表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Black Shiner  作者: 山吹十波
序章
1/14

#01-00 前口上

西暦2187年。

欧州で開かれた研究発表の場で、多くの人間が注目する中、一つの研究チームがある物質を発表した。

それは手のひら程の大きさの正八面体の黒い物質。

黒柩(クロハコ)という名前で世に現れたそれはこの世界のあらゆる法則を無視したとんでもない物体だった。


研究チームの一人が他の研究者たちが見つめるなかそれを手に取ると、黒い八面体は一瞬空にほどけたように見え、その後、その研究者の手の中で、もとの質量の10倍はありそうな長さの棒となって再構成された。


この不思議物質の登場に世界は大きく沸き上がった。

しかし、そのチームが配ったサンプルを自らの国に持ち帰った研究者たちは驚愕する。

熱・振動・光・電気・磁力・圧力、果てにはあらゆる薬品を用いたが、その黒い八面体はなんの変化ももたらさなかった。それだけではなく、何をしてもそれには傷一つつかず、どんな装置を用いてもそれがどの様な物質でできているのかすらわからなかったのだ。


発生から半年経過し、その非常識の塊について各国が半ば諦め始めた頃、件の研究チームが新たな発表をした。

曰く、あの黒い物体はこちらの研究の副産物であり、こちらの研究の証明をするためのピースでしかないと。


そのインターネットの動画サイトに突然投稿された60分程度の動画によって、世界が一変することになるとは誰も思っていなかった。



◆■◆■◆■



『これから説明することは全て事実であり、フィクションではありません。ですが、信じるのか、それともすべてはお前らの妄想だと切り捨てるのかはあなた方の自由です』


その枕詞から始まった動画には男が1人が映っていた。半年前の発表で、黒い八面体を長い棒に変形して見せた男だ。


『この黒柩は、物質であるくせに意思を持つ不思議な不思議な物質です。ですから、いくら物理的な力を加えても一切変化しません』


そういうと、画面の外から別の男がモニターを持って現れる。


『このモニターをご覧ください。この数値は私が持っている黒柩のある数値を測定したものです。現在46%。ギリギリ意思に応えてくれるといったレベルの適合率です。それではこれを別の人間に渡してみます』


さらにもう一人画面の外から男が現れ、その男が黒い八面体を受けとると、画面の中の数値は一気に14%まで下がった。


『彼の場合は適合率が低く、黒柩を変形させることはできません。実験した結果、多少無理をして黒柩を発動させることができる最低ラインは35%でした。また、この黒柩の場合は私に完全に適合している訳ではない為、あまり恩恵を得ることが出来ませんので、我々が探し出した最もこれを使いこなした人間を見ていただこうと思います』


そういうと、画面が切り替わり、先ほどまでの研究室の風景ではなく、広いホールのような場所へと変化する。

その中央に立った男は黒柩を持っており、それから離れてカメラの近くにはモニターを持った男がたっている。

そのモニターに表示されている数値は83%。システムは理解できないが先ほどの男よりは高いというのはわかる。


『黒柩起動します』


そう宣言すると男の手の中の黒い八面体は黒いハルバートへと形を変えた。


『じゃあ適当に動きますね』


あまり力をいれずに、という雰囲気で走り出すが、その速度は陸上選手もビックリの超高速。画面の端から端まで一瞬で辿り着くと、そこから人間の筋力では到底考えられないような大跳躍。そして極めつけは、


『最後に、この車を破壊します』


登場した小型車に向けて斧を振り降ろす。勿論、並みの速度でもないし、並みの威力でもない。

一撃で両断される車。

そう大きくないとしても、人の力で簡単に破壊できるものでもない。


『では、研究室にお返しします』

『実演ありがとうございました。このように黒柩と適合すれば人類を超越した力を手にいれることができます。勿論、それは適合することのできる人間に限られますが――それでは最後に、皆様が気になっているであろうこの物質の出所を』


部屋の中でカメラが移動し、なにやら複雑な装置の前へと移動する。


『最初にも言いましたが、これは私たちの研究の副産物として作ったものです。そもそも、私たちの研究テーマとは?その答えはこれです』


ジジジ……と少し怪しげな音を発しながら、背後のアーチ型の装置が起動する。

そして、その内側の空間に少しずつ皹が入り、砕け始める。

薄暗い研究室の向こう側にパステルな色が混じった白い世界が見え始める。


『この向こうは無幻の世界。我々の世界と他の世界を繋ぐ世界。そして、私たちの研究はこの世界とは他の世界へと渡るということ』


男が手を白い世界へと手を入れるとゆっくりと抵抗なく進んでいく。


『私たちはこの世界のほかに8つの平行世界の存在を観測によって発見しました。この技術が発展すれば皆さんが異世界へと旅行へ行く日も遠くないかもしれません。そして、身を特別な守る能力(まほう)を持たない私たちの力となってくれるものとして黒柩を開発しました。完成しているとは言い難いですが、充分な力を発揮できることは先程見ていただいたものでわかっていただけると思います。私たちは私たちそれぞれの祖国、また国際連盟に対して資金、人材、施設の提供や異世界との対話の準備を希望します。連絡についてはこちらのメールアドレスまでお願いします。以上』



◆■◆■◆■


翌年、西暦2188年または九界暦元年には世界中の研究者を集めた組織が発足し、

そこから約30年で異世界へと渡航する技術はある程度確立され、こちらの世界の代表として選ばれた使節団がコンタクトをとることに成功した世界――第1世界と第6世界へとの交流が開始された。


またそれと同時期に世界の各地で異変が起き始める。異変が起きるのは門が開いている都市の周辺で、原因はすぐに特定される。


超常的な物質もある程度観測できるようになったその頃でも判別は難しいかなり概念的な物質。

終末因子と暫定的に名付けられたそれは、一定量堆積するとそれは形を獲て、世界を破壊すべく動き始める。


そもそも、なぜこのような物質が出現したのか。

勿論この世界へ流入した原因は、異世界への扉を開いたことにあるのだが、元々の要因は9番目の世界が、この箱庭の管理者の世界への扉を抉じ開け、その世界の6割ほどを吹き飛ばしたことにある。


それによって世界の管理に乱れが生じ、各世界の様々な要素が虚無へと落ち、混ざった。

その結果生まれた不思議な物質もあるが、多くは終末因子となり、各世界に門を通じて滲み出している。


各世界では門を維持し、さらに終末因子による世界の崩壊を食い止めるため、九界暦35年に専門の機関を産み出した。門の管理や終末因子によって発生する怪異の討伐が主な仕事である。

そして物語は九界暦98年、その年から始まる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ