Ep16
「いいん……ですか?」
そういうと、柚香は剣を取り出す。
そうか、柚香はアウェイク・コアなしでも剣を出せるんだったな。
柚香にとってのアウェイク・コアは制御装置だし。
剣が俺の首に押し当てられる。
「あ……即死するように切ってくれよ」
と、ここにきて、間抜けな事を言う。
「はい……大丈夫ですよ……」
だが、その瞬間柚香は俺を突き飛ばした。
俺は机にぶつかり、柚香は剣をしまう。
「んな……柚香……?」
柚香は胸を押さえ、息を荒くしている。
「ハァ……ハァ……すいません」
「柚香……?」
「ハァ……影人くん」
「なんだよ?」
「私は……もう混じってるんですよ」
「? 混じってる?」
「いわゆる暴走状態とそうでない時が……です」
そう言って柚香は儚く微笑む。
「そうですね……光司くんを殺す少し前ぐらいから……それまでは暴走状態の記憶はなかったですが、その時からは少しづつ意識が混濁してるんです」
やはり、柚香は光司を自分の意識で殺めたのか……?
いや、今更どうでもいい。
もう柚香は柚香じゃないし、光司も生きてない。
俺に関しては人間って呼ぶのかもよく分からない。
「私は……もうただの人殺しだから――影人くんも殺したいんですけども――残念ながら貴方は月光さんにとって必要なので……だから……」
「だから……?」
「貴方の頭にはKIDS、発達装置についての情報の鍵が付いてる」
「あぁ……やっぱそうなのか……んで、これは何だよ?」
「それは月光さんの、このアウェイク・コアを取り巻く研究のもっと前の研究、いわゆるアウェイク・コアの前進であるもの」
「アウェイク・コアの……そうかよ、で、それがどうした」
「それを……私にください」
「……どういうことだよ」
「その装置があれば、私の暴走状態との混濁が抑えられる可能性があります」
「そうかよ……でも、この装置って何個も作れねーの? よく分からないけど」
「その装置を作るためのデータは消されました、侵入者によって」
「侵入者……? あ、あぁ……なるほどな……」
もしかして、兄貴か。
それは充分ありえるか、いやだが兄貴が俺らに関係あるデータを易々と消すか?
もしかしたらデータが残ってるんじゃないか……?
「だから、貴方の装置を私にください、そしたら……月光さんも貴方には興味はないでしょうし……帰してあげます、どうですか?」
「…………」
考える。
いや、分かってる。
嘘に決まってる。
こんなのは嘘だ。
いや、正確に言うと、データ関連の話は本当かもしれないが、俺を 帰すメリットが誰に取ってもない。
光司は能力使えるのに俺は使えない。
その違いはなんなのか。
月光にとってそれは気になってもおかしくない点だろうし。
柚香にとっても……そんなに俺を殺したいなら、データだけとって、殺せばいい。
柚香は……。
柚香は…………また俺を騙した。
俺を……助ける為に。
それだけじゃない、俺に罪悪感を持たせないで。
「……いいよ、やるよ、この装置を」
二人で部屋から出る。
時間は二時。
他の人間に見つからないようにその装置を交換する為の部屋に向かう。
「ここです」
そう言って小さな部屋に入る柚香。
「この椅子に座ってください」
目の前にある仰々しい椅子。
拷問器具にも見えるその椅子に座る。
頭に装置をはめらる。
「行きますよ……」
何分経ったのか……。
気づけば作業は終わっていた。
「痛ッ……」
頭を押さえる。
ズキズキと痛い。
そりゃそうか、頭の中に入ってるものをとったんだもんな。
てか、どうやって取り出したのかやら。
「まだ、安静にすべきですよ……」
そう言って柚香は俺の手を取る。
「あ……」
「まあ、安静にすべきなんですが……さっさとここから出てってください、ほら……明日も学校……あるでしょう」
そう言って、俺を外に連れて行こうとする。
柚香は……俺を助けてくれた。
俺を研究から関係なくする為に……。
暴走状態への抵抗。
光司への罪の意識。
そんなものと戦いながら俺を……。
でも、俺は柚香を何度も疑った。
俺は……そんなんだから……。
外に出る。
「なぁ……柚香……」
「なんですか……?」
「俺は……」
そこまで言って、柚香は遮る。
「星が……綺麗ですね」
「柚香……」
「じゃあ……さようなら、影人くん」
そう言って柚香は戻っていく。
「あ……」
柚香……俺は……俺は……!
俺は……。
俺は……手を伸ばせなかった。
柚香を助けなきゃいけないのに、もうそっちへ体が動かない。
ずっと、光司に対して負け試合を喰らい続けていたから分かる。
今の俺は何もできない。
俺には柚香の手を取る権利なんてない。
柚香を信じられなくて、能力も無くて、もうこの研究には関係ない俺には……。
憔悴しきった。
もう、駄目だ。
穏やかな朝。
もうすぐ梅雨だが、そんな事を感じさせない。
「あの馬鹿は……」
水無月は前の席を見る。
空白の座。
朝のHRにもアイツは来ないで、一時間目になっても二時間目になっても来ない。
「どうしたのかしら……」
四時間目が終わり、柚香のクラスに向かう。
クラスに入ると、一人の女子生徒が窓際で校庭を眺めていた。
「ユキノ……」
「あ、琴子ちゃん……」
雪乃は来訪者に対して、顔を上げる。
「あの……今日柚香さんはいるかしら……」
「あ……休みだよ……影人くんも休みだよね……」
「は……!?」
「その反応……やっぱりそうだよね……私、見たんだ、上位者専用ルームで」
「そう……あなただけ……?」
「いや、剛毅くんと空くんも……ねぇ、水無月ちゃんも関係あるの? 私達に説明してよ!」
雪乃は声を大きくする。だが、その声に力は篭っていなかった。
「……分かった、じゃあ放課後に屋上で……剛毅君達も連れてきて……あと、他の誰にも言わないこと……」
「……あぁ……」
放課後の教室。
そこの机の一つにうずくまる空。
空にとっての初めての試合、明日はその本番だ。
「空ー!」
「剛毅君……」
剛毅が空達の教室に入ってくる。
「明日だな……」
「はい……」
「頑張れよ! お前なら行ける!」
「ありがとうございます……だけど……」
二人は昨日の事を思い出す。
光司の事実。
俺達には知りもりない事実。
「剛毅君、空君……」
雪乃が二人の元へやってくる。
「あ、雪乃さん……」
「ねぇ……ちょっと二人とも付いてきて……」
そう言って、雪乃は二人を連れ、屋上へ向かう。
「琴子ちゃん……」
屋上のフェンスにもたれかかり、空を眺める水無月。
空は青く、曇が肩見せましとポツンと浮く。
「来たわね……」
「教えて! 光司君に、そして柚香ちゃんに何があったのか!」
「分かったわ……」
そして、水無月は語る。
光司の双子であった、影人が影武者として学校に入学した事。
柚香が最初の能力者であり、外部の組織と繋がっている可能性がある事。
そして、影人は、外部の組織によって作られた光司のクローンであること。
「やっぱり……そうなのね……」
「お、おい、ちょっと待ってくれ、いつからだよ、入れ替わってたのは」
剛毅から上がる質問の声。
「あぁ……本人から直接聞いたわけじゃないけど、まぁ主観的に見ても、光司君が残したデータから見ても、ゴールデンウィーク明けって所かしら」
「な……そんな前から……」
「ね、ねぇ……光司くんは? 光司くんは今何を……?」
雪乃が尋ねる。
その言葉に水無月は顔を顰める。
「あぁ……言ってなかったわね……光司くんは死んだ、というより殺されたわ、ユズカによってね」
「は…….?」
「さっき言ったでしょ? 外部の組織と繋がってるって、その組織の仕業よ、柚香を暴走させたのか、はたまた柚香が本人の意思でその組織に従って、殺したかは分からないけど」
静まり返る屋上。
雪乃や水無月にとっては一番関わりが深かった男子の死。
「まぁ……でも、影人君は柚香さんの意思だと色々おかしいとは言ってたけどね、それだったら光司なら気付くだろうし、第一柚香はそんな事をする奴じゃないって」
「そんな……光司くんが……柚香ちゃんが……」
「あの……じゃあ今何で二人はいないんですか?」
今度は空が尋ねる。
「それは私にも分からない、ユズカはその組織にいるかもしれないけど、影人君に関してはサッパリよ」
「そうか……なぁ、ごめん、聞きづらいんだけどよ」
剛毅が雪乃達の顔を覗いて言う。
「何?」
「いや、俺は影人としか話した事無いからさ……光司ってどんな奴だったんだ?」
「どんな奴……か、まあ影人君よりもナルシストかしら?」
そう言って水無月は笑う。
――――。
五月の四日、川辺の周辺を水無月は歩いていた。
「あ、光司君……」
川辺に座る光司、どうしたのかしら……?
「お、よう、水無月か……」
「……隣貰うわよ」
そう言って光司の隣に座る。
「ん? 何だよ珍しいな、わざわざ俺の隣に座るなんて、俺の事好きか?」
光司が顔を覗いてくる。
本当、パーソナルスペースって言う単語を教えてあげたいわね……慣れてきたけど……。
「どうしたらその考えに至るか、その脳内が見てみたいわ」
「ハハハ……」
そう言って、光司はまた川を眺める。
「ねぇ、アンタ……」
「ん、何だよ」
「……泣いてる?」
いや、彼は別に目から涙を流していた訳じゃない。
だが、彼のこんな表情を初めて見た。
なんて言えばいいか分からないけど、守りたくなるなるような……何言ってんのかしらあたし。
「おいおい、俺が泣くタチに見えるか?」
「見えないけど……」
「なぁ……水無月?」
「何よ……」
「人生ってのは難しいな」
「何言ってんのアンタ」
たまにってかいつもこいつはよくわからないことを言うのね……。
「ハハハ、相変わらず厳しいな水無月は」
そう言って、光司は立ち上がり、歩き出す。
いつも、学校で数々の敵を倒す姿、だが今日の背中はそういう風には見えなかった。
今にも儚く消えそうで……。
「ねぇ! 光司!」
ついつい大声になる。
でも……。
「なんだよ……急に大声出すなよ……どうした?」
後ろを振り向いて、少し微笑む光司。
「ねぇ……なんか、あったらさ……私もいるんだし……その……いつでも相談してね……」
我ながら下手な言葉というか……でも言っとかないと、後悔する。
「おいおい、そんな顔見せんなよ、ちょっと惚れちゃうじゃねーか」
「んなっ……何言ってんのよ!」
ったく、ちょっと心配したらこの男は……!
「ハハハ、じゃあな!」
――――。
そして、帰路に着く生徒達。
だが、雪乃は影人が住む家に向かった。
一回だけだが行ったことがあるので、迷わずに着いた。
「っておい、雪乃、お前も来てたのか!」
剛毅も影人の家に来た。
「うん……やっぱ気になって……」
ベルを鳴らす。
「影人くん……」
少し時間が空いたあと、ドアが開く。
「ん……雪乃……剛毅……」
ドアを開ける影人。
だが、その眼には力がなかった。
「何だよ……あぁ、学校休んじまったからな……わざわざお見舞いに来てくれたのか?」
「ん……あぁ、それもあるけどよ……今日は聞きたい事があって来たんだ」
「それって……?」
「お前、光司じゃないのか……?」
「…………」
家の前に沈黙が流れる。
「あぁ……そうだよ……それをなんで?」
「あっ……ごめん、これを……」
そう言って、雪乃はICカードを出す。
「あ……落としてたのか……」
そう言って、影人はICカードを受け取る。
「だいたいの話は水無月から聞いたよ」
「水無月が? あぁそう……それで? だったら俺の所に来る必要ないだろ」
「いや、お前も柚香も学校来てないし……心配してんだぞ、こっちは」
「……柚香なら、スペリオルっていう組織にいる、外部の組織の話は聞いてるだろ?」
「そうか……ん、お前はそれを何で知ってる?」
「行ったからだよ、そのスペリオルに」
「な……」
「あいつらの目的は俺の回収、いや……本当は光司も回収する予定だったらしいが、強くなりすぎて消したんだとか……俺の頭の中に埋められている装置、KIDSって言うんだが……それを回収する為にな」
「待って……じゃあ影人くんはその組織に連れられたってこと? じゃあなんで家に……?」
「柚香が……俺を逃した……俺の装置だけを回収してな」
「ま、待てよ! じゃあ……」
「あぁ、そうだよ……俺は柚香を見捨てた……。聞きたい事はそれだけか? もういいだろ? 帰ってくれよ」
「ね、ねぇ、待って!」
雪乃が叫ぶ。
「私まだ……今何が起きてるかちゃんとは分かってないけど、明日は学校来て?」
そう言って、雪乃はお見舞いと思って買ったパンを渡す。
だが、影人はそれを叩き落とす。
「うるせえな! さっさと帰れって言ってんだろ! だいたい俺は光司じゃないんだし、そんな心配してんじゃねーよ! それとも何だよ? お前良い奴に見られたいとか思ってんじゃねーのか? もう俺に関わんなよ!」
「あっ……その、ごめん……」
雪乃はその場を走り去る。
「す、杉崎! お、おい、影人……そんな言い方は……」
「何だよ、お前もさっさと帰れ」
「おい! 別に俺は良いがよ……杉崎はお前の事を心配して……第一、古海を助けに行かなくて良いのかよ!」
剛毅が影人の胸ぐらを掴む。
「あ……そりゃな……助けに行ける力があるなら助けに行くさ……だけど、俺は能力も使えねーんだぞ?」
「何!?」
「そんな奴が助けられるかよ……」
そう言って影人は剛毅手を掴んで離す。
「だけど、お前強いだろうがよ! 能力が無くてもよ……それに……俺だってアイツを助けに行く!」
「は? 俺が強いんじゃねーよ、俺ごときに負けたお前が弱いだけだ、そんなお前が助けに行った所で何ができるんだよ、分かったらさっさと帰れ」
「っツ……」
「良いんだよ……俺はどうせ柚香を助けようともできなかった軟弱者だ……俺はあいつを助ける気は無い……」
ベキィッ!
鈍い音が玄関に響く。
剛毅の拳が影人の頬を殴った。
「ったく! 見損なったぜ、じゃあな弱虫!」
そう言って剛毅も帰っていく。
「今日も来てないわね……」
水無月が前の席を見る。
でも、ユズカをどうやって助けに行くか……いや、そもそも私は助けに行くべきではないって、言われている。
でも……。
ユズカは光司が一番大事にしていた人。
「…………」




