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血と復讐のヤルマール  作者: しのみん
残された者たち
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コロナ騎士団


「クッ!だめだ。躱せな……」


掠め取られる。奴の、ケルベロスの鉤爪に。


無理だ。死ぬ。ここまでか……!






ガキィン!!



しかし、その刃が柔らかい血肉を貫通した音とは程遠い鈍い音が俺の目の前で鳴り響いた。死への実感もなく、ただただ違和感だけを覚えた。


「一体どうなってんだ……?」


目を強く瞑っていたことも忘れて恐る恐るケルベロスの待つ光景へと目を見開いた。


そこに立っていたのは誇り高き騎士のマントを身に纏った男だった。


ケルベロスの凶刃を完全に手に持った剣一本で防ぎきっていた。剣を破壊してもおかしくない程の威力を誇る一撃必殺の爪を止めたのだ。


「コロナ騎士団……?」


このペルーからハイナギ山を越えてさらにその先に位置するコロナ城を守る精鋭騎士、コロナ騎士団。その実力はハンターのシルバー級〜プラチナ級に至るまで幅広いが副団長レベルになるとプラチナ級に値するとまで言われている。


「危機一髪といったところか」


騎士は一言俺にそう言って剣でケルベロスの爪を弾き返した。


あのケルベロスに距離を取らせたのだ。


俺は状況を飲み込めずに呆気にとられていたが一先ず強力な援軍が、いや救援が到着したということを理解した。


「それにしても、まぁ、よくこんな化け物と一戦交えようなんて思ったな……」


この見るからに強そうな騎士がそう言うのだから、このケルベロスは間違いなく普通の敵ではないのだろう。


ユノもダンゾウも突如現れた援軍たちに目を丸くしてその光景を見つめていた。次々と戦場に到着し、乱戦に参戦していくコロナ騎士団の騎士たち。その数はおよそ千。


彼らの加勢によって戦局は大きく傾いた。民兵たちの士気は最高潮にまで高まり、戦闘スキルを保有する騎士たちも死王デスマーチの軍勢を圧倒した。


「一体何が起こっているんだ……」


彼らはどこから現れたのか、今まで何をしていたのか、この状況をどこまで理解しているのか。


「団長に知らせろ!地下シェルター、アルカディアだ!!」


「わかりました!」


目の前の騎士が部下に命令している。となると団長はまだここに居ないということか。


「ヒーリングフェアリー、サモン!」


ケルベロスと対峙している騎士は魔術を唱え、フェアリーを召喚させた。こんな魔術、滅多に見られない。かなり高等魔術に違いない。


すると碧の光に包まれた妖精がどこからともなく降りてきて、この空間を小さな羽を動かしながら飛び回る。


「え……?」


みるみるうちに敵に受けた傷がふさがってゆく。それも俺だけじゃない。敵以外の全員を回復させている!これがこの妖精の効果だというのか。


「副団長、ジークバルド、参る」


俺がフェアリーの効果に釘付けになっている間に目の前の騎士は剣を縦に真っ直ぐ構え直し、ケルベロスに特攻してゆく。


「副団長だったのか、この人……」


俺は突っ立っているだけで何もできなかったが彼らの戦闘スタイルの邪魔をしようとも思わなかった。下手に動くと巻き込まれるか、足手まといになるだけだ。

この場はコロナ騎士団に任せた方がよさそうだ。





え?速っ!


ケルベロスとの距離は20メートルは開いてたはずだ。それをジークバルドは1秒足らずで接近し、ケルベロスの左首を高火力の斬撃で切り裂いたのだ。


電光石火の如き速さだった。


もちろん、左首は引き裂かれ、ぼとりと頭部が切断された。溢れんばかりの血が飛び散りグロテスクな光景が広がる。


しかし、ケルベロスが倒れる様子はない。俺の勘だが、頭部を全て破壊しなければ奴は死なないのだろう。一度態勢を立て直すためジークバルドは接近戦を得意とするケルベロスから距離を取る。


「しぶとい奴め。次で仕留めてやる」


「グオオオオオオオオオオオオオ!」


首を切られた痛みか、生まれてから離れたことのなかった左首を落とされた恨みかはわからないがケルベロスはジークバルドに咆哮した。


剣をもう一度構え、特攻しようとした刹那ーーーー


「断罪の時間だ」


空間に黒い亀裂が入り、そこから覗かせた刃がジークバルドの首元を掠めていった。


「!?」


紙一重でその斬撃を躱し、さらに下がったがその背後には死王デスマーチの巨躯が佇んでいた。


「喰らえ!」


それを察知したジークバルドは振り向きざまに光り放つ剣戟を振りはなった。


その剣撃は黒兜を弾き飛ばすのみで、肝心の本体には命中することはなかった。しかし、遂に謎に包まれた黒兜の正体をその目で捉えることに成功した。


頭蓋骨。黒兜の中には生身の肉体が入っているのではなく、ヒトの頭部の骨。すなわち頭蓋骨が隠されていたのだ。



「惜しかったな」


ジークバルドがその頭部に目を奪われているうちにデスマーチから伸びてきた腕が彼の喉元を強く掴んだ。


「これで魔術を唱えることはできぬ。死ね」


まずい。やばい。離れてそれを見ている俺にはなす術などないが、副団長の彼がここで退場してしまうのは絶望的だ。


そのままデスマーチは黒剣を振りかざし、勢いよくジークバルドの心臓部に向けてとどめの一撃を放つ。


「やめろおおおおおおぉ!!」


俺は叫ぶ。最後の望みが断たれるその瞬間を嘆く。


「そこまでだ!」


何もなかった空間から純白の翼と共に出現したそれが放った謎の光が黒剣による攻撃を遮る。魔術か剣術かは不明だが副団長が無残にも散っていく結末は免れた。


銀色に輝く髪、腰に携えた二本の剣、コロナ騎士団における最高の役職、その徽章を胸につけた彼は誰が見ても騎士団長ルシフェルだとわかった。





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