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偽りの勇者と大罪の魔女  作者: 風間ミドリ
勇者と魔女
6/6

グリムリーパー

お待たせしました。

話的には小休止、準備回的な話になります。

 あの決闘から二日の時間が流れていた。

「それでクロ、勝負の件、私にするお願いは決まった?」

「……いや、まだ」

 アカーシャの小屋、その作業部屋でクロードは膝の上に黒い防具を抱え、それをいじりながらアカーシャの問いに答える。

 抱えた防具には白いラインが引かれており、クロードはそれに沿って手に持った彫刻刀を彫り進める。

 何でもアカーシャが後で彫金するための溝らしい、頼まれて手伝っている。

 無論ただ働ではなく、クロードの分もあるそうだ。

 白線に沿ってスルスルと刀を掘り進めていく、こうやってみると防具としての強度に不安を覚えそうになるが、異常なのはこの彫刻刀の方であり、防具の方は問題なく優秀な性能だ。先日鉄の盾とこの防具と同質の素材の盾を打ち合わせ続ける光景をクロードは見せられたが、先に歪みやヒビが発生したのは鉄の方だった。

 軽くて強い、なんの素材かと聞いてみると、アカーシャは魔物の骨だと何でもないように答えた。

 詳しくは覚えていないそうだが、この山に生息する魔物の骨から作られているらしい。

 そしてこの彫刻刀も。この山の主である雪竜《スノウドラゴン》の牙の欠片から作った物らしい。

「いい加減決めてくれないと、先に出発の時間が来てしまうのだけど」

 クロードとは違い、黒に近いねずみ色をした直線的な片刃の剣を触りながら、アカーシャは話しかける。

 お互いに作業をしながらなので顔は向けていない。

「そんな事言ったってなぁ……」

 クロードはバツの悪そうな顔をし、彫刻との柄の方で頭をかく。

 あの決闘の後、アカーシャが出した折衷案は実に簡単なものだった。

 つまり、互が互の要求を受け入れる事。

 クロードはアカーシャが同行することを認め、更に必要なら手伝いもする事、そしてアカーシャはクロードの要求を何でも一つ呑む事。

 ならばクロードは、アカーシャに自分に関わらない様に命令すればいいのではと思って言ってみたが、それはアカーシャの条件を侵害する事になるので許可されないらしい。

 かと言って、彼女を下僕や奴隷にするような趣味は持ち合わせていない。

 何より折角手繰り寄せた折衷案だ、不用意に彼女を不機嫌にさせる様な事を言い、反故にするような事はしたくない。全ては彼女の気分次第とも言えるのだから。それ故にクロードは悩んでいた。

 クロードはフイとアカーシャを見やる。

 寝物語、伝説として語られる『魔女』それを名乗る彼女は、その実力はともかく、見た目にはクロードより少し歳上程度のにしか見えない。

「なぁ、それ何してるんだ?」

「ん? これ? お前の武器」

 剣を持ち上げて見せると、アカーシャはそう答える。

「俺の?」

「そう、一緒に旅するのに丸腰で弱いままだったら困るでしょ? だから特注のヤツ作って上げてるのよ、感謝してくれていいわよ」

「いや、頼んでないし聞いてない……」

 ナイフをそのまま大型化したような外見のその剣を見る。

 柄には大きな穴が空いている。見た目に何かを入れる場所だとわかる程に。

「クロ」

 呼び声と同時にクロードに一本のナイフが投げられる。

「っと、危ないな、投げるなよ。てか、何」

「この剣に持ち主の生体認証させるから、血頂戴」

「セイタイニンショウ?」

 ハテナを浮かべるクロードにアカーシャが溜息を吐く。

「剣の持ち主が誰かって、剣に覚えさせるのよ。特別な剣なんだから、奪ったりされても使えないようにね」

「それって、魔剣みたいなものか?」

 その特殊な能力を持つ剣ならクロードも知っていた。

 魔剣と呼ばれる、自ら主人を選び、それ以外には決して使われない刀剣、他のただの武器とは一線を画す様々な力を持った魔性の剣。

「あぁ、今はそんな風に呼ばれてるんだ? まぁどうでもいいけど、そんな訳だから、はい」

 そう言って今度は手のひらサイズの小さめのビーカーを渡してくる。

「……なんだこれ?」

「それ一杯分くらい要るから、早く」

 ……多くないか?

 ため息と共に左手首にナイフを当てる。

「横だと出が悪いから縦に切りなさいよ」

「知らないってそんな事……」

 言われた通りに縦に刃を通すと、スっと手首に赤い筋が入り、一拍おいてそこから血が流れ出す。

 それをこぼれない様にビーカーに流し込む。

 当たり前の事だが自分の血が流れているのをじっと見ているというのは別段気分が良いものではない。

 しばらくすると、ビーカーの六分目くらいまで血が貯まる。

「なぁ、アカーシャ――」

「はいはい、治癒《ヒール》」

 剣から手を離し、向き直ったアカーシャが詠唱もなにも無しにそう言うと、左手首、傷口が淡い緑の光に包まれ、一瞬で傷口が塞がる。

「はい、着いてる血はこれで拭いて、血液補充にこれでも食ってなさい」

 そう言って薄い朝布の切れっ端と、干し肉一切れを渡すと同時に、クロードの手の中からビーカーを奪い取る。

「あ、あぁ、てか今アンタ詠唱も無しに」

「それがどうかした?」

 ビーカーの中の血を眺めながら、再び剣へと向き直ったアカーシャが視線をよこさず応答する。

「どうかって、そんな事どうやって? そんな事が出来るなんて聞いたこともない」

 クロードは血を拭いながら言う。

 彼の知っている限り、魔法とは常に詠唱を必要とするものだ。もしくは、彼が以前にやったように短詠唱《キャスト》出来るようにするか。

 彼女の様に完全に詠唱をせずに魔法を使う人間等見た事も無かった、話ですら聞いた事がない。

「基本的な魔法ならできるわよ。何? 魔法の授業でも受けたいの? 悪いけどまた今度ね」

 手だけをクロードに向け、ヒラヒラとさせると、アカーシャは机の引き出し、そこから取り出した革袋から、手のひらサイズの赤みがかった水晶の様な球体を取り出す。

「おい、それって」

「マナ結晶」

 完結に答えると、ビーカーに入らないサイズのそれを蓋の様にビーカーの上に置く。

 そこからの光景は、クロードは初めて見る現象だった。

 蓋をするマナ結晶に、ビーカーに溜まった血が吸い込まれていく。

「なんだ、これ……?」

「マナ結晶の主人登録、初めて見た?」

「あぁ、と言うか、主人登録何かできるのか……」

「全部が全部じゃないけどね、天然物とかは特にそう。これは私が精製した結晶だから」

 あっという間に血を吸い付くし、薄紅色から完全な紅玉へと色を変えたマナ結晶を取り上げ、アカーシャはそれをじっと見つめる。

 僅かに離れた位置から見ているクロードには、よくわからないが、赤い玉の色が僅かに揺らいでいる様に見えた。

「まぁ、こんなものかしらね」

 そう言うとアカーシャは立てかけていた鈍色の剣――クロード用だと言った――の柄、そこに空いていた穴に結晶をはめ込む。

 ぴったりとその穴に収まると同時に、マナ結晶の表面にヒビの様な鈍色のスジが、柄の方から幾つも入る。

「接合も完了、と。出来たわ、持ってみなさい」

 片手で軽々とそれを回し、柄をクロードに向ける。

 掴むと、思った以上に軽く、初めて持ったとは思えない程、不思議に手になじむ。

「グリムリーパー|《残酷な死》、それがその剣の名前よ」

「グリムリーパー|《残酷な死》……なんだその物騒な名前」

「特性は敵性対象からの吸収能力、そしてそれを攻撃に転換する事」

「無視かよ……吸収転換?」

「血とマナと体力をね。敵から血を吸えば吸うほど、刀身は巨大化し鋭利になるわ。マナは吸うほど魔力で刃を鋭く、体力は奪うほどお前の身体能力を強化する。まぁつまり、相手を傷付ける程強くなれるのよ」

「えげつないな……」

「実用的、よ。後はマスター登録でお前と私以外が持つと、持った相手のマナと体力を勝手に根こそぎ奪いだすから、あまり気軽に他人に渡さない事ね」

「根こそぎって……気を付けよう……」

「素材はさっきまでお前が持ってた彫刻刀と同じ、スノウドラゴンの牙から丸々削り出してる、そこらへんの薄い鉄なら紙切れみたいに切れるから気をつけなさい」

 ドラゴンの牙から削り出した等と、サラッと言っているが冗談ではない。

「そんなもん、どうやって手に入れたんだ……?」

「頼んでだけど? シルキー」

 頼むって、とクロードが突っ込む前に、部屋の扉がノックされ、シルキーが姿を現す。

 手には何やら畳まれた黒い布地を持っている。

 それをアカーシャに渡し、アカーシャが検分だろうか、目を通してから、

「ありがとう、助かるわ」

 と笑顔で礼を言うと、軽くお辞儀をしてまた出て行った。

「なんだ、それ?」

「お前の剣の鞘……と言うか、鞘が無いから巻布」

「は?」

「丁度いい素材がなかったのよ、だから巻布。大丈夫、これもそのスノウドラゴンの鱗毛を黒染して編み合わせたヤツだから、その剣じゃ切れない強度なの。柄の先っぽに輪があるでしょ、そこに結べるようにしてあるから」

 放り投げられ、受け取ったそれには、確かに結びつけるための紐がこしらえてあり、クロードはそれを剣の柄に結ぶ。

「巻いてない時どうするんだよ、これ」

「好きにしたら? 言ったとおり防刃性は高いんだから、腕に巻けば盾みたいにもなるし、ムチみたいに使ってもいいし」

 ……投げっぱなしかよ。

 黒布を触ってみると、布と言うよりはチェーンメイルの様な、鉄を編ませた物の感触に似ている、軽さは段違いだが。

 スルスルとそれを剣に巻きつけると、それを脇に立てかけ、再び鎧と彫刻刀を手に取り作業を再開する。

「彫り終わったやつある?」

「あぁ、これ」

 言われ、一つをアカーシャに手渡す。

「……なぁ、アンタさ」

「なに?」

「いや、もう殆ど疑ってはいないんだけどさ、あの『魔女』なんだろ?」

「微妙には疑ってるのね、その割に適応の早いけど。まぁいいわ、それで、だったら何?」

 アカーシャはクロードを見ず、鎧の彫られた部分に銀の粉を流し込みながら返事をする。

「『魔女』だとしたら、本当にどれくらいの事をアンタはしてきたんだ?」

「どれくらいって、今の時代に私がどういう風に言い伝えられてるか知らないから、答えようがないわ。まぁ――」

 ポッと一瞬、アカーシャの手の中にあった鎧が光ったかと思うと、彼女はクロードに振り返る。

「これ、お前の分なんだから、喋ってないでさっさと手を動かしなさいよ。そういう話は寝物語にでも夜してあげるから」

「いや、誰も頼んでな――」

「はぁん? いらないって? 私の厚意を?」

 ……青筋の浮いてそうな笑顔はやめて頂きたい。

「わかった、わかりました、黙ってやります」

 小さく溜息をついてクロードは彫り作業を再開する。

 クロードが視線を下に落とした時、一瞬、ほんの一瞬だが、アカーシャがバツの悪そうな表情をした事を、彼が気付く事は無かった。

「終わらないと何時まで経っても出発出来ないからね」

「……もう俺一人で行っていいですか」

「何ふざけたこと言ってんの、ダメに決まってるじゃない」

 ……願いって言うか命令って言うか、一つか……どうするかな。

 クロードは溜息をつきながらそんな事を考え、作業を黙々とこなしていった。

誤字脱字、矛盾点等ありましたらご指摘ください。

感想、ご批判等もお待ちしていますのでよろしくお願いします。


今回はnekodarumaさんという方のオリジナル曲:四重奏「quaetet:カルテット」という曲をよく聞かせてもらっていました。

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