スライムと戦おう!
主人公がこの章から変わります。
ーーーーーーーーーーーー3年後ーーーーーーーーーーーー
ーーーレオトーーー
3年前のあの惨劇はヤルマール帝国中に連日報道された。
討伐失敗してモンスターに捕食されたり殺人事件で死ぬのは頻繁に起こることなのだが、比較的平和なヤルマール帝国でここまで大規模な、しかもヴァンパイアによる大量殺人は極めて稀なケースで住民たちに衝撃を走らせた。
記事によると死者は約1万人、行方不明者約3200人なのだそうだ。
なぜかほぼ全員がヤルマール帝国の名門中の名門、サンダル大学の生徒であの惨劇と同時に大学は廃校となって、かなり有名な心霊スポットになっているらしい。
あれ以来、サンダル大学出身の”元”生徒は事件発生前の者しかこの世にはいない。とさえ言われていて出会ったならば幽霊だの、お化けだのと差別されるか同情されるかの2択になるのだろう。
少なくとも俺は会ったことも見たこともないし、ニュースでインタビューされてる姿も見かけなかった。
まぁ名門校とだけあって少し上の世代の生徒が大量虐殺に巻き込まれ生存者が見つからないというビッグニュースは平和なヤルマールでも隣のオーガス共和国にも衝撃を与えた。
まぁ、運が悪かったんだな‥‥‥ご愁傷様でした。
でも、確実に言えることが一つある。それは生存者が0ではないということ。
制服を着用した少年を歩いているのを見たとかなんとか噂は結構聞いたりもする。
つまり、生き残りはきっと存在するのだ。その血が人間である保証などないのだけれども。
「レオト!!そっち行った!なにぼーっとしてんの!」
はっ、とさせられ声が聞こえた左を向いた瞬間、俺はもう手遅れであると察した。
猛スピードで飛んでくる青のカタマリ。
その感触はヌルッとしていて攻撃力は低い!と読んでいたのだが、フルスピードのせいか腹に入って身体が少し吹っ飛んでいった。
目の前に広がる青い空、白い雲。
いや?青い空とかいう表現しましたけれどもそれは自分の上に乗っかっているベトベトしたスライムの青色がそう見えただけであって決して澄んだ青空が広がっているわけではなかった‥‥
「ぐわぁ!!腹に食らった!口にスライムが入った!気持ち悪い!」
スライムは腹から口へシフトするという謎の行動に出ておかげで窒息しそうになる。俺はわめきながらも口内に侵入してくるスライムを吐き出そうと躍起になった。
「もう!何やってんの!バカなの?」
少し離れたところからマナの厳しいツッコミが飛んできた。ツッコミを入れる暇があるなら取ってほしい。女の子に口の中のスライムを取ってもらうとかなかなか高度なプレイになりそうだ。しかし、こっちは命懸けだからそんな卑猥なことを考える余裕もなかった。
「レオト君、スライム潰したいんだけど大剣で斬ったら君の頭蓋骨が粉砕するけどいいかな?」
おっとりした性格の山崎ダンゾウがなんかエグいこと言ってんだけど?
要約すると俺がスライムを道連れに死ねということですよね?
こいつはあまり冗談通じねぇからマジで怖い!
「いいわけねーだろ!やめろ!マジで怖い!ダンゾウ!やめてくださいお願いします!‥‥‥いつまで俺の顔面にいるんだ!このネバネバ野郎!」
慌てて手で振りほどくが余計に手がネバネバして腕に絡みつき余計に狼狽する。
「き、汚ねぇ!手がぁ!誰か助けて!」
身体をジタバタさせるも顔にへばりついたスライムは呑気な顔をしながら動く気配はない。
しかもしゃべるたびに口の中に広がるスライムの欠片。スライムの味を舌で思いっきり堪能してしまった。
しかしこのままでは窒息死しかねない。
恐るべしスライム。
「じゃあ、縦斬りがダメなら横から振り払い攻撃をしたらいいんだよ。いくよ、せーのっ!」
今度は問答無用で大剣が顔面スレスレを通過していった。言葉を出す余裕もなく、俺はビビってジタバタさせるのをやめて硬直状態となった。
そしてダンゾウが野球のバットを振るような感じで斬りつけた剣撃が見事にスライムの胴体に命中。
「よしっ!ストライク!」
ものすごいスピードでスライムボールが飛んで行った。ひとまずは俺の顔面から撤退してくれて命の危機は去った。
しかしそれは打ち上げたのではなく、直線上に、しかもマナの顔面に向かって飛んで行った。
「よしっ!じゃねーよ!!ストライクじゃねーよ!!マナ!避けろおおおおおおおぉ!!」
ベチャ。
あ。
「あ」
思わず声に出てしまった。完璧なフォームで、素晴らしい軌道を描いたスライムが思いっきりマナの顔面にヒット!!
戦犯、山崎ダンゾウ。
いや、戦闘は終わったけれども。
これでは戦争が勃発してしまう。
「あ、ごめんごめん。マナちゃん大丈夫?」
どっからどーみても大丈夫じゃねーだろ!
バカか?バカなのかコイツ!?
ダンゾウの会心の一撃のおかげでスライムはマナの顔面で弾け飛び、バラバラに分散していった。いや、分散したと言っても塊が破片になっただけだからね?
量自体は変わらないからね?!
「きゃああああああああああ!!!!!!!」
結果的に俺とマナはベットベトになりながらこのオーガス共和国のビルケン地方、ソニック平原を進むのであった。




