鈴姫との出会い2
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過去とは、時間の流れを三つに分けて理解する場合の既に過ぎ去った部分のこと。現在より以前の時のことである。それは真実から構成される過去かと思っていた。
だが昨日でそれが壊された。
鈴の術で周りのみんなは鈴は昔からいて龍佳の親戚であるという過去に作り変えられた。嘘の過去となった。1+1=2ではなく3でも4にもなることだ。
それを考えるとなぜか学校で学ぶ歴史が馬鹿らしくなった。偉人の本が作り話みたいでおもしろくなった。そして自分の過去が怖くなった。
昨日の一昨日の一週間前の一年前の十年前の過去が怪しく怖くなる。もし鈴みたいな神に過去を変えられてたら、本当は全て嘘ではないのか。未来も過去も見えなくなってしまえば何を頼ればいいのかわからなくなってしまうかと心の底から恐ろしく感じた。
気が付けば朝になっていた。
朝でも京都は相変わらず暑い。Tシャツが汗で変な感覚がする。北、西、東の三方向を山に囲まれた盆地であるため、夏は約32度冬は約1度にもなる。つまり夏はじめじめしていて蒸し暑く、冬は山に近いので雪が降りやすく冷え込む日が多い。
「なんか昨日の事が夢みたいだ」
そんなことを言いながら一階にいく。映画館で大迫力の映画を観終わった後のあの寂しい感覚であった。リビングでは母さんと親戚の叔母さんと鈴が朝食の準備をしていた。
「えっ鈴なにやってるんだよ」
「おはよう、若。見ての通り朝食の準備じゃ」
「そんなのわかるよ。なんでやってるの」
「手伝うのがなにが悪い。世話になるのだから当たり前だ」
「そうよ。朝早く起きて一緒に手伝ってくれたのよ。もうできるから二人ともみんな起こしてきて」
母さんに言われて瑠璃と桐耶を起こしに部屋に向かった。キッチンが南にあり各部屋が北にあるため少し歩かなくてはならない。二つの部屋の扉にはネームプレートに“きりや”と“るり”と刻んである。
「鈴、お前は瑠璃を起こせ。ちなみに瑠璃は朝が弱いから気合入れろよ」
「おーさすが若じゃな。幼馴染みのことよくわかっているな」
「うるさい。そんなの家族みたいだから当たり前だ」
そして龍佳は桐耶を起こしに部屋に入った。部屋の中は八畳くらいの広さで化粧台と小さいテーブルがある。そのど真ん中に布団に潜り込んでいる奴が一名いたため
潜っていた掛け布団を取り上げた。
すると黒縁メガネをかけた好少年ではなく瑠璃とたまきが体を縮めて気持ちよさそうに寝ていた。
「えっ…?」
「ん~」
布団を取り上げられたことに気づいたのか縮こまっている眠り姫は目を覚ましてしまった。
「え…龍…佳?」
「おっおはよう…瑠莉」
するとまた顔をりんご飴のように赤くし大きな悲鳴と頬を叩かれる音で帰省二日目は始まった。
「それは大変だったの~若」
「〝大変だったの~〟じゃねぇよ。なんでプレート換えとかないんだよ桐耶」
「あ~ごめんごめん。たまきが俺の布団で寝てたから瑠莉と交換したんだよ」
「そういえば桐耶、猫アレルギーだもんな」
「だからと言っていきなり布団をぶんどるなんて龍佳は卑猥じゃのぉ」
「誰が卑猥だ! まさか瑠莉がいるとは思ってなかったんだよぉ!」
「でも若、瑠莉殿の寝顔しばし見てたじゃろ?」
「違う! あれはびっくりしただけだ」
龍佳はなんとか弁解しようと瑠莉を見るが
「最低。こっち見ないで」
と突き返されてしまった。完全にお怒り猫であった。帰省二日目の朝食は鈴姫にからかわれ猫姫に嫌われてしまった。
朝食後、桐耶は父親の手伝いがあると言い、猫姫も図書館に勉強しに行くと二人共家を出て行ってしまった。そして朝から幼馴染に嫌われた少年は中庭の廊下で唸っていた。
「ん~全然思いつかない」
「こんなところでなにをやっているのだ、若?」
「あ~宿題だよ。国語から俳句の課題がでてるの」
「俳句か。簡単ではないか。お主それでも日本人か」
「今の時代、俳句なんかやらないんだよ。なら鈴がやってみろよ」
「馬鹿か! 私がやったら意味がないじゃろ。自分でやるのじゃ」
「そもそも夏休みいったところの場所のことを詠めとか、もう行き飽きてるんだよ京都は」
「ならあそこにいこうではないか! 久しぶりに友に会いたい」
「友…?」
そして休日にお出かけするのに準備を急かせる子供のように龍佳は鈴に出かける準備をした。