでしょう?」

そうだ、俺は光司の弟。

似ているというだけじゃなく、力もあるだろうと思ったから俺をこの学校に入れたはずだ。

「そうだな……だが、所詮一人の人間の力なんてたかが知れている、それは光司君を見てもあきらかだ」

「ええ……そうですね、ましてや俺は能力が無いですしね」

「!?」

理事長が目を見開く。

「え? 知らなかったんですか?」

「……いや、能力を使った形跡が無かったからまさかとは思っていたが、まさか……」

「まぁ……そのまさかですよ……いや、理事長なら知ってると思ってたんですが……理由とか分からないですか?」

「……分からないな、双子は能力がほぼ同一になると研究で出ているし、クローンなら尚更だろうが、二人でそこまで違いもないだろう?」

「そうですね……大きな差は無いと思います」

「そうか……スペックに差が無いなら、思考パターンが違うという事なのだろう……と言ってもクローンならば似ると思うのだがな」

「……うーん、まぁ、大きな差は無いって言いましたけど、俺は基本的に兄貴より劣っていますからね、そこの劣等感だとかもあるし……」

と自分で言ってて悲しくなるような恥ずかしくなるような事を言う。

まあ今はそんな事を言ってられないのだが、もしかしたら理事長が能力を発現できない理由が分かるかもしれないし。

「劣等感か……だが、劣等感があっても、君は能力を発現できると思うのだがな……君はそれこそ能力が無いのに、コロシアムで四人もの人を倒している、その度胸とセンスがあるのなら、いくら劣等感があっても、能力は発現しそうなものだ」

「じゃあ何故?」

「ならば可能性は一つ、能力を発現できるセンスが無いわけでもなく、能力を発現できない心理があるわけでもないのなら、能力はあるのに発現できる条件が揃っていないということだ」

「条件?」

「ああ、人にもよるが、能力に発動条件がある人もいる……特にこれは育った環境による部分が大きくてな、君が光司君と違う態度を周りから取られていたなら、それの可能性が高い」

周りから違う態度……。

確かに、兄貴の方が皆から人気だったしな、俺はいつも名前の通り影の立場だった。


「なるほど……その条件ってのは分からないんですか?」

「ああ、残念ながらな……ましてや君みたいなタイプを今まで研究した事が少ない、双子は能力が似やすいと今の所の実験では出ているが、研究体が少ない上に君達は双子ですらない、クローンということはおそらく君の方がわずかに産まれるのが遅い。おそらく光司君より劣っているというのはそのせいだろう。元のスペックではなく、早いか遅いか。となってくると双子とはまた違うからな。君の能力がどうなるか、その発動条件が何なのか正直な所まったく分からない」

成る程な……劣っているわけじゃなくて、時間の問題でもあるのか。

確かに気持ち、兄貴の方が、身長が高い気もする。

「そうですか……まぁ今更です、能力が無かろうが関係ない、俺は柚香を助けに行きます」

「そうか……だが、何故だ? 君が何故戦おうと思うのだ?」

「何故って……そりゃあ……」

そうだ、そんな物は決まっている。

今更考えるまでも無い。

「柚香が……俺にとって大事な人だから。それに……兄貴が守りたくても守れなかった人を、俺が守れなきゃ、天国の兄貴も安心できない。これは俺の……俺のプライドの戦いなんです……。俺は逃げてしまったんです、一回……実は、一回だけスペリオルに行ったんです。でも俺は柚香を諦めて逃げてしまった……。でも、もうそんな弱い自分にけりをつけに行きます」

「分かった……君がそこまで考えてくれているのは私としても嬉しい、というと上から目線になってしまうが……本当に感謝している。これは柚香個人を助ける為の戦いだ。命をかけることができる者がいるなんて……本当に君は良くやっている」

「なんですか、急に……褒めるなんてあなたらしくもない」

「いや……たまには教師っぽい事をしようと思ってな……少し待ってくれ……ほら、これを」


そこには一つの星型の機械があった。

「これは相手に強制的にアウェイク・コアを発動させる物だ」

「……あぁ、成る程……アウェイク・コアは発動装置でもあり制御装置でもある……。もし柚香が暴走状態だった時に無理矢理止められるっていうことですか?」

「その通りだ、相変わらず飲み込みが早い。真ん中にあるボタンを押し、その五秒後までに対象の頭にくっつければ効力が発動する……。だが、それを使えるのは一回だ。何ぶん電力消費が激しくてな、いかんせんそこの調整ができていない」

「……分かりました……。あの、これ複数個ありますか?」

「いや、残念ながら……それが完成したのは……昨日なんだ……それだけじゃない、やはり自分の意思に関係無くアウェイク・コアを発動させるというシステムを作る為には時間も金もかかりすぎた」

「成る程……そうですか」

「すまない……もし万が一の時は、その一つで頑張ってくれ」

「ええ……いや、ただ、俺が複数持ちたかったっていうよりも、仲間にも持たせたかったんですよ」

「な……仲間だと……!? お前以外にも行くというのか?」

「ええ……水無月と雪乃と剛毅と空が……」

「……そうか……柚香もたくさんの仲間に恵まれていたということか……」

「はい……でも、大丈夫ですよ、全員生きて帰ってきますから」

そうだ、ちゃんと全員で生きて帰ってくる。

それが一番大事だ。


「……私達からも部隊を派遣する予定だ」

「ぶ、部隊!?」

「ああ……今日の夜に突撃する予定だった……と言っても数十人にもいかない部隊なのだがな。君が行くといいのならその部隊に加えようと思っていたのだが、他の皆は本当に行く勇気があるのか? 生死がかかった戦いなんだ。部隊に任せることだってできる。いや、他の皆だけではない、君だってそうだ。やめてもいいんだ」

「俺は戦います……いやむしろ部隊が来るなんて本当に嬉しい誤算でした……。でも確かに他の皆に命をかけさせるのは、俺にも抵抗がありま……」

「何言ってんだよ!」

後ろから声がする。

背後を見ると、水無月と雪乃と剛毅と空がいた。

「お、お前ら……まだ四時間目だろ……って、いつの間にこんな時間に!?」

時計を見ると既に時間が十二時半を超えており、とっくのとうに授業は終わっていた。

「だいぶ話し込んでたのね……で、何? 命をかけられるかって? まぁ……私はかけられるわよ」

「うん、柚香ちゃんは私にとっても影人くんにとっても光司くんにとっても大事な人だから……」

「俺もだよ、柚香とはそこまで仲良くなった訳じゃねーがな……。まぁアイツがいたから影人や皆とも知り合えたし、第一ダチが助けに行くって言ってるんだしな」

「そうですね、僕も同じです……。影人君は僕を助けてくれた、その恩義を返したいんです。それに柚香さんとももっと仲良くなりたいですし!」

皆がそれぞれ喋る。


「その選択に後悔は無いのだな?」

「はい、あたし達は必ず、ユズカを助け、連れ戻してみせる」

「……そうか、分かった……ならば正式にこちらからもお願いする……。柚香を助けに行ってくれ……!」


そうして、理事長に挨拶を終え、部屋を出る。

理事長が、一つしかないこの強制発動のアウェイク・コアを渡したのは、俺を信頼してくれたからだ。正直、理事長には勝手に連れ去られたりした嫌な思い出しかないが、期待に応えないわけには行かない。


「じゃあ、今から影人君の家にいきましょうか」

「あ、私一回部活に用事があるから先に行ってて! すぐ行くから」

そう行って雪乃は廊下を走り去る。


「先輩!」

剣道場の隅っこに座る男、黒覇に雪乃は話しかける。

「お、どうしたんや雪乃ちゃん」

「あの……お願いがあるんですけど」

「ん、どうしたんや? 先輩に何でも言ってみい!」

笑顔で黒覇は答える。

「アウェイク・コア……というか、この脳開発の研究組織が分裂したって事は知ってますよね? そこに柚香ちゃんが捕らえられてしまったんです」

「え!? 柚香ちゃんってあれやろ? あの学年一位の光司の彼女やろ」

「まぁ……そうです、だから助けに行きたいんですけど、一緒について来てくれませんか?」

「ふぅ……む、そうやなぁ……ええで!」

二つ返事でOKをする。


「って……本当にいいんですか?」

「ああ、大丈夫や、光司も中々強いらしいからな。一度戦ってみたいと思ってたんやが、彼女いないからってコンディション崩されても困るしなぁ。ま、それに」

黒覇は立ち上がり、雪乃の肩に手を置く。

「かわいい後輩の頼みやしな、いっちょ暴れてやるわ!」

そう行って黒覇は肩を回す。

「あ、ありがとうございます! 先輩!」

先輩は優しいなぁ……。何で柚香ちゃんが……とか、もしかしてこの前の相談と関係あるのか……とか聞いてくると思ったのに。

私の事を気遣って何も言わないで……。


「んで、いつ助けに行くんや?」

「あぁ……えーっと……か……こ、光司君ももちろん助けに行くから、その家で集合なんですよ、今から」

「そうか、ほないこか、はよ案内してくれや」

そうして、雪乃と黒覇は影人の家へと向かった。



太陽は地平線に陥落し、月が早々と雲海を潜り抜ける。

空は紅く染まり、乾燥した空気に町の喧騒がそれとなく流れ去る。

川の中の魚はその流れに逆らい、木の上の鳥は何者にも怯えず虫を啄む。

太陽が沈むにつれて長くのびる影。

しかし、やがて日が暮れると跡形もないそのシルエット。


時刻は午後七時。

数十分前に影人の家に集合していた彼らは、お互いが持っている情報共有をした後、二台の車に別れ夜の高速道を走っていた。


「まさか、七瀬さんが理事長直属の部隊長だったなんて」

「こっちからしてみれば何を今更って感じだけど」

二台の車の先頭、六人乗りのワゴン車には、俺、剛毅、空、七瀬さん、そして黒覇先輩、あとは七瀬さんのお付きであるメガネをかけた無口な男性。

「今更ってどういうことですか?」

「最後にあったのはいつだったか覚えてる?」

「それは…………、光司の死んだとき」

「そう。そこであたしらが乗り込んだ。その時、疑問に思ったことがあっただろ?」

「……あ、死体」

「そう。なんで死体が見つからなかったか。簡単さ、あたしらが持っていったんだからないに決まってるだろ」

「そ、そんな」

こんな事を、事情をよく知らない先輩に聞かれないように小声で話す。

「本当に、七瀬の野郎が理事長の部隊だったんだな……。俺も中学の頃、よく七瀬の野郎に難癖つけられたけどよ、警察じゃなかったのか……」

 剛毅は呆れている。

「何言ってんだ、あたしらは全員ちゃんとした警察だよ。これは裏の顔ってやつさ」

「まじかよ……」

 剛毅はさらに呆れたようにため息をつく。

「あたしらは警察の仕事をなめてるわけじゃないからね。あんたらみたいな奴がいたら容赦はしない。それが警察やってる誇りと責任なのよ」

「……ッ、熱いな」

 剛毅の表情が変わる。

心躍る熱いものが好きな剛毅。

俺と対戦した時だって、真剣だった。

俺を俺として接してくれていた親友。何事に対しても全力で、俺のことも躊躇いなく殴ってくれた熱いやつ。

……ったく、こんなときまで『熱いな』って。

剛毅の七瀬さんを見る目が変わっている。

今度、何かあったら俺が殴り飛ばしてやるからな……。


「こりゃ、雪乃ちゃんに頼まれてきたんはええけど、ちょっと規模がおおきい話やな」

黒覇先輩はわざとらしいほど、両手を上にあげ、参ったポーズをしている。

黒覇先輩とは面識がない。

ただどこか違和感を感じなくもない。

なぜ来てくれたのか、そしてなぜこんなに悠長にしていられるのか。

よくわからないが一人にさせてはいけない気がする。

この人の目的が何なのか……。

柚香とだって面識があったとは思えないし。

 

その後、スペリオルに近づいてきたからか、七瀬さんへの驚きも薄れてきたからか、車内は沈黙が続いた。

空は集合した時から、最低限の言葉しか発していない。

もちろんみなと同じように緊張しているのもあるだろうが、どこか違う印象だ。

空は何か考えているように見える。

俺と同じで能力がない空。

俺に突き動かされ、俺を突き動かした恩人。

まだ試合を見たことも、それで感化されたことの礼も言っていない。

この決戦が終わったら、空に、そしてみんなに礼を言うんだ。


そしてちゃんと自己紹介しよう。

 

俺は心のなかで決意を固めた。

スペリオルのすぐそばに、二つのブレーキ音が響く。


「ここがスペリオルか……」

俺の後ろで剛毅が呟く。

薄暗い闇の中、各自の持つ懐中電灯の明かりを頼りにほっそりとした階段を下りていく。

先頭を歩くのは、ついさっき、理事長のもとで働く部隊に所属していると知らされた、表向きはただの警官である七瀬さんだ。

そしてその後ろに、俺、剛毅、空、水無月、雪乃、黒覇先輩と続き、その後ろに三人の理事長の部下、そして最後尾には七瀬さんのお付きというメガネ男がゆっくりと一段ずつ、その階段を下りていくのだった。

一回柚香と共にここに来たことがある俺は、他の仲間よりは内部について知っているはずだが、それでも目にしたのはこの施設のほんの一部にしか過ぎないのだろう。

つまり、この突入作戦はほぼほぼ初見、下調べすらしていないところへ乗り込むという無謀にも程がある作戦なのだ。


だが。

俺を含めここにいる誰もが下向きな言葉を発したりはしない。

各自それぞれに覚悟を決めてここに来ているから。

そしてその覚悟を決められるだけの理由があったから。


よく分からないが、おそらく、黒覇先輩もそれなりのわけがあって参戦したのだろう。

味方である限り彼のことは信じる。

とりあえずはそういうことにしておこう。


数分すると、深い地下に通じる階段が終わり、やや広めの空間に出る。

ここからは確か中に通じる扉があるはずだ。

と思って周りを見渡すと……。


「な…………っ!?」

そこには扉なんてどこにもない…………いや、むしろ一つだと思ってた通用口は全部で五つあった。


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