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血と復讐のヤルマール  作者: しのみん
新たなる希望
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雷の化身

「残るはお前だけだ。赤鬼」


彼は首から大量出血している死体を前に、その奥で仁王立ちしている赤鬼を鋭い目つきで見据えていた。


すぐに青鬼の身体がドサリと地面に崩れ落ちてドクドクと血液がペルーの大地に流れていった。


状況は優勢だ!これは勝てるかもしれない‥‥!

少なくとも2体は再起不能だからいざとなれば逃げられる!


「さっきから仁王立ちしているが何のつもりだ。俺に勝てるとでも思っているのか?慢心しているのか?」


彼は棺桶から取り出した1本の太刀を手に握ったまま血だまりを踏みつけて赤鬼の前に立ち塞がった。


黒のブーツに血液が飛び散った。よく見ると彼の装備は鬼の返り血にまみれていた。


彼も私と同じく何かを感知しているはずだ‥‥あの赤鬼は何かまだ隠し持っている!


相手にとって不利なこの状況を1発逆転できるような、すべてを覆す切り札を。


だから彼も迂闊に手を出すことが出来ない。


「‥‥‥‥まさか‥‥!」


彼は自分の身長よりもかなり高い赤鬼を見上げ、ふと思いついたように魔術を高速詠唱し始めた。


「アクシリアリィマジック!エレクトリック・アーマー。ライトニングディフェンス。サンダーシールド!」


すべて雷属性カット系統の防御魔術だ。

確かに鬼といえば雷を使うイメージがあるし、さっきも鬼が雷を帯びていたがそこまで雷耐性を上昇させる必要があるのか‥‥‥


「来い!!」


「グガアアアアアアアアアアアアァァァ!!!」


彼が手を天に翳し、鬼は強く唸った。

鬼の唸り声が振動となって辺りの空気がピリピリと震えだす。

まるで空気中に電気が流れているようだ。


これがあの鬼の奥義の兆候なのか‥‥?


大地が揺れているようだ。自らの意思を持っているように。


そして次の瞬間、耳が壊れるほどの音で轟いた雷鳴と眩い光と共に巨大な稲妻が彼の立つ場所にピンポイントで落雷した。


同時に地面に亀裂が入り、壊れかけていた建物は衝撃で吹き飛んで行った。


私も衝撃に耐えられずに数メートル吹き飛ばされた上に、光と音で何が起こったのか全く理解できなかった。


耳が‥‥!


キンキン鳴って意識も朦朧としている。

さっきユノがフラッシュグレネードを使っていたがその比ではない。


「あああ‥‥‥生きてる‥‥‥一体何が‥‥‥」


やっと意識が回復した。少し咳き込んで、辺りを見回す。


確か落雷した場所から50メートルぐらいは離れてたはずなんだけど‥‥‥?


建物は倒壊し、地面もボコボコになってる。コンクリートなのに‥‥‥これがさっきと同じ場所なのか?!


景色がまるで違う。


彼は‥‥‥‥!?


まだ少し霞んでいる私の視界には確かに落雷地点で立っている1人の男が映っていた。


「驚いたな‥‥。まさかこれほどとは‥‥‥」


頭から少し出血していたが彼の命に別状はなかった。


どうやら魔術による防御はすべて破れてしまったようだ。


そこに対面する赤の鬼。


すでに絶命していた。


すべての力をさっきの技に込めたからなのか、彼がトドメをしたからなのかは私に知るすべはなかった。


「おい、マナ。そこに居るんだろう?もう安全だから来いよ」


まさか最初から隠れていたのがバレていたのか!


「ねぇ、大丈夫なの!?」


私は彼の元まで駆け寄って尋ねた。


「まぁなんとかな。それより棺桶を回収しに行かないと‥‥」


彼は崩れた家の瓦礫から黒とさびの間みたいな色の南京錠と鎖が大量に付けられた棺桶を取り出した。


なんか中世のとある街とかで使われてそうなイカしたデザインの棺桶だった。


「助けてくれてありがと‥‥。あの‥‥名前‥‥教えてくれませんか?」


その時、雫が炎上する街の空から一滴落ちてきて私の頬を伝った。


雷を落とすほどの灰色の積乱雲がペルーの空を覆い尽くしていた。もうじき雨が降るかもしれない。


「礼なんていいさ。仕事だからな。俺の名はネオ。ネオ=イカロスだ。プラチナ級の狩人ハンターだ」


ネオはポケットから白金に輝くピンを私に見せて言った。


プ、プラチナ‥‥級ですか。


彼の強さとピンの輝きに思わず呆気に取られる。


「そんなたいそうなもんじゃないさ」


雨が強まる中、彼はやっと少しだけ笑った。


私はその微笑みを見て何故だかわからないけれど涙が止まらなくなった。


声をあげて何年かぶりに泣いた。嗚咽が止まらないほどに。


もう鬼が討伐されたから安心して張り詰めていた緊張がほぐれたからだろうか?


レオトにダンゾウ、そしてユノが見つからなかったからだろうか?


故郷がなくなってしまったからだろうか?


しかしそれは明らかに恐怖によるものではなく少しの温かみを帯びた涙だった。


ネオは優しく、大きなやはり黒いマントを私に被せて雨をしのいでくれるのだった。


「もう人が死ぬことはない。少し休もう。時間はある」


雨に打たれながらも私とネオは瓦礫と血にまみれた道を2人で進んでゆくのだった。

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