静かな夜
深い息を漏らし、太陽剣を鞘に収める。
光り輝く剣の残光が粒となって空気中に溶けていった。
咄嗟にカンナのことを思い出して、
「大丈夫か!カンナ!」
急いで後ろにいた彼女の元へ駆け寄っていく。
「ネオくん‥‥ありがと‥‥助けに来てくれたんだ‥」
首が腫れて赤くなっているが命に別状はないようだ。
それよりも心配なのは精神的な問題である。何しろカンナの友だちであるシェリーの遺体が入り口に転がっていたのだから。ほとんど赤の他人である俺が見ても見るに堪えないあの姿は永遠に忘れることなどできないだろう。
「当たり前だろ!心配‥‥したんだぞ‥‥」
だが、最悪な事態になってなくて本当によかった。
「へへへ‥‥‥今日はネオくんに助けられてばっかりだね‥‥」
「友だち、助けられなかった。‥‥‥ごめん‥‥‥‥ごめんな‥‥」
カンナの儚げな笑顔を見て涙がはらはら落ちていく。
カンナに泣き顔を見られたのは初めてだ。
「どうしてネオくんが泣くの‥‥‥私なんて何もできなかったよ‥‥もう、いいの‥‥」
「でも‥‥‥‥」
カンナの抵抗がなければ俺は間に合わなかっただろう。
「ありがとう‥‥ネオくん。お疲れ様‥‥」
カンナがネオの涙を手で静かに拭い、頭を撫でる。
まるで天使のような、温もりと優しさに包まれたような、そんな感触だった。
そのまま数分間、落ち着くまで寄り添っていた。
温かく穏やかな時間がそこには確かにあった。
※※※※※※※
だがここで眠ってはいけない。たとえ死ぬほど疲れていようとも。どこにヴァンパイアが潜んでいても、もう不思議ではない。
「奴ら、嗅覚が鋭いのは知っているよな?服に付いた血で位置がばれたんだろ?」
「うん。だから学生寮早く戻るべきなんじゃないかな?」
「それはあまり賛成できない。この暗闇でダークアイを使っていても明らかに相手が有利だし、帰るまで1人も遭遇せずに寮までたどり着ける保証がない。服は少し離れたところに今すぐにでも捨てるべきだ」
一応、今思いつく限りのナイスな案を提供したつもりだったが。
「え、ええええ!脱ぐの?!」
まぁ女の子はそー言うわな。俺は兎も角。
「死ぬか。脱ぐか。2択だ。さぁどっちだ?」
まさに究極クエスチョンだ。罪悪感すら覚える。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥脱ぎます」
超仕方なさそうにそう答えた。半泣きだ。
なんかかわいそうになってきた。
俺が言わせたけど仕方ない。脱がざるを得ない状況なんだ!俺だって好きでカンナに脱いでもらいたいわけではない!断じてない。多分。
「ちょっと電力室に行って電気戻るか見てこようか?でも戻ったら戻ったでヴァンパイアに位置が丸わかりだな。器具とか全部潰されてるかもしれないけど」
取り繕うように、話題を変えるためにそう言って立ち上がるとカンナは静かに俺の手を取るのだった。
「さっきそう言って、シェリーは‥‥‥‥‥だから、お願い。それだけは‥‥‥」
「ごめん。カンナを1人にするということ自体、論外だった」
結局、電力室には行かずに図書室のフロアの奥で2人は夜を過ごそうと決めたのだった。普段は誰も立ち寄らないような広い図書室の隅っこで。
「ごめんね。シェリー、絶対また戻ってきれいに供養してあげるからね」
カンナはそう言って彼女の見開いた目を閉じ、絶望とした表情を自らの手で整えていた。生々しい光景に俺はなにも言うことができなかった。やりきれない気持ちでいっぱいだった。
この後、ネオが童貞を卒業したのか、起きてヴァンパイアを警戒し続けたのかは誰も知らない。。。




