6-1
体を起こし、外を見てみると、すでに朝だった。
目を擦り、隣に眠っているヴェントを見つめ、壁に寄りかかっているジューメを見る。彼もユーが目を覚ましたことに気が付いたのか、薄く目を開いた。
「……体の調子はどうだ」
「え? あ……なんともないよ!」
「火傷は」
「うん、もう痛くない。ジューメの薬、すごいね、本当によく効くや」
「……ま。オレのは、見よう見マネで作ったものなんだけどな」
ヴェントを見てみると、彼も体を起こしていた。背中を丸めるようにして背伸びをし、充血している目を擦る。
「お前も起きたか、食事を済ませたら出るぞ」
「うん……」
どこか寝ぼけた口調のヴェントに、ユーは心配そうに顔を覗き込んだ。目を擦りながらも、そんなユーの頭に手を置くと髪をクシャクシャに撫でる。
「うん、だいじょうぶ、おきた……。さ、ご飯食べよ」
「うん……」
それでもどこか眠そうなヴェントに、ユーは首をかしげながらも、ジューメが適当に散らしている果物や干し肉に手を伸ばすのだった。
洞穴を後にし、三人は近くの森へ降り立った。そこでジューメが木の根に腰を下ろしたため、二人もつられるように近くの木の根元に座る。
「さて、ユー。……オレはあいつらから依頼を受けたとき、闇の竜人は危険な存在だと聞いた。だが実際こうして接してみると、確かに力は強いかも知れないが……まったくそんなことはなかったわけだ。……お前と、ルシアルの奴らの関係を。もしよければ、その眼のことも知っている範囲で教えてくれないか」
ユーは一瞬言葉を詰まらせ、それでも、ゆっくりと口を開いた。ポツリポツリと過去を話す彼の表情に、ヴェントは思わず顔を背け、ジューメは徐々に眉を寄せていく。
「……ひでぇな。オレが聞いた話と、だいぶ違う……」
ジューメは言いかけたことを途中で切り、目を鋭く光らせ、背に背負った大剣を構えた。ユーがそれにキョトンとしたのは一瞬のことで、すぐにクロウを構える。ヴェントも剣を抜き、三人は背合わせになった。
「何かいるね」
「なんだ……?」
フヨフヨと、宙を浮かぶように現れたのは、兜をかぶり、マントを羽織る得体のしれない生き物だった。兜から見える点のような目は黄色く、兜のてっぺんからは赤い光が尾を引き、髪のようになびいている。二十体ほどいるそれは、三人を囲むように広がった。
「なんだこいつら……?」
「少なくとも、味方じゃないよね」
「ユー、ジューメ、見て! 腕の形!」
目を丸くするヴェントの視線を追うと、マントを羽織ったそれが上げる腕は、鋭利なナイフのような形をしていた。一体がユーに向かい、まっすぐに突っ込んでくる。
ユーはそれを、二人より一歩前に進み、クロウで裂いた。動きが遅いためにあっさりと斬ることは出来たが、その斬り応えにユーは眉間へシワを寄せる。
まるでそれは、空を斬っているようだった。
「え……?」
周囲を警戒しながらも斬り捨てたそれを見ていると、マントが震え、元の形に戻っていったのだ。その時に、マントの中に見えたのは、白いモヤモヤとした煙。
「こ、こいつ! 体が煙だ!」
「ユー、後ろ!」
ヴェントの声に振り返ると、目の前にはナイフが振り上げられていた。目を見開き、クロウを体の前に運ぶ。
「あぶねぇ!」
守りが間に合いそうにないユーに、ジューメは腕に炎を纏わせると、ナイフを振り上げるマントを羽織る煙に向かって真っすぐに拳を突き出した。それに従うよう、炎は空を走り、マントを中身ごと焼き尽くす。
今度は、煙は再生しなかった。