賑やかな夕食
3合目
俺とマナの後ろから4人がそそくさとついてきている。
何があっても俺が守ってやれる余裕などない。赤の他人だ。
この旅は俺とマナの復讐の旅だ。他人の都合など知ったことか。
「本当にいいの?あの人たち困ってるよ」
「あいにく俺はガイドでもポリスでもない。ただのハンターに道案内をしろと言われても承諾する義理はない」
「ネオは性格悪いよね〜」
「ほっとけ」
なんだかんだで3合目か‥‥あのゴキブリのせいで無駄に進んでしまったが気にするほどのことではない。
今はいち早く校長へ通じる情報が欲しい。のんびり旅をするのも悪くはないのだが大前提として奴の抹殺があるから最早旅はマナの修行のついでだ。
「次はフラッシュジャンプを習得してもらう。あれは咄嗟の状況において退くも進むも絶大な効果を発揮する。術式を教える」
山道を進みつつ一通りの説明を終えて何度かマナに練習させる。
足に一定量の魔力を注ぎ込み、跳躍する。
「慣れてくれば軽く50メートルは跳べるぞ」
「マジで?」
「瞬発力だけは一級品だ」
緊急回避するときにも使えるし、離れた敵も一瞬にして距離を詰められる。勢いに任せて攻撃すれば速度エネルギーも加わって攻撃力が倍増する。
「まずはフライ、クエン、フラッシュジャンプの3つをマスターしてもらう。攻撃系の魔術がないのが不安だがそれまでの敵は俺がなんとかしよう」
「なんか逃げるための魔術しか教えてもらってない気がするんだけど」
マナはなんとなく不満げな表情で俺にぼやいた。
「逃げもできないのに攻撃しようなど愚の骨頂だな。身の程を知れ」
「はぁい」
悔しそうに返事をしてマナは早速反復練習を始めた。
魔力が尽きればエリクサーを飲ませ、練習し、モンスターが出れば俺が倒す。というサイクルを繰り返した。
そうしている間も後ろから離れずに4人のハンターはついてくるのであった。
5合目
「そろそろ辺りも暗くなってきたか‥‥今日はここまでだ。この辺りはまだ立地条件がマシな方だからテントを張って寝るとするか」
俺はせっせとテントを準備して数人は泊まることのできるスペースを確保する。別に2人だけだから無駄に広くても意味はないのだが。
「なんかキャンプみたいだね」
「すごい気楽だよなお前。もうちょっと緊張感持てよ‥‥モンスターとかいつ出るかわからんのだから」
「だって〜こんなの初めてだし〜」
遠足気分だなこいつ‥‥結構な練習量だから疲れていて当然なんだけど‥‥タフなやつだ。
「まぁいい。周囲にモンスターよけの結界を張っておく。ある程度のモンスターなら近づけないようにしておく」
「さすがネオ!私にできないことを平然とやってのける!そこにシビれる憧れるぅ!!」
うるせぇよ‥‥
「アラウンドシールド・ダークネス」
念には念を。この二重構造を突破してくる奴などそうはいないはず。
「ついでだ。そこの4人組も入れよ」
呆然と立ち尽くしている4人組に声をかけ、バリア内に入るように促した。
「あ、ありがとうございます!」
ヒーラーの青年が深々と頭を下げて礼を言った。
「名はなんていう?」
「僕はジン。ヒーラーです!隣のこいつが剣士のカズト。あの亭主関白なハンマー使いのおっちゃんがエルド。黒魔術専門の女の子はサクヤ」
これはこれはご丁寧な自己紹介をありがとう。
エルド以外は紹介されるたびにお辞儀をしていた。エルドがいなけりゃもっとうまくローテーションを組めるのかもしれないが、まぁ俺が干渉する場面ではない。
「まぁあと半分だ。峠を越えるぐらいならできるんじゃねぇの?」
モンスターは全部俺が狩っているからこいつらに関しては安全だし。
何人、人が死のうが関係ないけどさすがに目の前にいる人間が死ぬのを見るのはやってられない気分になる。
できることなら守ってあげたいが。その保証はできないってのが本音だ。
「はい!頑張ります!」
どうやら悪い奴らではなさそうだ。
「ネオ〜お腹空いた〜。なんかないの〜?」
「オークとコボルドの肉ならさっき剥ぎ取ったんだが食うか?」
「それ、美味しいの?」
「味は悪くない。オークの肉は少し硬めだけど」
俺は先ほど剥ぎ取った肉をパックから取り出してマナに差し渡した。
「じゃあ、今晩は焼肉だね!あたし、火の魔術ならちょっとは使えるよ!」
料理するのに火の魔術などちょっとだけで十分だ。俺の戦闘用の魔術では消し炭になる。
「じゃあ火はマナに任せるか」
「任された!」
マナは元気に敬礼のポーズを取り、俺がセットしておいた肉焼きセットに火を灯した。
「おい!お前らも来いよ!肉が余りそうだ!」
働かざる者食うべからずと言いたいところだがさすがに4人を放置しておくのもなんなので俺は仕方なく声をかけた。
「なんだ〜ネオ、優しいとこあんじゃん〜ツンデレってやつ?」
マナがニヤニヤしながら俺をからかった。
「勘弁してくれ。ついでだついで」
俺たちに加えてパーティメンバー4人で火を囲んだ。
取り皿に調味料を注いで肉をセットする。山菜なんかも途中で少し採集しておいた。
こんなに賑やかな食事は久しぶりだ。
「お前らはこの山を越えてどこに行く?」
会話の機会が無かったのでこの際ここで色々と聞いておこう。これから何かの縁で世話になるかもしれないし。
「コロナ城です」
ヒーラーの青年、ジンは答えた。俺たちとまったく同じ目的地を。




