鈴姫との出会い4
まずまずの俳句ができたところで二人の姫神と一人の普通の少年は稲荷山にある頂上の一番峰というところで茶を飲んでいる。
「このあと‥‥二人は‥‥どうするの」
「そうじゃな‥こやつのちんけな俳句も作り終えたところだし」
「ちんけとは余計だな。これでも頑張って考えたんだから。なら祇園のパフェでも食べに行こうぜ」
「パ・フェ・・・?」
「いなりよ、パフェにいこううまいぞ。色合いがよくて美味じゃ」
「いく・・パフェいく・・」
そして三人は祇園のとあるお店にやってきた。ここは祇園石段下に店を構える創業七十余年の京の飴屋であり、隣接してる茶屋は飴屋の伝統を生かした秘傳の黒糖みつを中心とした当店独自の甘味があり秘傳の黒糖みつは、メニューに応じて使い分けており季節に応じて氷菓やあつあつ白玉などもある。
そして祇園を散策する人達は昔日の京の風情を格子やすだれに粧った街角に感じ心から京都に酔いしれることができ祇園でも有名店である。
「龍佳~さっきのパフェおいしそうじゃったぞ。あそこにしようぞ」
「私も・・さっきの・・ソーダパフェ・・」
「まぁまぁさっきのよりこっちのがいいから」
お店に入ると奥から京都LOVEというエプロンをしたおばさんがやってきた。
「あら龍ちゃんじゃないの~。美女ふたりなんか連れてきちゃっていけない男だね」
「あっみどりさんこんにちは。御無沙汰してます」
「龍佳知り合いか?」
「みどりさんね、ここの飴屋さんで働いてる人でおばあちゃんの知り合い。それでこっちは鈴でえっと・・・」
「はじめまして御所院の親戚の鈴と申します。龍佳君にはお世話になってます。こちらは私の友人のいなりです」
「はい、よろしくね。ふーん親戚ね・・まぁ三人とも暑いから中に入って」
「だけど待ってるお客さんいるけど大丈夫なんですか?」
「いいのよ。予約してたお客さんがキャンセルしたからあなたたちがその予約してたお客さんにしとくわ」
お店の中は京都、祇園、舞妓をテーマにした 写真展・版画展・書道展・絵画を展示しておりこれを目当てにやってくるお客さんもいる。二人はその版画に惚れ込み店内を見て回っている。そんな二人を眺めてるとみどりさんがお茶をもってやってきた。
「龍ちゃんあの子本当に親戚の子?」
「えっと・・そうですよ遠い親戚の子です。みどりさんわかるんですか」
「まーね。あの鈴ちゃんだっけ、あの子は先祖のオーラを感じるわ。高貴な方だね。それで友達は白狐がいるわね。土地臭からして伏見の子かしら巫女さんなのかね」
「みどり本当に見えるんですか。冗談かと思いましたよ」
「あらやだ。伊達に見える会の副会長やってるわけじゃないわ」
見える会とは霊的感覚がある人が集まり、霊的能力があり日常生活に困っている人のケアをする団体らしいが、みどりさんがその副会長であり会長が龍佳の祖母である。ちなみに店の中にある京都の観光地を撮影した写真は、昔みどりさんに御世話になったカメラマンが寄付してくれたものらしくそのカメラマンは現在ではかなり有名になっている。
「みどりさんそのことはみんなに・・・」
「わかっているわよ。あんなに馴染んでいるってことはほかの人は気が付かないのでしょ。でもあなたのお祖母ちゃんはわかっているでしょうけどね。あとあの鈴ちゃんって子・・・やっぱりなんでもないわ。おーいお嬢ちゃん達パフェできたわよ」
みどりさんの言葉に気になる龍佳であったが二人が飛んでもどってきた。
ここのパフェは普通のとは違い黒糖みつをかけた絶品のパフェでありお店で人気の一品である。鈴といなりが食べている『黒糖シフォンパフェ』は黒糖みつ』を黒蜜ゼリーや黒糖シフォンケーキにたっぷり使用しており、これを食べに来るお客さんも多い。
「龍佳このパフェ美味だぞ。初めて食べた味じゃ」
「うん・・・おい・・・しい・・・」
「お前らそんなにパフェ好きなんだな。こんなに美味しく食べている人初めてだよ」
「美味なものは美味なのじゃ」
「食べ物は・・・大切・・・。龍佳・・・おいしい」
いなりはスプーンで一口すくった抹茶アイスを龍佳の口元に近づけてきた。つまりここでもあ~んしろということである。少年は昨夜の鈴との記憶を思い出し、顔を少し赤くした。
「あっあ~ん」
「よかったの~。正一位の神様美少女にあ~んなんかされて高天原で言ったら確実に死ぬな」
「ちっ違う!いなりがくれたからもらっただけだ」
「龍佳殿・・・嫌・・・だった?」
「美味しかったよ! いなりちゃんありがとう!」
「お主いなり悲しませたら高天原に広めるからな」
「今は鈴のせいだろ。理不尽だ!」
「さぁなんのことだか」
そんな楽しいひと時は夕方まで続きそろそろ帰ろうとしたらみどりさんに呼び止められた。
「龍ちゃん達待って。飴選んであげるから一階で待ってて」
二人には疑問の一言であったがこれがこのお店のもう一つの名物である。
「鈴ちゃんはこれね。いなりちゃんはこれね。龍ちゃんはいつものね」
三人それぞれの袋には異なる味の飴が三つ入っていた。少年の袋には赤色っぽい飴、御所の姫には緑色っぽい飴、伏見の姫は黄色っぽい飴が入ってる。
「あなた達の好きな飴を入れておいたわ」
「だがみどり殿わしらは好きな飴など言ってないぞ」
「まぁまぁ。龍ちゃんはいつものリンゴ味・ニッキ味・コーラ味ね。鈴ちゃんは抹茶味・茶の舞味・宇治小石ね。それといなりちゃんはレモン味・グレープフルーツ味・柚子味よ。鈴ちゃんはお茶の味のが好みなのね。いなりちゃんは柑橘系かしら」
二人とも呆気にとられてる。ためしに袋の中の飴を一つ口の中に放り込む。
「んんっ!美味じゃ。この苦さがよいのじゃ」
「おっおい・・・しい・・・」
「実はみどりさんはその人の好きな味がわかるらしいんだよ。俺も最初は疑ったけどこの飴は何回食べても飽きないしおいしい」
「ふふっ。おかげでお店は大繁盛よ。毎日お客さんが〝俺の私の飴をえらんでくれ〟ってね」
「しかし驚いたぞ。昔から茶は好きでのう。四つの時から抹茶を飲んでおって、友からはおかしいと言われたものだ」
「私・・・レモンとか・・・好き・・・自然から・・・採れる・・・果物・・・おいしい・・・でも・・・なんで・・・わかった・・・?」
「あらそれは企業秘密よ。あえて言うなら神の力かしら」
「かっ神の力か・・・すっすごいのーいなり!」
「あ・・・すごいすごい・・・私も・・・欲しいな・・・」
なぜか二人の姫は急に焦っている様子であり目があちこち動いてる。どうやら自分たちが神様だとばれたのだと思っているらしい。神の掟で人間に神様の存在を認識された場合、高天原に強制送還され罰せられるらしい。
「みどりさんそのくらいにしてまだお店の仕事あるんですよね?」
「あらそうだったわ。それじゃ気をつけて帰りなさいね」
そしてみどりさんは暖簾を潜って店の中に入っていく。すると二人は「はぁ~」と安堵の溜息をつく。
いなりを伏見まで送り二人は室町通の武家屋敷を現代に改装した家に戻ってきた。時間はもう夕方だがまだ太陽は人間たちを照らし汗をしぼり出している。