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血と復讐のヤルマール  作者: しのみん
残された者たち
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激昂


コロナ騎士団精鋭3人の尽力により、ケルベロスをあと一歩というところまで追い詰めることに成功した。


残る戦力は俺とユノとダンゾウ、生き残った精鋭2人というこれ以上にない好機だ。


「ここで決着をつけよう」


俺は吐き出した息を吸って深呼吸する。まだケルベロスと直接合間見えたわけではない。ここまで持ちこたえられたのは誰がなんと言おうがコロナ騎士団のおかげだろう。


彼らが来ていなかったらと思うと絶望する。


「うっ……なに……」


ラストマッチを開始しようとしたその時、精鋭の1人が目の前で悶え苦しみ出したのだ。


「どうした!?」


もう1人の精鋭が彼の容態を確認しようと歩み寄る。体に目立った外傷は見られない。強いて言うならケルベロスの首を落としたときについた擦り傷のみだ。


「毒だ……さっきの攻撃で掠っちまった……最後にヘマしちまうとは情けねぇ」


「おい!しっかりしろ!死ぬな!」


これ以上、彼に呼びかけても無駄だと見越した彼はおもむろに立ち上がり、剣を構えた。


「待ってろ……すぐに皆の仇を討ち取って戻るからな」


予想外のところで戦力を失ってしまった。これでコロナ騎士団の連携攻撃は繰り出すことができない。


「やりましょう。 これで最後です」


刃を強く握りしめ、ケルベロスへの殺意を剥き出しにする。数多の命を奪ってきたものに下す制裁だ。


「ああ。頼みにしている」


これほどまでの絶望や人の死を見せつけられても狂気に飲まれず正気を保ち戦い続ける彼は本当にすごいと思う。人の死に慣れているのか、屈強な精神を持っているのかはわからないが常人のできることではない。


「来るぞ!」


気づけばケルベロスは俺たちの近くまで迫ってきていた。ここで倒れるわけにはいかない。正面からの突進を離散することで躱し、ユノの射撃が命中する位置に陽動する。


即座に接近してきた弾丸がケルベロスの体を掠める。しかし、その攻撃に怯むことなく、離散した騎士団員に迫り行く。


確実に攻撃対象を絞りきってやがる。俺にもダンゾウにも目もくれない。


これだけ戦い続けても衰えることのないその体力、ボロボロになって頭を二つ落とされても落ちぬそのスピード。奴のどこにそんな力があるというのだ。


「来やがれ化け物!」


散っていった他の団員、副団長ジークバルドの仇を取るために彼は剣を振りかざす。その双眼には殺意が宿る。


「ウガアアア!!!」


迫り来るケルベロスの鋭爪を紙一重でかわしきり、魔力で十分強化されたであろう剣を首元に食い込ませることに成功した。


「死ねぃ!」


一瞬、奴の息の根を止めたかと思ったがそれは間違いだった。ケルベロスの様子がおかしい。


致命の一撃を食らわせたはずだ。いつ死んでもおかしくない傷を負わせたのだから。


だが、奴は止まらなかった。それがケルベロスという種の特性なのか、本能なのか、はたまた復讐や怨念という類のものなのかはわからないが、奴を地獄に送るに至らなかったのである。


首に剣が刺さった状態でその真下にいる精鋭に溢れんばかりの火炎を吹いた。


「ああああああああああああああああああ!!!!」


悶絶する。叫ぶ。地獄の火炎が、業火がコロナ騎士団精鋭の身を焼く。


ついに彼は首に刺さった剣から手を放し、焼ける炎を払い、痛みとともに焼き爛れる皮膚を撒き散らした。


「ルークさん!!まずい……消火の魔術を……!!」


異変に気付いた他の団員が救出に向かう。しかし、その目の前には地獄の番犬が待ち構える。


「ちくしょう!」


俺とダンゾウが急行する。幸い、奴との距離はそこまで開いてない。次に殺されるのは俺たちの番だ。ここで止めなければ取り返しのつかないことになる。



決着はこの1分にかかっているだろう。この一瞬に全てをかける。


ケルベロスの攻撃範囲に入り込み、最接近する。奴が俺を見ている!殺される!


凄まじい速度の凶刃が迫る。


「死んでたまるかぁ!!」


その攻撃をかわせたのは長年培ってきた狩猟本能の賜物なのか、人生を終わらせたくないという気合いか、みんなを守りたいという正義感かはわからないが、完璧なタイミングで緊急回避することでそれをかわしたのである。


この距離なら殺れる!


最後のステップを踏み込み、渾身の力を込めてナイフを握り、斬りかかる。続いてダンゾウの大剣が前足にクリティカルヒットし、大きく体勢を崩した。







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