行動と選択 / 前
❮16❯
俺がやっていることは間違いなのかもしれない。
それでも俺は間違いだなんて思いたくない。
リスクは高いが、やるだけの価値はある。
(確か第三校舎の2階と第四校舎の2階は渡り廊下で繋がってたはずだ……なら、そこから行ったほうが良いか)
音楽室から抜け出してから俺は格技場まで外に出ずに向かうルートを探していた。安純の場合は最短ルートだったからこそ、校舎を出てすぐ音楽室に向かうことができたが、今は外に出るわけにはいけない理由があった。
一つは、大蛙の出現だ。外から向かった場合に万が一見つかったら、奴は校舎を破壊して外に出る可能性があったからだ。外で大蛙と鉢合わせしたとしたら確実に俺は殺される。なぜなら相手は脚力が最もある生物な上、長い舌に捕まる可能性がある。
蛙を相手にする時は、なるべく狭い場所が有利なんだ。広いところで戦えば逃げれるという考えは捨てるべきだ。
何より、大蛙には痛覚共有という人間では太刀打ちができない能力を持っているかもしれないというのもさっき安純達と話してわかった。
それなら、確実に遭遇を避けられるかもしれない校舎を伝って近づくしかないんだ。
もう一つ理由があるんだが、大蛙を見て俺は蛙以外の生物もいるんじゃないか?と思ったからだ。
いないことには越したことは無いけれど、用心した方が良い。それなら、安全な建物内にいた方が対処はしやすいっていう勝手な思いなんだけれど。
「この道を通るのは何気に初めてだな……」
第三校舎と第四校舎を繋ぐ一本の通路。
ただの真っ直ぐな一本道だが、ここで大蛙がきたら一発で通路は破壊されてしまうんじゃないかってぐらいに長い通路。
モップの柄を握りしめ唾を飲み込む。
ここから走って一気に格技場を目指す。ただ一度も立ち止まらずに走るんだ。
大蛙がまだ3階にいるとも限らない。シャッターを怖いして2階や4階にいるかもしれない。だが、それでも俺は立ち止まらずに走る。
2階の曲がり角からは数体のゾンビがゆっくりと歩いてくる。
足をすくませずに走る。
モップの柄で一番手前のゾンビの顔を横から殴り、よろけた隙を見逃さずに狙いを鼻骨に定め、柄で串刺しにする。
赤黒い血が飛び散る中、次の標的へと焦点を変える。
ゾンビの足の後ろを柄で思いっきり殴り、転倒させて靴で踏み潰す勢いで顔を踏みつける。
「…………っけよ……退けよ……邪魔なんだよオマエら!!」
次から次へと目の前に現れるゾンビを柄で殴り、薙ぎ払う。
それでも、俺は走るのはやめない。
幸い、ゾンビぐらいなら対処できる。大蛙さえ出なければ確実に格技場まで行ける。
早く向かわないといけないな。
❮17❯
ガチャッっと室内に小さくなった物音を私は聞き逃さなかった。
というよりも、単にその物音がしたところの近い位置にいたから聞き逃さなかったってだけなのかもしれないど。
それは間違いなく、入口……つまり、ドアから発せられた音だ。
私は違和感を感じて、すぐにドアを見た。
「内側に鍵が付いてない……じゃあ、鍵は外側からじゃないとかけられない…………」
試しにドアノブを捻ってみるものの、開かない。
違和感は嫌な感じに変わり、確信した。
「閉じ込め、られた……?」
冷静に、冷静に。焦っても何も始まらない。
鍵をかけたのは確実にサボり魔……相澤柊哉の仕業だと思う。
さっきトイレに行くだとかの会話を聞いていて彼は不自然に目線が泳いでたように見えた。それに、付き添いを拒む理由も特に無いのに断ったのも本当に一人でも大丈夫だというよりも、一人じゃないとダメだという感じにも見えた。
単に私の考えすぎなだけかもしれないけど、現に鍵をかけることができたのは彼しかいないと思う。
でも、彼が鍵をかけることに何の意味があったのだろう……?
「境井さん、どうかしたか?」
「あぁ、神堂先輩……その、鍵が閉められてて…………」
「外側からしか鍵がかけられないドアか…………おそらく、相澤か」
おっと、さすがは薙刀部の主将にして副会長。ピンポイントで犯人を当ててきた。
といっても、この状況で鍵をかけることができるのは彼だけだし、当てられても不思議じゃないか。
「もしかして、相澤は……逃げたんですかね」
その可能性は低いとわかっていた。彼は逃げ出すほど弱い人間なんかじゃない。少なくとも、私を助けた時はそんな感じがした。
「いいや、相澤は逃げるような人間じゃない。そうだな、アイツなら仲間を守るためならこういう事を普通にする人間だ。多分だが、一人で格技場にでも向かったんだろ」
おぉ、確かに有り得そうだ。神堂先輩は相澤の元からの知り合いって感じなのかな?結構どうでもいいけど。
「そうだとすれば、相澤は格技場に向かってると考えて良いんですか?」
「まぁ、そうなるな。だが、閉じ込められているのには変わりようはない」
密室ってわけでもないから、そこまで危機感はない。いざとなれば窓から外に出れるわけだし……。
じゃあ、これは単なる時間稼ぎ的な感じかな。
「私はとりあえず、ここから出て格技場に向かう。境井さんは安純と麻生を見張っててくれ」
「えっ、ちょ、一人で向かうつもりですか……?」
「その方が、安全だろ?私自身、一人の方が動きやすいのも事実だが、一番は君たちの安全だ」
この人も、そうなんだ。
相澤 柊哉という人間と何ら変わりのない似た人間なんだ。
人の安全を優先させ、自身を犠牲にしようとする。
「話は聞かせてもらったぞッ!!」
「抜けがけは許さねぇぞッ!!」
いきなり、というより突然叫び出した男二人。
「聞かれてたか……そうか、なら話は早いな。境井さんと同様に麻生と安純にはここで待機していてほしい」
「「無理!!」」
ハモった。しかも、凄く目を見開いているからか、威圧感が出ていて直視できない!
「あ、あのな、無理だとかそういう話じゃないんだ」
「相澤のやったことは正しいものかもしれん。ただ、我と麻生は少なからず、相澤の力になりたいと思っておるし、頼ってほしいとも思っている。ここで、相澤の手助けしようと思わないわけがないだろ!?なんてったって、我は相澤の仲間だからな!!」
本気で言っているのがわかる。安純くんは本気で相澤の力になりたいと思っている。止めても無駄なのは神堂先輩でもわかるぐらいに想いは強い。
「おぉ、安純カッケー!!まぁ、俺も相澤と同じサボり魔だからな。加勢に駆けつけるのも同族として当たり前だろ?」
男の子ってよくわからないけれど、こういう展開は好きかな。
「だっ、だからといってだな…………」
「神堂先輩……これ以上、二人に言っても無意味ですよ。ということなんで、私達4人で相澤と合流するということで決定ですね」
困ったと言わんばかりの顔つきで神堂先輩はため息をついた。
「わかった。これ以上、言っても無駄のようだな……。仕方ない、全員で格技場に向かおう…………」
わりとチョロかった……。
相澤には悪いけれど、この面子的に考えて、閉じ込められていて大人しくしていられるわけないか。
薙刀部の主将、サボり魔、オタクっぽいポッチャリ体型、バスケ部の私……なかなか、変だと思うなぁ~
「それと、本当に危険だと思ったら真っ先に逃げてくれ。これは相澤も言うだろうし、私からの頼みでもある。なに、逃げても咎めはしないよ」
どっかの漫画で出てきそうな台詞だ。
でも、間違ってない。逃げろと言われても逃げる気は毛頭ないんだけどね。
私は、格技場の人たちを裏切ったようなものだ。
だから、何が何でも格技場に戻ってみせる。
「待っててね、海輝と天城院…………」
ガララッと外に直接出れる窓を開ける。
一回に一人しか出れないけれど、特に問題は無い。
「少し遠回りになるかもしれないが、校舎に戻って2階の一本道の通路から第三校舎に向かおう」
神堂先輩が方針を決め、私達4人は目的地へと向かう。
相澤に助けてもらった借りを返そうじゃないか。あわよくば借りを作ってやるんだから。
それまで、勝手に死んだりしないでよ……!