幕間 後悔と絶望
気づくとそこには暗闇に包まれた時間の概念も空間も全てがシャットアウトされたようなだだっ広い世界が展開していた。いつからここにいたのだろう。
俺は今まで何をしてきたんだろう。
何を見て、聞いて、見つけて、笑って、話して、教わって、生きて、誰を愛して、尊敬して、哀れんで、蔑んで、憎んで、怒って、殺してきたんだろう。
全ては過去の深い闇の中。
そう。全ては過去。終わったことだ。
愛するたった1人の少女を救うこともできずに、絶望の中から助け出すこともできずに。
何もしてあげられない。もう、泣いている彼女を抱きしめて大丈夫だと慰めてやることさえ。
今の俺を見て彼女は何て言うのだろうか。
今の俺を見て彼女はどう思うのだろうか。
泣くだろうか。笑うだろうか。励ますだろうか。
悲しむだろうか。失望するだろうか。軽蔑するだろうか。そんな思いを馳せてもカンナは戻ってこない。永遠に会うことが出来ない。
俺自身も気づいていたんじゃないのか。彼女の気持ちに。
わかっていたさ。彼女が自分のことを好きだったことくらい。
愛してくれていたことくらいずっと前から。
その気持ちを伝えることもできないまま死を遂げただろう。無念だっただろう。悔しかっただろう。
どうしてもっと早く、俺から伝えてあげられなかったんだろう。
なんでこんな大切なことに当の本人が死ぬまで気づかなかったんだろう。
幸せは失って初めて幸せと気がつく…か……まったく皮肉にもほどがある。
どんな明日も君がいれば強く進んでいけたのに。
こんな俺でも強くなれた。ただ君が側にいるだけで。
だから君が挫けそうなときは俺が側に居たかった。
なのに……俺は…
もう、俺が生きる意味なんて……
そもそも生徒が、ティーチャーたちが全員殺されて俺一人が生きているこの状況に意味があるのか?
俺一人がそれだけの犠牲を背負ってこれから生きていくのか?
どこにそんな価値がある?
俺は人間が嫌いだった。これまでに何度も虐められ、裏切られ、欺かれ続けてきた。
だから力を求めた。
俺の弊害になる者は、俺の前に立ち塞がる者はすべて己の実力でねじ伏せてきた。
トップの座を手にするまで。
だがそれがどうした?
その力が一体何の役に立った?
そんなものは自分を慢心させるための要素になっていただけではないか。
結果、誰一人救えていないのだから。
ティーチャーは未来にすべてを託すつもりで俺を名前も知らないこの街に送り込んだのだろう。
だが、俺の求めるものは未来にはない。
過去にしか‥‥‥‥‥‥ないんだ。
転移結晶を握り潰したことによって募り募った負の感情が爆発した。それは最悪のタイミングであまりにも唐突すぎる別れを告げた。
目の前に広がるのは虚無。真っ暗で感覚という概念が存在するのかも不明な空間。自分の意識すらもはっきりとしているのか、肉体はここにあるのかもわからない。
深淵の中で一瞬かあるいは永遠を過ごし、俺の肉体は見ず知らずの空間まで転送された。
意識が朦朧としながらも瞬きをすることで死んではいないことを確認する。どうやら命だけは助かったみたいだ。
ネクターの反対側に来たのか、ヤルマール帝国の外なのかはわからないが辺りは明らかに朝の9時ごろとは思えないほど暗かった。
突然、一気に記憶が戻ってきてどうしようもなくやりきれない気持ちが全身を襲う。寂寥感と絶望感と後悔と安心があった。
「クソ!クソォ!!何で俺はカンナを差し置いてきて……命は助かったとか……」
そんな安心感を感じてしまったんだ……。やっぱり自分の命がかわいいのか、ダレイオスに結晶を貰った時本当はホッとしたんじゃないのか!
だからすぐに結晶を握りつぶし、こんなわけのわからない場所まで1人で来てしまったんだ。
これから俺はどうすればいい‥‥‥目的を失った俺は‥‥‥全てを失った俺は。
「俺は‥‥‥無力だ‥‥‥」
涙をボロボロ流しながら、ネオは街灯に照らされた暗い夜道を歩き始めた。あの男の顔が頭に張り付いたように離れない。カンナを殺めたヴァンパイアの憎き表情が。
そうだ、目的を失ったわけじゃない。新たな目的ができたじゃないか。カンナを失ったことで初めて見えてきた糞みたいな野望だ。
ヴァンパイアを駆逐する!!この世からすべて!
校長を抹殺する。復讐の始まりだ。
ネオは血と涙にまみれながらも確固たる意志と復讐に燃える眼差しをその双眸に宿しながら進み始める。
第1章をお読みいただきありがとうございますm(__)m
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