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血と復讐のヤルマール  作者: しのみん
2人の狩人
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リスタート

マナの身体が重力に引き寄せられて髪の毛をなびかせながら落ちていく。


この血は誰の血だ。私の血か。とでも言いたげな表情で虚ろな眼差しをしながら落ちていく。


「!?」


そして彼女は我に返った。


目を見開き、自分の血ではなくネオという男の血であると気づく。


俺は間に合ったのだ。いや、間に合わせたと言ったほうが正しい表現だろうか。


フラッシュジャンプでマナに体当たりしなければククリは彼女の喉を掻っ切っていたに違いない。


どんな魔術を用いても死んだ人間は蘇らない。しかし、生きてさえすれば再起可能である。


上腕三頭筋が引き裂かれ深い傷を負ってしまった。


おかげで右腕が使い物にならない。止血しなければ。


死に際に放った一撃にすべての力を込めていたであろうアサシンは死してなおも黒いフードから顔を現さず絶命していた。


痛みには慣れている。いつからだろう。

気づけばハンターになり、プラチナ級ともなると痛覚に敏感に反応しない身体ができあがっていた。


しかしそれは逆に言えば、命の危険が迫っていても気づかないということなのだ。


命懸けの仕事なのに痛みに鈍いなんてな。


だが、さすがにこれだけ深々と刃物が刺さればやはり痛みが生じる。


鬼と戦った時よりもはっきり言って痛いんだが。


「マナ、治療を頼む」


「ごめん‥‥‥なさい」


やっと正気に戻ったのはいいけど隣でそんな顔して泣かれたら治療される方も気が気でない。


マナは自らの手に魔力を灯し、俺の深い傷口に手を当てる。ゆっくりと丁寧に傷付いた腕を治癒していく。


「助ける相手を間違えるな。カンナもそうだったが君の家系はすべてを平等に、対等に扱い、不公平なく優しさを与えていく。癒しを分け与える。それはハンターの仕事にはきっと適さない」


白魔術の使い手、ヒーラーなどにはもってこいの性質なのだが。汚れ仕事をするこの職業で優しさは命取りなのだ。


もう傷口が塞がりかけている。ほぼ無傷の状態にまで戻りつつある。


3年前に俺は心の闇を抱えて以来、白魔術が苦手になった。代わりに黒魔術はみるみるうちに上達し、その力を使いこなせるようにまで成長した。


穢れたのだ、俺の心は。


そう考えたらマナはベストパートナーと呼ぶべき存在なのかもしれない。


俺とは正反対。カンナよりかは少し気性が荒い気もするが、あんな聖人の方が稀であろう。


「まぁ、初の対人戦にしてはなかなか悪くなかったぞ。成長の見込みはある」



「私‥‥頑張るから‥‥」


そういえばあの刺客。暗殺者は誰が手配したのだろうか。死んでしまっては情報の聞き取りようがない。


俺の予想は昨日の絡んできたチンピラ共に関係があるってこと。職業には正式にヤクザというものも存在する。


いつ道を踏み間違えたのかは知らないが、その組織の一員である可能性は高い。


今回のこのアサシン、昨日のチンピラとはわけが違う。


ヤクザもマスターにまでなれば敵に回すと厄介な相手だ。


ブラックリストに載らなければいいのだが。





しばらくしてマナの治療も終わって俺はアサシンの死体に近づき装備品を身包み剥いでいった。


ククリナイフ、単発銃の他に火炎瓶、約400クラン入った財布、瞬間転移石などが見つかった。


敵への手がかりが掴めそうなものはなかったか‥‥

しかしレアアイテムである瞬間転移結晶が入っていたのは幸運だ。


アクアマリンのような藍玉に光る結晶。俺がサンダル大学から生き残ったのもこれを託してくれたティーチャーのおかげなのだ。あの場に居たならきっと死んでいた。


この瞬間転移結晶は瞬間移動する場所は指定できないタイプのものだ。指定できるものならさらに高価な値が付く。


「お前の報酬だ。全部持ってけ」


俺が装備一式を渡すとさっきまで泣いていたはずのマナは一気に元気を取り戻し、上機嫌になった。


「お金が入ってる!ねぇ、この綺麗な宝石みたいなのは何??」


マナは目をキラキラ輝かせながら結晶を空にかざし、興味を示していた。


「その効力結晶は瞬間転移結晶だ。割ればこの世界のどこかに瞬間移動できる」


「どこかって、どこ?」


「さぁ?深海やマグマの中はさすがに無いが、場合によってはとある戦場や魔物が蔓延はびこる墓地にも飛ばされる」


残念ながらそうなったときはもう諦めるしか無い。


「なーんだ。海外旅行には行けないのかー」


そんな空想を膨らませていたのかこの楽観的な女は‥‥。


「海外旅行?まさか。その逆さ。やばいときに使うんだよ」


「やばいときって?」


「ハンターなら大体わかるだろ‥‥モンスターに殺されそうなとき、一世一代の大博打に負けて借金取りに追われそうなとき。まぁ要するに絶体絶命のときがそれの使いどきだ」


それを使うときが来なければいいが‥‥それを使うときは本当に最悪なケース、すなわち最終手段しか使えない。


もう二度と使いたくない。


「まぁ、ネオがいるなら必要ないアイテムよね」


「俺を過信するな。俺だって人間だ。死ぬときは普通に死ぬさ」


だがあの校長を殺すまではまだくたばるわけにはいかない。命懸けだろうがなんだろうが死なないことは狩りの大前提だ。


「さぁ、気をとり直して出発だ」

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