プロローグ
「今日も、配達の量が多いな」
白みがかった髭を蓄える、深い藍色の瞳をした初老の男性は呟きながら、窓の外を見た。風は吹き荒れ、地を打つ雨は滝のよう。彼はそんな天候にため息をつくと、外に向かった。
そして、ドアを開けたままの恰好で、動きを止める。
家の前に、男の子が倒れているではないか。我に返ると、濡れるのも構わないように子供へ駆け寄り、小さな体を抱える。昏々と眠る男の子の黒髪は雨に打たれ、前髪は額に張り付いていた。唇は紫色で、歯がカチカチと噛みあっている、微かな音がする。一体、どれほど長い間、この雨に晒されていたのだろう。体は氷のように冷たくなっていた。
「大変だ……早く、温めてあげなければ」
子供を見て目を伏せ、一瞬ためらった後、家に入れた。タオルで水分を拭き取り、優しくベッドに寝かせ、部屋を後にしようとする。
「……さん」
何かを求めるように、子供が手を伸ばした。男性は振り返り、ベッドのそばに膝をつくとその手を握る。
「……大丈夫だよ。大丈夫」
震えるその子に布団をかけ直し、男性は部屋を後にするのだった。
――そしてそれから、七年の時が流れる。