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血と復讐のヤルマール  作者: しのみん
2人の狩人
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VS巨大ゴキブリ

一瞬、目の前の謎の黒い物体に目を疑った。


なんだ‥‥‥これは‥‥‥


言葉も出ない。


っていうか見たことがない。


前回登ったときこんなヤツはいなかったはずだ。


俺は今、この巨大ゴキブリと面と向かって睨み合う形になっている。まだ振り返って数秒。


脳の神経が体に逃げろと信号を送る。


「フラッシュジャンプ」


自分より横にも縦にも背の高いゴキブリから逃げるには飛び越えてしまうのが手っ取り早いと思った俺は瞬間で背後までジャンプし、俺の後ろにいたマナにバトンタッチする。


「マナ!さっそく実戦だ!こいつを倒せ!」


「無理無理無理無理無理無理!!!!!」


多分、後で彼女には恨まれるだろうが今はそんなこと言ってられない。あんなのと戦うのはごめんだ。


「フライ!!」


マナも俺と同じ判断をしたのか完全に逃げの態勢を取っていた。


しかもかなりのスピードで空に上がってさっきとは比べ物にならないくらいの速度で飛んでいった。


「ぎゃあああああああ!!!!!」


このパニックの精神状態であの速度のフライができるとは火事場の馬鹿力とはいえやはり天才か。


巨大ゴキブリは完全にマナにターゲットを絞り込んだのか、飛ぶ彼女を巨大な羽を広げて追いかけていった。


虫とは思えない羽音に耳を塞ぎたくなる。


しかし、さすがにここでマナに死なれても困るな。どうせ今のあいつでは空中で魔術を発動できねぇだろうし。


あれと近接戦闘はしたくないし、武器で斬ったり突いたりしても感触とか残るしなぁ‥‥魔術で援護するしかないな。


「プロメテウスの焔」


プロメテウスの焔は火の神によってもたらされた力の一部を制御することにより対象の肉体を焼き尽くす黒魔術。


範囲は狭いが単体に当たれば水中にでも入らない限り消えることなく灰になるまで燃え続ける。


手のひらを上に向けて火球を作り出し、巨大ゴキブリの方へ静かに飛ばした。


手を離れた火球は速度を一気に加速させ、マナを追うゴキブリの羽に命中した。


飛行手段を燃やされ、空中感覚を失った巨大ゴキブリは瞬く間に高度を下げて山のどこかへ落下していった。


汚物は消毒。


「びっくりした‥‥‥なんだあのゴキブリ」


最近流行りのテラフ○ーマーかな?


今までハンターやってきてあんなキモいのは初めて見た。まだまだこの世界は未知が多いな。


さてさてマナを探さなくては大分飛んでいったから見失った。ここで迷えば彼女は多分死ぬから放置しておけないな。


「パーセプション」


周囲の魔力を感知する魔術。範囲は2キロ程でいいだろう。


1000メートル先に魔力反応が5つ。1500メートル先に2つ。


他にもここに来ている人間がいるのか。物好きな奴らだ。


多分600メートル先の反応のどれかがマナのものだろう。


だとすれば残りの4人は敵か味方か。


後者は魔力反応が強すぎる。只者ではない。


さっさと合流するとしよう。


「フライ」


魔力反応のある先まで一気にフライで加速させる。モンスターとすれ違っても相手にはしない。彼女の保護が最優先だ。


木にぶつからないように障害物の隙間を通り抜けてゆく。


虫と出会うたびに離れ離れになっては先が思いやられるな。


俺はしばらく進むと大木の枝につかまり、フライを解除する。下に5人の男女の姿が見える。彼らは俺の存在にまだ気づいていない。


マナの姿もあった。残りの4人はおっさん1人、若い男が2人、10代後半ぐらいの女の子が1人。


マナが彼らと話している。気配遮断スキルでしばらく様子を見るのもいいがここは出てきてやるか‥‥


「誰だ!」


上から下りてくると音を聞きつけたパーティのうちの1人が警戒の声をあげた。


「ネオ!さっきはありがとう‥‥」


「探したぞマナ‥‥彼らは?」


「なんか道に迷っちゃったんだって。どうせなら案内してあげようよ」


なんでそーなるんだ。こいつらの面倒をみたところで何のメリットもないだろうが。


パーセプションで見たところ魔力量はハンターの平均値ぐらいだし、まずこんな序盤で道に迷うようなパーティから得るものなど何もない。


装備を見ると黒髪のワイルドな服装のおっさんは打撃系のハンマー、若い男の1人が剣、もう1人がヒーラー、赤みがかったロングヘアの少女は攻撃系の魔術師か。


「嫌だな。言わせてもらうが君たちの実力ではハイナギ山を攻略できない。山頂付近で死ぬのがオチだ」


「何だとテメェ!!」


おっさんが腹を立て怒鳴り散らした。自分のパーティを侮辱されたのが気に食わなかったのだろう。


「これは忠告だ。進むのを諦めて下山するべきだな。下山するくらいならできるだろう?ここを真っ直ぐ下りていけば麓の村だ」


「いきなり出てきて好き勝手言いやがって!」


おっさんが殴りかかろうと近づくが隣にいた青年たちに落ち着けと抑えられていた。


「す、すみません!迷惑でしたよね?おとなしく帰ります!ね、エルド」


「黙れ!小娘が!俺たちはここを攻略するんだ!」


エルドと呼ばれていたおっさんが叫ぶ。

よくこれで生き延びてこられたな。


「じゃあ、ついて行くだけでもダメですか?」


茶髪のヒーラーの若者が俺に言った。


「勝手にしろ。いくぞマナ」


俺はマナの手を取ってさっさと先に進み始めた。

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