決断の時
❮14❯
「あのー、これからどうするつもりなんですか?ここにいても何も変わらないと思いますし…………」
自己紹介が終わり、すぐにバスケ部の子………境井が話題を振り始めた。
勿論、これからどうするかという想いはここにいる全員が抱いてるだろう。俺らは最初は格技場にいる生徒会長達と合流するという理由で上の階へと登っていた。
だが、あの蛙のせいで事態は変わり、この音楽室まで逃げ込んだというのが一連の流れなのだが、状況は全くと言って良い程に変化していない。
前から進んでいない。詰んだのかもしれない。
いや、あの大蛙の存在が確認出来ただけでも進歩してるのかもしれないな。
「あっ、あのさ…………」
「そういえば、上階では何があったんだよ」
かき消された…だと…?ありえない。いや、ありえるけど。
俺の発言をかき消した麻生優太とかいう人間なんなんですかね?
まぁ、言いたいことに繋がる言葉だったから今回は許すよ?うん。
「上階には、ゾンビ以外の生態を確認した」
「ふむ……やはり、あの衝撃音は別生態のモノだったか……」
アレが何でここにいるのかはわからないけど、一つだけ確かなことは俺ら人間とゾンビ構わずに捕食するということだ。
いや、もしかしたら一番重要なのかもしれないな。
「姿は蛙そのもの……形は通常の蛙の何倍もあった。そうだな、4mぐらいだと思うよ」
「蛙か……気味が悪いな」
「あの奇声も蛙の仕業ってことかよ……気持ち悪いじゃんか……」
神堂と麻生は蛙が苦手……なのかな?
苦手じゃなくてもアレは気持ち悪い。
身体全体から放たれる威圧感で俺も飛び出すのを躊躇するぐらいだしな。それにアレを怖いと思わないでいられるわけがない。
現に襲われそうになっていた境井は蛙の姿を思い出してか、さっきから発言しないどころか顔色が悪い気がする。
「境井、大丈夫か」
「あぁ、うん。その、続けて」
「ところで、相澤。話を中断してしまうのかもしれなのだが、一つだけ聞いても良いか?」
「別に良いけど、どうしたんだよ安純」
「その蛙の体の模様は覚えておるか?」
模様……?蛙の前に出てからはずっと走ってたからあまり覚えてないぞ。でも、全体的な色は…………
「全体が茶色で両側に黒い線みたいのがあって、口からお腹辺りまではクリーム色で黒いまだら模様があったと思います」
俺が答えを悩んでいるところに横から境井が蛙の特徴を言った。
正直、よくそんなに見れたなと思う。俺にはできなかった。
直視したら死にそうな勢いで怖かったし。
「その色と柄……もしかしたら、ガマガエル…………」
「なぁ、そのガマガエルだとして何か意味なんてあるのかよ?」
蛙には詳しくないからガマガエルだとか言われてもピンとこない。
一応、ここは都会だし滅多に蛙を見ることもないしな。
「これは我の思い込みにすぎないのだが、ガマガエルにはとある話があるんだ…………」
❮14.5❯
昔、ある男性が友人と共にどこかの山の登山中に、とある場所で、前足が三本ある大きなガマガエルを目撃したんだ。
あまりにも珍しいからかガマガエルを捕まえようとしたのだが、散々捕まえようとしたのだが逃げ足が早く、捕まらなくて頭にきた男性は木の枝でガマガエルの右目を突き刺したんだよ。
ガマガエルは右目に枝を刺した逃げたんだ。
その数日後に男性の右目がだんだんと腫上がり、激しく痛むようになったから医者に診察してもらったら「このままだと、間違いなく失明する」と宣告された訳なんだ。
これを男性は『ガマガエルの祟り』と称した。
恐ろしくなった男性は友人と共に再び山に登って、必死になって三本足のガマガエルを探し回った。
やっとの思いで見つけて捕まえたガマガエルの右目から枝を抜き取って、薬を塗るなど手厚く治療をしてから逃がしてあげた。
すると、目の腫れは軽くなっていって、最終的には失明することなく完治したという話がある。
❮15❯
「てな感じの話があるんだが……そのガマガエルは神の使いだとか言われたりしてるわけなんだ」
「それって、まさか…………」
話を聞いている内にうっすらと安純の言いたいことがわかったような気がする。
「そのまさかかもしれん…………」
「つまり、その大蛙には痛覚共有ができる力を持っていると?」
神堂が俺と安純が言いたかったことをピンポイントに言ってくれた。
でも、あの大蛙に痛覚共有なんて力があるのだとしたら、勝ち目なんて皆無じゃないか。それこそ本当に人間が相手できるわけがなくなる。
「あくまで、そのような力があるかもしれんというだけで、本当にあるかはわからない…………だから、頭の片隅に置いといてくれれば良い」
余計不安になったけれど、もしもの可能性を頭に入れておくだけでも注意ぐらいできるだろう。
「それはそうと、生徒会長達はどうするよ」
第三校舎の最上階の格技場には生徒会長達がいるというのは神堂から聞いている。
だが、あの大蛙がいる校舎だ。揺れも酷い上に最上階だから逃げるのも困難だろう。
最悪の場合、生徒会長達は………………。
「そっ、そうだ。あそこには海輝と天城院…それに、何人も生徒や教員が残されてるんだよ」
「生徒や教員…………それって、何人ぐらいだ」
「えっ……私を抜いて、確か44人だけど」
44人……少ない。いや、単に外へ逃げた者が多いだけか?
この高校は全学年11クラスあり、1クラス40人。単純計算で1320人だ。教員の数はわからないけど、だいたい70人はいたと思う。
だとする約1400人。
それに対して、確認されている生徒と教員の合計が俺たちも合わせて約50人ってところだ。
つまりは1350人ぐらいは外に逃げるかゾンビになるかでいなくなっているということだ。
「相当やばいな………………」
でも、あの蛙さえどうにかできれば格技場から生徒や教員を避難させられるのは確かだ。
今となってはゾンビ達は倒すことは簡単だ。束になって囲まれない限り俺一人で十分。
むしろ、一人の方が気を使わないで済むから楽だ。
「どうする?やはり、合流を…………」
今やるべき事は、確かにどんな形であれ合流することが先決だ。
(あれ?そういえば、この音楽室は内側から鍵がかけられないドアなのか……外側からしか鍵がかけられない部屋………………)
俺は音楽室の一番前にある教卓に目線をやる。
「あった…………」
俺が手にしたのは、この音楽室の鍵だ。
この鍵で何をするかだって?それは………………。
「そうだな。とりあえず、もう一度だけ行ってみよう。合流しないことには始まらないし………………その前に、トイレ行って良いかな?」
「あぁ、別に構わないが……誰か付き添ってやってくれ」
「いやいや、大丈夫だよ。ゾンビぐらいなら余裕だしさ……一人で大丈夫」
入口に立てかけて置いたモップの棒を片手に持って音楽室のドアを開けて、周りにゾンビがいないことを確認してから、みんなを一目見てからドアを閉める。
「悪いな…………足でまといとかじゃなくて、単に俺が逃げてるだけなんだ………………だから、少しだけ待っててくれ」
俺は小さく呟き、そっとドアノブに鍵を刺して捻る。
ガチャッと音がしたのを確認できた。
俺は、仲間を音楽室に閉じ込めたんだ。
でも、俺にはそれしかできない。
巻き込む巻き込まないとかいう問題じゃない。今からやろうとしてることは危険だし、提案したところで止められるのはわかってる。
でも、これなら少なからず……俺の目の前で仲間を失うだなんてことがないはずだ。
「さて、行くか…………」
格技場に残された生徒、教員を避難させにさ。