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血と復讐のヤルマール  作者: しのみん
新たなる希望
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必死の戦闘

俺がこの状況ですべきことは一体何だったのか。どうすればゴブリン4体の攻撃を回避し反撃するまで持ち直せたのだろう。


何をするにせよ、すべきことができるわけではない。

まぁ、普通の人間ですから。


間違いなく俺は冷静な判断などできなくなっていたし、咄嗟に助けられる余裕のある仲間もいなかった。


そして恐怖心が高まり、知的な判断ができなくなっていた俺はこの状況において最も愚かな行動に出てしまった。


「あ、ああ‥‥」


一歩後ずさりし、眼前のゴブリンから視線をまっすぐ向けた状態で腰を抜かしてしまった。


機動力の欠片もねぇ‥‥俺‥‥


舐めていた。あなどっていた。軽視していた。ゴブリンごときと。


一瞬だけ、後悔の念が頭によぎった。


対策が甘すぎた。前もってできたことなど山ほどあったではないか。


ゴブリンの刃物が迫り来る。スピードは人間とほぼ同じだが、今の俺は人間に遠く及ばない。


結局頭を手で覆うことしかできず、腹と太腿の肉をえぐるようにブスリと刃が肌に食い込んだ。


「ああああああ!!痛い!痛い!」


下半身に今まで受けたことのない激痛が走る。


穴の空いた服から、傷口からドバッと血が流れてくる。


運が良かったのは急所に命中しなかっとことと、ゴブリンが4体一斉に攻撃するほどのスペースが無かったこと。


そして、まだ死んではいないということ。


この痛みのおかげで少しばかり目が覚め、恐怖心が和らいだ気がする。


「いてぇ‥‥!ちくしょう!!」


半分くらいパニックになりながら手に持っていたナイフ、腰に下げていた投げナイフをなりふり構わず投擲していく。


もはやゼロ距離の、しかも刃物を失った2体のゴブリンは防御する術もなく体にブスブス投げナイフが刺さっていた。


その両脇にいた残りのゴブリンは慌てて暴れ狂うレオトにトドメをさそうと向かってきた。


しかしその時、後方2、30メートルから聞こえた銃声とともに左側のゴブリンの脳天は撃ち抜かれてしまった。


間違いない。ユノだ。

彼女の狙撃によってゴブリンの攻撃が阻止された。


「キュアル!」


さらにまたもや後方から唱えられた回復魔術によって少しづつ下半身の痛みが抜けていく。距離が離れていても治癒効果があるとは知らなかった。

刃物は刺さったままだが、確かにさっきよりは随分とマシになった!


サンキュー、マナ。


残り少ない短剣を腰から1本引き抜いて攻撃に備える。もちろん腰は引けて立ち上がれないのには変わりないのだが。


右側の無傷のゴブリンが俺に飛び斬りをくらわせようとジャンプしたまま刃物を振り下ろす。どうやら完全にターゲットを俺に絞り込んでいるらしい。


それを短剣でガードし、接触部から火花が一瞬だけ飛んだ。


刃がぶつかり合ったまま、ゴブリンは着地しどちらが先に押し負けるかの力勝負になってしまった。


「はぁ‥‥はぁはぁ」


奴に一撃、あと一撃ダメージを負わせられたら勝てるのに!


そうだ!この腹に刺さった刃物を引き抜いて奴に刺せたら勝てるんじゃ‥‥


「くらえ!!」


迷ってる暇などなく、咄嗟に俺は腹に刺さった刃物を抜いて痛みに耐えながらもゴブリンの首筋に思いっきりそれを突き刺した。


柔らかい肉を切断するような気持ち悪い感触が指先に走った。


指にゴブリンの血がドバドバ流れては手首を伝ってゆく。


だんだん相手の力が抜けていき、やがて持っていた刃物は腕からこぼれ落ちた。


俺の投擲したナイフが刺さった目の前にいたゴブリン2体はユノの弾丸によって死亡していた。俺が右脇に集中していたせいか気づかなかっただけなのか。


「終わった‥‥‥?」


安堵の息を吐こうとしたその瞬間、大木の隅に倒れていたゴブリンが決死の覚悟で俺の頭部目掛けて飛び込んできた!


えっ?マジで‥‥


対応できない。気づくのが遅すぎた‥‥‥


しかしその緑の小鬼は俺まで届くことなく大木の幹まで送り返された。


瞬時に立ち塞がったダンゾウの大剣が宙を舞うゴブリンの体躯を先に捉えていたからだ。


おかげでゴブリンの首はもげてしまい、大木の傍で息を引き取っていた。


「た、助かった‥‥」


息をつく暇さえ与えてくれないほど一瞬の出来事だったように思える。危機が去ったことを漸く理解して安堵の声を漏らす。


周囲に敵がいないか確認し、後ろの2人も駆け寄ってきた。


「レオト!大丈夫?!」


マナが慌てて回復魔術を詠唱し、傷の治療に取り掛かった。見た感じではかなり出血しているみたいだ。


「ごめん‥‥マ‥‥ナ‥‥」


マナは太腿に深々と刺さった刃物を丁寧に抜き取っていたが、俺はあまりの苦痛に気を失ってしまった。



それからはゴブリンの所持品や部位を身ぐるみ剥ぎ取って、討伐の証拠としたりクランに変えるための略奪品となった。

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