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血と復讐のヤルマール  作者: しのみん
新たなる希望
30/84

悪鬼猛攻

「はぁ。はぁ。やっと元の場所まで戻って来れた‥‥」


私は辺りを見回して現状を把握しようと努めた。


ユノとダンゾウがいない。それどころか、ここまで走ってきたが人っ子一人見当たらなかった。


全員避難したのか‥‥‥それとも全員‥‥もう手遅れなのか‥‥


「ああああ……嫌……嫌だよ……ユノ、ダンゾウ……レオト……私のせいで……」


またも、人を助けられなかった。見捨ててしまった。そんな罪悪感に襲われる。どうして私だけが生きているのだろう。さっきまであんなに生きていられることが嬉しかったのに。あの男の人に助けられて命を救われて死ぬほど感謝してもしたりないほど嬉しかったのに。


あの3人が生きてなければ意味がないんだ。価値がないんだ。


この街はもう終わりだ。


私たちの故郷は消滅してしまった。


たった3体の鬼によって。


「あ‥‥‥」


すぐ近くの大通りの奥に4人の生存者を発見する。


もしかしてみんながあそこにいるのではという希望を私は一瞬だけ、持ってしまったのだ。


しかし、そんな僅かな希望も現実という壁の前に儚く消えていくのだった。


高身長が3人と少し低めの棺桶を背負った男が1人。


それだけであの3人ではないことが私にははっきりと認識できた。


それでも、もう少し近づいてみよう。煙で前が霞んではっきりと目視できない。


私は恐る恐る足を前に踏み出して炎上する大通りをゆっくりと進む。


そのとき確かに、淡い希望を抱いた私が救いようのない楽観的な愚民であると自覚した。希望が絶望に変わる瞬間を目撃したのだ。


「!?」


違う。高身長が3人ではない。モンスターが、いや鬼が3体の間違いだった。


そして最後の1人はさっき大ジャンプをかました彼ではないか。さっき投げ飛ばしたであろう、巨大な棺桶を回収して背負っている。


赤鬼、青鬼、緑鬼の3体に彼は囲まれていた。


「待って。一旦落ち着こう。絶望している場合でもない」


さっきより状況が悪くなってませんかねぇ‥‥‥


そろそろ死を覚悟しておいた方がいいかもしれない。


彼は私に足手まといだと言った。だとすると今私がするべきことは回れ右してここから離れるか、物陰に隠れてこの戦闘を見守ることだろう。


でも回れ右してここから離れたとすると報酬を彼に支払うことができない。

=彼に殺される。


では戦闘を見守るとすると彼が負けた場合。

=鬼に殺される。


変わらねぇ!!


誰に殺されるかしか変わらねぇ!結局どっちも死ぬじゃん!


逆に考えよう。彼が勝ったら報酬さえ支払うことができたら生き残れる。

彼が負けても私がここから逃げたら多分生き残れる。


あの男が勝つ方に賭けるか、負ける方に賭けるか。

鬼が勝つ方に賭けるか、負ける方に賭けるか。


安全地帯での私の自問自答が開始された。









そして10秒ほど悩んだ末、


信じよう。あの男を。あの巨大な棺桶でどう戦うのかは知らないけれど信じるしかない。


さっきみたいに棺桶を投げて戦うのなら多分勝機はないけど。。


彼が鬼を討伐できればダンゾウ、ユノ、レオトを探しにも行ける。まだ死んだと決まったわけじゃない。その希望だけは捨てないでおこう。


「3体揃ったか。これは少しばかり面倒だな」


鬼は3体とも彼に視線を一点に集中させている。


彼は目の前の赤鬼だけを睨みつけて棺桶を背に突っ立っている。


「特にお前。この炎は貴様の仕業だな?」


彼は赤鬼を指差して言った。


赤鬼。ハンター集会所の掲示板には3体の鬼の中で最も強い戦力を持っているとの情報があった。


確実に一筋縄ではいかない相手だろう。


そしてさっきの青鬼と緑鬼。

ユノとダンゾウがいないのを考えると2人は緑鬼の足止めに失敗したのだろう。あの緑鬼の存在がそれを証明していた。アレがここにいる時点で、この世にまだ存在している時点であの2人は敗北したか逃亡したかの2択になる。


あまり良い結果ではないのは明らかだ。最悪の場合ーーー


私はここから先は考えるのを放棄した。


「来い」


彼は指先でジェスチャーをして軽く挑発する。


「グガアアアアアアァ!!」


先ず最初に動いたのは後方の緑鬼と青鬼。2体が同時に地面を踏み込み、金棒を彼に振り下ろした。互いに武器が当たらないように攻撃のタイミングだけはうまくズラしており、躱せなければ即死するコンボを初っ端から繰り出す。


「フラッシュジャンプ」


それを彼は先ほどの大ジャンプで緑と青鬼の間をすり抜けて前方の炎上する家屋までひとっ飛びすることで回避する。軽快な着地を決めて3体の鬼を視界から逃さぬように俯瞰できるポジションにつく。


「エレクトリック・アーマー」


彼はひとりでに魔術を詠唱し、背負っていた棺桶の錠を開けた。


「14番、鬼ヶ島」


棺桶の中から自分の身長より少し長めの太刀を取り出した。呟いた番号は入っている武器のナンバーなのだろうか。というか何故棺桶に武器を仕込んでいるのだろうか。


しかし彼が武器を取り出している間に赤鬼は彼が乗っている崩れかけの建物の柱目掛けて金棒をフルスイングする。


見事に柱は粉々に粉砕し、ガラガラと音を立てて建物が崩壊してゆく。ちなみに棺桶も建物に埋もれてしまった。


「危ない危ない」


すぐにフラッシュジャンプをしてどこに飛び移るのかと思えば緑鬼の鬼の背後に着地しーーーーー


背中合わせの状態でガラ空きの背中に太刀を突き刺した。


ノールックなのにその刃は的確に心臓を貫いていた。


「カハッ」


緑鬼の口からドバッと血が流れる。目を見開き、予想外の位置からの攻撃に身動きも取れない。


「依頼は緑鬼だけだからもう終わっていいかな」


は?


嘘でしょ?この状況で?


「まぁついでに狩っとくか」


何がついでだ。残りがメインでしょ明らかに!


即座に青鬼が緑鬼の遺体ごと彼を叩き潰そうと金棒を

振り翳す。


緑鬼の身体がグシャグシャになり、その背後にいた彼もまたその衝撃で吹き飛んだ。


彼が初めて間接的に攻撃を受けたことよりも、青鬼が瀕死の緑鬼にトドメをしたことに衝撃が走った。

同胞を躊躇なく葬ることができるその感性だけは私には理解できなかった。鬼のことなど私にはわからないが、あれだけコンビネーションが整っているのに何のためらいもなく殺すのか、と。



そして、衝撃により図書館の柱に衝突した彼は辛うじて太刀は握っていたが体勢を立て直すことができない。


そこに追い打ちをかけるように、助走をつけて電気を帯びた赤鬼がタックルしてくる。


瞬時に太刀でその攻撃を防いだが電流が彼の体にも伝わり、感電している。あの巨躯の体当たりを受けて致命傷を負わない彼もまた化け物のようだが。


「クエン!」


バックステップして防御型魔術を唱える。薄い膜が彼の身体を包み込む。物理攻撃を一撃だけほぼ無効にし、破られた時に相手に反動を与える魔術だ。


「なかなかやるな。エレクトリック・アーマーがなければ重症だった」


赤鬼は依然として身体中に電気を帯びている。金棒も例外ではない。


すると赤鬼は攻撃体勢を解除し、いきなり仁王立ちをし始めた。


青鬼がフルスピードで金棒を正面に突き立てて突進してくる。


その攻撃を彼はあえて受けてクエンによる衝撃を生み出し、青鬼に一瞬の怯みを与えた。


「かかったな。馬鹿め!」


電流を帯びていない青鬼の物理攻撃は難なくクエンで防御し、その隙を突くように即座にカウンターを決めにかかる。受け身の姿勢から抜刀するように青鬼の咽喉元に刃を突きつけて内側に滑り込ませる。


「グ‥‥ガァ‥‥‥」


体勢を立て直すこともできずにやられるがままの青鬼は小さく悲鳴をあげるしかなく、吐血し、目に少し涙を浮かべた。


「鬼の目にも涙か。じゃあな」


彼は天に祈る暇さえ与えず、慈悲なき一撃でそのまま頭部を切り抜いて青鬼の息の根は止まった。

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