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血と復讐のヤルマール  作者: しのみん
2人の狩人
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決意

ジン、エルド、サクヤ、カズト。


全員死んだ。


俺とマナ、アレンを残して己の、たった1つの命を捧げて人生の幕を閉じた。


外を出た3人は夜が明けた眩しく清々しい朝日を浴びて、生きているという当たり前だけどかけがえのない生を全身に感じ取った。


「サクヤさん……そんなの……酷いよ……」


嗚咽を漏らしながらその大地に涙を零すのはマナだ。彼女がいなければ今頃全滅していただろう。

手で口を塞ぎながらポロポロと泣き、彼らの死を悼んでいる。


洞穴の入り口はもう既に原型をとどめてはいなかった。サクヤの最期の魔術による崩壊で洞穴ごと消えて無くなったのだ。もとよりそのつもりだったのかもしれない。何であれ、俺たちはあの4人に救済された。


「これがハンターの最期か……儚いものだ」


アレンも壮絶なハンターたちの死に様を間近で目の当たりにして感傷に浸る。

静かに閉じた洞窟の入り口で黙祷を捧げて戦友たちの犠牲を悼む。


彼は俺たちがここに来る前に既に戦闘に入っていた。山姥の圧倒的な速度により屍人の海へと葬られた魔術師と一緒に、だ。

俺とマナには何の接点もなかったが、彼からすれば長年培ってきた戦友とのハンターライフがあったはずなのだ。


死にゆくハンターたちがいる。


狩人にとって友の死は越えねばならぬ1つの壁だ。戦い続けていれば間違いなくいつかは別れの時が来る。


だが、カンナを失ってから俺には何も失うものが無かった。あの日に全て奪い取られたからだ。だからハンターのこの階級に至るまでソロで狩猟活動を行ってきた。


与えられた仕事を淡々とこなし、任務を遂行するのが俺の日常だった。もちろん、あの忌まわしき校長を殺すことが、そのための力をつけることが本来の目的ではあった。


しかし、いざ蓋を開けてみるとどうだ。


アレンに助けられ、マナに助けられ、あの4人に助けられた。そして遂に俺は何も失わなかった。一番無傷で帰ってきてしまった。


後になってあれこれと考えてしまうのは俺の昔からの悪い癖だ。

早い段階でもっとうまくやれたんじゃないのか?

1度戦った経験を全く活かせていなかったのではないか?

全員無傷で生還できたのではないか?


後悔を数えていくと本当にキリがない、



アレンは黙祷を終えていつの間にか2人の元に戻ってきていた。数多の銃を背負って出発の準備はもうできているという風だった。


「2人とも、これから……どうするんだ?」


「コロナ城に行くつもりだ。もとよりそのつもりだったんだ。あんたは?」


死したあの4人も目的地は本来、同じだったと聞いている。本当に今更過ぎるが同行してやれなかったのが残念でならない。


「俺もそうするつもりだ。何しろ、先の戦闘で銃弾を使い尽くしてしまってな。その補充と山姥の討伐報告をしなければ」


討伐報告か。これもハンター界での決まりごとなのだが討伐したモンスターの種や数は逐一報告しなければならず、基本はタブレットでするものなのだが大型モンスター討伐や異常事態発生時はできるだけ口頭で報告するのがマナーとなっている。


それにコロナ城にはハンター界の中でもかなりの上位ランカーが揃う本部が存在する。報告にはうってつけだし、装備やアイテムを購入するに最適の場所と言える。


「荷物を纏めてすぐに出発しよう。今日は眠れそうにない」


不眠不休で動きっぱなしだが、あんな戦闘を経験した直後にのうのうと休憩できるヴィジョンが見えない。今すぐにでもここを発ちたい。


3人は何も言わずにすぐに出発の準備に取り掛かる。元にいたテントまで戻ってテントを回収したり血だまりや壊れた武器や机を処分するのに時間を費やした。


彼らがヴァンパイアだとわかっていたなら校長へと辿り着く手がかりを得られたかもしれないが、それはもう後の祭りだ。いろいろ聞いておくべきだった。


数時間前までは何もかもが平和だった結界内は今や見るも無惨な姿へと形を変えている。時が戻ればいいのにとか、人が蘇ればいいのにとかはもう考えないことにしている。

どんな魔術師でもそんなことはできない。この世界の理を、概念を変えることは誰もができないことなんだ。


「ネオ、もういいかな?」


物陰から寂寥感のある声が俺の名を呼んだ。マナだろう。


「ああ。行こう」


血の付着した草を踏みしめて下山を開始する。朝靄がかかり、遠方が少し灰色に霞んで見えた。

だが、暗闇で戦ってきた俺たちからすればこれくらい大した問題ではなかった。


「あたし、もっと強くなりたい。他の人を守れるような、立派なハンターになりたい」


マナは不意に、自分にそう言い聞かせるように決意を述べた。彼女にとってもこの戦いは大きなものになったのだろう。人の死が人を強くする。3年前の俺がそうであったように。


「そうだな。俺もそう思うよ」


楽な道ではないことぐらい分かっている。

奴をぶち殺すために必要なのはヴァンパイアを屠るための戦力。しかし実際、戦力どころか俺はまだ何の手がかりも掴んでいない。


諦める気など毛頭無かった。だって俺には3年前から心の内に燃える復讐の炎があるのだから。









下山を開始すると後は比較的スムーズに麓までたどり着くことができた。予想外の敵に遭遇したため、マナの修行は一時中断し安全性を最優先に下山ルートを確保したからである。もちろん、アレンも無事にコロナ城まで送り届けるという目的も兼ねてだ。


疲弊しきった肉体を引きずりながらも敵に遭遇すれば瞬時に俺の魔術を展開させて討伐する。2人には指一本触れさせてなるものか。


索敵しながらの下山は磨り減った精神も悲鳴をあげたが、背に腹は変えられない。フライを使った飛行で下山も出来ぬわけではないが怪鳥やドラゴンの的になれば命の保証がないので止めておいた。



「もうすぐ到着だ。お疲れだったな」


漸くハイナギ山の地獄のハイキングも終了だ。思い返してみるとゴキブリと戦ったり山姥に殺されかけたりと碌な思い出がない。


コロナ城。産業、商業ともに発展した城塞都市。

オーガス共和国の東方に位置している。世界からはオーガス共和国に来たなら一度は行っておきたい観光名所のNo. 1に輝いている場所という認識らしい。確かに初めてここに来る者は皆、目をキラキラさせながら城を見て回っている。


そして何よりも有名なのが、コロナ城の最高戦力を保持しているコロナ騎士団。そこのマスター兼騎士団長ルシフェルが統括しており、整列から抜剣まで洗練されたモーションとその誇り高き姿勢は見るものすべてを魅了する。


城下は徹底的に交通整備がなされており、閑静な住宅街や商店街、デパートなんかも存在する。オーガス共和国の中でもかなり都会の方に入るので暮らすものは皆、VIPに違いない。もちろん全員が全員裕福でリッチなのかと言われるとそうではなく、乞食やホームレスも恵みを求めて集るのは何処へ行っても同じことだ。


ここまでスケールのデカい都市に足を踏み入れるとなると、マナとかが目を丸くしてテンションMaxで先へ進もうとするだろうなと予想していたが、想定外の出来事に生憎そんな展開にはならず重っ苦しい雰囲気でコロナ城へと向かうのだった。


ここまで来ればモンスターに遭遇することも滅多になく、時たま盗賊やヤクザの連中が悪行を働くこともあるが騎士という国家権力の前には風前の灯火でしかない。治安はかなりいい方だ。


ハイナギ山を抜けて市街地に入り次第に緑も少なくなってきたと感じ出したそんな中、夕暮れ時の路地裏に潜む二つの影があった。無言でコロナ城方面へと歩みを止めぬ3人を見つめニヤリと口元を緩ませては身を影に隠した。


山の麓から離れてこの時間帯でも人がちらほら見られるようになってきた。何やら慌ただしい雰囲気で皆それぞれの目的を果たすべく、荷物を抱えてすれ違ってゆく。


「ねぇ、ネオ。ずっと気になってたんだけどコロナ城に何しに行くの?」


ずっと黙り込んでいたマナがここへ来て漸く口を開いた。そう考えると俺はマナに修行のためにハイキングするとだけしか言っていなかった。彼女にとってはこれといってコロナ城に赴く理由などないのだ。


「それはだな、マスター総会に出席するためだ」


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