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血と復讐のヤルマール  作者: しのみん
2人の狩人
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貧民街

ハイナギ山の麓


「なんか、静かになったね?」


輝いていた太陽も雲に隠れ、人気もなくなったところに来てマナは口を開いた。冷たい風が吹き抜ける。


「ここから先はモンスター出現区域だ。気を抜くな」


並木道の木の葉も次第に枯れ葉へと姿を変え、ハイナギ山の麓にある小さな村が見えてきた。


「この辺りのモンスターって強いの?」


「中にはヤバいのも居るな。特に山姥やまんばには要注意だ」


「山姥?」


「一度ここの頂上付近で戦ったことがある。ずっと言い伝えや伝説だと思っていたが、実在するのは確かだ」


マナはそれ以上は山姥について言及しなかったが俺はその戦いに1年前敗北している。サンダル大学での事件に加えて1つのトラウマと化している。


「遭遇しなければいいのだが」


「その露骨なフラグやめてくれる!?」



村の入り口から村全体を眺めてみる。


木やコンクリートでできた家が点々と並んでいるが、そのどれもがとても高級だとは言い難いものばかりだった。


立地条件は最悪、時よりモンスターが辺りを徘徊し女、子供を連れさらう事件も多発している。数日後にはその村人の死体がハンターに見つけられる。


そのほとんどが悲惨な最期を迎えている。


見つけられるだけマシな方だ。行方不明者があとを絶たない。


この地域において貧困であるということはいつ死ぬかわからない危険に悩まされながら生きることになる。


村の中の掲示板には数え切れないほどの張り紙が貼られてあった。


過去何年も前のものからつい昨日のものまで、救いを待つ住民たちの依頼が大量にあった。


「ここってそんなに酷い地域なの‥‥?」


「ああ。地図からいつ無くなってもおかしくない。貧民街に属するからこれらの依頼の報酬もペルーやハインに比べたらずっと低い。だから誰もクエストなんか受けない。悪循環だよ」


依頼の文章を書けるだけの余裕がある。貧民街の中ではどちらかと言うと裕福な部類だ。


残飯や空になった物資が溢れたゴミ箱、水が出なくなった噴水広場、錆び付いて今にも千切れてしまいそうな鎖のブランコ、電気が通っていない街灯。


何年間も整備されていないのが一目でわかる。


さらに奥に進むとくたびれた服を着た住民の他に乞食やホームレスが物乞いや救済を求めている。


「誰か!私の子どもを知りませんか!?リトのことを‥‥」


「お金‥‥‥どうか少しだけでも‥‥‥」


「ニーナのことを!どなたか!」


「うちの子が病に‥‥」


俺は特に気にもとめず通過する。


あれ、マナがいない。


「リトくんとニーナちゃんね!探してみるよ!お金?お金はあんまり持ってなくて‥‥」


何やってんだアイツ。


俺の背後で飢えた住民たちにたかられているマナの姿があった。


俺は何も言わずにマナの手を取って力強く引っ張った。


「馬鹿なんだな?」


「なにが!?」


「お前はハンターだろ!化け物退治の専売特許だろ?!ヘルパーの連中じゃない」


「だからって放っておくの?!」


ああ。こいつは自分を殺そうとした敵も救おうとするほどのお人好しだった。


まずはそこから治さねばならんのか。


「どうせ死んでる。それにもしここにいる奴らを数人助けたところで根本的な解決には至らない。それよりもマナが強くなることで救える奴らが大勢いる。目先のものにとらわれるな」


マナは唇を尖らせていたが仕方なくついてきてくれた。


ずっと前にもこんな光景があった気がする。


慈悲深い行為や奉仕活動を好んでするようなお人好しで優劣の差や上下関係を嫌う心の澄み切った人。


マナではなく、別の人がここではないどこかで同じようなことをした。


俺は不意に懐かしい思いに駆られ前を見つめたまま沈黙していた。


「ネオ?」


「‥‥‥いや、何でもない」


マナの声で我に返る。


「行こう。あの壊れかけの扉の先がハイナギ山の入り口だ」


ハイレベルのハンターしか足を踏み入れることのない場所。


生半可な気持ちで挑んだハンターたちがその日に帰って来なかったという噂もよく聞く話だ。ここに限ったことではない。


鉄製の扉にはここから先、住民の立ち入りを禁止する。と刻まれていた。


「ね、ねぇ‥‥ほんとに行くの?なんか怖くなってきたんだけど‥‥」


「何を今更。ここで怖気付いていては校長の足元にも及ばんぞ」


扉は低い音を立てながら静かに開いた。


「さぁ、ハイキングのスタートだ」


不安げな表情のマナに目の前をじっと見つめる俺が言った。


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