権力者達とトレジャーボックス。
台風の日に箱庭作り。さて、どんなモノが出来るのだろう。
泣き叫ぶ様な風音。水に飢えた作物も嫌がるであろう豪雨。…今日は台風だった。
濡れに濡れて冷えきった身体は、目の前のドアを開ける事すら困難にする。重い袋を片手に持ち直す。かじかんだもう片方の手でドアを開けると、暖房の温かい風が全身を包んだ。
袋を適当な所に置き、俺…挟霧界人は目の前の女性を睨みつけた。
「……ポルカ・ウェールテット。何故貴様は俺にこんなモノを買わせた」
袋の中身を出す。小さなうさぎの人形や植物、西洋の城のフィギュアなど訳の分からない奴ばかりだった。
わざわざ中身を出したのは、せめてもの嫌がらせにこのバカ清潔な部屋を少しでも汚してやろうとしたからだ。
「おかげで死ぬと思ったではないか」
女性…ポルカは長い銀髪を揺らしながら笑う。
「良いじゃないですか。そういうお店巡りが新しく趣味になるかもしれませんよ?」
「ならんわ!!ほぼ女しかいない店に行くハメになってしかも奇怪なモノでも見る様な目で見られた俺の気持ちが分かるか!?」
「分かりませんねぇ」
「俺は今から貴様がやる事が分からん」
眉間にシワを寄せながら、ぶっきらぼうに吐き捨てる。
「箱庭作りですよ。私の買ってきた箱の中に界人さんが買ってきてくれた奴を飾るってね。ミニジオラマみたいなもんですよ」
歌う様に言うと、彼女は近くのダンボールから赤い箱を取り出す。
「…好まんな、拠点で訓練する方がよっぽど良い」
馬鹿馬鹿しいと思い外へ出ようとすると、ドアが開いた。
オレンジの髪に赤いハチマキ。闇を狩る者の頂点に立つ俺には眩しく、苛立ちを覚えるほどに強い意志を宿した茶色の目。肩が見える派手な服に、華奢な身体を隠し切れていない赤いマント。そんな格好で寒くないのかと叫んでやりたい。
「ほらポルカ!!ボンド一式持ってきてやったわよ!!……ってバ界人!?何でアンタがここに居るのよ!!」
「それはこちらの台詞だ、黒光イマリ!!」
コイツは見下し、俺は見上げながら互いを睨む。
「「…ここで会ったが数年目!!いざ尋常に」」
「喧嘩しないで下さいよ!!」
「「すいませんでした!!」」
所々に棘のついた物騒な杖で攻撃を遮られる。
以前喧嘩した時にこれで殴られた俺達は、すぐさま引き下がった。
あの杖で付けられた傷は、どういう訳か何ヵ月経とうと癒えないのだ。
「二人は自分の立場を分かってるんですか?掃除屋のトップに奇人のトップ。特にイマリさん、貴方はもう16歳ですよ?子供みたいに騒がない!」
「うー…別に良いでしょ!お節介過ぎるのよ、親かっての!!後その奇人って言うのやめなさいよ!!」
「貴様が活発過ぎるからだ、猿の様にな」
「界人さんも調子に乗らない!」
「……うぐ」
二人並んで説教を受ける。何なんだ一体。今日は俺に恥をかかせる日なのか?
「じゃ、三人揃った所で始めましょうか」
「何をよ」
イマリの短い問いに、彼女はまた笑う。
「3リーダーの箱庭作りですよ」
「やっぱりね。わたしはそうだと思って家に置いてたアレ、持ってきたわよ」
テーブルの上に手のひらサイズの小さな盆栽と武士、豆粒の様なアヒルの人形がいくつも並べられる。
「……」
ポルカは苦笑いのまま固まる。
俺は寝る事にした。
*
「「完成ー!」」
「ずいぶんと時間がかかったな、どれ…」
起き上がり、箱を覗く。
芝生の真ん中に佇むのは、破壊された西洋の城。それを取り囲む様に立つ甲冑を纏った武士達。足元にはアヒルが座っている。
俺の買ってきた植物には焦がされた後があり、上には盆栽が積まれていた。そんな廃棄物の山を、うさぎが囲んでいる。
一言で表すなら『芸術もへったくれもない』だろうか。
何をどうしたらこうなるんだ。そして何故俺の買ってきたモノの大半が破壊されているんだ。
「…おい」
「「?」」
「……貴様ら、表へ出ろぉぉ!!」
「「わけがわからないよ!!」」
翌日、俺は風邪で仕事を休み2日は寝込むハメになった。
勢いで書きましたはいすいませんでしたもう土に埋まりそして世界の深さを知ります