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銀の髪をなびかせ、自身が背に持つ翼を忙しく動かしながら、少年は森の木々を縫うようにして飛んでいた。右手には一通の封筒がある。
「わー、今日はいつもに比べて多いなぁ」
左肩から下げた大きなバッグの中にある山ほどの手紙を見て、少年は眉を寄せた。手紙が落ちないように左手でバッグを、封筒を持った右手で被っている帽子を支えながらも、飛ぶスピードを少し上げる。
「急がないと、今日中に終わらないかも……」
独り言を遮るように、強い横風が吹いた。少年はバランスを崩し、近くにある木の枝を咄嗟につかむ。
だが、左手で押さえていたバッグから、手紙が何通か宙を舞っていってしまった。
「あ……!」
慌てて、その手紙を拾おうと地上に降りた。一通一通、付着した土を丁寧に払いながらバッグにしまっていく。
ふと、誰かの手と自分の手が重なり、目を丸くして顔を上げた。そこには困ったような微笑みを浮かべ、眉をハの字に寄せている青年が立っていた。青緑色の長い髪と、空色の瞳を持った青年は手に、手紙を持っている。
「ごめん、今の風、ボクなんだ。まだ……うまく、使えなくって」
手紙を拾うのを手伝ってくれていたのだろう、少年が拾った分も含め、落ちた郵便物は揃っていた。それを受け取り、バッグにしまう。
「ボクの名前はヴェント=ラミティ。風の竜人だよ、きみは?」
青年に、顔を覗きこまれるようにして尋ねられ、少年はわずかに身を引いた。
「あ、ボクは……ウィユ=オスキュリート。町の人からはユーって呼ばれてる」
ユーが言うと、ヴェントは頭の後ろで手を組み、歯を見せて笑った。彼は全体的に明るい雰囲気を持っている気がする。
「ウィユって、変わった名前だね」
「……もう、言われ慣れたよ」
ムッと眉を寄せるが、ユーは自分がしていたことを思い出し、急いで地面を蹴ると翼を動かした。それにつられるよう、ヴェントも翼を広げる。
「待ってよー、きみ、どこの集落の子なの? 銀髪って珍しいね! 炎の竜人だったら赤っぽいし、水の竜人なら藍色で、雷の竜人なら黄色っぽいのにー!」
ユーにとって、今はそれどころではなかった。今日中に、バッグがはちきれんばかりに入っている手紙を、届けてしまわなければならないのだ。
「とりあえず、風の集落から……」
「じゃあ、こっち!」
横に並んでいたヴェントに腕を引かれ、木に衝突しそうになった。それでも何とか体勢を立て直してそれを回避すると、ヴェントをにらむようにして見る。
「何をするの、急に引っ張ったら危ないでしょ!」
「ご、ごめん。でもボク達のところに行くんなら、こっちの方が近いからさ」
そう言われ、ユーは仕方なくヴェントに手を引かれるまま、大人しく横に並んで飛んだ。しばらく行くと、風の集落が見えてくる。
「本当だ……普段通る道より、ずっと早い」
「当然だろう? 風の竜人のボクが、案内したんだもの」
人懐っこい笑みを見せるヴェントに苦笑しながら、ユーは手紙の宛先を確認しながら集落に入っていった。