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エピローグ

         *


 ワラサ国、国王の居城。

 城内の回廊で、カジカはうろたえていた。

「おいおいおい、とりあえず帰ってきたは良いけど、勇者の事どう説明すりゃいーんだよ?」

「確かに、勇者として注目を浴びるのが嫌で失踪しました! ――とは言えないよねぇ~?」

 コチも困惑しきった声で首を傾げた。

「あのぅ、巫女様の事は、言わない方がいいんですよね……?」

 心配そうに問うヤガラとは対称的に、シャコは簡単に言ったものだ。

「そりゃあ、余計な事は言わないに越した事ないわ。コノワタ教だって、あの偽物がいるから大丈夫よ」

「コハダさん達だけには、後で伝えておくべきかもしれませんね。まぁ、彼らが知ったところで魔界にいる二人を邪魔する術はないんですから。構わないでしょう」

 意外と思慮深く言葉を選ぶのはアイナメだ。

「……なーんか、魔王討伐のお役目を終えたと言うのに、隠し事の多い帰還になっちまったな」

「フフ、それもボク達らしくていいんじゃない?」

 溜め息をつくカジカの横で、コチが笑った。

「あ、そろそろ王様に帰還の報告する時間じゃない? いってらっしゃい!」

 まるで他人事のような言い方のシャコに、ヤガラがきょとんとする。

「え、シャコさん行かないんですか?」

「行かないわよ。いずれは城でも“仕事”をしたいし、できるだけ顔を知られたくないのよ」

(生粋の盗賊だな、コイツは……)

 カジカは内心で呆れたのだった。



 そして、カジカ達四人は謁見の間で国王と対面した。

「いや、此度のそなたらの働き、まことにご苦労であった。無事に魔王を成敗したそうではないか!」

 四人は一列に並んで片膝をつき、国王の予想通りのセリフを聞いている。

 だが、国王から賜った讃辞への身に余る光栄などと言う感慨は微塵もない。四人は魔王を倒してなどいないのだから。

「ああ。構わぬから楽にするがよい。……して、勇者イサキはどうしたのじゃ? 姿が見えぬが」

 さてどう答えたものか、とカジカ達が考えていると、アイナメが口を開いた。

「バックれました」

「…………」

 アイナメの爆弾発言に驚くのはもう何回目だろうか――カジカ達は遠くなりそうな意識で思う。

 当然、この場に居並ぶ重臣達も騒ぎ立てた。

「なんと申した?」

「勇者は自ら謁見を拒否したと?」

「まさか……」

 国王も厳しい目でアイナメを見据えた。

「何じゃと……?」

「勇者は見抜いたんですよ。ワラサ国での魔物に関する報道の全てが、王宮の仕組んだ情報操作であると」

 スラスラと語るアイナメに、大臣が激昂した。

「口を慎みなされ!!」

 周りに並んでいた兵士もアイナメを摘み出そうと近寄るが、それを国王が手で制した。

「なにゆえ、情報操作をする必要があったと言うのじゃ」

「勇者選抜トーナメントで稼ぐためですよ。ワラサ国の財政は火の車らしいですからね。だから魔物が人間を襲っただのと嘘の報道を流し、魔王討伐への気運を高めた。勇者討伐トーナメントに参加させるために……出場料と観戦料合わせたら、かなりの額になるでしょうからね」

「だーから、賞品も銅の剣みたいなセコい物だったのか! 経費を抑えないと入りが減る……から……」

 合点のいったカジカが思わず口に出してしまい、慌てて口を押さえる。

「無礼な……何故、我が国の報道が嘘だと言い切れるのじゃ!」

 さすがに国王も語尾を強めて言い返す。

「他の町や村では、魔物が友好的に人間社会に溶け込もうとしているからです。アイゴの町では畑の作物についた害虫を食べさせるためにナマハムの巣を作ったそうですが、異常繁殖し失敗しています。ですが、ヒラマサの町の魔物だけで構成された治安維持部隊の活躍など、成功例もちゃんとあるのです」

 国王は、諦めたように溜め息を零して、言った。

「何が、望みじゃ」

「は?」

「いや、もともと貴公らには褒美をとらせるつもりであった。何でも申すがよい」

「嫌ですねぇ。金にがめつい人間には、誰もが金目当てで強請りをするように見えてしまうのでしょうか」

「あ、じゃあ一つだけっ☆」

 アイナメがここぞとばかりに痛烈に皮肉を言っていると、コチが口を挟んだ。

「勇者くんは魔王との激戦の末に行方不明! ……という事にして、捜さないであげてください☆」

 にっこりと微笑んで言うコチに、カジカやヤガラも笑顔になった。


         *


 その頃、魔界のどこかにある洞窟では。

「さあ、今日の夕飯は巨大魚の塩焼きですよ~。イサキも魔王様も、たんと召し上がってくださいな!」

 ヒイラギが、大きな葉に魚を乗せて嬉しそうに運んできた。

「……ヒイラギ」

「はい? もしかしてイサキはお刺身がよろしかったかしら? でも、今日は寒いですから、体を暖めるためにも火を通した方が……」

「違ーーう!! そうじゃなくて、なんで魔王にまで晩メシ振る舞ってるワケ!?」

「だって、イサキが毎日魔王様のお仕事を邪魔しに行って喧嘩を売るから……一緒にいるとわかってたら、魔王様も呼ばないわけには参りませんわ」

「それは……ようやく魔王の怪我が完治したから、これで遠慮なく喧嘩を売れると思って!」

 気を遣ってるのか大人気ないのかわからない発言をするイサキを、魔王が注意する。

「……勇者、食事中は静かに食え。魔物達の手本にならん」

「うるせーよ! しかも一番旨いハラワタの部分食いやがって!! このお邪魔虫!!」




 ―――勇者が魔王を倒し、世界に平和が戻りました。

 聞こえの良い冒険譚も、本当は家出少年が影のある少女に惚れて駆け落ちしただけの事。


 ―――勇者には、共に戦った頼もしい仲間がいました。

 孤高を愛する剣士に、心根優しき武闘家。花も恥じらう美少女魔法使い……。

 ほら、これも全部大嘘。

 剣士は孤高を愛したわけじゃなく、女に見向きしなかっただけだとしたら?

 武闘家も優しいのではなく、極度に気が弱い泣き虫だったとしたら?

 擦れ違った者が皆振り返る魔法使いも、本当は……ね?


 ―――そう。真実なんて、フタを開けてみればこんなもの。




                〈完〉


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