ゴリラさんと当たりやさん
ある休日の夕方。ある大きな街の繁華街のこと。
空は本当にいいお天気です。
あー、なんていい日なんでしょう。
やっぱりこういう日に外に出て遊んだりするのは、気持ちがいいものですねー。
おや?
顔つきがまさにヤクザという感じで、安物のメガネをかけ黒いスーツを着た男が向こうから歩いてきましたよ。
名前は……。石山哲、ですね。
同業者や彼を知る人からは、当たり屋のテツさん、なんて呼ばれているみたい。
まあ言うまでもないけど、同業者も含めてまともじゃないお仕事ですけどねー。
彼は安いメガネをかけて人にわざとぶつかり、メガネを壊して相手に弁償させるという当たり屋の手口を繰り返しているんです。
そのことで、警察にも指名手配とまではいきませんが、マークされていますね。
(いいカモおらへんかな……?)
今日も今日とて『お仕事』に精が出るようです。
まったく、ご苦労様なものです。
さて、どうしたものでしょうかね……?
*
今日も今日とて、わしはしのぎに忙しい。
アフリカのサバンナの空のような夕暮れの街は、いつもの様に獲物でうようよしておった。
いいカモ、おらへんかな……?
その時や。
お? ちょうどいい感じの若いカップルが、向かい側から二人組で歩いてきおった。
わしはその二人に目をつけた。
もちろん二人が好みというわけではなく、しのぎにちょうどいい人だったからや。
そのうち一人は、肩ぐらいの茶色いロングヘアの、目鼻のくっきりとした美人な顔にピンク色のコートを着た、若い大人のおなご。
ふむ。彼女は隙が無さそうな子で、ぶつかるにはちょっとまずそうに見えるな。
わしが目をつけたのは、そばにいるもう一人の方や。
黒髪で、頭にぴったりとついた男っぽい短髪。
日本人の若者としては、男勝りな感じで、彫りは少し深め。
黒いコートを着た背丈は高く、体つきもよくてスポーツか何かをやっていそうな感じに見えおる。
そのコートの下からわかる体つきとショートヘア、なんだかゴリラを連想するのう。
この……、男?
ん、コートをよく見ると、女物か。
女装しているんか?
いや。なんや、女か。
胸の膨らみもないように見えたし、男と見間違えたんか。
この女『ごりらちゃん』とでも名付けよか。ぬひひ。
そんなごりらちゃんは、繁華街のビルや隣にいる子などをきょろきょろと見ている様子。
どうにもスキだらけで、まさに格好の獲物や。
ふふ、カモがネギしょってやってきたで。
さて、いつもの様にやってやりましょか。
相手に悟られないよう、自然に見せかけながらごりらちゃんに近づいてっ、と……。
ごりらちゃんに近づき、わざと大きくよろけたそのときやった!
次の瞬間。
他所を見ていたはずのごりらちゃんが、ぶつかってきたわしをひょい、とかわしたんや!
まるで、わしが自分にぶつかろうとしていたのを、あらかじめわかっていたかのように。
「あっ!?」
次の瞬間、わしは勢い良く、顔が地面と激突してしもた!
ごつん!!
わしの目の前が真っ暗になり、火花が散る。
「いで~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
わしは演技するのも忘れて、本気で叫んだ。
おでこがじんじん痛むー。
わざとぶつかって大げさに転んで、安物のメガネが壊れてくれればそれでいい。
そのはずやったんやが。
どうして避けられたんや!?
今までこんなことはあらへんかった。
彼女はあらかじめ、わしがぶつかることがわかっていたようなかわし方やった。
まさか……こいつ、心が読めるとか!? き、気持ち悪ぅ!?
しかしわしは、その思いを表情にはみじんにも出さず、
「てっ、てめえ……!!」
ドスの利いた声で脅してみるが、ごりらちゃんもかわいこちゃんもびびっておらんかった。
結構強気な性格やな……。
メガネは地面に落ちて、つるが割れておった。
計画通りといえば、計画通りなんやが。
もういっぺんすごんでみよか?
「ぶらぶらよそ見しおって! ほれ、わしのメガネがこわれてしもたやないか!」
「なによ? そっちが勝手にこけて壊しただけでしょ!? それ相応のことをやるんなら、こちらも対応しますけど?」
わしの脅しに、微塵も怯えない様子のごりらちゃんが逆ににらみつけてきおった!
こ、こいつ……。
ま、まさか、どっかの組の親分の娘とかないやろな!?
しのぎ上どこぞの組の縄張りで組の者ににらまれたりしおったら、そこでしのぎはでけへんし、ポリ公だけでなくその組のもんにも追われることになるんや……。
わしの背筋に、冷たいものが走る。
その時やった。
「あの、おでこ、怪我してますよ……」
控えめな声で長い髪のかわいこちゃんが、わしにそっと指摘して手を差し伸べてきおった。
その声に、わしははおでこに違和感を覚えた。
え、と思いながら左手で額に手を当ててみる。
しばらくして離し、手を目の前に持ってくると……。
指が、真っ赤に染まっておった。
うわ、わしマジで怪我してる!?
「いけない! 呼ばないと!?」
かわい子ちゃんが、おおげさに慌てた表情で声を上げてきおった!
ほんま余計なことを……!
ロングヘアのかわいこちゃんは、空いている片手でコートについていたリモコンのボタンを操作する。
救急にでも電話するつもりなんやろか?
あるいは、……警察にでも!?
いかん、救急車呼ばれたらアウトや!
わしは当たり屋などをやっている、いわばやくざもん。
チンピラ程度の稼業やがな。
救急車を呼ばれでもしたら、救急隊員が自分の職やなぜ怪我をしたのかなどを根掘り葉掘り訊こうとするやろ。
わしは言い逃れしたり強引に通したりもできるし、その自信もある。
が、もめてさらに警察でも呼ばれでもしたら。
そう思ったとたん、
「いいんや! 呼ばなくていいんやで!!」
わしはかわいこちゃんの差し出した手を振り払い、急に立ち上がるとダッシュする!
そんなわしを見てか、ごりらちゃんは大きな声で、
「芽衣子! 急いて呼んで!! あたしはあいつの後を追うから!」
「ええ!」
と、後を追ってきおった!
こいつ、やはりどこかの組の姐サンかそれともポリ公か!?
わしはダッシュで通行人をよけながら、大通りを逃げる、逃げる。
ライオンから逃げるシマウマのように。
なんで狩人が、獲物から逃げなければならないんや!?
まさにあべこべやで。
街というサバンナを必死に駆け抜ける狩人のわし。
しばらくしてから、
逃げ切れたやろか……?
と、後ろを振り向いた時やった!
「待てえーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
ごりらちゃんが、恐ろしい形相で追っかけてくるやんか!!
その足の速さはごりらちゃんというよりも、チーターちゃんや!
まさにサバンナの狩人や!
わしはその様に、心臓が跳ね上がる。
あんなんに捕まったら、ひとたまりもないやん!!
そう思い、わしは急スピードで角を曲がる。
ぎりぎりで人を避け、全速力で走る。
額からは血がどんどんにじみ出てくるが、そんなことはかまわへん。
とにかく、ごりらチーターちゃんから逃げ切ればいいんや。
幾つもの角を速度を落とさずに曲がり、いくつもの路地を駆け抜ける。
ふと後ろを振り向くと、ごりらちゃんの姿は見えなくなっておった。
まいた、か?
大きく息を吐いたわしは、通りに並ぶビル群を見渡す。
そして、しばらく考えてみる。
あのごりらちゃんがわしを見つけないうちに、トイレかどこかの個室とかにこもれば自分を見失うはずや。
女だし、男トイレには入れないだろうやしな。
それから、洋服店かどこかで安物の服などを買って着替えて血をふいてしまえばええ。
そしたら、逃げ切れるやろ。
わしは、足をある場所に向ける。
そこは、大きなテナントがいくつも入った大きなビル。
こういうビルならいくつもトイレがあるやろし、一つぐらいは空いているやろ。
わしはビルの入口に入り、案内板をチラッと見てトイレへと向かう。
へへっ、これで逃げ切れた。
トイレのあるビルの奥の方へと向かおうとした、その時やった!
「待ちなさい!」
聞いたことのある声が、後ろから投げつけられてきおった!
へ!?
わしは振り向くと、思わず叫ぶ。
「なんであんたがここにいるんや!?」
高い背。
黒いコート。
頭に沿ったショートヘアの黒髪。
そして気の強そうな顔立ち。
ごりらちゃんが、仁王立ちしてそこに立っていたんや!
「なんでって、アンタにここに行こうと思ったから、ここに来たのよ!」
ごりらちゃんの答えに、わしの頭はまるでハンマーを殴られたような気分や。
「えっ」
なんでここがわかったんや!? まいたはずなのに!
ビルはたくさんあるのに、なんでここに入るのがわかったんや!?
しかしわしは、強気な顔を崩さずに、
「あんた、どこの組のもんや?」
と訊いてみる。
すると彼女は、
「さあて、どこでしょうねー?」
とすっとぼける。
むっ。なんかムカツク嬢ちゃんやな!
わしはそれを表情に出さず、
「お嬢ちゃん。捕まえてみんなら、捕まえてみな!」
と挑発すると、店舗内へと駆け込む!
ごりらちゃんは、
「むかつくアンタにむかつくわよ! 言われなくても捕まえるわ! 待ちなさい!!」
と叫んで、後を追ってきおった!
え、今なんて言うた?
それはともかく、今は逃げるが一手や!
ビルの一階は休日ということもあり、比較的人がいっぱいやった。
その隙間を縫うように、わしは逃げる。
「おらおら! どかんかい!!」
凄んでじゃまになる人をどかせて、向かうはビルの階段や。
ビル奥の階段近くまでたどり着いて後ろを振り向いた時、ごりらちゃんの姿は見えんかった。
こりゃどこかで誰かとぶつかったんちゃうか? けっこう間抜けやな!?
とほっとした時!
「安心したかと思った?」
という声が背中からしたんや!
声のした方を見ると、そこにはごりらちゃんが満面の笑みで立っていたんや!
「な、なんやて!?」
わしは叫びつつ、階段を駆け上がる!
ダン! ダン! ダン! ダン!
階段を二段飛ばしで駆け上がっていくわし。
後を追いながら、ごりらちゃんは答えを投げかける。
「アンタが行った方の道は、実は遠回りだったのよ!」
ま、まさか、人の流れを読みきって道を選んだとでも言うのやろか!?
わしは慌てふためきながら、階段を二段抜きで駆け上がる。
脚力には自信があるわしは、あっという間にごりらちゃんを引き離す。
額をぬぐいながら、階段を駆け上がる。
そして、ようやく最上階までたどり着くと、一度ぐるっとフロアをまわる。
これでトイレにこもってしまえば、ごりらちゃんもどこにいるかわからんやろな。
が、わしはそこで先ほどの階段に戻り、また降り始める。
ごりらちゃんが後を追っているというのに、や。
普通は最上階まで逃げ、別ルートで下に行くというのが定石やけど、そこはあえて同じルートで下の階に戻り、そこから探す。
裏をかくってことは、こういうことなんやで。
わしはふふん、と鼻を鳴らして階段を駆け下る。
ニ階まで降り、階段の踊り場にわしは出た。
そして、そこでトイレを探そうとした時。
すぐ近くから、背高の影がぬぅっと立ちふさがったんや!
その姿に、わしは目を疑った。
「な、なんでや……!?」
そう、ごりらちゃんや!
「なんでそこにいるんや!?」
「ふふん、エスカレーターとか別の階段で先回りしたのよ!」
「しっ、しかし、わしがどこの階に行くかわからんはずやし、このビルけっこう混んでたはずやけど!?」
まさか、完璧に……!?
わしがどこに降りるのを、読んでたと言うんか……!?
「そこがあたしのあたしたるゆえんよ! いったんアンタに引っかかりそうだったけどね! さあ、観念なさい!」
そう言いつつ、ごりらちゃんは飛びかかって来た!
わしの動きを読んだ、正確無比なとびかかりや!
「うおっと!?」
わしは何も考えず、その手を強く叩くように払いのけてかわす!
そのままごりらさんの隣を通り抜ける!
「待ちなさいよ!」
ごりらさんも後を追ってきた!
わしはビル内を再び駆け抜ける!
こうなったら、あれやるか!
すれ違う人の肩とわずかに触れながら、わしはある場所へ向かう!
わしがやってきたのは……。エスカレーター。
わしは「下」をのぞき込む。
よし、誰もおらへんな。
そしてそのまま下へとかけ出す!
うおおおおおおおおおっ!!
すぐさまごりらちゃんが追いついたようで、背中から、
「えっ!?」
という声が飛んできおった!
ふふ!
このエスカレーターは実を言うと、一階から二階に「上る」エスカレーターなんや。
つまり、わしは上りエスカレーターを「下って」行ったんや!
ふっ、普通の人なら上りエスカレーターを下るとは思わないやろ!
だがそれをやるのがわしや! どやっ!
わしは強引に上りエスカレーターを駆け下ると、そのまま出口へととんずらする。
しかし、その時やった!
「待てーっ!!」
なんとごりらちゃんが、階段の方から走ってくるやないか!
「げえっ!」
エスカレーターで下ってこなかったんか!? こいつ、先読みの化けもんか!?
後ろをちらっ、ちらっ、と見ながらビルの出口へと出る。
出口横には、何台かの自転車が駐輪しておった。
ちょっと申し訳ないが、使わせてもらうで。
遅れてごりらちゃんも、出口へと出てきた。
それを見てわしはごりらちゃんめがけ、駐輪してあった自転車を投げつけたんや!
「え!?」
宙を飛ぶ自転車を見て、びっくりした顔を見せるごりらちゃん。
わしが自転車を盗んで乗るとか思っていたんやろが。
どやっ、びっくりしたやろ!
ごりらちゃんは空飛ぶ自転車を見るなり、落下地点から退避しおった!
そして、店内の入口へと下がり、かわそうとしたんや!
しかしそこにはちょうど、お客さんが出てくるところやった!
ごりらちゃんはお客さんを避けようと強引に体をねじらせ、斜め後ろに転がり倒れていく!
「ぐふっ!!」
うまく受け身をしおったが、それでもすぐには起き上がれん様子やった。
「ほな、さいなら~!」
わしはその様子を見て少し微笑むと、小走りにその場を後にする。
ふふ、これで逃げ切れたかな?
*
ひとまずごりらちゃんの追跡から逃れたわしは、急ぎ足でビルから離れた。
そして裏通りを走る。
次の手を考えよか。
ビルとビルのあいだからのぞく空は、アフリカの夕暮れのように見えおる。
次はどうするべきやろか?
と思いつつ、顔を上げると。
目立たん格好のつもりやが、なんでか他人の視線がわしに注がれておる?
自分というか。自分のある一点に。
なんやろ?
あ。
そこでようやく、わしは思い出したというか我に返る。
血が、額から流れておったんやっけ。
手を額に当てる。
その血に触れてみると、固まっておった。
お、止まっとる。
速度を落として歩きながら、ズボンのポケットからハンカチを取り出し額をこする。
何度かこすって、額から離す。
血が白いハンカチに、こびりついておった。
今までの人生で何度も何度も見てきた血。
人のも。
自分のも。
数えきれないほど見て見慣れたもの。
これが俺の人生なんや。
もう一度ハンカチで額をこすり、血を拭く。
そして指も。
血をぬぐい終え、ハンカチをポケットに無造作にしまう。
顔はスッキリとしたけどが、何かが拭いきれない気分やった。
さ、逃げないとな。
小走りに裏通りを駆け抜け何度も角を曲がりながら、わしはある場所を目指す。
少しでも早く、ここから離れんと。この場所からな。
そう。わしは駅を目指しておる。
一刻も早く電車かバスにでも乗り、ここから離れたいんや。
裏通りという茂みを通り、用心深くあちらこちらを見る。
早く駅へ行かんと。
なるだけ、表通りに出ようとはせえへんようにな。
もし出たら、ごりらちゃんと一緒にいたかわいこちゃんや、救急隊員とかに見つかるかもしれんし。
十字路があるときは、もともと早足な足をさらに早めて通り過ぎる。
気配を殺していくつも通りを変え、あたりを警戒しながらわしは駅へと近づく。
よしっ、あのビルの角を曲がれば駅のロータリーに出られるな。
後は電車の発車ギリギリに飛び乗ってっ、と……。
と、頬をゆるめた時やった。
曲がり角の先から黒い影が、ちょこん、と出てきおった。
?
一瞬わしが頭をかしげると。
その影はずずずっ、と伸びて行く。
丸い頭の長い影。
人、影?
!?
わしはその影に、一瞬体が震える。
ま、まさか!?
そして白いビルの角から、現れたのは……。
「みーつけましたよー!」
黒いボーイッシュなショートヘア。
スポーツマンで、勝気な美人顔。
黒いコートに身を包んだ背高。
そう。そのまさかの、ごりらちゃんや!
ごりらちゃんの顔は満面の笑み。
彼女の顔を見た途端、自分の顔が引きつるのがわかった。
「なんでアンタがここにいるんやーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」
「あなたの考えることなんて、まるっとおみとおしよ!」
空いた方の手の人差し指を、獲物に突きつける狩人ごりらちゃん。
なんていうことや。
なんでここがわかったんや!?
わしは一瞬、たぬきに化かされた気分やったが、
「アンタに捕まってたまるかーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
そう叫ぶとくるりと一八〇度反転し、そのままダッシュして脱兎のごとく逃げ出す!
「またんかいーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
ごりらさんも叫ぶと、後を追っかけて来おった!
二人の距離は十メートルか、それより少し長い程度やろか。
わしはシマウマのように、裏通りを駆けぬける。
なんで、なんであのごりらちゃん、わしの行く先ざきを知っているんや?
それに、ここまでしつこく追ってくるやなんて……。
あの娘、全国区の組の者かそれとも……。
そんなよりも、今は走ることに専念や。
頭を切り替えよ。
視線は、一つ先の表通りへと出る道へ。
いったんここは、表通りに!
そして、相変わらずのフルスピードで角を曲がると表通りに出る。
あのごりらちゃんが追いつかないうちに、駅につこう!
わしが表通りに出ると、相変わらずの人混みやった。
わしにはこいつらが、ヌーの群れに見える。
カップルをかわしながら、その二人を見てわしはくやしかった。
畜生。普段ならこいつらにぶつかって狩っているというのに!
接近してくる人の群れをかわし、わしは駅へと走る。
そのときや。
「まてーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
後ろから大きな声で叫ぶのは、恐るべきごりらちゃん。
顔を真赤にしながら、人波を寸前でかわしてわしを追ってくる!
そのかわし方は、相手の動きを完璧に読んでおる!
脚力も男並みやな!
おっと、こんなことに気を取られへんで、逃げんとな。
うっ。
目前には、大きな交差点が!
駅に続く通りの歩行者信号は、赤や!
くっ、ここは信号無視してそのまま通り抜けよか?
いや、乗用車があっちから近づいてきておるな……。
しかしここで止まれば、あのごりらちゃんに捕まってしまう!
ならば!
わしは横断歩道の寸前で四十五度斜めターンすると、交差点のどまんなかを突っ切る!
素晴らしいフェイントや!
しかし!
ごりらちゃんも、わしの行動にすぐさま対応してきおった!
一瞬のうちに体を九十度横に変更すると、彼女から見て右の、青の歩行者信号の横断歩道を渡ろうとしてきおった!
が!
先ほど交差点に近づいてきた車が、ごりらちゃんが渡っている横断歩道の方に曲がって来たんや!
ごりらちゃんは、すかさず急ブレーキ!
横断歩道のどまんなかで立ち止まる!
その前を、乗用車がスピードを落としながら通り抜けて行きおった。
わしはそれをちらっと確認したあとで、その場をとんずらする。
ふっ、また振り切った。
しかし、わしの息は乱れていた。
ちょっと走りすぎたかの……。
そ、それでも、つかまるわけにはいかん!
は、走り続けんとな……。
それからの信号は、わしは順調に渡った。
最初に想定していたよりかは随分と遠回りになったが、なんとか駅にたどり着けた。
ふぅ……。
駅のロータリーには、バスや乗用車などが止まったり回ったりしておる。
わしはロータリーをひと通り眺める。
あれや。アレを使おう。
舌なめずりをして、ロータリーのある場所を急ぎ足で目指す。
その場所とは、タクシー乗り場や。
正確にはタクシー乗り場のすぐ近くにある、タクシーの溜まり場や。
そちらの方に向かいながら、その近くを見る。
タクシー運転手の溜まり場や。
そこでは何名かのタクシー運転手が、コーヒーの缶やタバコや新聞などを手に談笑しておる。
彼らの姿を確認すると、タクシーの群れのほうを見やる。
思った通りや。
わしはやつらに気づかれないようにそっとタクシーの溜まり場の最後尾に行き、運転手のいないタクシーを見つけた。
そのタクシーはアイドリングしっぱなしで、鍵を運転席の鍵穴につけたままやった。
すぐに出られるように、ということなんやが。
なんとも不用心やな。けど、こちらには都合がいいんや。
ちょっと貸してもらうで。
わしは無造作にドアを開け閉めして乗り込むと、運転席に座る。
そしてシートベルトを締め、ギアをバックに入れペダルを強く踏む!
次の瞬間、タクシーは猛烈な勢いでバックしてロータリーへと出る。
その急バック音に、タクシーの運転手たちは驚いて顔を上げおった。
「あーっ!?」
奴らが声を上げた次の瞬間には、わしの操るタクシーは猛スピードでロータリーを駆け抜け、大通りへと出る!
どうや!
まさかごりらちゃんも、タクシーをパクるとは思わんやろ!
わしは意気揚々として、車を走らせ、駅前を離れる。
さーて、これで本当に逃げ切れたかのう……。
*
わしは巧みに盗んだタクシーを操りながら、大通りを突っ切る。
サバンナの中を突き抜ける、一本道を駆け抜けているような気分や。
実はわし、こう見えてタクシー運転手をしていたこともあったんや。
素性の悪さで、すぐに首になったけどな。
それはともかく、昔取ったきねつかやな。
軽快にタクシーを操りながら、あちこちの計器や走りの調子を確認する。
燃料は満タン、走行距離もさほどあらへん。
走りの調子もええ。
これなら、少しぐらい乱暴に運転しても平気やろ。
お、この袋は……、
売上金袋か。
ふふん、こいつももらっていこう。
しばらく適当にドライブして、巻いたらどこかの駅のタクシー溜まりで乗り捨てて、後は電車でゆっくり帰らせてもらいましょか。
そう思いながらバックミラーを、ふと見た時や。
猛スピードで後方から加速してくる車が、一台。
見れば、この車と同じタイプのタクシーや。
なんや!?
と思うまもなく、そのタクシーはわしのタクシーの右にすーっと並んできおった。
その時わしの背筋に、先ほど味わったのと同じ悪寒が!
ま・さ・か・!?
恐る恐る右側を見ると!
ボーイッシュなショートヘアの黒髪。
勝気なオトコっぽい顔の美顔。
さっきからよく見る顔が、こちらに笑顔を向けておる!
彼女の顔に、わしの心は凍りつく。
うわああああああ!! ごりらちゃんやあああああああああああああああああああああ!!
ごりらちゃんが、タクシーに乗って追いついてきたんや!
ごりらちゃんは、その怒りに満ちた笑顔のまま口をぱくぱくし始める。
何か言っているようや。
わしは、彼女が何を言っているのかすぐにわかった。
「と・ま・り・な・さ・い」
と。
しかし、わしはもちろんそんなことは聞かん!
「ここで止まるかアホ!!」
右側に車を寄せ、軽くごりらちゃんの乗るタクシーにぶつける。
押されてふらつく、ごりらちゃんのタクシー。
そのすきを突いて、わしは車を急加速させる。
「捕まってたまるかーい!!」
一気にフルスロットルへとペダルを踏んで、加速。
ごりらちゃんのタクシーを引き離しにかかってみる。
しかし、負けるもんですか、という風に向こうのタクシーも加速して、わしのタクシーの後を追っかけてくる。
そんな時、わしの前に、大きめの交差点が見えてきおった。
こちら側の自動車信号は……、赤や!
今さら、信号無視程度、構うもんかい!
と突っ切ろうとしたそのときや!
今まさに横断歩道を渡ろうとしている、数人の人間が!
突っ込んでくる車を見るなり彼らの顔が一斉に青ざめ、足が止まる!
わしは目を細め、アクセルを踏み続ける!
次の瞬間!
大きくハンドルをきる!
人々のそばを、車体が通過!
人と車の距離、わずかに数センチ!
どや! すごい運転テクニックやろ!
わしのタクシーはそのまま交差点を曲がり、横道へと入る。
後ろを振り返る。
どうやら、ごりらちゃんのタクシーは赤信号で停まったようや。
「ふぅ……」
わしは大きく息をひとつつく。
ひとまずは安心や。
しかし……。
あの女、なんでわしの行く所行く所現れるねん!? 薄気味悪いわ!
化けもんかいあいつわ!
わしは胸に気持ち悪さを感じながら、しばらく運転し続けておった。
いくつかの角を曲がり、いったんは大通りを離れる。
一回一つの角地をグルっと回ったり、一回きた道を今度は反対に通ったりしながら、常に後ろなどを確認し追跡者が来ないか確認してみる。
用心には、用心を重ねてな。
これで十分やろ……。やろうけど……。
わしの胸に、一抹の不安がよぎる。
備え付けのカーナビゲーションシステムを操作して、ここから近いいくつかの駅を調べ、その中で一番遠い駅を確認や。
ここでええやろ……。いい加減乗り捨てんと……。
見上げた空はとっぷりと暮れ、夜の帳が下りておった。
サバンナに、夜が訪れようとしているんや……。
わしはタクシーを慎重に運転し、先ほどの大通りとは違う大きな幹線道路に通じる交差点へと、ようやく出る。
わしは、ほっ、と息をつく。
今日、何度目のため息やろか。
ん? 向こう側に見える幹線道路はなにか妙やな。
静かすぎる。
車が通っておらへん……?
わしは速度を落とし、幹線道路へと出た次の瞬間!
左右から眩しいライトの白い光が!!
手で光を遮りつつ左右を見ると!
ルーフに赤いライトを点滅させた白黒の車が何台も止まり、道路を封鎖しておった!
そう。パトカーが先回りして、道路を封鎖していたんや!!
わしはパトカーの群れの姿を見るなり、叫ぶ。
「なんでや!! なんでわかっていたんや!!」
ここは三十六計逃げるにしかず、や!
車をその場で強引にUターンさせ、元来た道へ逃げるしかあらへん!
わしのUターンを見るなり、パトカーがサイレンを鳴らして肉食獣の群れのようにいっせいに襲いかかってきおった!
「ひーっ! ひーいっ!!」
来た道を戻りながら、わしは必死で車を走らせる。
その後を追いかけてくる、赤色サイレンの肉食獣の群れ!
逃げてやる……! 逃げてやる!!
「逃げ切ってやる! どんなことをしても逃げ切ってやるっ!!」
わしのタクシーは、猛スピードで狭い路地を駆け抜ける。
電柱や壁などにあちらこちらをこするが、そんなこと今は気にせえへん。
しかし、いつまで逃げられるやろか……。
何度も角を曲がり、白黒の狩人をまこうとするんやけど、なかなかまけへん!
「ちっ、しつこい!」
角を曲がっても、スピードを上げて振り切ろうにも振り切れん!!
そして幹線道路に続く、別の十字路が見えてきおった。
ふっ、まだわしにツキはあったな。
ここを渡れば幹線道路はすぐや!
と、わしがその十字路を突っ切ろうとしたその時や!
右側の横道から、眩しい白光が!!
「な……!」
激しい衝撃が、わしを襲う!
と同時に体に別の衝撃が襲い、目の前が真っ白に包まれる!
「ぐぬっ……! ふぐぬっ……!!」
突然ビニールの不快な肌触りが、顔を包みおった!
い、息がでけへん!
「ぐぬーっ!」
手探りでつかみ、強引にそのビニールを引き剥がす。
そのビニールは、ハンドルから放出されたエアバッグやった。
あたりを見ると右側のドアは衝撃でゆがみ、ガラスもヒビが入っておった。
視界が回復した所で、衝撃のあった右側を見ると。
さっきまで追跡してきておった黒い車が、ボンネットを跳ねあげて止まっておった。
そう。ごりらちゃんが乗っているタクシーや!
「ひぃ……! こいつ……! 車をぶつけてきやった……!!」
わしはシートベルトを外し、無事な左側のドアを開けて出ようと思った。
が、衝突の際自動車のフレームが歪んでしまったのか、なかなかドアが開かん。
「このっ、このっ、このーっ!!」
最後はなかばドアを外すような勢いで強引に開け、外へと降り立つ。
その時やった。
何かが大きく外れる音がして、相手の車の助手席の方から影が降り立ったんや。
その人影の顔は、夜の闇に隠されて最初は見えんかった。
が、その影が数歩動き、影が交差点の照明に照らされると……。
彼女の憤まんに満ちあふれた表情が、不気味に浮かび上がりおった。
もちろん、それはごりらちゃんや!
「う、うわああああああ!!」
わしは彼女の姿を見るなり、一目散に十字路の前方へと逃げ出す。
ごりらちゃんも、
「待てええええええ!!」
叫び声を上げながら、追いかけてきおった!
「なんでや!? なんでこうなったんや!?」
わしは自問しながら首を横に振る。
が、答えは出えへん。
出えへん……。
「ひぃ……! ひぃ……!!」
それでも見つからない答えを探すように、必死にごりらさんから逃げるわしやったが。
小さな段差につまずいたんやろか、一瞬足がもつれてしもた!
「あ!?」
次の瞬間、わしは勢いをつけたまま、前方へ倒れてしもた!
衝撃と痛みが体を走る。
いでぇ……!!
わしにとってその一瞬が、永遠に思えた。
今までの人生のあらゆる出来事が、脳内をぐるぐると駆け巡る。
まさに走馬灯や……。
「くっ……!」
わしの命運は、尽きたんか?
万事休すなんか?
それでもわしは、あがくように立ち上がる。
最後の最後まで、諦めないんや!!
その時、背後に殺気が!
ふっ、と振り返ると。
すぐそこに、ごりらちゃんが憤怒の表情で仁王立ちしておった!!
バケモノや……! ホラー映画の化け物や!!
「観念しなさい!」
慈悲はない、というその表情に。
「ひい……っ! 来るな……! 来るなぁ……!!」
こうなったらこいつを殺ってでも!!
ふぬぅー!!
「あーあ。スーツのポケットからナイフを出しちゃって……。それを振りかざしたんだし、何をされても文句ないわよね!」
う……!? な、なんて落ち着きようや……!?
わ、わし勝てへん!?
「あんたは詐欺罪とか脅迫罪とか公務執行妨害とか窃盗とか色々罪を犯しているけど。それよりもあたしが許せないのは! まず、あたしを男と見間違えたこと! 次に、追いかけてくるあたしを化け物扱いしたこと! そして最後に……。あたしを『ごりらちゃん』と呼び続けたことだああああああああああああああああああ!!」
え……?
わしは呆然とした。
そ、そんなこと……。
「そ、そんなこと、わし言うてへん!!」
「言ったああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
言ってへん! こころん中では言うたけどあんた聞いてへんや……!
うぐあっ!
間髪いれずにタックルがっ!?
うわ、手をねじるな!?
そのまま投げられたー!?
うわああああああー!
視界が回るーっ!
ぐふっ!
痛っ! 息ができへん!!
なんか、遠くで金属音が鳴ったような……。
右手が軽い。
ああ……! ナイフが……!
でも、わしは……!
グワーッ!
ごりらちゃんがわしの胸の上に馬乗りにー!?
やめ! やめてや!!
何する気や!?
やめんかい! やめんかい!
うごーっ! うごーっ!
「いいかげんに暴れないで大人しくしなさい、テツさん!! 犯罪者に慈悲はないわよ!!」
ごりらちゃんの顔、アシュラをも超えた顔つきや……!
怖いー!!
ひっ、ひぃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!
「ゆっ、許し……」
「ごめんですんだら警察はいらないわよ!!」
やっ、やめ……! 殴ら……!
ゴッ! グフッ! ゴボッ! グフッ! グガ! ガハッ! グガッ! グワッ!
たすゴボッ…………!!
…………。
……。
*
「うーっ」
あれから数日後の定時後。
夕暮れの光が優しく差し込む、とある警察署の一室で、婦人警官制服姿のあたしは自分の机でうなだれると、大きくため息をついたの。
机の上には、いくつもの書類が積もり、山のようになっているわ。
あーあ……。
「もうこんなのコリゴリだといつも思うけど、ついやっちゃうんだよなあ……」
その時。こつん、とスチールの缶を置く音が耳元でした。
あ。
と思いながら起き上がると、
「後藤さん。はい、お疲れ様」
優しい天使が、あたしにねぎらいをかけてくれた。
茶色いロングヘアの、今時の目鼻がくっきりとした顔立ちの女性。
あたしの同僚の、芽衣子です。
女性警官の制服姿の彼女は片手に、弁当屋さんのビニール袋を持ってた。
焼いた肉と芳醇なソースと柔らかく炊き上がったご飯の匂いが、わずかに漂ってくる。
「はい、コーヒー。それと焼肉とハンバーグ弁当ね」
芽衣子はそう言いながら、机の空いたところに袋を置いてくれた。
それから書類の山に目をやると芽衣子は、
「これ、報告書と始末書? ずいぶん多いわね~?」
と苦笑交じりに言った。
その言葉に、あたしはまたがっくりとうなだれると、
「うん……。今回はタクシーをぶっ壊したのと、ぶん殴り過ぎたのでいつもより余計に増量なの……」
そう言うなり、再び机に突っぷすあたし。
芽衣子は、それを聞くなり苦笑し続けながら言った。
「まああんなことやっちゃあ、ねえ?」
「だってさー。運転手がなんかノリノリでさー。追跡してくれたのはありがたいんだけど、あたしがつい『あたしが合図出すからあんたはここを突っ走ってあのタクシーにぶつけろ!』って言ったら。『イエス・サー!!』とノリノリでやっちゃって……」
「それでタクシー会社から、賠償請求ですか。しばらくお給料下がっちゃうわね~」
「給料のことはいいんだけどさあ……」
あたしはふっと体を起こし、芽衣子の方を向く。
芽衣子がその顔を見たら、また始まった、と思うだろうなー。
「それよりも聞いてよ! 署員の奴ら! あいつら、今回の件でなんて思ったか知ってる!?『血まみれアマゾネスがまたやった』とか、『バーバリアンがクラスチェンジしてバーサーカーになった』とか、『新型鋼鉄ゴリラマークⅡ』だとか、『さすがは、何事も最後には暴力が一番の女』とか、言いたい放題よ!! 心のなかで言っていても、あたしには全部わかるんだから!!」
「いつも思うけど、心を読めるって、本当に大変ね……」
あたしのマシンガントークに、芽衣子は苦笑しながらも肯定的にうなずく。
しっかし、芽衣子の心ってどうしても読めないよのね……。
裏表がない性格なのか。
それともそういう能力を持っているのか。あたしにはわからないけど。
あたしにとってテツさんみたいな人間よりも、彼女の方がよっぽど恐ろしいかもしれない。
そんなことを思うあたしをよそに、芽衣子はそれから、そうだ。と言って、
「ねえ、あなたが捕まえたテツさんの取り調べが、始まったわよ」
「どんな感じ?」
「それがね……。『もうあんな怖い目に合うのは嫌やから、稼業やめますわ……』と泣きながら何度もうわ言のように繰り返しているらしくてね……。あなたに追いかけられて殴られまくったのが、相当こたえたようよ」
その答えに、あたしは再び机に突っ伏す。
「あたしはバケモノか! まあさんざんあいつにも言われたけど……」
「まあまあ」
芽衣子はそう言ってから、あたしの頭を優しくなでてくれた。
「ご飯をたくさん食べて、嫌なことを忘れちゃいましょうか。まずはこのお弁当を。それから、今日の残業が終わったら、二人で飲みに行きましょう。リラちゃん。私が全部おごっちゃうわよ~」
「え、やだ、本当?」
そう言われたあたしは顔を上げ、現金な声で答える。
そして引き出しから化粧箱を取り出す。
ピンクの口紅を塗りアイラインを引いて、香水を首筋にぱぱっ、とかける。
ラベンダーの匂いが、ほどよく首筋からただよってくる。
これで道行く殿方が振り返るかも。ふふっ。
「うん! 嫌なこと全部忘れちゃうほど飲むからね!」
「また居酒屋で他人の心の愚痴を読んで、嫌な気分にならなきゃいいけど……」
そんな芽衣子の心配を他所に、化粧を終えたあたしは弁当の肉を頬張るのだった。
ん? あたしの名前、ですか?
あたしの名前は、後藤リラ、と言います。
……ゴリラって言うなあ!!
<完>