俺の妹の神的リベンジ
動画投稿サイトのゲーム配信者さんの動画を見て思いついただけです。
FPSというゲームジャンルがある。正式名称は『ファーストパーソンシューティング』という。
主人公、つまりはプレイヤー視点(一人称)でゲーム中移動をしたり、武器などを使って戦うアクションゲームだ。
基本的に画面に表示されるのは腕や使用している武器だけである。
FPSとは対象的に、TPS、『サードパードンシューティング』というジャンルも存在している。
第三者視点であるのが特徴で、大半のゲームで操作キャラの頭上後方からの見下ろし視点が基本で、平時は操作キャラが中央に見えている。
世間一般に多くプレイされているのは、どちらかと言えば後者のTPSかもしれない。壮大なスケールのRPGやアクション系、ステルス系など枚挙にいとまが無い。最近ではホラーアクションなんてジャンルも出てきたし、ますますTPSの人気が出てきているのではないだろうか。
だがしかし。
だ が し か し !
あえて言おう。
俺はFPSが好きなのだと!!!
FPSの何が好きかと聞かれたら、俺の生い立ちから話さなくてはならなくなるので割愛するが、ゲームが好きだった俺に親父がこっそりと買い与えてくれたのがシューティングゲーム。
それがFPSだったのだ。
なに?短い?これで十分だ。
後に発覚・・・と言うよりも、あまりにも買ってくるゲームのジャンルが幅広く、それでいてやたらと攻略方法に詳しい親父に疑問を持った俺がしつこく質問して、それでようやくゲロった答えが
「お父さんな、実は隠れゲーマーなんだ。テヘペロ☆」
瞬間俺は親父を初めてキモイと思った。
親父のゲーマー歴は古く、それこそイン○ーダーから始まり、スーパーマ○オ、ストリー○ファイター、ロッ○マン。なんだか知らないタイトルまで自慢列伝で語っていたが、古すぎてわからなかった。
もちろんテト○スなんかはマジで神。一度だけ対戦してもらったが、子供相手に本気になった親父のあの血走った眼は、何年経とうがたまに夢で見る。悪夢だ。
今でも偉大なる親父は現役ゲーマー。
PS3、X BOX、PC。WiiにWii U。勿論携帯ゲーム機もしっかり持っている。ちなみに最近のヒットは最新作の『ポケ○ン』だそうで、暇があれば3DSで遊んでいる。
そんな隠れゲーマーの親父の生き様になぞるように、息子である俺もしっかりとゲーマー人生を謳歌している真っ最中。
新しいゲームは楽しくてしょうがないけど、世間一般的にゲームばっかりやる人間はオタクだと認知されて久しい。もちろんゲーマー仲間もフレンドもたくさんいるが、女の子にモテ無いのは正直イヤだ。
親父をちらりと見る。
現に親父も、母に隠れてゲームをしている。3DSに関しては俺が買ったということになっているので、それで遊んでいるとごまかしているらしいが、俺は知っている。
親父、おふくろは気付いているぞ。
そして、いい加減おふくろの冷たい目線に気付いてくれ。
俺は決心した。
親父と同じく、隠れゲーマーとして生きていこう。
家族にはバレているし、ゲーム仲間とフレンドは同士。
要は女の子にバレなければいいのだ。
だが彼女いない。
彼女、ほしい。
・・・出来ればゲームしてるのわかってくれる女の子、どっかにいないかなぁ。
そんな俺には一人、妹がいる。
これがまた俺や親父とは似ても似つかないほど、ゲームとは無縁な人生を送っていた。
やっても携帯ゲーム機の『モン○ン』だとか、『ピ○ミン』。たまにスマホのアプリで遊んでいるのを見かけるが、そんなにがっつりハマっているわけではなさそうだし、ただ単純に暇つぶしらしい。
たまに部屋で本を読んでいる時に俺がFPSをやっていると、画面を見て具合が悪くなったーと文句を言うくらいだ(FPSもTPSも画面が揺れるので酔いやすい)。別にゲーマー、オタクキモイとかは言われない。出来た妹でよかった。
妹には彼氏がいる。
近所の幼馴染で、俺と同級生だ。小中高と一緒で、大学は違う学校へと進学したが、近所なので顔を合わせるし、なによりも妹の彼氏だ。普通に家へ遊びに来たり、バイトで夜遅くなった妹を送り迎えをしてくれたりと何かと気の利くヤツである。
まあ派手ではないがそこそこ整った顔をしているし、本人は人見知りもせずに気安く話かけてきたりするので、結構交友関係が広い。中高と彼女を切らさずにつくっていたので、妹と付き合うとわかったとき、最後に泣く羽目になりはしないかと心配したが、妹を大事にするという幼馴染の言葉を信じた。
それから半年後。
いきなり妹が俺の部屋に乱入してきた。そして泣きながらこう言った。
FPSを教えてくれと。
「う、浮気、してた・・・絶対二股しないって約束したのに・・・」
やっぱりかと俺が憤れば、妹は嗚咽を漏らしながらも詳細を教えてくれた。
ヤツは二股ではなく、四股をかけていたようで、しかも妹は四股の四番目。つまりは一番最後の女だったらしい。
妹がその衝撃の事実を知ったのは、バイト帰り。
四股のうちの妹を除く、三人が別々に妹に対して「人の彼氏に手を出すな」とイチャモンをつけにきたのだそうだ。哀れかな、文句を付けに来た面々も自分達が四股もかけられているとは露知らず、妹のことだけ浮気相手だと気付いたらしい。
あまりに衝撃的だった妹はすぐさま幼馴染に連絡を取って詳細を聞こうと思ったのだが、彼からの返事は非情。
「あ、バレた?じゃ、別れようぜ。お前、付き合ってから半年も経ってんのにヤラせねーとかありえねーし。まあお前って、元々あいつ等にバラしてもいいようのスケープゴートだったし。あ、いいか?あいつ等に会っても他の女の事言うんじゃねえぞ。もしもバラしたらお前の兄貴、すっげオタクだって大学中にバラすかんな」
そこまで言うと妹はまたしても号泣。そして俺も号泣しそうになった。
すまない、かわいい妹よ。俺がオタクなばっかりに・・・
俺が、俺が・・・と初めての彼氏に裏切られた妹に対する憐憫と、幼馴染への怒り、そして何より俺のゲーマー人生が妹の人生にこんなにも影響を及ぼしたことへの後悔。
様々な感情が俺の心の中を荒れ狂う海の如く渦巻いているのに対し、妹は泣きながらも冷静だった。
「お兄ちゃんが毎日やってるゲーム。あれ、彼もやってたの。それですごい自慢してた。俺うまいんだーって・・・でも実際やってるの見たけど、お兄ちゃんより全然ヘタ。お兄ちゃんは調子のいい時だったらほとんど勝つでしょ?だけど彼、お兄ちゃんの調子の悪い時の半分も勝ててなかった。
だから教えて欲しいの。あんなに私もお兄ちゃんもバカにされたんだもん。ゲームでいいからあの男ぶち殺してやるって!!」
・・・・・・・・・
あ れ?
お兄ちゃん、育て方。間違えたかな・・・?
それから妹は涙を拭き、鼻水も勢いよくかみ、俺が飲もうとしていたレッドブルを一気で飲み干し、ゲームが接続されているモニターの前に陣取り、鼻息荒くゲームをプレイし始めた。
まあ結果から言うと、流石に一週間ほど画面酔いが激しく、一時間も経たずに具合が悪くなっていてすぐにダウンしていたのだが、三週間もするころにはそれも克服。
ただまあいきなりFPSで元彼をぶち殺す!とのたまったものの、妹はズブの素人なのに変わりは無い。画面酔いこそ収まったものの、成績は芳しく無い。実践までに持って行くには時間がかかるぞー・・・と心配していたのだが、まさかの親父がこの戦いに参戦。
「俺の娘を泣かせるとはいい度胸じゃねえか・・・」
ボソっと呟いたかと思ったら、俺以外家族が寝静まった後、密かにマッチングした妹の元彼(ご近所さんの息子さん)をナイフキルしていた。
そしてさらに半年後。
妹は多大なる努力と度重なる修行の結果、マッチングするたびに元彼をスナってナイフしてぶち殺しまくった。
最後ら辺では「イモってんじゃないわよ、このカス!」と、笑いながらC4を投げて爆発させていた。
最後ら辺、と言ったのにはわけがある。
半年間、ひたすら猛者も弱者も一緒くたで参戦しているオンライン上で鍛えていた妹は、参考にするためにと動画サイトや実況放送を観まくり、その実況主や投稿主とマッチングした際に「どうやってこの武器を上手く当てるのか」とか、「UAVを出すタイミング」などの教えを請うメッセージを送ったりしたらしい。そうする事で自分の腕を向上させるのよ!と半ば血走った眼で言われた時には、年期の入ったゲーマー兄貴であるはずの俺が軽く引いた。
だが、そのメッセージと実力派有名配信者とのマッチングの成果で、見事元彼に勝ったとき、部屋にいた人達からお祝いのメッセが届いたと勝ったこと以上に喜んでいた。
そう、なにやらいつの間にか妹はちょっとした有名人になっていたらしい。
気になった俺は、妹がバイトに行っている間自分のフレンドに聞いてみると、「元彼に勝ちたいって言ってる子だよねー。随分上手くなったからもう勝てるんじゃないかな」と返って来た。
お兄ちゃんはお前がこんなに成長してくれてうれしいです。
でもお兄ちゃんよりうまくならないでくれるとうれしいな。
最近妹が元彼とマッチングして勝っても喜ばないなーと思っていたら、どうやら新しい彼氏が出来たらしい。
聞くとその新しい彼氏というのが、妹がこの人凄いと言って尊敬しまくっていた有名配信者。俺も知っている、というより投稿サイトで凄腕動画を上げては毎回毎回すごい勢いで登録者を増やしている人だ。
そんな男と付き合ってんのか・・・と呆れる一方、ちょっとしたミーハー心も持っている。
とは言え、妹は元彼と付き合っていたころよりもよく笑い、そして綺麗になったし、なによりもお互い共通の趣味もあることだから、たぶん幸せなんだろうなと思う。
そうそう、幼馴染。もとい、妹の元彼はと言うと、妹に20キルさをひっくり返えされて負けたり、妹のフレンドである実力者達に狙って殺されたりしたせいで最近では滅多にオンライン上でマッチングすることはなくなった。
母から聞いたところによると、私生活でも三股していたのが彼女達にとうとうバレた。怒り心頭の女三人でヤツの家に押しかけ、自分達の彼氏に対して「どういうこと!?」だと詰め寄ったのだが、敵もさるもの、なんと不倫していた人妻を妊娠させたのが発覚。
当然ヤツの両親は大激怒。このバカ息子が!!!と近所中が震えるような大声でヤツを実家から追い出し、縁切りを宣言。今はなんとか両親の怒りを収めようと必死らしい。
つーか避妊はしろ。
ペットボトルのミルクティーを飲みながら、ふとリビングを見た。
そこには親父と妹、そして母が脳トレのゲームを大画面のテレビでやっているのが見える。どうやら現役の妹には勝て無いらしく、母はうんうん唸りながらそれでもテンポよく問題を解いていた。
隠れていない隠れゲーマーの父は脳トレ系が苦手らしく、頭から煙が出てきそうだ。
こうやってみんなでわいわいやるゲームもいいもんだな。
はははとそのほのぼのとした光景を眺め、俺は部屋へ戻った。
さ、またゲームやるか。