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血と復讐のヤルマール  作者: しのみん
新たなる希望
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鬼殺しの風来坊

「この様子じゃ、全滅かな‥‥‥‥雑魚しかいないのかここは。ん?1人生きてる?」


巨大な金棒を持つ青鬼が私の目の前に立ちはだかっており声の主の姿が目視できないが、その奥には確かに人が存在しているのだった。呑気にこの地獄の有り様を軽々しく口にしては、慈悲もなくここにいたハンターの弱さに文句を言うのだった。


助けてくれるのなら誰だって構わない。このままでは絶対に私は死ぬ。


「鬼さん、殺人の途中で悪いがレディに手をあげるのは男として、いやバーサーカーとしてどうかと思うが?」


その男は怖がる様子もなく、この地獄絵図のような場所にスタスタと足を踏み入れてきた。


声だけでしか彼を捉えられる手立ては無かったが軽快なステップで鬼の背後まで接近し、立ち止まったような感じがした。


「グガァ!!」


空気を微塵も読まない彼の行動が逆鱗に触れたのか青鬼は背後にいる彼に金棒を振り下ろした。


一瞬だった。


次に聞こえた音は首が折れた音でも頭が吹き飛んだ音でもなく、重たそうな物体に衝突したような低く、鈍い音だった。


「まぁ落ち着けよ。‥‥‥はぁ。鬼に言っても仕方ないよな‥‥」


青鬼は息を荒々しく吐きながら彼を遮る物体を粉砕しようと両手で金棒を握り力を込める。腕の太い血管がメキメキと強調される。あの速度の攻撃をガードするほどの瞬発力がその男にはあるということだ。


しかし彼は攻撃に微動だにせずに鬼に向かって退出を希望した。


「取り敢えず表へ出ろ。ケリつけてやる」


取り敢えず助かった。と安心するのはまだ早いだろうか?

まだ青鬼は目の前にいるには変わり無いし集会所のハンターは全滅していたけれど、どこかでこの男なら鬼を倒してくれるのではないかという希望を見出していた。


「インパルス」


彼がそう言い放った瞬間、地震に似た衝撃とともに私の背後の集会所の扉が粉砕された。

そして私の目の前から一瞬にして青鬼が消失しているのだった。


代わりにその奥にいた男が私と初めて対面した。


「大丈夫か?怪我はないか?てか生きてる?」


腰を抜かし立ち上がることもままならない私に彼は優しく手を差し伸べた。


私はお礼を言うのも忘れて彼の手を取った。

その時初めて自分の血まみれの手を見て、手がハンターたちの血だまりに浸っていたのだと気づいた。


「だ、大丈夫です」


私はなんとか立ち上がってそう言った。まだ少し足がふらついている。血やら尿やら涙やらで醜態を晒しているのは自覚しているが、まだ生きているという事実がその全てを覆すほどに私に安心感を与えるのだった。


彼の第一印象は私よりも少し大人びた顔つきに全身黒尽くめの服装。

男性にしては背はあまり高くない方だがその割に体ががっちりしているのが特徴的だった。髪は少し長めの焦げ茶色で黒い瞳の奥には生命力溢れる爛々とした輝きがあった。


黒く膝下まである丈が長いフィールドコートに灰色のワイシャツとネクタイを着用している。


「奴は俺の武器と一緒に強制退出してもらったが、まだ生きてるだろう。武器を取りに行かなくては」


ってことは彼の武器は投擲系のものなのだろうか。


でも魔術を詠唱していた気もするけど‥‥‥


彼は壊れた集会所の扉からスタスタと武器を取りに出て行った。


名も知らぬ男性に命を救われてしまった。


あ、ダンゾウとユノのことをすっかり忘れていた。


2人に助けを呼ぶためにここまで来たんじゃないか!


この状況を打開できるのは彼しかいない。図々しいのは百も承知だが、彼に頼むしかない。


私は急いで集会所から離れる彼を追いかけた。


「君はどこかで会ったか?」


彼は私に背を向けたまま尋ねた。

この炎上した街に目もくれず冷静沈着で。


「い、いえ。多分会ってないです」


‥‥‥‥。


「そうか……」


彼は一言だけそう答えて少し考え込むように顎を撫でる。


「あの!私の仲間が緑の鬼と戦っているんです。助けて‥‥くれませんか?」


名前も出身も職業も知らない。

でもここで彼に頼る以外に私にできることが思いつかなかった。


「いくら払う?」


「え?」


「別に俺は鬼退治に来たんじゃない。仕事は料金が伴う」



そりゃそうだ。無償で助けてもらえるなんて虫がよすぎる。

命が懸かっているんだ。こちらにもむこうにも。


「いくらでも‥‥払います」


「そんなことを言って払えない連中は全員殺してきたが?」


ひええええええ。


上級のハンターやフリーランスのハンターは報酬の交渉取引を毎日のように行い、クエストに赴いている。


だがブロンズ級ハンターの私にはそんなクエストの相場はわからない。そもそも彼はハンターなのかすらもわからない。


よし、勘でいこう。


「5000クラン‥‥‥とかでどうでしょう?」


すると彼は眉をひそませて悩ましそうにして、


「う〜ん。少し安いな。それじゃあ足りない」


少し安いってことはなかなかいい線いってるぞこれは。。


「6000クラン!」


1000クラン上乗せすると彼は口元を緩ませて言った。


「決まりだ。コントラクト!」


魔術を唱えてまるでマジックを披露するかのように一枚の紙を掌から出現させた。


「ここにフルネームでサインを」


こんな緊急時にサインかよ!


と突っ込めるような立場ではないので黙って署名し、彼に手渡した。


「君は‥‥‥!」


私のサインを見て唐突に彼は大きく目を見開いた。まるでずっと探していたものが見つかったかのようなリアクションだ。


「え?なんですか?」


私がきょとんとしていると彼はすぐに真顔になってさっさと歩き始めた。


「いや……なんでもない」


紙を受け取ると彼の手から紙が焼失していった。


「この契約を破れば俺がこの手で君を殺しに行く」


「は、はいぃ!」


鬼が吹っ飛んでから数分経ったがまだ敵影を前方に確認出来ない。そんなに遠くまで吹っ飛ばしてしまったのだろうか。


私はあの鬼がいつどこから来るかビクビクしているのだけれど。


「あの急いでくれませんか?パーティメンバーが殺られたら大変なんで」


「そうだな‥‥距離は?」


「500メートル先くらいです」


「今、君が来たら足手まといだ。先に行く」


え?連れてってくれないの?


「フラッシュジャンプ」


そう唱えると彼の足元に青白い魔法陣が広がり、膝を曲げて一気に跳んでいった。


なんだ、あの大ジャンプ。


「武器を取りに行くんじゃないんですかぁー!」


彼に私の声が届くことはなく、一瞬にして私の目の前から消えていった。

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