不確定な出会い
❮11❯
相澤が上階へ行った後、校舎は激しく揺れ、耳が痛くなるほどの奇声がこだましていた。
押し寄せてくるゾンビ達と交戦していた我ら。
「相澤、大丈夫なのかよ!?」
「相澤なら問題なかろう」
正直なところ、保証はない。
むしろ、その質問を我自身がしようとしていたモノであるからだ。
だが、心配するよりも今は目の前のゾンビをどうするかが問題なのだ。
幸い、神堂 飛花は薙刀部であり、相当な戦力となっているからかさほどの恐怖はない。
我は目の前に現れたゾンビの目や鼻、耳を重点的にドライバードリルを刺して回転させるだけだ。といっても、返り血が酷いのだがな!
様子を見る限り、上階にはゾンビではない巨大な何かが存在するのは確かだろう。
この分なら4階の格技場にいる者達との接触は難しいものがあるだろう。それでも、我は接触できる可能性を導き出すまでだ。
我は元より戦略などを練るタイプのゲームを得意としている。(自称、得意なのだがな)
それ故に、どうすれば答えにたどりつけるかというのを予想したりしているわけだ。
保健室までの最短ルートやらが頭に入っているのも、いつか緊急事態で保健室に行くことがあるかもしれないと思い、高1の時に学校全体マップを頭に叩き込み、最短ルートを導き出したのだ。
もっとも、保健室以外の教室の最短ルートとも頭に入れてある。
その他にも、ピッキングが得意なのなのだが、これは別に省いても良いだろう。多分だが。
ゾンビを殺すのにもさほどの抵抗がないのもゲームのせいなのかもしれない。この世界にはゾンビを狩るゲームなどが存在するせいか抵抗が薄れているのだろう。
神堂飛花からも抵抗があるようには見えない。
それ一方の麻生優太からは嫌悪感が伝わってくる。正直、ゾンビといえど物体に包丁を突き刺したりするのには抵抗があるのだろう。
この状況下で躊躇ってしまえば自分が殺されるような状況だ。
少しでも殺したくないという気持ちが出てしまえばお終いだ。
その時はその時で、我が役を変わってやろうじゃないか。
あれ?今の我って凄くカッコ良くない?
『ウッベェェルェェェェェェェェェッウェルェゲェェェル』
上階からとてつもなく気持ちの悪い叫び声が聞こえた。
間違いない、相澤が上階で何かと接触があったのだ。
校舎の振動も増す一方だ。ここは、相澤が戻ってきた瞬間に校舎から離脱できるように備えとくべきか?
「神堂、麻生!!相澤が戻ってきたらすぐに離脱できるように備えておいてくれ」
「りょ、了解ぃぃ」
「……承知した」
後は、相澤の戻りを待つのみだ。
だが、校舎から離脱したとしても、これからどうするべきなんだ。
外に出てしまえば、今以上に生きるのが困難になる恐れがある。
それにどうやって逃げるというのだ?走ってか?それじゃ、すぐに殺られるだけだ。
我らには、生き残るための最善の一手というものはあるのだろうか……?
❮12❯
後ろを振り返らず、女子生徒の手を握りながら走る。
叫び声はうるさいが、それ以上に蛙は一回に動く距離がデカい。
おそらくは後ろ足で地面を蹴りながら跳ねている。だが、蛙は斜め上に跳んだりするのが普通なのだが、奴は違う。
常時、前に進んでいる。地面の蹴り方さえ工夫すれば前にも跳ぶことができるのかもしれないが、俺は蛙のことはそんなに知らないから何とも言えない。
ドスンッ、ドスンッと確実に近づいているのがわかる。
でも、逆に確実に近づいているのがわかっているからこそ、後ろを振り返らずに走れる気もする。
幸い、女子生徒の足もなかなか速くて都合が良い。
「角を曲がったら、階段を下がるぞ」
「う、うん……わかった」
だが、逃げたところで蛙もついてくるだろう。
どこかで、確実に足止めができるものが必要だ。
こんだけデカいとデカい体を利用した足止めができるんだが……。
「なぁ、君はこれ以上に速く走ることってできるか?」
「えっ、あぁ、できるけど」
「好都合だな。よし、先に角に行って階段前のシャッター閉めてくれ」
俺らが角を曲がった時に壁に衝突できるようにするのが手っ取り早い。
だが、俺にはそれができるほど足は速くない。
聞いたところによると女子生徒は俺より速く走れるっぽいし、適役だ。
「シャッターを閉めるのは可能だけど、君はどうするつもりなの……?」
「その横にある非常用の扉からそっちに行くよ」
まぁ、俺も死にたくないしな。
あくまで、この状況下で可能な事を俺は要求している。
「それじゃ、先に行くね」
俺が女子生徒の手を離すと同時に走る速度を変えて、角を曲がる。
ガリガリッとシャッターを釣竿のリールみたいな形のものを手動で巻いてシャッターを徐々に降ろしていく。
「来いよ、無駄にデカい蛙野郎」
俺は呟き、後少しで降ろし終わるシャッターを目にして、全力で走り出す。
ガシャンッとシャッターが完全に降りて閉まった音が聞こえると同時に俺は横の非常用の扉を足で押し蹴って、扉を開かせる。そのまま扉を潜り扉をすぐさま閉める。
「ハァ……ハァ…………やった」
作戦は成功した。成功できた。
俺は緊張の糸が解けたようにその場に座り込む。
「間一髪だったな」
「うん、その、助けてくれてありがと」
「いや、最終的には俺の方が助けられたって」
ここで初めて互いの顔を見て、認識する。
「えっ?君、サボり魔の…………」
「あっ、放課後にコートでシュート練習前してるバスケ部の……」
なんということでしょう……互いの存在は知っていたようで。
ドゴォォォォンッ
いきなり、シャッター越しから衝撃音。
蛙がシャッターに突進でもして壊そうとしている……?
このシャッターがどのぐらい強固なのかはわからない以上、ここで座っているわけにもいかないか。
さっさと下に降りて神堂達と合流した方が良いだろう。
「行こう、バスケ部」
「そうだね……その、バスケ部っていうのやめて」
「自己紹介は後だ、後」
そして、俺とバスケ部の子は2階へと階段を降りる。
❮13❯
「おい、みんな!!早く校舎から出るぞ」
2階に降りて早々に俺は叫んだ。
俺の声に2階でゾンビを食い止めていた麻生、安純、神堂が反応し、すぐさま俺とバスケ部の子の元へ駆け寄ってきた。
「とりあえず、この校舎以外で安全そうな所はどこだ?」
「第四校舎の音楽室とかかな」
「音楽室か……ふむ、我について来い!!最短ルートで案内しようぞ」
相変わらず、安純ってハイスペックだよな。怖いんだけど。
俺たちが先程までいた第三校舎の向かい側に位置する第四校舎までは時間もかからなかったし、外にゾンビの気配は無かった。あるのは生命活動を完全に停止したゾンビだけだ。
「この音楽室なら、防音加工が壁に施されているからゾンビの聴覚に反応することは少なくなるということか」
神堂は腕を組みながら音楽室一帯を見渡す。
「ちゃんと自己紹介してなかったから、ここでしちゃおうぜ」
もっとも、俺も名前は知ってるだけだしな。
「俺は2年C組の麻生 優太。二人目のサボり魔と呼ばれてるぜぇー!」
「我は2年A組の安純 正典だ。趣味は戦略系統のゲームと地域探索である」
「私は3年A組の神堂 飛花。薙刀部の主将で副会長をやらせてもらっている」
全員、バラバラのクラスでよくここまでやれるよな。
みんながみんな馴れ馴れしいからか?
状況が状況だから、そんなの関係ないか。
「その、私は2年C組の境井 冬桜です。バスケ部でフォワードやってます」
境井……境井 冬桜……どっかで……………。
まぁ、一先ず置いといて、俺も自己紹介といこうか。
「俺は2年B組の相澤 柊哉だ。時計塔のサボり魔……らしい。まぁ、これから、どんだけ世話になるかはわからないけど、よろしく」
あっ、あれ?なんか、やたらと変な面子が集まったな…………。