Chapter6
気付けば6月末に差し掛かっていた。
あの夜から、無意識に加野を目で追うようになっていた。
授業中も、移動中も、加野の声がする度に、声のする方を見て姿を探していた。
べつに『好き』とかそういった恋愛対象で見てるわけじゃなくて………何ていったらいいんだろう。
俺自身もいまいちよく分かってない。
こんなに見る度、微笑ましくも辛くなるのは………初めてで。
俺自身、どうしたらいいのか、全く分からない。
「……西崎くん」
慌てて顔を上げた。気付けば6限、加野の授業中だった。
またしても無意識に加野を見つめていたらしく、気を戻すと加野の顔が目の前にあった。
「………っ!?!?」
思わず立ち上がる。
「寝てたでしょ。目の前まで行っても、全く気付いてないし(笑)」
「……………」
実際は、寝てない。加野を見ながらぼーっとしていた。
教室中で苦笑が聞こえる。
美咲までもが後ろを向いて笑っている。
「西崎くん課題も提出してないよね。放課後、居残り!」
…はぁ〜っ!?
お前に関係ねーだろ……。
放課後、帰るわけにもいかず、英訳と戦っていた。
「あれ〜マジでやってんじゃん」
「美咲。………うるせぇ、おとなしく帰れよ」
「せっかく英和辞典貸してあげよーと思ったのに」
「へ?」
「ないんでしょ。……何その訳。beneathは『〜の下に』でしょ。ベニスってイタリアの街じゃん(笑)スペル違うし」
「…………分かってるよ」
その後、美咲は散々俺をからかって、帰り支度をしだした。
「……帰んの?」
「まーね。あたし勉強しなきゃ!………ウソウソ(笑)」
「ふぅーん……」
「早く課題やって、美人な加野先生んとこ行きなょ〜」
「……加野が美人?」
「だって男子みんな言ってんじゃん。………加野って西崎のタイプの顔だし」
心なしか、美咲の顔に陰りが一瞬見えた気がした。
「…………早く帰れよ」
「うん。バイバイ!」
陰りは俺の見間違いだったのか、すぐに元の笑顔になって教室を出ていった。
「…………っしゃぁ、終わり……!」
下校時間を過ぎた頃、やっと最後の訳が終わった。
急いで職員室に向かうと、会議なのか誰もいない。
中に入って一番奥の列の窓際が加野の席だ。
「か………っ」
俺は目を奪われた。
加野が椅子にもたれて眠っていた。
その細い髪や睫毛に夕陽が射して透けて、金色に輝いていて…………
俺は無意識に、加野の唇に自分のそれを、重ねていた。




